【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ

文字の大きさ
12 / 28

落ち着いた心と、分かってきたこと

しおりを挟む


「話すなら部屋使え。俺は隣にいるからの」

 グランさんはそう言って、その場から立ち去り、カイラと二人残された。

「俺は、ユウトの生きる世界にはいらない?」

「っ、そんなこと!俺は、一人で生きていかなきゃ駄目で……」

「俺はユウトと生きていきたいよ」

 カイラの言葉が俺の中で降り積もっていく。どうしてこんなに、一緒にいてくれようとするのだろう。俺が、異世界人だから……?でも人が生きていくには、どうしても生活費が必要だし、水も電気も何もかも無料じゃない。食費だってかかってくる。いつか、絶対に重荷になる時がくる。その時、俺はどうしたらいい……?

 考え込む俺をクルッと回転させて向かい合わせにしたカイラは、仕方ないというように笑った。

「じゃあ、生活費を払って貰うっていうのはどう? それならいいでしょ?」

 覗き込むようにしてそう言われて、俺は目をパチクリ。生活費を……。

「ユウトは、自分が何も出来ないと思ってるから、一緒に暮らすのも申し訳なく思うんでしょ。なら、生活費を入れてもらって、家事も分担しよう?」

 考える間もなく、矢継ぎ早にそう言われる。俺は、何とか言われたことを飲み込むと、グルグルと渦巻いていた不安が次第に落ち着いていくのを感じた。そうか、一人で生きて行かなきゃと焦ってばかりいたけれど、住まわせてもらっている代わりの対価を払うことで、カイラにも利が生じてくる。いわば、共同生活だ。

 カイラのその提案は、俺の中にストンと入ってきて、今までどうして考えなかったのかと疑問に思うぐらいだ。

「ユウト?」

 放心してしまっていた俺をカイラが心配そうに見てきてハッとする。

「あの、それすごくありがたいです! 家事も、一人で暮らしていたので一通りは出来ると思います。あの、でもこっちの家電はまだあまり分からないので、教えてもらえると……」

 問題が解決されたからか、俺は心が軽くなって少し早口になりながらカイラに話す。すると、カイラはそんな俺に少し目を見開いた後、困ったように笑って、肩に顔を埋めてきた。

「カイラ? どうしたんですか?」

「んーん、安心しただけ。良かった……」

 そのまま、ギュッと抱き締められる。どうしたんだろうか、脱力したように身体を預けてきて、慌てて俺もカイラの背中に腕を回す。倒れはしないが、ギューッと抱き着いてくるカイラにどうしようと、背中まで回らない腕でポンポンと軽く叩く。

「……ん? ユウト、魔力流した?」

「え? 何もしてないです」

 身体を離したカイラにそう聞かれて、何もしていないためそう答えると、そっか、と考えるように呟いた。どうしたのか聞くと、

「いや、何もないよ」

 と頭を撫でられる。そして、部屋を出てグランさんに頭を下げた俺。カイラは横で俺に頭を擦り付けてきて慌てたが、

「話はまとまったのじゃな? じゃあユウト、明日からよろしく頼むの」

 グランさんは気にした様子はなく、そう言って笑った。

「ユウト様、私はこれで。何かありましたら、遠慮せず言って下さいね」

 セーヌさんもそう言って退室していったが、最後にカイラに目配せしたのが見えて、思わずカイラに顔を向ける。「ん?」と首を傾げて見下ろしてくるカイラに、俺は慌てて何でもないと返すが、どこか落ち着かなくてソワソワしてしまう。

「あの、俺帰ります。カイラは……?」

 セーヌさんとこの後会うのなら、一人で帰った方がいいのかもしれないと思い、伺うように聞く。

「俺もユウトと帰るよ?」

 カイラは考える素振りも見せずにそう返してきてホッとする。カイラがセーヌさんと会っていても別にいいじゃないかと思うのに、どうしてもソワソワしてしまう自分がいることに驚く。どうしたんだろう、俺。よく分からない気持ちに、これも魔力が影響しているのかな、と深く考えないようにした。

――――

 治療院で働き始めた俺は、毎日のように来る患者に治癒魔法を使って治療していた。言っていた通り、確かに外傷で来る人が多い。そういう場合は治癒魔法が使えるのだが、腹痛や骨折などで来る人は見えない部分であるため治癒魔法が効かないことが分かった。グランさんの指示で薬を渡したり、添え木で固定したりと、それに合わせて対応していく。

 教会でも治療を行っているのだが、そちらは基本的に貴族や王族、金銭的に余裕のある人たちが多く、最高峰の治療を受けられるのだとか。逆に治療院は、小さい子やお年寄りまで幅広く、料金は治療にもよるが基本的には一律とのこと。

