【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ

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治療院で働きます

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「ここが、教会……」

 カイラに連れて来てもらったのは、とても大きな建物。真っ白で、綺麗な造りは壮大で、神々しくもある。ここが教会だと説明されて、俺は連れられるまま中へと入った。すると、すでにセーヌさんがいて、俺を見ると微笑んで歓迎してくれた。

「ユウト様、この度は訪問していただきありがとうございます。治療院での仕事をお手伝いいただけるとか」

「は、はい。あの、治療院とはどのようなところなのでしょうか」

 俺は、就職の時のような面接の気分でいたため、緊張で落ち着かない。そもそも、思いつきで言ってしまったが、俺が出来ることなんてあるのだろうか。専門的な知識も技術もないし、ただ小さい傷を治せるぐらいのことしか出来ない。戦力になるとは思えないし、勢いだけで来てしまった……。でも、まずは手に職をつけなくてはいけないし……。あれこれ考えていると、握りしめていた手をそっと大きな手のひらで包まれる。

「ユウト、嫌なら帰ろう?」

 カイラが心配そうに聞いてきて、慌てて首を横に振った。仕事を紹介してもらった立場で、そんなことできるわけがない。俺に務まるかも分からないが、とにかく自分が出来ることをしなければ。

「精一杯、頑張ります!よろしくお願いします!」

 俺は上司となるセーヌさんに頭を下げてそう言うと、

「おやめ下さい、そのようなこと!こちらこそ、ユウト様にいらぬ気を遣わせてしまったかと……。私の方こそ、よろしくお願いします」

 慌てたように言ったセーヌさんが、胸に掌を当てながら綺麗にお辞儀をした。そして、治療院はこの教会にも隣接しているらしく、そこに案内される。そこには、

「ってえええ! 先生、もうちょっと優しくしてくれ!」

「これぐらい我慢せんか! ったく、図体だけデカくなりおってからに」

「くううう! 沁みる! 他に薬ねぇのかよ!」

「ないわ! 我慢せい!」

 何やら怒号が飛び交っており、びっくりして思わずカイラの方を見る。カイラは視線を感じたのか、俺を見下ろしてきて、「帰る?」と言ってきた。いやいや、帰らないです。ちょっとびっくりしちゃったんです。

「あ? なんじゃ、セーヌ司教。また薬を持って来て……」

 白い髪と髭のおじいさんが、俺達に気付いてそう言いながら振り返る。だが、俺と目が合った瞬間に言葉を止め、目を見開いた。

「あ、あの、俺、北川優人と申します。こちらで働かせいただきたいと思い……」

 俺は、部外者がどうして入ってきているんだと怒られるかもしれないと思い、慌てて自己紹介をする。だが、

「何故ここに……セーヌ司教! 無理強いしたのではあるまいな!?」

 俺の言葉は遮られ、そのおじいさんはピョンと椅子から降りるとセーヌさんに食って掛かった。「え、え?」とどういう状況なのか分からない俺はただオロオロするしかなく。

「違いますよ。ユウト様が、自ら出来ることを、といらしてくれたのです。無理強いなど、するわけないでしょう」

「本当じゃろうな? もしそんなことをしたら、騎士が捕まえに来る前に俺がぶん殴ってやる!」

「うるせぇ、ユウトが驚いているだろーが。じじい、さっさと案内しろ」

 おじいさんとセーヌさんが言い合っている時、俺はどうしたらいいか分からなくて、カイラを見上げると後ろから抱き締められる。そして、不機嫌そうに尻尾を揺らしながらカイラが二人にそう言い放った。俺はそんなカイラに、火に油では?と顔を青褪めたが、

「おぉ、おぉ、これは失礼した。いや、かたじけない。ユウト様、お越しいただきありがとうございます。グランと申します」

 ニコニコと笑顔で挨拶をしてくれるグランさんにホッとして、俺も挨拶を返した。グランさんは、俺と同じぐらいか、それより少し小さい身長で、クルクルとした白髪から横に獣耳が生えていた。

「ちょ、俺の傷……」

 さっき、叫んでいた患者らしき人が腕を上げたまま停止していたが、ハッとしたようにそう言った。

「うるさいわい! 薬塗ったじゃろ! 数分すれば塞がるわ!」

 グランさんが怒鳴り返したら、その人は渋々、口を噤んで腕を台らしきところに乗せた。その人は手首から肘辺りに掛けて大きな切り傷がパックリとできており、血は止まっているようだが見るからに痛々しい。

「あの、あれはどういった治療なのでしょうか」

 傷部分に薄い緑色の塗り薬のようなものが塗られているのが分かるが、効能などは分からないため聞いてみる。

「あぁ、あれは止血と傷をくっつける作用があるのです。放っておけ皮膚がくっつきます。さ、向こうに……」

「え、俺放置!? ちょ、なんかすごいピリピリしてるんだけど!?」

 グランさんは、その患者さんのことはどうでもいいらしく、さっさと中を案内しようとしてくる。だが、その人はそんなグランさんに叫ぶようにそう言って、「これ本当に大丈夫なのか!?」と青褪めている。

「あの、もし許可をいただけるのであれば、俺が治癒魔法を使ってもいいですか?」

 見るからに痛そうだし、今こそ俺が役に立つ時ではないだろうかと、グランさんに聞いてみる。

「ユウト様の御心のままに」

 すると、グランさんはそう言って掌を胸に当てて頭を下げた。俺はびっくりして慌てる。俺はグランさんの部下になるわけだから、そんな丁寧な口調で話されると萎縮してしまう。

