【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ

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初めての図書館

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「あの、この本は借りることはできるのでしょうか」

 本を整理していたスタッフらしき人に声を掛けると、驚いたように固まると、確認してくると慌てて出て行ってしまった。

俺は今、王宮の図書館に来ている。もう来ることはないだろうと思っていたが、背に腹は代えられない。知りたいことが出来たため、勉強のために足を運んだのだ。



 ――魔鳥の騒動から数日経った頃。あの男の子は順調に回復し、もう外を走り回っているとのことだった。

 そして、俺は休みの日にいそいそと早く起きた。カイラに王宮に行くと言うと険しい顔をして何か言われたのかとか、呼び出されたのかとか、色々と詰められてしまいポカンとしてしまった。図書館に行きたいのだと言うと、理由を聞かれた時に言い淀んだ俺を見て、逃さないとばかりに腰に腕を回される。
 
 やっぱり、俺みたいなやつが王宮に行くとなると、騎士であるカイラからしたら駄目なのかもしれない。国の仕事を担う人たちが働いているため、不審人物が王宮に近づくのを良しとはしないのだろう。俺は見るからに獣人ではないし……。あれ、俺行っても図書館に入れてもらえない可能性がある……?どうしよう、それだと一人で行っても、不審者と思われるかもしれない。と不安になってきて、顔が青褪めた。

「あの、獣人じゃなくても図書館に入れますか?」

「入れるけど、どうして行きたいの? 誰かに言われた?」

「えっと、その、勉強が、したくて……」

「勉強? 教師呼ぼうか?」

「ち、違うんです、その勉強じゃなくて……」

「何の勉強?」

「うっ……。その、身体のことを……」

 言ったことに対しすぐに返ってくる質問にどんどん声が小さくなった。まだこの世界についての勉強も十分ではないのに、別のことを勉強したいだなんて、呆れられてもおかしくない。ちょっと魔法が上手く出来たからって、それに興味を持って勉強したいだなんて、子どものような言い分で恥ずかしくもあり……。

 言葉を濁すも逃がしてもらえず。訝しげに見てくるカイラに、困って眉が下がる。

「身体のこと? 何を知りたいの?」

「その、獣人の身体の構造とか、人間と違うのかなとか……。」

「……あぁ、そういうことか。結局、そうなるのか」

 俺が言ったことに納得した様子のカイラは、呟くようにそう言うとため息をついた。どうしたのだろう。もしかしたら、俺みたいに他の世界から来た人たちも魔法に興味を持って他の勉強が疎かになったりしたのだろうか。それで渋られているのかもしれない。そりゃそうだ、この世界について勉強する機会を与えてくれているのに、自分の興味のあることの方を勉強したいと言っているのだから。そう考えると、すごく我が儘なことを言っていると思えてきた。

「すみません、やっぱりいいです。我が儘なことを言ってしまいました。まずはこの世界についてですよね」

 だから慌てて謝り、図書館はまた別の時にと言おうとすると、

「我が儘ならもっと言って欲しいくらいだけど。ユウト、誰かに何か言われたわけじゃないんだよね?」

 そう聞かれて、疑問に思いながらも頷く。俺が出来ることがまだあるかもしれないと、知りたくなっただけだ。

「じゃあ俺が止める理由はない。ユウトの好きにしていいんだよ。でも行くなら俺も行くから」

 続けて言われた言葉にポカンとしていると、カイラはさっさと自分の準備を始めた。それにハッとして、さすがに付き合わせるわけにはいかないと慌てる。

「あの、大丈夫です。図書館は俺だけで……」

「ユウト、文字読めないでしょ。俺が読んであげる」

 カイラは俺の言葉を遮るように言うと、断る間もなく連れ出されてしまった。そして、王宮までやってくると門番の人は敬礼だけして何事もなく通されて図書館までカイラに案内してもらったのだ。本棚がいくつもあり、天井近くまである高さに本の世界に迷い込んだような心地になる。

 本がびっしりと並べられていて、背表紙の文字が読めないためウロウロと彷徨う。そんな俺に、カイラが何冊が本を取ってくれて、いくつか置かれているソファに促される。渡してくれた本には絵が描かれているものが多く、文字がなくても獣人の身体について分かりやすい。獣人は人とほとんど同じ構造をしている、と思う。人間の構造自体、基本的なものぐらいしか知らないため、同じかどうかが分からない。

 そもそもこの世界には人間っているのだろうか……?人間かな?と思った人でも、腕に羽が生えていたり、瞳孔が丸じゃなかったり、水かきがあったりなど、人間とは異なる種族の人ばっかりだ。だからなのか、人間の構造についての本をカイラに探してもらったが見つからなかったのだ。

