あなたは僕の運命なのだと、

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「あ、でも、その前に今から一緒に病院に行こうね」
「はぁ? だから行かないって!」

 唯のとんでもない発言に、今めっちゃ良い流れだっただろ! と雫がぎょっとした様子で叫ぶが、唯は困ったように眉を下げるだけで。

「なんでそんな頑固なの?」
「平気だからだよ!!」 
「……じゃあ最低限手当てはしないと! 僕のお家に行こう!」
「行かねぇよ!! いいから早く煌さんを追いかけろよ!!」
「煌くんも大事だけど雫くんも大事だよ! それに怪我してるんだから、ちゃんと治療しないと駄目に決まってるでしょ!」

 だなんて、まるで聞き分けのない子どもを見るかのような顔で、わがまま言わないでよ。と言わんばかりの態度をする唯。
 そんな唯に、……頭いたくなってきた。と雫はイライラが限界に達しそうだとクラクラと目眩がするなか、口を開いた。

「……なんなんだよお前……。はぁ~……、分かった。じゃあお前の兄貴に手厚く手当てしてもらうから、お前はもう行け」

 唯の言葉に何とも言えない表情をしつつ、雫が突然とんでもない妥協案を提案する。
 その言葉に傍観を決め込んでいた優弥は驚いた顔をしたあと、楽しそうに笑った。

「あははっ! 良いね。そうしよう。俺が責任持って、雫くん? の手当てをするよ。それなら唯も安心だろ?」

 だなんて笑う優弥に、少しだけ不安そうな表情をしながらも、唯が考え込む。

「うーん……。でもお兄ちゃん、手当て雑だからなぁ……」
「そりゃ唯をお姫様みたいに扱う煌に比べたら誰だって雑だよ。けど唯よりはマシだと思うけど」

 度々怪我をしていた幼少期の思い出から不信そうにする唯に、唯の方が下手くそだろう。と言い返す優弥。
 その言葉に唯は少しばかりムッとしつつ、渋々と言った様子で頷いた。

「……分かった。お兄ちゃん、ちゃんと雫くんを手当てしてね?」
「もちろん。それに煌はああ見えて臆病者だから、唯から歩み寄ってやらないと駄目なんだよ。だからほら、早く行きな」
「……うん。ありがとう雫くん! それとお兄ちゃんも! 僕、ちゃんと言いたい事言って、煌くんにも言いたい事言ってもらって、当たって砕けてくるよ!!」

 だなんて、晴れやかな顔で絶妙に後ろ向きな発言をする唯。
 それに雫と優弥が笑い、先ほどの重々しい空気とは一変、唯は憑き物が落ちたようないきいきとした表情で、煌の元へと走って行った。




 ***



「……えっと、それじゃあ」
「えっ」

 ──唯が颯爽と去った、あと。
 数秒の沈黙を破るよう、それじゃあ。と去ろうとする雫に、優弥はすっとんきょうな声をあげた。

「手当てしないと」
「あんなんあいつが煌さんの所に行けるようについた嘘ですよ。それに本当に大丈夫ですから」
「……ねぇ、わざと殴られるような事したのはどうして? あの時俺が煌と一緒に居たから追いかける事が出来たし、殴らせちゃったけどその後はかろうじて止められたから良かったものの、そうじゃなかったらもっと酷い大怪我してたかもしれないよ」
「……別に。その方が早く解決するかと思っただけです」

 突然の優弥の問いかけに、どこか気まずい様子で雫が答える。
 見た目は柔和だが瞳の奥底に宿る猛禽類の輝きが恐ろしく、やっぱり唯と全く似てないな。なんて思いながらも帰ろうとしたが、しかし徐に前に立って阻止する優弥に、雫は微かに眉を寄せた。

「……なんですか?」
「もうちょっとお話したいなと思って」
「……特に話す事はないですけど……」
「ははっ、ひどい」
「……ていうか、あんた知ってましたよね、あの二人がただただお互い変に勘違いしてるだけだって」
「まぁ、そうだね」
「じゃあもっと早く解決出来たんじゃないですか? あいつが、唯がメソメソ泣く必要なんて、なかったと思いますけど」
「うーん……、どうだろうね。俺は唯の兄でもあるけど、煌の親友でもあるんだ。だから、あいつが懸念してる事柄もきっちりクリアして欲しかったんだよね。その方が唯にとっても将来的に良いと思ったし」

 だなんて言う優弥に、……まぁそこも分かるけど。と雫は理解出来る部分もあったが、しかし悲しげにポロポロと泣く唯の姿を思い出し、眉間に皺を寄せた。

「……あいつ、ヒヨコになってないって言ってました」
「え?」
「ちょっとした事でヒヨコになる奴が、今回は一度もならなかったって。それがどういう事か、分かりますか」
「……?」
「そもそもあいつがポンポン先祖返りするのは、それだけ安心してるからって事なんですよ。自分がどんな姿になっても守ってくれる存在がすぐ側に居るって潜在的に分かってるから。そうじゃなきゃ、ヒヨコだなんて危ない姿にそう易々となれる訳がない。まぁ、俺と出会った時はその潜在的な安心感が危ない時に出たけど」
「……なるほど」
「そんな奴がヒヨコにならなかったってのは、安心とか安全とか信頼とか、そういう自分の絶対的な拠り所をなくしたと思ったって事なんですよ」
「……はい、すみません。そこのケアを怠りました。反省します」

 雫の鋭い指摘にようやく事の重大さに気付いた優弥が、自分が軽く考えていたと素直に謝る。
 その潔さが意外で、雫は一瞬目を見開いたが、しかしそれからふいっと視線を逸らした。

「俺に謝られても……」
「うん、そうだね。あとで唯とちゃんと話すよ」
「……はぁ」

 柔らかな声と真摯な眼差しでそう言う優弥に、雫が何と答えて良いのか分からず、気の抜けた返事をする。
 それから、もう本当に話す事はないと雫が横から抜け歩きだそうとしたが、またしても優弥は止めるよう、雫の腕を握った。

「っ、なに、」
「君、本当にすごく優しいんだね」
「……はぁ?」

 そう言っては、感銘を受けたようにキラキラと瞳を輝かせ見つめてくる優弥。
 その突然さに露骨に引いた雫が、警戒心を纏わせながら見上げる。
 しかし優弥はそんな雫の態度を毛ほども気にしていないのか、ニコニコとしたまま見つめてくるばかりで。

「……あんた、俺がキツネだって事、ちゃんと分かってます?」
「ん? 見たら分かるけど、それがどうしたの? 君がキツネでも君が優しい子だって事には変わりないよ」
「っ、」
「でも、自分の事もちゃんと大事にしないと駄目。という事で、俺の家に行こうね。ていうかそうしないと、俺も君も唯に怒られるよ? 唯はああ見えて怒ると怖いから、俺を助ける為だと思って手当てされてよ」

 だなんて言っては、雫の意思など聞かず問答無用で優弥が引きずって行く。
 その強引さに驚きながらも、唯と同じ事を言った優弥に面食らい、……やっぱり兄弟だわこいつら。……変な兄弟。と雫は何とも言えない顔をしつつ、それでも薄く笑ったあと、渋々されるがまま後を着いていったのだった。




 
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