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カイラSide
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しおりを挟む街に出るとキョロキョロと興味深そうに見ているユウトの目がキラキラしていて、思わず案内しようかと声を掛けていた。一瞬、ユウトの顔が嬉しそうに綻んだが、すぐにハッとしたように困ったように眉を下げた。そして、仕事を紹介するところを教えて欲しいと言ってくる。俺から離れる準備をし始めようとすることに、思わず尻尾が不機嫌に揺れてしまい、ユウトの肩が揺れた。
……何してんだ、俺は。
番を見つけて間もなく、しかもその相手は番だと認識していないのだ。今はユウトがこの世界に慣れることが最優先となっている。
ただ、本来ならば蜜月を過ごしているはずの期間でもあるため、俺がどれほど我慢しているのかも分かって欲しいが、ユウトが怯えたように瞳を揺らしただけで、とてつもない罪悪感と怖がらせてしまった悲しさでいっぱいになってしまう。
番に共にいることを否定されると、どうしても本能が拒み、それが態度に出てしまう。それも、恐らく時間が経つにつれて収まるとは思うが、俺も気を引き締めなければ……。
説得するようにまずは慣れることからだと誘導し、それと同時に、周囲にユウトが俺の番であることを知らしめるために、ユウトの頭に頬を擦り付けた。
そうだ、ついでにユウトの物も買って帰ろうと思いたち、食器から服まで色々と見て回るが、困った。俺が使うより小さい食器を持つユウトは可愛いし、置物を不思議そうに見ているのも可愛いし、俺が見ていないと思ってチョン、と指先で魔法道具の水晶を触ってるのも可愛くて、何もかも買ってあげたくなってしまい大変だった。服に関しては、黒髪黒目で肌も白いし、どんな色でも似合うからあれこれと着せ替えては可愛さを堪能してしまった。
だが、ユウトの歩みが遅くなったことで、疲れたのだろうと抱き上げようと屈むと、ユウトが後退った。何か足元にいたのか?とユウトに聞くと、何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。髪の間から覗く真っ赤な耳が見えて、美味しそうで喉を鳴らしてしまったが、気付かれなかったようで。再度問うが、なかなか言ってくれない。俯いていても、赤くなっている耳や首は晒されていて、かぶりつきたくなるのを堪えて大きく息を吐く。そして、抱き上げてビックリしたユウトと鼻同士を擦り合わせる。獣人にとって、あなたを愛しく思うと伝えたい時にする行為。ユウトは驚いていたようだが、嫌がられないことに俺は気分が良くなる。そのまま馴染みのカフェに入った。
席に着いてユウトを膝に下ろすと、何故かユウトは隣にやつに手を伸ばそうとしたため、視界を遮って止めた。その中で、店員のキトが声を掛けてきた。知らない声が聞こえたからか、ユウトが俺の服を掴み、無意識だろうが身体を俺にくっつくように寄せてきた。それに機嫌が良くなり手を退けて、茶化しながらも嬉しそうなキトに注文をする。ユウトは水が欲しいと注文し、喉が乾いていたのかと気付いてやれなかったと悔やむが、続いた水代を払えないから立て替えて欲しいと申し訳なさそうに言われて顔を顰めた。
頼ることが出来ない俺の番は、どうあっても自分の足で立とうとする。水一杯だろうが、払わせることに罪悪感があるらしい。もみくちゃにして温かい物にくるんでギューッと抱き締めてやりたい気持ちを抑えながら、ユウトのためなら金だって稼いでくるし、俺とずっと一緒にいて欲しいと伝える。今はまだ、ユウトの気持ちはこの世界に来たことでいっぱいいっぱいだろうから急かさないけれど。でもユウトが不安に思うことは全て払拭してやりたいと思ってしまうのだ。
キッシュとタルトが運ばれてきた時も、ユウトは自分は金も持ってないし食べられるわけないと思っているのは丸わかりで。どちらを好むのか分からなかったから両方頼んだが、甘いタルトを口に運んだ時の嬉しそうな顔に、俺も思わず破綻する。可愛くて、ずっと見ていたくて、気にいったらしいタルトをホールで包むようにキトに声を掛けた。俺のためだと言い方を変えれば、ユウトは困った顔をしつつ何も言えなくなっていて、可哀想だがこれは使えるなと密かに思った。
