【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ

文字の大きさ
6 / 28

美味しい料理な満たされた結果

しおりを挟む


 街でのやり取りに疲れてしまった俺は、歩みが遅くなってしまいちょっと休憩しませんかとカイラに伝えると、腰を抱かれていた腕を離して屈もうとしたため、ハッとして後退った。

「ユウト、どうしたの」

「え、あ、いえ、その、すみません……」

 カイラにキョトンとされたため、抱き上げられるのではと後退ったが俺の早とちりで勘違いだったと気付き一気に恥ずかしくなった。抱き上げられるかもしれないだなんて、とんだ自意識過剰だし、誰が好き好んでそんなことをするんだ……!
 
 自分の顔が真っ赤になっていることを自覚しながらカイラの顔を見れなくて下を向く。あぁ、穴があったら入りたい……!

「ユウト?」

「な、何でもないんです。本当にすみません」

 カイラに名前を呼ばれるが、さすがに抱き上げられると思って、だなんて説明できなくて誤魔化す。その場の空気に耐えられなくなって、歩きだそうとすると、

「どうして謝るの。ユウト、俺何かした?」

 腕を掴まれて顔を覗き込まれる。逃がしてはくれない様子に息を飲む。

「ちが、その、気にしないでいただけると……」

 どんどんと俯いていく俺の顔に、カイラがため息をついたのが分かった。思わず謝ろうと顔を上げた時、

「わっ!」

 身体を持ち上げられ、カイラの顔が近くなってパチっと目が合ってしまった。

「可愛い顔隠さないで。疲れたんでしょ? 何か食べに行こう」

 カイラは俺と鼻をすり合わせてそう言うと優しく笑った。俺が二の句を継げないでいると歩き出したため、ハッとして歩けることを伝えるが却下される。そのまま歩くカイラに、俺は周りの視線が恥ずかしくてカイラの肩に顔を埋めた。

 しばらく歩いたカイラが入った建物の中は、良い匂いが漂ってきて自然とお腹が空いてきた。空いている席に向かったカイラに、俺も降りようとしたのだが。

「か、カイラ、さすがにこれは駄目です!」

「どうして? ユウト疲れたでしょ、俺がちゃんと食べさせてあげる」

 何故かそのまま席についたカイラは俺を膝の上に降ろして横抱きにしてきたため、近い距離と相まって外でのこの格好はさすがに恥ずかしいと伝えるがそう返される。焦って周りを見ると、皆が俺達を見ていることに気付き顔が熱くなる。だが、このままでいる方がもっと恥ずかしいため、隣にいる人に助けを求めようとすると、

「……ユウト、それは駄目」

 視界を大きな手で覆われて動きを止める。耳元でそう言われて、感情が乗っていない声に身体が震えてしまう。

「よぉ、カイラ。噂は本当だったんだな。っと、何もしやしねぇよ。それより、怖がってんじゃねぇのか」

 別の声が聞こえて、視界が真っ暗の中、思わずカイラの服を掴んだ。

「ごめんね、ユウト。でも頼るのは俺だけにして?」

 手を離され、顔を上げるもカイラが怒っている様子はなくホッとする。カイラは眉を下げて俺にそう言うと、顔を近付けてきて、額に柔らかい感触が。ポカンとカイラを見上げると、ん?と返されて、思わず何でもないと首を振ってしまった。

「本当に、すげぇ変わりようだな。で、何にする?」

「おすすめのタルトとキッシュ。あとジンジャーティー」

「あ、あ、すみません、俺はお水をいただけると……」

 さっきカイラに話しかけてきた人が店員さんだったと分かり、さっさと注文するカイラに慌てて俺も伝える。メニューは分からないが、俺はお金を持っていないためそれぐらいしか頼むことができない。あれ、でももしかして水はお金がかかるのか?だったら頼めない。でも、飲食店に入ったのに何も頼まないのは良くないし……。