「グランさん、俺に敬語はやめてください」

「しかしなぁ……。いや、そう言うなら、分かった! 今日から同僚になるんじゃからな、そうと決まればまずはこの中の案内から……」

「俺のこと忘れてる!?」

 患者さんが叫んだことで、ハッとし、慌てて傍へ。許可を得ると、その人の腕に触れ、魔力を流していく。すると、手首の方からスーッと傷口が塞がっていき、俺はホッとする。手を離すと、その人は放心したように俺を見た。

「あの、痛みますか? すみません、まだ不慣れで、何か問題が……。グランさん、俺……」

 反応がないことで、何かおかしなことをしてしまったのだろうかと焦る。そもそも魔法についてもまだ理解できていないことが多いのに、人に使って何かあったら……と自分の浅はかさに青褪める。怖くなって、思わずグランさんにどうしたらいいか指示を仰ごうとした時、

「治ったならさっさと出て行け」

 あろうことか、カイラがその人を足蹴にして、椅子から転げ落としてしまった。それに唖然としていると、

「いてぇ! ひでぇ! カイラさん、俺に優しくない!」

「うるせぇ、ユウトが困ってるだろ。さっさと帰れ」

「うう、帰りますよ……。ユウトさん、ありがとうございました! 腕、もうバッチリっす!」

 その人はカイラの知り合いだったらしく。立ち上がると、ニカッと笑って俺に向かってそう言うと、元気に出て行ってしまった。

「あいつは常連でな、怪我が多いんじゃ。気にするな、ユウトの治癒魔法は完璧じゃ!」

 ポカンとする俺に、グランさんがそう言いホッとする。それから、治療院の中を案内してもらった。カイラは視界に入る辺りにいて、何やらセーヌさんと話している様子だった。カイラとセーヌさん、仲が良いのだろうか。知り合いなのは見ていて分かるのだが、どういった仲なのかは分からないため、気になってチラチラ見てしまった。

「カイラはユウトを放って帰ったりはせんだろうよ。心配か?」

 すると、そんな俺を見てグランさんにそう言われて、一気に恥ずかしくなる。

「す、すみません、仕事中に……」

 仕事を教えてもらっている時に、上の空なんて失礼過ぎるし、駄目なやつだと思われても仕方のないことをしている。俺が慌てて謝ると、

「仕方ないわい、今は特に。本能的に求めちまうんじゃろうよ。カイラが傍にいなくてそうなるのは、何も可笑しなことじゃない」

 そうなんでもないように言われる。俺が目を丸くしていると、

「あぁ、そうか。番の繋がりがまだはっきりしてないんじゃな……。何でもない、忘れてくれ。説明続けるか? 疲れたなら、明日でも構わんよ」

 そう続けて、豪快に笑われる。俺は、早く仕事を覚えなければと続けて下さいと頼んだ。紙とペンを貸してもらい、包帯や消毒の場所、それぞれの薬の効果などを聞きながらメモしていく。

「まぁ、良く使うのはこの辺の薬じゃな。痛み止めと熱を下げるやつだ。あとは咳止めとか、色々あるがあんまり使わん。だいたい来るのは怪我人ばっかりじゃ」

 グランさんの説明を聞いて、ペンを動かすのだが、カイラはまだセーヌさんと話しているらしくこちらには来ない。いや、仕事中だから来ないのだろうとは分かっているのだが、どうもそわそわと落ち着かない。ずっと傍にいてくれたから、少し離れただけで寂しいと思ってしまうのだろうか。カイラがいないと駄目になってしまったらどうしよう、と恐ろしくなる。

「あの、俺、明日から来てもいいのでしょうか」

 早く独り立ちしないと、という思いが強くなり、焦る気持ちのままそう聞いた。

「そりゃ構わんが……。そんなに急がなくてもいいと思うんじゃがなぁ」

 グランさんは、俺の様子に少し驚いたようにそう言った。でも俺がお願いしますと食い下がると、苦笑して「じゃあ明日から頼む」と言ってくれて、それにホッとする。

「それと、ここは寮みたいなものはあるのでしょうか。俺、カイラの家に住まわせてもらっていて、早く出ないといけないんです」

「はぁ!? っと、悪い、いや、それは駄目じゃないか?」

「そうですよね……。だから早く出ようと思ってるんですが、仕事が決まらないことにはどうにも出来なくて」

「いや、そっちの駄目じゃなくてだな、あぁ~、どうしたもんか……。おい、カイラ!」

 話していると、グランさんが突然カイラを呼んだ。俺がびっくりしていると、後ろから包まれるようにして、腕が回される。お腹辺りで指を組んで、俺の顔を覗き込んできたカイラに、俺はやっぱりホッとしてしまった。

「疲れた? 帰る?」

 優しく聞いてくれるカイラに、

「おい、カイラ。お前、ユウトが家を出たいって言ってるの知ってるのか?」

 グランさんがさっきの話をした。すると、

「あぁ?」

 低くなったカイラの声と、抱き締められる腕に力が加わったことで、俺の肩が揺れた。

「その様子じゃ、お前は納得してないらしいな。ユウト、お前さんはまだこっちに来たばかりだろう。急ぐことはない、ゆっくり考えな」

 グランさんは、「若いねぇ」と言いながら笑った。

 急がなくていい、とは言うけれど、俺はいつ一人になるか分からないんだ。この世界では頼れる人だって……。いや、それは元いた世界でも同じだったけれど。いつ一人になるかと、不安で仕方ないんだ。仕事して、お金をもらって、一人で生活できるようになれば、きっと、やっと大丈夫だと思えるんだよ。

「ユウト、一人になりたいの?」

 後ろから抱き締められたまま、カイラは静かな声で聞いてきた。

 一人に、なりたいわけじゃない。一人で、大丈夫になりたいんだよ。

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