【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ

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騒動と俺の治癒魔法

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「ふふ、可愛い。楽しい? ここはユウトのサイズの物もあるから、気に入ったのがあるなら買ってあげる」

 カイラに言われて、落ち着きなくキョロキョロしていたのが恥ずかしくなる。カイラの物を買いに来たのに俺の物を買わせるわけにはいかない。

「カイラ、欲しいものはありますか?」

「ユウトが選んで」

 全然ヒントもくれなくて、困ってしまう。無難で、身につける物はセンスがいるから置ける物がいいかな。でも置物って場所取るかな……。じゃあ普段使い出来る物の方が……。

 考えれば考えるほど、何がいいのか分からなくなってきて、普段絶対に使って不必要にはならないだろうスプーンを持ってみる。でもこれをプレゼントとするのが違うということぐらい俺にだって分かる。

「ユウトが持つと大きいね。ユウトのサイズのはこっちだよ」

 カイラに言われるが、俺のサイズは探していないんだ。あれ、でも俺の物も買わないといけないのか。そうだ、カイラに買ってもらっていた分もちゃんと返さないとと思い出す。後でそれを返すとして、ちゃんと残高を考えて買わないといけない。

「あの、消費出来る物がいいですか?」

「一生残る物がいい」

 そう言われて余計に困ってしまう。どうしよう、何がいいんだろう……。見渡した時、ふと目に入ったバングル。シンプルで細いシルバーが輝く。石が端に埋め込まれ、淡い青色が輝いている。カイラの髪と瞳の色のようで、綺麗だと手に取った。

「これは、どうですか?」

「バングル? それを俺にくれるの?」

 嬉しそうに言うカイラに、嫌ではないらしいとホッとして、これにしますと決める。決まったことにも安心して、早く買ってこようとお店の人に声を掛け、包んでもらう。受け取って、カイラと店を出た時だった。


――ズウウウン!


 何か重い物が落ちたような音と共に、悲鳴が響き渡ったのは。

「キャアアア! 子どもが!」

「おい! 早く騎士を呼んでこい!」

「何でいきなり……!」

 賑やかな街が、一瞬にして悲鳴と怒号に変わった。俺は何が起こったのか分からなくて、騒動になっている方向を呆然と見ていた。何やら、羽のようなものが見え隠れしている。俺より大きな獣人たちがバタバタとそちらに走って行く様子を、困惑しながら見ていると、

「ユウト、ちょっと待ってて」

 カイラはそう言って出てきた店の屋根の下に入るように俺の腕を引いて、額に唇を落とすと、騒動の中心部へと行ってしまった。

 俺は、ハッとして、誰か怪我人がいるかもしれないと、慌ててカイラの後を追った。大きい獣人たちの間を縫うように何とか騒動の中へと足を進める。すると、そこには巨大な鳥のようなものが、子どもを嘴ではさんで左右に首を振っており、街の人たちが武器を手にそのまま飛んでいかないように必死に足を押さえていた。

 見たことのない大きな生物と、子どもが襲われているというあまりにも非日常な光景に、思わず息を飲む。

「――退け」

 聞き慣れた声が低く、静かにそう言った時、パキパキッ!と一瞬で地面が凍り、羽ばたこうとしたその鳥を捕まえる。そして、カイラは剣を抜いてダンッと地面を蹴ったかと思うと、軽やかに飛び、鳥の頭上から下へと一線を描いた。切られたところから吹き出るであろう血がパキパキと凍っていき、嘴が開かれ子どもがずり落ちる。その子をキャッチして抱え、地面へと降り立ったカイラに、俺はただただ唖然として見ていた。

「おぉ!  さすがだ!」

「子どもは!?」

「すげえ! 一撃だ!」

 興奮する人と、子どもを心配する人、カイラを褒め称える人で溢れる中、俺はハッとして子どもの元へと何とか辿り着く。すると、子どもは血の気がなく、口から血が流れていた。母親らしき垂れ耳の犬獣人が、その子を震える手で抱き締め、涙を流す。

 その子は、見たことがあった。茶色の垂れた耳の犬獣人の子ども。以前、怪我をして治療院に来た子だ。元気に挨拶してくれる、笑顔が可愛い男の子。元気で走り回ってばかりいるから怪我だらけだと苦笑していた母親。その親子だと認識した時、愕然とする。

 ……どうしてあの子が?もう助からないのか?

 労わるように子どもを抱きしめる母親の肩に手を置く他の人たち。どうして助けようとしない?……そうだ、ここは俺がもともといた世界じゃない。こっちでの治療には限界があるんだ。でも、まだこんなに小さい子が死なないといけないのか?治療、俺が、出来ることは……。

 分かっている、俺が出来ることは、見える範囲の治療だけ。それでも。ただ、見ていることは出来なかった。

「……あの、俺に傷を治させて下さい」

 だから、せめて傷のない綺麗な身体にしてやりたいと思って言ったことだった。親子にふらふらと近づき、その子に触れる。まだほんのり温かい子どもの体温に、まだ生きていると感じた俺は、咄嗟にギュッとその子の手を握りしめた。

……何処を怪我したんだ?お腹?足?胸?何処が痛い?

 俺は魔力をその子に流し、ギュッと目を閉じながら傷ついた臓器を思い浮かべる。どこを怪我したんだ、見えているのなら、治せたかもしれないのに……!自分の無力さに、唇を噛みしめる。すると、

「……ユウトにーちゃん」

 子どもの声と、手を握り返してくれる弱い力に、ハッと目を開けた。薄く目を開けた子どもが、俺を見て微笑んでいる。

「なんだかね、あったかいのが、流れてくるの」

 そう言われ、俺は強く子どもの手を握って、もっと、もっと、と魔力を流し続ける。いつの間にか、キラキラと光るものたちが俺の周りにいて、魔力がどんどん溢れてくる。

「ユウト、もういい」

 後ろから肩に手を置かれ、俺は緊張の糸が切れたようにフッと身体に力が入らなくなった。そのまま後ろに倒れると、ポスッと受け止められ、お腹に腕が回され引き寄せられる。

「あ、あ、カイラ、この子が、俺、魔力を……」

 焦って言葉が出てこない俺は、必死にあの子に魔力を流さないと、と説明する。カイラは、そんな俺をギュッと抱きしめると、

「子どもは大丈夫、落ち着いて」

 優しく言い聞かせるようにそう言われ、ハッとして子どもの方を見ると、

「ユウトにーちゃん、俺、痛くないよ」

 母親に身体を起こされて、俺を見てそう笑うその子。俺は、血の気が戻ったその子の顔を見て、伸ばそうとしていた手をゆっくり降ろした。

「痛く、ない? 怪我は?」

「だいじょーぶ、でもちょっと眠い」

 目をこすりながら言うその子に、母親は涙を流して、俺に向かって深く頭を下げた。

「魔力と体力を治癒でごっそり使ったんだろう、眠らせてやれ」

 カイラは、今だに頭を下げ続ける母親に向かってそう言うと、身体に力が入らない俺を抱き上げた。光っているものが、さっきから俺の頬や首辺りにフワフワと飛んでいて、少しくすぐったい。

「ユウト、ちょっとだけ待ってね」

 カイラは俺の額にキスすると、そう言って目を細めた。すると、数分後に、

「カイラ! 待たせてすまん、お前がいて良かった。後は引き継ぐから、ユウトを休ませてやれ」

 ヒドラさんが騎士を引き連れて来て、あちこちに指示を飛ばし始めた。カイラはヒドラさんと何か話していた気がするのだが、急激な眠気に襲われて俺はカイラに身を任せて意識が遠のいていったのだった。


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