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学んだこと、俺に出来ること
しおりを挟む「はい、どうでしょうか」
「すごい、痛みがなくなりました……」
あれから図書館通いを始めた俺は、色んな獣人のことを調べ、紙に書き記していた。それを一冊のノートのようにして、書き込んだりしたものを常に持つようにしている。そして、治療院で俺が出来ることが格段に増えたのだ。完治、とまではいかないながらも、痛みを取ったり、骨折であれば元の骨の状態に戻すことも出来るようになったのだ。イメージというものは魔法においてとても重要なものらしく。元の基本的な形を知っているだけでも、俺の治癒魔法は効果が出たのだ。
「ユウト、そろそろ休憩じゃ。それにしても、よくそんなに調べたもんじゃの」
俺のノートを見てグランさんが感心したように言った。まだ全部の文字を読んだり書いたりできないため、元の世界の文字で書いているそれは俺にしか読めない。それも、まだまだ知らない種族もいるためどんどん厚みは増していっている。
調べたり学んだことを実践できるのは楽しいし、喜んでもらえるのはすごく嬉しい。俺も役に立てているのだと、ホッとして、ようやく地に足を付けることができたような感覚だ。
「ユウト、帰ろう」
カイラが迎えにきて、後ろから抱きしめられる。カイラのスキンシップにも慣れてはきたのだが、頬にキスされたり鼻同士の擦り合わせなどはやっぱり慣れない。
「あ、あの、俺今日も図書館に……」
「俺のことも構って」
「え、あ、え?」
「今日は俺とデートしよ。ユウトに似合う服見つけたから見に行こ」
そう言われて街に連れ出されることもしばしば。カイラは強引なようで根を詰めすぎる俺をリフレッシュさせてくれる。その優しさにも気付くことができるようになり、来たばかりの頃と比べると余裕も出てきた俺。
さり気なく腰に腕を回される度にドキッとしてしまう。身体が触れるぐらい近い距離でいることが多く、ただでさえ整っている顔が至近距離にあると同性でもドキドキしてしまうわけで……。
今までは自分のことにいっぱいいっぱいだったから何とか気にしないようにしていたが、余裕が出てきた今、これは由々しき問題だと思っている。
「ユウト、こっち」
すれ違う人とぶつかりそうになっていたらしく、スッと身体を引き寄せられる。スマートにそういうことをしてしまうカイラにドキドキするなという方が無理では?挙動不審になってしまう俺だが、カイラは気にした風もないためこれは通常運転なんだろう。俺が気にしすぎなのは分かっているが、これは仕方ないと思う……。
「これユウトに合う。この色好き? この色違い持って来て」
店員さんにテキパキとそう言って、俺に服を合わせては「これも可愛い」と微笑むカイラにどう反応したらいいのか分からなくなる。買おうとするカイラに慌ててそんなに服はいらないと伝え、一着だけ羽織るものを購入する。少し寒くなってきたため、丁度良い。
そうして何とかここの世界にも慣れてきた頃。
「……魔物が?」
「そう。活性化しているらしくて、その討伐に行くことになった。数日帰れないと思う」
カイラにそう言われて、胸がざわついた。討伐……。街にいて魔物を見たのは例の騒動の時だけだ。でもここは魔法がある世界で、俺が知っている動物とは異なる生物が存在する。それを突きつけられたようで、言葉に詰まった。
「ユウト? 送り迎えはダニエルに頼んでるから大丈夫だよ」
「へ? いやいや、俺一人で大丈夫です」
送り迎えなんて、本来してもらわなくても一人で治療院まで行くことができるし、家に帰ることだってできる。さすがに道だって覚えたから、そんなのしてもらうわけにはいかないと言ったのだが、もう決定事項らしく、笑顔で押し切られてしまった。送り迎えをしてもらわなければいけない理由でもあるのかと考えるが全く思い浮かばず。でもカイラが必要だと思うのであれば、何か理由があるのかもしれない。あ、人間が一人で歩くのが危険とか……?え、それだと俺一生一人で歩けないのでは?
「ダニエルは無口だけど信頼できるから。ユウト、何かあったらダニエルに言って」
「あの、何かあるんですか?」
「俺が心配なだけ。離れたくないけど、そうも言ってられないから」
さらりとそう言われて、言葉に詰まる。真っ直ぐに言われると反応に困ってしまい、思わず俯く。心配されるような歳でもないが、そう言ってもらえると、なんというかこそばゆいような、泣きたくなるような気持ちになる。
「ユウト、ちょっとだけ充電させて」
そんな俺の腕を優しく引いたカイラは、ギュッと力強く抱きしめてきてスリスリと頭を擦り付けてくる。俺はどうしたらいいのか分からず、されるがままで、ただ高鳴る鼓動を落ち着かせようと必死だった。
――――
「……じゃあ」
「は、はい。ありがとうございました」
カイラが討伐に向かって、ダニエルさんが送り迎えをしてくれるけれど、行きも帰りも無言だ。ただ、ダニエルさんは気にしていないようで、静かに俺を見下ろして微笑んでは頭をスルッと撫でては帰って行くのだ。
カイラのいない家はガランとしているようで、何とも心細く思ってしまう。ずっとカイラの家にお邪魔するわけにはいかないため、一人になることに慣れないといけないのだが……。それを想像するだけで胸が締め付けられるような感覚になってしまう。一人には慣れているはずなのに……。今は、カイラに帰って来て欲しいと思ってしまうのだから不思議だ。それでは駄目だと分かっているのに、俺は一体どうしたんだろう……。
ベッドに潜り込んで、いつの間にか眠っては次の日になり、治療院に行く。それを数日繰り返していると。
……バンッ!!
慌ただしく開けられた治療院の扉に、びっくりしてそちらを見ると、汗だくで頭から血を流した騎士服に身を包んだ人がいた。
「あるだけの包帯と薬を頼む! 教会にある分だけじゃ足りねぇんだ!」
「なんじゃ、騒がしい。その部屋に薬も包帯もあるわい、持って行け」
そんな騎士に落ち着いた様子で返したグランさんが部屋を開けると、騎士は急いだ様子で物を鷲掴むと袋に入れて転げるようにして走って出て行ってしまった。ただ事ではない様子に、俺がおろおろしていると、
「討伐部隊が帰って来たんじゃろ。いつものことじゃが、ちと嫌な予感がするのぉ」
グランさんがそう言った。俺は、討伐部隊、という言葉にカイラの隊ではないかとハッとする。そして、走り去って行った騎士に、胸がざわつく。
「あ、あの、グランさん、俺……」
嫌な想像をしてしまい、膝が震えるが、声を掛けた俺に、頭をかいたグランさんは苦笑した。
「すまんの、不安にさせたか。構わん、行ってきなさい。それでどうするかは、ユウトの自由じゃ」
言葉の意味は分からなかったが、俺はその言葉を聞いてすぐに追うように外へと飛び出した。
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