「すみません、お水は、その、いくらになるでしょうか。俺、手持ちがなくて……」

「はぁ!? っと、悪い! ……マジかぁ。なるほどなぁ。いや、こっちの話、気にしないでくれ。それに、あんたはそんなこと心配しなくても……」

「ユウト、水が飲みたいの? じゃあ水も。でもお腹冷えると駄目だから、温かいのも飲んでね」

 店員さんに驚いたように言われたが、あまり理解出来ず。被せるように言ったカイラはそう言うと、店員さんを手で追い払ってしまった。

「か、カイラ。水っていくらになりますか?」

 慌ててカイラに聞くと、

「だいたい300ゴールドぐらい。もっと欲しかった?」

 不思議そうに聞かれて手を上げようとするため慌てて止める。

「手持ちがないんです。その、本当に申し訳ないのですが……」

 今だけ、立て替えてもらえないだろうかと申し出ると、ムッとした顔をされてしまう。俺は、厚かましすぎたかと、慌てて謝ろうとすると、

「俺、ちゃんとユウトを養えるぐらい稼いでるよ。水ぐらい、いくらでも飲ませてあげる」

 そう言われて、ポカンとする。

「そんな、養ってもらうなんて。俺、ちゃんと仕事見つけて返しますから」

「仕事なんてしなくても、俺の稼ぎで十分だよ」

「え、い、いや、さすがにそれは駄目です。」

「何が駄目なの?」

「何がって、俺はカイラの家族でもありませんし、見ず知らずのやつがそこまでしてもらう理由が……」

「じゃあ家族になって。俺とずっと一緒にいて」

 真剣な顔でそう言われて、あれ、何の話をしていたっけ、と分からなくなってきた俺。突然現れた別の世界から来ただけの俺を養ってくれるだけじゃなくて、知り合いもいない俺の家族になってくれると言うカイラ。どれだけ良い人なんだろうか。でも、そんな人にホイホイと甘えていいわけがない。それに、もしカイラが役に立たない俺を嫌になった時、放り出されても困ってしまう。

「あの、気持ちはすごく嬉しいです、ありがとうございます。でも、カイラが俺を嫌になった時……」

「そんな日は来ない」

 断言されて、呆気に取られるも苦笑する。気を遣わせてしまった。そんなことを言えばそう返してくれるに決まっているのに。

「ありがとうございます。でも……」

「あー、すまねぇな話してるところ。注文の品、置いとくぜ」

 店員が来て、皿を置いてくれる。俺はお礼を言って頭を下げると、びっくりした様子だったが、笑顔で「ごゆっくり」と言ってくれた。目の前のテーブルに置かれた皿の上には、具がみっちり入っているキッシュとイチゴがたくさん乗ったタルトが一切れずつ乗っていた。獣人サイズのためがとても大きい。

「美味しそう……」

 香ばしい匂いと甘い匂いが香ってきて、思わずそう言った後にハッとする。人の食べ物を欲しがるなんて、いやらしいことをしてしまった。俺は、置いてくれた水の入ったコップを取ろうと腕を伸ばすと、ヒョイッと先に取り上げられる。

「はい、ユウト」

 そのままコップを傾けられて、慌てて両手で掴む。

「大丈夫です、自分で飲みます」

 コップが大きいから、俺が持てないと思ったのだろうか。大丈夫だとカイラに言うが、全く離してくれない。困ってしまい、カイラを見上げると、

「うっ……。可愛い……」

 堪えるように言ったカイラは、渋々コップを渡してくれる。大きいため、片手で持つには不安定になり両手で持つ。喉を冷たい水が流れていき、スッキリする。口の横に少し水が垂れてしまい、慌てて拭おうとすると、コップを取られてカイラの指で口元を拭われる。

