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しおりを挟む実験後の空のビーカーを顔の前でかざして、底を覗き込むようにして、「俺みたい」と口にした高校生の彼を思い出す。
自分が空っぽだ、透明で存在感がない、とビーカーを使って表現したいなら、とても凡庸でつまらないな、と思った。
「ビーカーはガラスだし、破砕ゴミで再利用できるよ」
私は性格の悪い高校生だったので、リリカルなことを言うクラスメイトの彼に嫌悪感を覚えて、反射的にきつい言葉を浴びせかけた。
単純にさっきまでの実験の授業が退屈だった上に、片付け係になった鬱屈をぶつけてもいた。
「再利用できるならいいか、再生可能な素材はサステナビリティだし」
「サステナビリティな高校生」
「持続可能……何が持続できる?」
と洗ったビーカーを布巾の上に伏せて、彼は言う。
「死んでゴミになっても。再生可能なら転生できるからいいじゃん。ある種不死身」
「じゃあ破砕ゴミになる前に、白木さんと付き合ってみたいな」
私の手にあった試験管を受け取って、彼は言う。
「貴島くんが尊敬できる人になったら」
「尊敬?」
「私は面白くて頭いい人が好きだから。今の貴島くんはただの感傷的でつまんないイケメンだしムリ」
告白を断るためにそう言ったつもりが、彼、貴島陽亮は期末テストで学年一位を叩き出し、模試でも全国一位になる。
彼は、愚直なまでに私の言葉にしたがう。それこそ、怖いくらいに。
「白木さんのいう頭のよさの指標をクリアできた?」
メンサの会員証を見せてきた彼に、私は感服した。
真面目でつまらなすぎて、逆に面白いと思ったらからだ。
「付き合ってもいいけど、何も期待しないでね?」
「白木さんと一緒にいることだけ、期待してる」
「つっまんないくらいに、リリカルだね、貴島くんって」
どうして、彼が私に興味を持ったのか、分からないけれど。
言葉を気をつけなくちゃいけない。と過去の経験を遡り、思い出した。
よーちゃんは再び問う。
「望む男になるから。どんな男がいいか教えて」
よーちゃんのことは好きだ。でも、結婚となれば、今後末永く一緒にいることになる。
自分がないよーちゃん。
折にふれて、別れたいと思ったことがある。
私の中身が透明な入れ物であるよーちゃんに、全て吸い取られてしまう感覚があるからだ。
ああ、私はこの人のこと好きだったけれど、そばにいたらいたで疲れる相手だった。
悲しきかな、そんなことを思い出してしまったのだ。
「今はまだ、答えられない」
私はそう告げて、友達に連絡する。
「今日は少し別に過ごそうか。少し出かけてくるね」
飼い犬のように私を見送るよーちゃんの視線を感じながら、家を出た。
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