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納得の事実なのに落ち込む自分
しおりを挟む……温かい。
どれくらい眠っていたのか、意識が浮上してきた時、温かいものに包まれていることに気付き目を開く。すると、パチっとブルーの瞳と目が合って、驚いて固まった。
「ふふ、びっくりしてる、可愛い。起きた? まだ眠い?」
目を細めて優しく笑うカイラは、肘をついて俺を見下ろしていた。俺はハッとして、
「す、すみません! あの、俺、寝ちゃって、ここ、ベッド、カイラの! あ、運んで……!?」
起き上がって焦りながら謝る。寝た挙げ句、ベッドに寝かしてもらっていたことに気付いて、申し訳なさにいたたまれない。ベッドの上、俺が寝ていた横で同じように寝転んでいたカイラは、そんな俺の腕を掴むと引き寄せてきた。バランスを崩して、仰向けになると、視界にカイラが入ってきて驚く。
「ユウト、顔色良くなった。……いい匂い」
覆い被さるようにカイラが乗っかってきて、首筋に顔を埋められる。息が当たって、ピクっと肩が揺れた。
「か、カイラ? あの、ひゃっ!?」
首に湿った感触があり、思わず声が出た。舐められたと気付いて困惑する。
「カイラ、んんっ、やめ、止めて下さい!」
そのまま、そこを舐めたり唇で吸い付かれたりして、俺は半泣きになりながら名前を呼んで、止めてと叫んだ。すると、ピタッとカイラの動きが止まり、俺の上から身体を退けると獣耳をシュンと垂らした。ホッとするも、カイラの様子に俺の反応はちょっと過剰だったんじゃないかと罪悪感が芽生えてくる。
そもそも、寝た俺をここまで運んで、ベッドに寝かせて、起きるまで待っていてくれるような人がちょっとじゃれてきただけであんなに嫌がるなんて、俺はとんでもない人でなしじゃないか?そう思えば思うほど、自分が嫌なやつに思えてきて、カイラに申し訳なくなる。
「カイラ、その、すみません。親切にしてくれたのに、嫌な態度を取ってしまって」
俺はどんどん気分が落ち込んできてしまい、謝りながらカイラに頭を下げようとすると、
「ユウト、待って。ごめん、俺が悪い。ごめんね、そんなに悲しそうな顔しないで」
カイラはそんな俺の腕をそっと引き寄せると、優しく抱き締めてくれる。そのまま小さい子をあやすように、頭を撫でられる。
「お、俺、こんなに良くしてもらってるのに、嫌なやつで、ごめんなさい……」
「あぁ、ごめんユウト、俺が間違えた。まだ安定してないのに、我慢出来なくて先走ったんだ。ユウト、泣かないで」
なんだかすごく悲しくなってきて、泣きながら謝る俺に、カイラはそう言ってギュッと抱き締めてくれる。こんな俺に対しても、優しいカイラに、余計に泣きそうだ。グスグスと泣いてしまい、カイラを困らせているのは分かっているのだが、どうしても気持ちがコントロール出来ない。こっちの世界にきて、俺の精神的な何かがおかしくなってしまったのかと思う。
「うぅ、ごめんなさ、俺、おかしい……」
「おかしくないよ。ユウトは今、魔力が身体に馴染もうとしているところなんだ」
そう言われて、どういうことか分からなくて顔を上げる。すると、カイラは困ったように笑って鼻をすり合わせてきた。
そして、説明してくれたことは。
魔力が関係しているということ。俺はもともと魔力がない世界から来たから、今、ここの世界に馴染もうと魔力が身体の中で巡っているのだそう。この世界で生まれた者は生まれながらにして魔力を持つが、成長に合わせて魔力の質や量も変わるため、その時に精神的に不安定なるのだとか。いわば、思春期のような多感で敏感な時期が今の俺らしい。
そう言われて、何となく納得した。そうか、思春期……。ということは、今の俺、かなり面倒臭いのでは?大人の男が色んなことに敏感に反応して、泣いたり落ち込んだりしているんだよな……?途端にすごく恥ずかしいやつに思えて、いたたまれない。どんどんと落ち込んでしまいそうになり、止めたいが中々気持ちが浮上しない。
「ユウトは小さいし、もともと持ってなかったことを考えると、魔力がどれぐらいで馴染むのか分からない。安定するまで、ずっと一緒にいるから」
そう言われて、はたと考える。安定するまでずっと一緒に?あれ、でもカイラは仕事していて、騎士さんだよな?俺のせいで仕事を休むことに?そう考えて青ざめる。
「駄目です、俺のせいで仕事が……」
「仕事よりユウトの方が大事。それに、これは王命でもあるから」
「王命?」
とんでもないことを言い出したカイラに落ち込んでいた気持ちも飛んでいく。王命、とは?王様の命令?そんな重大なことだったのか?大きすぎる告白にパニックになっていると、ふと考える。そうか、俺に優しくしてくれるのは、そういうことだったのか。そうだよな、誰も好き好んで俺みたいなやつの世話をしようだなんて思わないよな。納得できて、理由があったことにホッとする。
だが、それと同時に胸がキュッとなり切なく感じてしまい、泣きそうになってしまった。何処かで、カイラにとって俺は特別な存在かもしれないと思ってしまっていたんだ。ちょっと優しくされただけで勘違いするなんて、痛すぎる。
「ユウト?」
「え、あ、何でも、ないです。そうだったんですね。でも、俺は特別な力もない平凡な男だし、そこまでしていただくのは申し訳ないです」
カイラに呼ばれて、ハッとし気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした後にそう言った。
「特別なものがなくても、俺にとっては唯一だから。ユウト、起きたんだったら家の中を案内しておこうか?」
「ありがとうございます。入ったら駄目なところとか、触ったら駄目な物とかも教えてもらえると……」
「ここはもうユウトの家だから、好きにしていいんだよ」
スリスリと頭に頬を擦り付けられながらそう言われる。
「あの、ありがとうございます。仕事見つけてお金が貯まるまで、申し訳ないですがお世話になります」
俺は優しくしてくれるカイラに、これ以上の迷惑を掛けないように決意を込めてそう言うと、
「ずっと一緒に暮らそうね。仕事は慣れてからだから、10年後ぐらいに探そうね」
そう返されて唖然とする。10年後?確かに、この世界のことを知ることが第一だけど、そんなに俺って要領悪そうに見えるんだろうか。10年は勉強しろってことだよな……。でも10年もお世話にはなれないし、勉強だけをするわけにもいかない。一人で生きられるようにここでの生活力を身に着けないと。
「俺、早く自立しないと……」
「ユウトの物を揃えようか。明日買い物行こうね」
「え?」
「俺のサイズの物しかないから。それを使ってるユウトも可愛いけど不便でしょ。今日はあまり買えなかったから、ユウトの使い易い物を見に行こう」
「いや、あの、俺は仕事……」
「デート楽しみだね。お腹空いてない? 今の時期はお腹も減りやすいし、睡眠時間も多くなるから。俺が全部お世話するから心配しないで」
もはや俺の話を聞く気がないのか、カイラはそう続けて言うと、俺を抱き込んで額に口付けてきた。それから、俺が口を挟む間もなく、ご飯を食べさせられ、お風呂に入れられ、ほこほこと温まった俺はベッドに運ばれて眠らされたのだった。
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