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カイラSide
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しおりを挟むヒドラと共に向かったのは、先程国王に謁見した部屋。そこにはユウトが入った時にいた上層部の連中はおらず、国王とその側近たち、教会の司教であるセーヌだけが待っていた。
「カイラ、すまぬな。して、ユウト殿は……」
「俺の番です」
王の言葉を遮るようにして俺が発言するが、側近たちは何も言わず。王はそんな俺に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そうか、やはりな。お主のその変わりようにまず間違いないと思っていたが」
そう続けた王の言葉には、ユウトを守る剣であり盾となる者がいることに対する安堵もあったのだろう。
「俺はしばらく休暇を取ります」
「良い、好きにしろ」
「ユウト様の魔力属性は調べておかないといけません。魔力が身体に馴染むまで、恐らく精神的にも不安定になることがあるでしょう。カイラ、ユウト様のことをよく見て、必要だと判断したのなら受けるように説明しなさい。分かっているとは思いますが、消して無理強いはしないように」
王が二つ返事で返した後、側近がそう続けた。それに関しては、早い内に済ませた方がいいということは分かっていた。異世界人は魔力を持たず、この世界に来た時に初めて持つようになるため、身体に馴染むまでは精神的に不安定になりやすい。魔力の質によって対応方法も変わり、馴染むまでは魔力不足や魔力過多による症状も起こる恐れもあるのだ。
「その時は私が請け負います。いつでもどうぞ」
セーヌがそう言い、俺は了承した。それから、ユウトに対する禁止事項や注意事項を確認されていく。
異世界人は特別な力があると分かると、誰もが知ろうとし、学び、他者のためにその力を使っては多くの者を救ってきた。この世界で役に立とうと、それが自分の来た意味なのだろうと。強制などしなくても、他者のために生きた異世界人たち。
そんな異世界人たちに対し、繰り返された悲惨なものから、番を得て守られ幸せに生涯を終えたものまでの歴史は、この世界に生きる者なら誰もが知る事実。
ユウトが必ずしも治癒魔法が使えるとは限らない。だが、使えると分かればきっと、今までの異世界人たちのように他者のために頑張ってしまうのだろう。そういう者たちだと言われてきたから、治癒魔法の細部まで教えることは禁じられたのだ。
異世界人はもう十分、他者のために生きた。全く異なる世界の住人だろうが、分け隔てなく救ってきたのだ。もういいだろう、ただ平穏に暮らしても。
異世界人は、もとの世界であまり良い扱いを受けてこなった者が多かったと聞く。それでも清らかな心を失わず生きた人たち。それに、異世界人がいるというだけで精霊もその場に留まり、魔力は安定し、過多による暴走もなくなる。また、魔力が枯渇することもなくなり、生活の質だって向上する。ただいるだけで、この世界の住人の力になっているようなもんなのに。ただ、それを説明するにも、今までの異世界人のことを話さなきゃいけなくなるからできない。
俺は話をしながらも、だんだんと部屋に置いてきたユウトのことが心配になってくる。心細そうに服を掴んできたユウト。あの可愛さを思い出して今すぐ戻りたくなるが、今後の俺の仕事についての話もあるため、何とか我慢して話を詰めていく。
そして色んな書類にサインをしたり、ヒドラと騎士の訓練や王宮の警備、俺が抜けるにあたってのことを決めていく。
数時間が経過し、いい加減さっさとユウトの元に戻りたくて、尻尾が揺れだした俺。王には見えないようにしていたが、横にいたヒドラはそれが見えて苦笑された。獣人なら誰でも分かるその感覚に、俺が王に退出を求めると、笑って許可を出してくれた。側近たちに呆れたように見られたが、ここに来る前の不安そうなユウトの様子を伝えると、「そういうことはさっさと言え」と早々に部屋から出された。
急いでユウトのいる部屋まで戻ると、その前に王の側近の一人に止められる。俺とユウトを部屋に案内したやつは、王の側近の一人で、代々王家に使える護衛兼使用人だ。どうやら、ユウトが金を所持していないからと、部屋を出ようとしたらしい。