 ソファに座り、横に置かれているテーブルに目を通した本を置いていく。カイラは横に座って、俺の頭に顔を埋めたり、聞いたことに答えてくれたりしている。カイラは折角の休日なのにこれでいいのだろうか。いや、俺が来たいって言ったからだよな。カイラは俺の保護者みたいな立ち位置なんだろうし……。でも今日来れたから、もう俺一人でも来れるし、少しずつちゃんと離れられるようにしないと……。

 俺は、これ以上カイラに付き合わせるのが申し訳なく思って、本を整理していたスタッフらしき人に声を掛けたのだった。そして、冒頭に戻る。



「戻って来ない……」

 声を掛けた人が全然戻ってこなくて、不安になる。上の人に怒られていたりしないだろうか。貸出はやってないのかもしれない。あ、借りる物が駄目なのか?こんな獣人たちの人体構造の本ばっかり。もしかして、やばいやつだと思われた?それで危険人物だと認定されたらどうしよう。

 待つ時間が長くなればなるほど、不安になってきて怖くなる。

「俺、さっきの人探してきます!」

 また来たらいいだけの話だし、大事になっていたらどうしようと、慌てて行ったであろう方向に向かおうとすると、

「行かなくていいよ。遅いから持って帰ろ。」

カイラに腕を掴まれた。そして、俺が借りようとしていた本を持つと、図書館から出ようと足を進めた。

「え!? 駄目ですよ、勝手に持って行くのは!」

「ユウトが聞いてんのに、返事にどれだけかかってんの?そんなやつ待つ必要ない」

「いやいや、上の人に確認がいるんでしょうし……」

「ユウトが貸せって言ってんだから、さっさと許可出せばいい話」

「どこの暴君ですか!?」

 カイラの言い分に、思わずそう叫んでしまった。図書館だとハッとして口をつぐみ、うるさくなかったかな、とキョロキョロと見渡すがあまり人がいないこともあり目立ってはなかったらしい。ホッとしていると、何故か突然ギュッとカイラに抱き締められた。

「ユウト可愛い」

「今のどこにそんな要素が……?」

 思わず言われたことに対しツッコミを入れてしまう。

「今まで言い返したりしてくれなかったから。今日は記念日だ。早く帰ろう」

「え……。いや、駄目ですって、戻ってくるのを待たないと!」

 カイラに嬉しそうに言われてそうだったかなと目を丸くするが、抱き上げられそうになって慌ててそう言い身体を離す。

「お、お待たせいたしました!」

「ユウト様、申し訳ありません。本を持ち出したいとか……?」

 そうしている内に戻ってきたスタッフだったが、何やら年配の人も一緒に来てそう確認される。

「え、あ、す、すみません!あの、駄目ですよね、また来るので……」

 俺は偉いだろう人の登場にビビって、後ずさりながら本を返そうとすると、カイラにトン、と頭が当たる。見上げると優しく笑ってくれるカイラに、借りるのは辞めた方がいいという自分の判断はあっているのだと気付きホッとしていると、

「おい、どれだけ待たせてんだ。さっさと許可しろ」

 カイラが俺の頭を抱え込むようにして撫でてくるとそう言い放ち、ギョッとする。

「申し訳ありません。ユウト様、本の貸出ですね。何冊でも構いませんよ」

 そんなカイラの言葉に、偉いだろう人はそう言って苦笑した。

「えっ、いいんですか?」

 俺がびっくりしてそう返すと、

「えぇ、えぇ、構いません。何を持ち出すのかを言っていただければ、何冊でも」

 そう続けられ、そうだったのかと、急いで借りたい本を見せる。すると、スルスルと紙に何かを書いた後、持ち帰っても良いと言われ、カイラの腕を引っ張って図書館を出たのだった。

「ユウト、それ貸して。俺が持つから」

「いえ、大丈夫です。これくらい持てますよ」

 そう言ったのに、当たり前のように荷物を持たれてエスコートされるように歩かされてしまう。カイラは予定とかないのだろうか。俺に付き合わせてばかりだし、まだ時間も早いからカイラにも自由にしてもらわないと。

「俺、家に帰って勉強するので、カイラは……」

「じゃあ昼ご飯買って帰ろう。ユウト、あそこのスープ好きだよね。つまめるお菓子も買おうか」

 一人で家に帰るから自由にしていいのだと暗に言ったつもりだったのだが、遮るようにそう返されて、あわあわと言葉が出てこなくなってしまった。そして結局、そのまま二人で帰って、読み方を教えてもらいながら一緒に過ごすのだった。


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