まだ不安定な魔力に、精神も影響されて疲れてしまったのだろう、眠ってしまったユウトを見下ろして髪を撫でる。可愛いユウト、俺の腕の中で眠ってしまう無防備さがたまらない。
「……寝ちまったか?」
「あぁ。疲れてたんだろう」
キトが小声で話し掛けてきて返す。
「それにしても、愛し人ってのは本当にこういう子なんだなぁ。まぁ何にせよ、番が見つかって良かったじゃねぇか」
「あぁ、こんなに愛しいものなんだな。頼んだものはこのまま持って帰るから袋に入れてくれ」
了解、とキトが席を離れるのを見て、ユウトをしっかり抱きかかえる。腕を俺の首に回させると、少し唸りながらギュッと抱き着いてくるユウトに愛しさが溢れてくる。無意識に甘えるような行動をしてくるユウトが可愛くて仕方ない。これを無意識下でなくしてもらうためにも、俺は頑張らないとなと額にキスを落とすと立ち上がったのだった。
起きて現状を理解したユウトが慌てていたけれど、俺のベッドで寝て俺の匂いを付けたユウトが可愛すぎて、少し暴走してしまった。俺が悪いのに謝ってくるユウトに、慌てて腕を引いて抱き締めると、グスグスと泣き出してしまった。思っていたよりも募ってたらしい不安な気持ちが反応してしまったのだろう。
……でも可愛いんだよな。
自分の反応に不安がっているユウトだが、抱き締められるとされるがままで、気付いていないだろうが服をキュッと掴んでいるのだ。どうしようのなく可愛いと思うのは仕方ないと思う。安心させてあげたいのと、このまま可愛さを堪能したいのをせめぎ合いになって困ってしまうが、とりあえず簡単に今のユウトの状態を説明してやる。
ユウトの保護は王命でもあるため俺が仕事を休もうが気にしなくていいのだが、ユウトは迷惑を掛けていると思ったのか、また自立しないと、と言い始めてしまったため、少し強引に話を終わらせて、離れる気がないことを言いながら、王宮からの引っ越しは終わったのだった。
朝からユウトがいるという幸福を味わいながら、俺の手で作った飯を食べさせられる嬉しさ。なかなか手をつけてくれなかったが、パンを食べた時にパッと表情が明るくなって笑みが浮かぶ。老舗のパン屋のもので、気に入って買っているがユウトも気に入った様子。美味しいと俺に報告してくれる可愛さに、このまま閉じ込めて愛でていたい衝動に駆られるが、今じゃないと落ち着かせた。
ユウトの服は昨日数着買ったがまだ届いていない。そのため、俺が小さい時に着ていた服を取り出してきた。ユウトに着てもらったら、全身を俺で包んでいるようで気分が良くなり尻尾が揺れる。そのまま街に連れ出して、追加でユウトの服を購入。おろおろしているユウトは可愛いけれど、買うのを止められるわけにはいかないため、俺の買い物だと白を切った。
ユウトの物を色々買っていると、店を出ると言うユウトにじゃあ俺も、と出ようとすると、何故か俺にユウトではない恋人がいる思っていることが判明する。ユウト以外の誰かなんて考えるのも無理だが、そういう思考になった経緯は知る必要があると、苛立ちを何とか抑えたまま早急にユウトを抱え上げた。だが、身を縮こませるユウトが泣きそうに瞳を揺らしているのを見ると、力が抜ける。どうあったって甘やかしてしまいたくなるため、苦笑して額に唇を落とした。それだけでホッとしてしまうユウトに愛しさが溢れる。
そのまま家に帰り、話してもらうと、買った物は恋人に贈るものだと思ったらしく。俺が自分の買い物だと言ったせいで、そんな勘違いが生まれるとは思わないだろう。また、王命だと言ったことで俺を付き合わせてしまっていると思ってしまったらしく。これに関しては、詳しく説明できないため、言葉を選びながら俺のことを信じて欲しいと言う他なかったが。
何とか納得した様子のユウトに、王宮から届いていた手紙を渡す。だが、ユウトは受け取って開くと、固まって動かなくなってしまった。何か嫌なことでも書かれていたのかと、顔が険しくなるのが分かった。ユウトの手から取り上げて視線を落とす。
だが、書かれていたのはいつでも授業を請け負うという旨のことだけ。俺も少し混乱しつつ、ユウトに聞くと、なんてことはない、ただ文字が読めなかっただけだった。少し落ち込んだ様子のユウトに、俺も失念していたなと
苦笑する。まぁ、俺がいるからいいだろうと、ユウトを抱え込んだのだった。
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