4 / 20
偶然
しおりを挟む
雨がしとしと降っている。
「そのワンピース素敵だね。黒い髪がよく映えるよ」
レストランでワインを傾けながら土方くん、いや孝介に
優しい笑顔でそう言われ、絹子は嬉しくて堪らない。
男性に誉められるのは何年ぶりだろうか。
お互いの十五の春を知っている、気のおけなさで話が弾む。
それでも、孝介の離婚の事と、絹子の近況だけはものの見事に話題にしない。
そんな心遣いをお互い感じとりながら食事を終える。
「一緒に旅行に行かないか?」
「え?」
孝介の言葉に息を呑む。
「行くわ!」
いつの間にか笑顔で返事している絹子だった。
優しくてでダンディな孝介さんとなら…
絹子になんの迷いもなかった。
⭐
今年は空梅雨なのだろうか。
晴れて気持ちの良い土曜日に、絹子は孝介の車で伊豆に向かう。男性とドライブしたことのない絹子は、初めての助手席ナビさえ楽しくて。
景色とお喋りを楽しんでいるうちに宿の駐車場に到着した。
スーツケースを引いて宿の入り口をくぐると
フロントに見たような後ろ姿がある。
「ええっ‼」
ずんぐりむっくりした背格好は夫に違いない。隣には夫にしなだれ掛かる女がいた。
絹子が誰と何処に行こうと興味がないことに気が付いてから、絹子は夫同様、何も言わなくなった。
今日も夫は絹子より先に、大きな鞄を背負って出ていった。
まさか同じ宿で出会うとは。
「ひょっとして、あそこの人達って?」
小声で孝介が囁いた。
絹子の様子で判ったらしい。
微かに頷く絹子の肩を優しく抱きしめてから、二人の後ろに並ぶ孝介。
肩幅が廣く背が高い彼に隠れて、絹子の姿は夫からは見えなさそうだ。
「このままやり過ごすことが出来るかしら?」
すると孝介が、傍らの使い込まれたスーツケースを眺めながら、いつもの穏やかな口調で女に話掛けた。
「ご夫婦で旅行ですか?旅慣れていらっしゃるようですね」
「毎年、旅行に行くようになってもう四年目だわ。ねえ、てっちゃん」
嬉しそうな女に同意を求められて、夫の哲也が生返事をしている。
どうも夫は、自分の住所が思い出せないようだ。
新しい女に夢中になると古女房のいる住所さえ忘れるのだろうか・・。
妻の欄は『トシ子』と書かれているが住所欄が空白のまま。
思わず絹子は進み出て、言ってしまった。
「中央5-6-12ですよ」
「な、なんでお前・・・!?」
夫は顔を歪めたまま固まっている。
女が絹子と夫の様子を見比べて、自ずと答えが出たらしい。ひきつった顔で荷物を引いて宿から出ていった。
「おいっ! おいっ!」
呆けたように見ていた夫が慌てて女の後を追った。
孝介が笑いを堪えて囁いた。
「絹子さん、ナイスショット」
孝介さん、何も言わないのになんて察しがいいのかしら。出きる男は違うわね。
と口には出さないけど感激する。
「僕との会話は録音したから証拠になるよ。必要な時はいつでも言って」
ああ! あの女の人、夫と旅行に行くのが四年目と言ってたわ。四年前から不倫していると自分で言っているのよね。
孝介さんこそ Good job だわ!
「ありがとう!」
絹子は孝介に抱きついた。
「そのワンピース素敵だね。黒い髪がよく映えるよ」
レストランでワインを傾けながら土方くん、いや孝介に
優しい笑顔でそう言われ、絹子は嬉しくて堪らない。
男性に誉められるのは何年ぶりだろうか。
お互いの十五の春を知っている、気のおけなさで話が弾む。
それでも、孝介の離婚の事と、絹子の近況だけはものの見事に話題にしない。
そんな心遣いをお互い感じとりながら食事を終える。
「一緒に旅行に行かないか?」
「え?」
孝介の言葉に息を呑む。
「行くわ!」
いつの間にか笑顔で返事している絹子だった。
優しくてでダンディな孝介さんとなら…
絹子になんの迷いもなかった。
⭐
今年は空梅雨なのだろうか。
晴れて気持ちの良い土曜日に、絹子は孝介の車で伊豆に向かう。男性とドライブしたことのない絹子は、初めての助手席ナビさえ楽しくて。
景色とお喋りを楽しんでいるうちに宿の駐車場に到着した。
スーツケースを引いて宿の入り口をくぐると
フロントに見たような後ろ姿がある。
「ええっ‼」
ずんぐりむっくりした背格好は夫に違いない。隣には夫にしなだれ掛かる女がいた。
絹子が誰と何処に行こうと興味がないことに気が付いてから、絹子は夫同様、何も言わなくなった。
今日も夫は絹子より先に、大きな鞄を背負って出ていった。
まさか同じ宿で出会うとは。
「ひょっとして、あそこの人達って?」
小声で孝介が囁いた。
絹子の様子で判ったらしい。
微かに頷く絹子の肩を優しく抱きしめてから、二人の後ろに並ぶ孝介。
肩幅が廣く背が高い彼に隠れて、絹子の姿は夫からは見えなさそうだ。
「このままやり過ごすことが出来るかしら?」
すると孝介が、傍らの使い込まれたスーツケースを眺めながら、いつもの穏やかな口調で女に話掛けた。
「ご夫婦で旅行ですか?旅慣れていらっしゃるようですね」
「毎年、旅行に行くようになってもう四年目だわ。ねえ、てっちゃん」
嬉しそうな女に同意を求められて、夫の哲也が生返事をしている。
どうも夫は、自分の住所が思い出せないようだ。
新しい女に夢中になると古女房のいる住所さえ忘れるのだろうか・・。
妻の欄は『トシ子』と書かれているが住所欄が空白のまま。
思わず絹子は進み出て、言ってしまった。
「中央5-6-12ですよ」
「な、なんでお前・・・!?」
夫は顔を歪めたまま固まっている。
女が絹子と夫の様子を見比べて、自ずと答えが出たらしい。ひきつった顔で荷物を引いて宿から出ていった。
「おいっ! おいっ!」
呆けたように見ていた夫が慌てて女の後を追った。
孝介が笑いを堪えて囁いた。
「絹子さん、ナイスショット」
孝介さん、何も言わないのになんて察しがいいのかしら。出きる男は違うわね。
と口には出さないけど感激する。
「僕との会話は録音したから証拠になるよ。必要な時はいつでも言って」
ああ! あの女の人、夫と旅行に行くのが四年目と言ってたわ。四年前から不倫していると自分で言っているのよね。
孝介さんこそ Good job だわ!
「ありがとう!」
絹子は孝介に抱きついた。
3
あなたにおすすめの小説
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?
ヨルノソラ
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」
そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち?
――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど?
地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。
けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。
はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。
ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。
「見る目がないのは君のほうだ」
「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」
格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。
そんな姿を、もう私は振り返らない。
――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。
貴方の幸せの為ならば
缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。
いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。
後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる