【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ

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初めての給料の使い道

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 働く中で顔見知りも増えてきた頃。帰る時、グランさんに呼び止められ、巾着のようなものを渡される。何だろうと思って受け取ると、ずっしりと重たい。

「お疲れさん、これからもよろしく」

 そう笑って言われて、ハッとして中を見ると金貨らしきものが入っていた。給料だと気付き、俺はパッと顔が綻ぶ。初めて、こっちの世界で自分で稼いだお金……!やっぱり、実際手にすると感慨深くて、何より嬉しい!これで、やっとカイラに払うことができる。

 家事も分担と決めたが、実際は洗濯は魔力を流すと勝手に水が出て洗ってくれて、その後も魔法で風が出るらしく乾燥もしてくれる。掃除だってそうだ、床の埃やゴミなどは風で一箇所にまとめられてゴミ箱らしきものに吸い込まれるのだ。だから床にはあまり物は置かれていない。グランさんに、やっぱり魔法って便利なんですねと話すと、

「いや、他の家ではそこまで揃えとらんぞ。カイラが家事の時間を省くために金で解決したのじゃろう」

 と返され、これは普通ではないのだと知った。そのため、カイラの家で慣れてしまうと一人で暮らすことになった時に困るやつだ……!と戦慄した。一般的な家庭用の器具はどのような物があるのかと、グランさんや患者さんに聞いて、いくつかお店を教えてもらった。そこに行って、基本的な物の値段を調べるのも俺の課題になった。

 今回の給料は恐らく、ほとんどカイラに返す分でなくなってしまうと思うが、残った分でお礼も兼ねてカイラに何か買おうと思っている。俺は、ワクワクしながら帰ろうとするが、ふと気付く。毎日俺はカイラに送ってもらっては迎えに来てもらっており、何故か休みもカイラと同じのため、一人でいることがない。

 驚かせたいとか、サプライズをしたい!とかはないのだが、カイラのためのプレゼントを本人と一緒に買いに行くのはどうなんだろうと考える。いや、むしろ本人に選んでもらう方が良いのだろうか……。プレゼントして、いらない物だったりしたら困るよな……。カイラは優しいから無下にすることはないと思うけれど、それでも困らせたくはない。

「おーい、カイラが迎えに来たようじゃぞ」

 考えている俺に、グランさんが声を掛けてくれて、慌てて返事をする。カイラは俺を見ると嬉しそうに笑って、少し屈むと鼻を擦り合わせてくる。今だに慣れないが、獣人の中では珍しいことではないらしい。でも、カイラの綺麗な顔が近いと恥ずかしくて、思わずいつも目を瞑ってしまう。

「可愛い、ユウト」

 その度に、カイラはそう言って目を細めて笑うため、俺はドキドキしてしまって余計に目を見れなくなるのだ。

    カイラにとっては当たり前のスキンシップなのに、勝手にドキドキして意識している自分がいて、勘違いしないようにと落ち着かせる。俺は今まで生きるのに必死で、こんなに親しくしてくれる人もいなかったし、そういう免疫がないに等しいのだ。だから考えたこともなかったけど、俺の対象は同性なのかもしないと感じ、それがバレないようにと必死だ。

    カイラからしたら、親切にして、ただの獣人の中では特別でもないスキンシップに、勝手に好意を持たれてしまうようなものなのだ。だから、俺は自覚しそうになる気持ちに何とか蓋をしてやり過ごしている。

「カイラ、俺、今日お給料をもらったんです。やっと返せます」

 一緒に家に帰った時、カイラにそう言って貰った巾着を渡した。

「……ん、じゃあこれだけ貰うね」

 カイラは少し驚いたようだったが、中から数枚の銀貨を抜いて返してきた。俺は、それに首を傾げる。

「それだけですか? あの、さすがにそれは少ないと……」

「ユウト、いっぱい頑張ったね」

 さすがに少なすぎるのではないだろうかとカイラに言おうとすると、遮られて、労わるように優しく腕を引かれる。それに抗うことなく引き寄せられると、腕に閉じ込められて、額、瞼、頬へと唇を落とされる。俺はカイラの匂いに包まれてホッとしながらも、ドキドキと心臓が脈打ち始めて顔が熱くなる。

「か、カイラ、くすぐったいです……」

 顔中に唇を落とされて、赤くなっている顔を見られたくなくて背けようとすると、

「ひっ!?」

耳を甘噛みされて、バッと手で覆った。思わずカイラを見ると、狙いを定めたような獰猛なブルーの瞳と目が合い、息を飲む。

「か、カイラ……?」

「……ん」

 額を合わせてきたカイラは、何かを堪えるように目を閉じると、しばらくして離した。俺はドキドキしながら、ただカイラを見つめていると、困ったように笑って頭を撫でてきた。

「あの……」

「ごめん、だってユウトが可愛いから」

 カイラはそう言って頬を擦り付けてきた。俺はくすぐったくて笑いながらも、脈打つ心臓を落ち着かせるのに必死だ。こんなに、愛しいと言わんばかりの目を向けられて、優しく触れられていると、カイラにとって俺は特別なんじゃないかと錯覚してしまう。獣人と人間の文化の違いだと分かってはいるから勘違いしないでいられるが、それにしてもこれは誰だって俺のようになるんじゃないだろうか。

「カイラの好きなものは何ですか?」

「ユウトだよ」

 この雰囲気を変えたくて、カイラへのプレゼントの参考にしようと聞いてみると、すぐに返ってきた言葉に口を噤む。そういうの、駄目だと思う……。どうしても嬉しいと思ってしまう単純な俺もいるため、それ以上聞けず。結局、何も分からないまま、どうしようと考える。

次の日、何とかカイラより早く起きて朝ご飯を作ろうとするのだが、俺がそっと身体を起こすとすぐに腕を取られ、ベッドに逆戻り。

「どこ行くの、まだ早いでしょ」

 カイラはそのまま俺を腕に囲い、薄く開けた目で見るとそう言った。カイラは寝る時、上を着ないことが多くて、引き締まって鍛えられた身体が惜しげもなく晒されるため、目のやり場に困る。同性なのに、自分とは全く違う格好良い身体に赤面してしまい、抱き締められると直接触れるため、必要以上に触らないようにすると動けなくなってしまう。

「か、カイラ、離して下さい……」

「んー、嫌だ」

 イタズラに笑うカイラは、ギュッと抱き締めてきて、触れる肌にどうしていいか分からず、あわあわしてしまう。頭に顔を埋められて吸われる感覚に、恥ずかしさで目をぎゅっと瞑って固まる。

「ふふ、可愛い。ユウト可愛い」

 甘い口調で言われると、俺は可愛いのかもしれないと思ってきてしまうから不思議だ。カイラからしたら、小さい俺が成す術なく固まっているのが面白いのだろうけれど、どう返せばいいのか分からなくて困ってしまう。

「あ、あの、俺、起きます。ご飯、作ります」

 何とかそう言うと、解放してもらえるが、結局カイラも起きてしまうため、ほとんどカイラが作ってしまう。手伝いをさせてくれるが、皿を出したりするだけで終わってしまうのだ。

 朝食を食べながら、あ、と思い出す。

「あの、今日は俺一人で帰ります」

 帰りにカイラへのプレゼントを見に行ってみようと思ってそう言うと、

「嫌だ」

 と返される。俺は特に何もなく了承されるものと思っていたため、ポカンとする。

「え? あの、カイラ?」

「嫌って言った」

 拗ねたように尻尾を揺らして、フォークでベーコンを刺して食べるカイラに、目をパチクリ。嫌って言われた?どうして?もう道は覚えているし、迷うことはないと思うし……。カイラに嫌だと言われる理由が分からない。あ、もしかして給料を貰ったから散財すると思われている?

「ちょっと買い物に行こうと思ってるんですけど、無駄遣いはしません」

 だから、そう言ったのだけれど。

「俺も行く」

 間髪を入れず返されて困ってしまった。心配されているのだろうか。確かにこの世界では世間知らずではあるけれど、もとの世界では一人で暮らしていたし、それなりにトラブルにも対応……いや、出来ないかもしれないけど、大人としての振る舞いは出来ると思っている。ここでも一人でやっていかないといけないのだから、いつまでも助けてもらえる状況に甘んじるわけにはいかないんだ。

「大丈夫、俺一人でも買い物できます」

 だから、心配しないで下さいと伝えたくてそう言ったのだが、

「何を買いたいの?」

 そう聞かれて言葉に詰まる。えっと……と考えて、生活用品を、と返すと、「じゃあ俺が一緒にいてもいいよね」と笑みを浮かべて言われてしまい、それ以上言葉を続けることができなかった。