「本当に、噂が回るのは早いのぉ。2日に1人ぐらいだったのが、毎日のようにウジャウジャ来よるわ」

 グランさんがため息をつきながらそう言ったのが聞こえ、どういうことだろうかと首を傾げる。

「何かあったんですか? 今の時期は怪我が多くなるのですか?」

「いんや、だいたい少しの怪我なら放っておくやつばかりなんじゃ。薬の効き目はあれど、ピリピリしたり皮膚が引っ張れられるから痛みが生じることが多いんじゃよ」

「そうなんですか?」

「多少の怪我は我慢できるくせに、少々の薬の痛みには弱いやつが多くてかなわん。治癒魔法は使えるやつもいるんじゃが、基本的に副作用があってな」

「え!? お、俺、どうしましょう……!」

「いやいや、光と闇の魔力を持っているユウトの治癒魔法にはそんな副作用は生じん。どちらかしか持たないやつが治癒魔法を行う場合だけじゃ」

 グランさんの説明によると、光の魔力は治癒、闇の魔力では鎮静の作用が働きやすいため、両方を持つ俺の治癒魔法にはそういった副作用は出ないという。

逆に光の魔力だけでは、治癒だけだから治す過程で生じる痛みが、闇の魔力だけでは治りが遅い上に部位によっては数日動かすことが出来ない、というような副作用が出ることが多いらしい。それを聞いて、魔法は便利だけどそれぞれ利点と欠点があるのだと理解する。

「じゃあ、教会で治癒魔法を行っている人は、すごい使い手なんですね」

 高いお金を払ってでも教会に治療を頼むのだから、すごい腕の人がいるのだろうと感心して言うと、

「あー……。そういうのではないんじゃが、まぁ色々あってのぉ。市民と、貴族たちのような金を持つやつが行くところを分けた方が都合がいいんじゃよ」

 苦笑してそう返された。……なるほど。この世界にも優先される身分の人たちがいて、そういう人たちが治療院に来ると、他の人たちが後回しにされたり治療を受けられないことがあるのかもしれない。そういうことがないように、治療院と教会とで分けているのか。

 そう思いながら、色々と教えてくれるグランさんと仕事をしていく日々が続いた。

俺が出来ることは、相変わらず見える範囲での治療だけ。役に立てているかは分からないけれど、患者さんたちは皆笑顔で帰っていくため、少なからず全く出来ていないことはないのだろうと自信も出てきた。

「変なこと言われたり、嫌なことされたりしなかった?」

 カイラは俺が帰ろうとすると決まって迎えに来てくれるようになり、お決まりのように聞いてくる。初めの頃は、やっかいな人や怖い人たちがいるのかと怖くなったが、そういったことはなく。ただ心配されているのだと分かってからは、「何もなかったですよ」と返せている。

「もう帰り道は覚えたので、迎えに来てくれなくても大丈夫ですよ」

 毎日のように迎えに来てくれるため一度そう言ったことがあるのだが、「嫌だ」と間髪を入れず返されてしまった。

「俺は早くユウトに会いたくてたまらないのに、ユウトは全然寂しがってくれない」

 獣耳をシュンと垂れさせるカイラを見ると、それ以上言えなくて。俺と会えない時間を寂しく思ってくれているらしいストレートなカイラの言葉が心地良く、くすぐったくなる。だんだんと、俺も余裕が出てきたというか、精神的に不安定になることが少なくなってきたためか、カイラの言葉をちゃんと受け止められるようになって来たように思う。

「ユウト、充電させて」

 でも、家に帰る度にそう言われて抱き締められるのは今だに慣れない。スッポリとカイラに全身を包まれて、ギューッと抱き締められると、ホッと安心する自分もいる。スリスリと頭を擦り付けてきたり、首に顔を埋められたりされるが、獣耳を垂らしながら「やだ?」と聞かれると、とても嫌だとは言えない。

 実際、嫌なわけではないし、ただくすぐったくて、ちょっと恥ずかしいのだ。一度、グランさんに相談したことがあるのだが、獣人だったら当たり前のことらしく。

「仕事中、ユウトは他のやつに触るじゃろ? 色んなやつの匂いがついてりゃ、そりゃカイラは落ち着かんだろうよ。家に帰るまで我慢しとる方が意外だわい」

 と、驚きながら言われたのだ。そうか、俺より鼻が効くだろうし、知らない人の匂いが家に入るのが嫌なのかもしれない。俺は他の人の匂いは分からないが、カイラにとっては嫌なのだろう。でも最近、一緒に住み始めてしばらく経つからか、カイラの匂いが分かるようになった。柑橘系のようなスッキリとしていて爽やかなのに、どこか男の色気を感じるような甘い匂いもあって、すごく落ち着くのだ。それが分かってから、確かに色んな匂いが安心するはずの家からしていたら嫌かもしれないと思い、カイラの好きにしてもらっている。

でもそれが行き過ぎて、首を舐められたり、服の裾から手を入れられて背中に手が這わされた時はさすがに慌てて止める俺なのだった。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...