俺は異世界人の心の清らかさを本当の意味で分かっていなかったのだと、それを聞いて思ったものだ。
金を持っていないからいられないと? 勝手にこの世界に飛ばされ、訳の分からないまま王宮に連れて来られたんだ。もっと怒っても、我が儘を言ってもいいだろ。
俺は急いで部屋をノックし、扉を恐る恐る開けてくれたユウトに我慢できなくて抱き締めた。矢継ぎ早に色々言ってしまったが、ポカンとするユウトも可愛い。だが、何故か頬を緩めたユウトが俺の胸に顔を埋めてきて、思わず口を閉じた。
ユウトは獣人でも亜人でもないため、俺が番だとは分かっていない。だが、番は魔力の相性も良く、恐らく芽生えつつあるユウトの魔力が俺に反応して無意識に甘えたような行動が出るのだろう。ユウトの意思ではないにしろ、そんなことをされると可愛すぎてどうにかしてしまいそうになる。
俺の反応一つで怖がらせてしまうこともあるが、魔力が安定していないため余計に不安定になっているのだろう。俺が触れることに対し嫌がることもなく受け入れるユウトに、だんだんと慣れてきているのは間違いないと安堵した。
ユウトに「一人で生きる」と言われた時は、思わず唸ってしまい泣かせてしまった。番であることを否定するような言葉は言われると頭が真っ白になる。だが、可哀想なくらい泣きじゃくるユウトを見て血の気が引き、すぐにハッとして謝る。抱き締めるのを許してくれてホッとするが、力を抜いて全身を預けてくるユウトに、俺は我慢し続けることができるだろうかと、もうグラグラとしている理性に問うのだった。
勉強には俺も立ち会い、楽しそうに話を聞いているユウトに頬が緩むが、どこか不思議そうにしていた。勉強が終わり、ユウトを連れ出して何か食べようと思ったが、ユウトの様子がおかしくて。本人は体力がないからだと言うが、魔力が影響している可能性もあるため、すぐに見てもらうことにした。
魔力について簡単に説明するが、「魔力がなくても生きていけるか」と不安そうに聞いてきたユウトが可愛くて。あってもなくても、手放す気なんてないし、先日、火を出したところをキラキラした目で見ていたユウトを思い出して思わず笑ってしまった。
魔力診断の時は、基本的に本人と診断者のみとなる。だが、不安そうに俺に身を寄せてきたユウトに許可を貰い、俺も立ち会いをすることにした。明らかにホッとした様子のユウトにたまらなくなるが、何とか抑えて診断を受けてもらう。
不安な時に頼ってくれるのが俺であることに、嬉しく感じないわけがない。
診断結果は、言わずもがな見事な魔力性質。綺麗に二等分されている白と黒の魔力。これで、ユウトも例に漏れず最高峰の奇跡と呼ばれる治癒魔法が使えることが決定した。
願うなら、そんな力がなければいいと思っていたため、顔を顰めてしまったが、後ろから抱き締めているユウトにはばれずにすんだ。
セーヌは目の当たりにした事実に、分かってはいても信じられなかっただろう。表情が一瞬固まったが、すぐに戻してユウトに簡単に説明を始めた。
ユウトの「生活を送る上で必要な火を出せるか」といった可愛い質問は、恐らく一人で生活するにあたってのことだとは分かっていたが、素知らぬフリをして一緒にいることを仄めかした。
それから、魔力を安定させるための効果がある葉で作った飲み物は、ユウトのお気に召したらしく、ホッとしたように飲んでいた。
ユウトが可愛すぎて、俺は何度も手を出しそうになってしまうけれど、何とか耐えていた。
飯が運ばれて来た時も、ユウトは食べていいのか分からなかったらしく、俺が言ってから恐る恐る食べ始めた。そんなユウトの様子に、王宮での生活は合わないと感じ、すぐに俺の家で暮らすことを提案した。金のこととか、自分は何もできないとか、色々と不安要素があるユウトを半ば強引に説き伏せてしまった自覚はあるが。
いざ、俺の家に行くとなった時、挨拶しないと、と言うユウトが引っ張る俺に対して踏ん張って抵抗していたが、あまりの力の弱さが可愛すぎて、思わず真顔になってしまった。
獣人や亜人と比べると、小さくて華奢で守らせてくれとお願いしたくなるほど可愛い俺の番。それなのに、一人で生きる術を身に着けようと頑張ろうとする。そういう人なのだと分かっているが、どうか、願わくば幸せに生きて欲しい。それが、この世界に生きる者たちの願いなのだ。
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