損切り女子はスパダリ彼氏と別れたい

KUMANOMORI(くまのもり)

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 カリナの家から出社して1日過ごした後で、家に帰れば、家の中に水槽が増えていた。
 ライトが照らし出すのは、小さな赤い魚の大群だ。

「アカネハナゴイ。この子達の中で、一番強い子がオスになるんだ」
「綺麗だね」
「優しい性格だから、気が強い性格の魚とは一緒に住めないんだ」
「そう」

 いつの間にか家の中が変わっていることには、もう驚かない。大学生の頃にも私の家に入り浸りきったよーちゃんは、四匹のハムスターを引き取って育てていた。回し車の音がすごくてノイローゼになったのを思い出す。

 家にいるよーちゃんはエネルギーを持て余してしまうから、何かに集中している方がいいのだ。

「よーちゃんはお魚を育てることが好きだし、観葉植物を育てることが好き?私が何かを言わなくても?」
「大学生の頃、サリが水族館で可愛いって言っていたのが、アカネハナゴイだよ。飼いたいなって言ってた」
「……うん」

「観葉植物は、仕事始めた時に欲しいって言ってた。空気を綺麗にすれば落ち着くかもしれないって言って」
「うん……そうだったね」
「サリが好きなもの、求めているものを俺も求めてる。昔からそうだよ」
「……」

 苦しい。
 透明な入れ物に、どんどん私が吸い込まれていく。

「よーちゃん、やっぱり別れよう」
  そう告げたとき、よーちゃんは笑った。

「言うと思った。もう、二十回目だ。前回からは時間が短いな」
 ふにゃふにゃに溶けていたよーちゃんに、理知的な光が戻ってくる。

「大学の頃のサリは、早く結婚して子どもが欲しいって言っていたよ」
「それは、まだ社会を知らなかったからだよ」
「今は、いらない?」

「いらないわけじゃ、ないよ。でも、よーちゃんは仕事辞めちゃったし、子どもが生まれたらお金がかかるし」
「子どもが生まれた知り合いは、何よりも人手が欲しいって言っていたよ。ワンオペよりも二人で、もっと言えば家族全体で育児できる環境があれば最高だって」

「ダブルインカム前提で家族のサポートありなら、最高かもしれないけど」
「金の方が大事?そばにいるよりも?」

 まるで尋問みたいだ。
「そんなこと言ってない。何か決定的なことを言ったら、よーちゃんはいつも……私の言うとおりにしてしまうから」
「俺のことが嫌い?」
「好きだよ、でも」
 疲れる。

「ただの感傷的でつまんないイケメンじゃ、なくなったんだ」
「それは、もうだいぶ前に変わったよ。だから付き合ってきたんでしょ?」
「なら、よかった。まだ、破砕ゴミにならないですむ」

「それは……」
「サユは別れようっていう風にしか、気持ちを伝えてくれなくなったから。変わり方が分からない」
「……変わらなくていいと思う。よーちゃんがそのままの姿で、いいって言ってくれる人。合う人ってそういう人じゃないの?」

 よーちゃんといると、なぜか、対等じゃなくなる。私の方がいつのまにか上に置かれていて、よーちゃんはいつも、頑張って変わる側だ。
 頑張っているのはよーちゃんのはずなのに、なぜか、私が息苦しくなる。

「今度こそ、本当に別れた方がいいと思う。よーちゃんは、もう頑張らなくていいよ」
「頑張ってるわけじゃない。サユと一緒にいられるように、しているだけだ」

 息苦しい。
 全ての主軸が私におかれている。幸せなこと?

 セイ、ラ、ミア、ヴェータ。あなたは私の人生。
 それって幸せなの?
 
「好きだけど、疲れるよ。よーちゃん、休みたい」
 この関係を、休み状態にしたいよ。
 そう続ける前に、

「分かった」
 よーちゃんは言った。


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