 仕事に行き、グランさんに相談すると、

「どうしてもって言うんなら、カイラに言ってやるが……。ただ、後が怖いわい。八つ当たりで同じ隊のやつらがここに運び込まれることになるかもしれんの~」

 と苦笑されてしまった。八つ当たり……?それも獣人の性質?ってやつなのだろうか。保護対象を見る責任感が強いのかもしれない。

「まぁ、獣人の性質と言えばそうなんじゃが……」

「獣人って、すごく愛情深いんですね。……あの、俺、子どもに思われてたりしないですよね?」

 何処に行くにも一緒だし、カイラにはとても良くしてもらっていると感じている。だが、それが未成年の保護みたいな感じになっているんじゃないかとも薄々思っていて……。

「子どもに向ける可愛らしいものじゃないじゃろ。子どもなんて思っとらん。それはカイラのためにも断言する」

 と言われ、ではやっぱり獣人ならではの性質なのかと理解する。

 そして、結局カイラが迎えに来てしまい、一緒に買い物に行くことになってしまった。俺が買い物に行きたいと言ったから、カイラは俺に合わせて歩いている。俺はお店に詳しくないから、色々見ればいいかなと思っていたが、付き合わせるのも悪い気がして、どうしようとさっきからノロノロと歩みが遅くなる。

「……ユウト?どこに行くの?何が欲しいの?」

 痺れを切らしたのか、カイラにそう聞かれて、思わず肩が揺れた。えぇっと……とキョロキョロと見渡してみるが、露店は食べ物を売っているところが多くて、かといってお店は看板の文字が読めないから分からず。どうしよう……と焦ってきた俺に、

「……もしかして、誰かと会う約束してたとかじゃないよね?」

 カイラが低い声でそう聞いてきて、腰を抱き寄せるように腕を回された。

「え? いえ、誰とも約束はしてないです」

「じゃあ何を探してるの?」

「えっと……。その……。あ! あの、雑貨とか、日用品とかを売っているお店を教えてもらえませんか?」

 どうしようかと考えていると、ひらめいた。そうだ、カイラのおすすめのお店で、こっそり買えばいいのでは?と。

「店? んー、向こうの通りにユウトに似合いそうな物が売ってる店があるよ」

 だが、言われたのは俺に合った店。そうだった、獣人と人間では体格差もあるから、俺に合わせた店だとカイラの物が買えない。駄目だ、どうしよう……。

「か、カイラ。俺じゃなくて、その、カイラがよく行くお店にしましょう」

 焦ってそう言うと、怪訝な顔で見られる。

「ユウトの物を買いたいんだよね? 俺の行く店は獣人用が多いけど、何を買うの? 自分に? それとも、誰かに?」

 カイラの獣耳が俺に向き、一挙一動も見逃さないとばかりに見下されて、もうこれ黙っているのは無理そうだと早々に諦めの境地に入る。

「その……カイラに、何か買いたいなって……」

 こう面と向かって言うのは恥ずかしいが、何か心配させてしまっているような気もして、おずおずとそう切り出した。

「……俺に?」

 声は小さくなってしまったが、バッチリ聞こえていたらしく、少し驚いたように言われる。

「お世話になっているので、稼いだお金で何かプレゼントしたいなと思ったんです」

 生活全般、お世話になっている身で何を言っているんだと思われそうで、どんどん声が小さくなってしまった。そう思うと、家の中はあまり物がなくスッキリとしており、カイラは無駄な物は買わない主義かもしれないとハッとする。そうなると、残らない食べ物とかの方がいいに決まっている。
 
「すみません、あの、やっぱり何か美味しい物の方がいいですよね。カイラは何が好きですか?」

「嫌だ、物の方がいい。ユウトが選んで。一生大事にする」

 焦って露店に目を向けると、カイラはそう言って俺を抱き上げた。驚いて思わずカイラにしがみつくと、嬉しそうに尻尾を揺らし、目を細めて笑い、頬にチュッとキスされて顔が赤くなる。

「可愛い、ユウト。早く買って帰ろう?」

 カイラはそのまま歩き出して、俺は慌てて降ろしてくれと言うが聞き入れられず。店の中に入ってようやく降ろされ、ホッとすると、その店にはシンプルなアクセサリーからタオルや食器などの日用品が並んでおり、俺はキョロキョロと落ち着きなく見回した。

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