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しおりを挟む平民の間で聖女と呼ばれているのは、ある男爵家の14歳の令嬢だった。
その令嬢シェイミの狙いは、高位貴族とお近づきになりたいというものだったということが後に判明した。
しかし、王族はもちろん、公爵家・侯爵家には聖力を持った者はすでにおり、伯爵家にもわりといる。
これから子爵家・男爵家・平民へと広がっていこうとする中、男爵家の令嬢がすでに聖力を持っているとなると、高位貴族の男が男爵夫人と遊んで妊娠させた可能性があったが、そこは誰も突き詰めなかった。
いや、誰だか想像がついたというべきか。生憎、本人は亡くなっているため確かめようがない。
つまりシェイミは、聖力の使い方や怪我だけでなく病気を治したときのその後に起こりうる事態のことなど誰からも教わることはなかったのだ。
シェイミが治癒の力に気づいたのは、ごく最近のこと。
自分の顔にできた吹き出物を治したり、弟の熱を下げたりしたことで気づいた。
この力があれば、高位貴族から望まれるはずだと思った。
親の用意した、商人との縁談など絶対に嫌だったのだ。
家出のように、王都にやってきたらしい。婚約者の商人の家の馬車に便乗させてもらって。
商人との結婚は嫌だと言いながら、利用するという強かな令嬢だった。
平民数人を治癒し、僅か二日で聖女様ではないかと噂されるようになったシェイミが治癒を施す場を提供するとして、『リリスティーナ聖堂』が受け入れた。
もちろん、シェイミの両親にはここで預かっていると知らせている。
両親が来るまでに、彼女が聖女を名乗るに相応しいかどうかも聖人たちが見定めるためだ。
彼女は平民の病気や怪我を治癒しながら、高位貴族から声をかけられるのを待っていたが、誰も依頼をしてくることはなかった。
それはそうだ。
シェイミの治癒能力は、それほど高くはないと国王陛下に報告されていた。
軽傷や風邪程度なら一日20人程度が限界で、骨折は2人が限界である。
170年近く続いた聖女がいた時代は、手足の欠損まで元に戻ったという記録が残っており、それと比べても聖女と呼ぶわけにはいかない。
違うのは、病気が治せるということ。
それも王族や高位貴族で治癒を使える者たちも使えるので、誰もシェイミを頼ることはない。
しかし、薬も買えないという平民もいるため、治癒できる力が弱く、人数が少なくてもシェイミは役には立つ。
ということで、高位貴族との結婚を願うシェイミの思惑とは違い、彼女は王都の平民のための治癒師として聖堂で暮らすことを望まれた。
国として、セレンティナとクローヴィスの4人の子供、13人の孫、31人のひ孫までは聖力の有無を確認し、把握していたが、さらにその次からは80人近くと人数が増えて聖力の申告は有耶無耶になっていた。
今では200人は聖力を持った者がいるのではないかと思われている。
その半分くらいは大した力を持ってはいないが。
シェイミもその中の一人というだけだった。
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