「す、すみません……」

 幼い子がされるようなことを自分がされてしまい、恥ずかしくなった。

「ユウト、あーん」

 すると、フォークに一口大のキッシュを刺して俺に向けてきた。

「え? あ、大丈夫ですよ、カイラが食べて下さい」

 俺がさっき言ったことを気にしたのか、俺に分けてくれようとしたため、慌てて首を振る。

「甘い方がいい?」

 だが、カイラはキッシュを刺したフォークを下ろすと、別のフォークでタルトを切って刺すと、それを向けてくる。

「あの、俺のことは気にせず食べて下さい」

 俺は申し訳なくなって、カイラにそう言うと、

「ユウトのために頼んだんだよ。味は保証するけど、気に入らないなら他の頼もう」

 そう返してきて手を上げようとした。え!?と慌ててカイラが上げようとした手を掴む。

「気に入らないわけないです、美味しそうだと思ってました」

「我慢しなくていいよ。これは包んでもらえばいいし」

「い、いえ、そんな……!あ、あの、じゃあ頂いていいですか?」

 尚も店員さんを呼ぼうとするカイラに、意を決してそう言うと、嬉しそうにフォークを差し出してくる。それを受け取ろうとするが、避けられてしまう。

「ユウト、あーん」

 再度そう言われて、周りを見るが生暖かい目で見られている気がしていたたまれなくなる。俺、もしかして子どもだと思われているかもしれない。獣人と比べると身体は小さいし。成人していると知られたら、冷たい目で見られるに違いない……。色々考えながら身体を縮こませていると、

「ユウト、甘いもの好きじゃない? キッシュはどう?」

 カイラに言われて、慌てて口を開いた。イチゴが瑞々しくて、甘酸っぱさとタルト生地とクリームの甘さと一緒になって美味しい。タルトなんて久しぶりに食べた。甘みが身体に染み渡る。自然と頬が緩んで噛み締めていると、

「可愛い……。おい、タルトをホールで。持って帰るから包んでおいてくれ。」

 カイラが店員さんに向かってそう言ったのが聞こえで、びっくりして口が止まる。

「か、カイラ? 持って帰るって、カイラが、その、食べたいんですか?」

 恐る恐る聞くと、カイラはとろけるような顔で見下ろしてきて、

「タルトを食べるユウトが見たいから、俺のために買う」

 そう言ってきた。えっと、俺のためじゃなくてカイラのため、でいいんだよな?あれ?でも俺が食べるの?でもカイラ自身のためって……あれ?分からなくなってきた俺の口に、次はキッシュが運ばれる。卵の味とベーコンや野菜の味も一緒になって美味しい。俺が知っている野菜ばかりじゃなくて、食感が楽しいものもあってすごく美味しい。

「美味しいです。あの、カイラも食べて下さいね」

「俺はユウトが残した分でいい。はい、あーん」

 勧めるも、カイラは俺にばかり食べさせてきて、全然自分は食べない。でも、半分もいかないぐらいでお腹がいっぱいになってしまった。残った分は、カイラが二口ぐらいで食べてしまい、食べる量も全然違うのだなと知る。

「ユウト、ジンジャーティーも飲んで。身体が冷える」

 温かいお茶を勧められて、受け取ろうとするが、

「これは駄目。零したら熱いし危ない」

 頑として渡してくれず。俺は恐る恐るカイラが傾けるカップに口を付けて飲むと、少し甘みがあり、身体がぽかぽかと温まってくる。ほぅ、と息を漏らし、お腹が満たされて温かくなったためウトウトとしてきてしまう。

「ユウト? 眠い? 寝ていいよ」

 カイラが優しくそう言ってくれるが、さすがにそんなわけにはいかない。そう思うのだが、眠気が襲ってきて、だんだんと瞼があかなくなってきてしまう。

「んん、かい、ら。俺、何だか、すごく眠たく……」

 どうしたんだろう、こんな食べてすぐに眠くなるだなんてなったことないのに、抗えないぐらいの眠気に必死にカイラに言い訳をする。すると、

「いいよ、俺に全部任せて? おやすみ、ユウト」

 額に感じた柔らかい感触と、優しいカイラの口調に、俺はそのまま眠気に抗えなくなって意識が遠のいてった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...