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第3話 お茶会の誘い②
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時間になって、アリステルはマツリを伴って本邸のサロンへ出向いた。
本邸の入り口で、エヴァの護衛を務めている私兵団の騎士たちに止められた。
「アリステルお嬢様、お待ちしておりました。どうぞおひとりでお入りください。そこのメイドは下がるように」
マツリは驚いて反論した。
「えっ!私はお嬢様の給仕担当です。入れていただかなくては困ります!」
「ダメだ。お嬢様のみお入りいただくようにと言い付けられている。お前は下がれ」
なおも反論しようとすると騎士の一人が腰に差した剣の柄に手を掛けた。
それを目にし、アリステルが慌ててマツリを止めに入った。
「マツリ、いいわ。私は大丈夫だから戻って」
マツリは下唇を噛んで悔しがっていたが、仕方なく別棟に下がった。
アリステルがサロンへ入っていくと、すでにエヴァは円卓の上座に座っていた。
ミネルヴァはいないようだ。
「お継母様、お招きいただきありがとうございます」
「ええ、どうぞお掛けになって」
アリステルが席に着くと、侍女たちがティーポットの用意をして全員退室した。
「今日は私が特別にお茶を入れてあげるわ。仲直りの証として」
「ありがとうございます」
エヴァは立ち上がり、二つのカップにポットからお茶を注いだ。
一つをアリステルの前に、もう一つを自分の前に置くと、エヴァは妖しくほほ笑んだ。
「さあ、召し上がれ。今日のために東方から仕入れた珍しいお茶なのよ」
エヴァはそう言って、自分のカップを手に取り、一口お茶を飲んだ。
「いただきます」
アリステルもカップを口に運ぶ。
カップから立ち上る香りは、これまで嗅いだことのない、煙でいぶしたような香りがした。
「お味はどうかしら」
まずくはない。初めての味だった。
「初めていただく味ですわ…」
その時、急にアリステルの視界がくらりと揺れ、ふわふわと宙に浮いているような心許ない心地がして、アリステルは持っていたカップを取り落とした。
「ガチャ―ン」
カップが床に落ち割れる音が、ぼんやりして遠のく意識の中に聞こえたような気もする。
アリステルは意識を失い、椅子から滑り落ち、側頭部を強く床に打ったが、もう痛みは感じなかった。
その頃、アリステルのメイドたちは、アリステルが一人でサロンへ入って行ったことを心配し、ヤキモキしながらアリステルの帰りを待っていた。
1時間、2時間と時が経つと、アリステルの身に何かあったのではと気を揉んだ。
マツリは、付いていけなかった自分を責めていた。
「どうしても付いていけばよかった!」
「仕方なかったわよ。マツリ、あなたは悪くないわ」
「そうよ、マツリのせいじゃないよ」
いよいよ三人はサロンに様子を見に行こうと、本邸に向かった。
先ほど門前払いされた辺りには、すでに護衛騎士の姿はなく本邸に入ることができたが、三人は何とはなしに息をひそませ、人目を避けてサロンへと移動した。
サロンが見える辺りまで来て様子をうかがうと、どうやら誰もいないようだ。
(おかしいわ、だれもいないなんて)
(お茶会は終わったということですかね?)
三人は思い切ってサロンに近づき、中の様子を覗き見たが、やはり誰もいない。
円卓の近くまで歩み寄ったときに、目端の利くユナがテーブルの脚にごく小さな陶器の破片を見つけた。
かがんで破片を拾った際に、変わった香りがうっすらと香った気がした。
「これ…、カップの破片でしょうか」
「…そうかもしれないわね」
「え…カップが割れた?」
三人は破片を覗き込みながら、黙り込んだ。
カップが割れるどんな事件がここで起きたのか?
三人は背後に人が近づいていることに全く気が付いていなかった。
「あなたたち、ここで何をしているのですか!」
それはヴァンダーウォール家のメイド長であった。
三人はびくっとし、慌てて姿勢を正す。
「アリステルお嬢様をお迎えに来ました」
アンナが答えると、メイド長はもともとキツイ目をさらにキッと吊り上げた。
「ここにはアリステルお嬢様はいらっしゃいません!」
「そんなはずありません。奥様に呼ばれてサロンに行かれたのです」
「何を言っているのです。アリステルお嬢様は来ていません。なぜ奥様に呼ばれるのです」
「お茶会のお誘いをいただきました」
「馬鹿なことを言っていないで仕事に戻りなさい」
「本当なんです。奥様に呼ばれてお茶会へ行った後、アリステルお嬢様がお戻りになりません」
メイド長は大きなため息をつき、首を振りながら三人を見やった。
「またアリステルお嬢様のわがままですか?大方、奥様に呼ばれたとウソをついて、屋敷を抜け出して遊びまわっているのでしょう」
「ち、ちがいます!アリステルお嬢様はそんなことしません!」
「そうです、本当に奥様に呼ばれたのです!」
「お黙りなさい!あなたたちにも罰を与えますよ!」
言い合いになったところに、侍女を背後に付き従わせたエヴァがやってきた。
「何を騒いでいるのです」
「奥様!申し訳ございません。お騒がせ致しました。この者たちがアリステルお嬢様が奥様とのお茶会から戻らないとウソを申しておりまして」
エヴァはわざとらしく驚いた顔を作って見せた。
「何を言っているの、あなたたち。アリステルは私が誘ったお茶会に来なかったではありませんか。私の顔も見たくないからと、体調が悪いなどとウソまでついて」
すると、エヴァの後ろにいた侍女たちが騒ぐ。
「使用人も主に似てウソをつくようね」
「本当にアリステルお嬢様のわがままには困りましたわね」
「奥様がこんなに心を砕いて接していると言うのに」
エヴァの顔が意地悪く歪んだ。
「それで?アリステルがいなくなったと言うの?間違いなく?」
「はい、アリステルお嬢様は別棟におりません。こちらの本邸にいるはずです」
「あら、そう。ではくまなくお探しなさいな。見つからなかったときは、あなたたちがウソの報告をしたということになりますわ。そのご覚悟はあって?」
三人は一瞬目を見合わせてから頷き、本邸を探す許可を得た。
しかし探せども、アリステルは見つからない。
(マズイことになったわ。このままアリステルお嬢様が見つからなかったら…)
アンネは焦りながら、必死に探して回ったが、どうやらもう屋敷にはアリステルはいないようだった。
「これでわかったでしょう。アリステルはこちらへは来ていないの。勝手に家を出て行ったのではなくて?だとしたら、あなたたちの責任はとても重いわ。家出を見逃すなどあってはならないこと。責任を取って今すぐ、この屋敷から出て行きなさい!」
「「「そんな…!」」」」
三人が絶句したとき、護衛の騎士たちが三人の腕を強くつかんで引っ張り、屋敷の外へと放り出した。
三人は地面に転がり、体の痛みに耐えたが、その後しばらく呆然としていた。
「アンネさん…」
ユナが声を掛けると、ようやくアンネは衝撃から立ち直った。
「二人とも、ケガはない?とんでもないことになったわね」
「アリステルお嬢様は、どうなったのでしょう?」
アンネは首を振った。
「わからない…。でもきっと碌な目に合っていないわ」
ユナもマツリも、神妙な顔をして頷く。
「もうここで働けないのね」
「そうね。運が悪かったわ」
「これからどうしたら‥‥」
その時、屋敷の陰からこっそり一人のメイドが出てきた。
アンネの友人サラである。
「アンネ、大変なことになったわね」
「ええ、困ったわ」
「全部は無理だったけど、あなたたちの荷物を持って来たわ」
サラは三人にそれぞれ荷物を渡した。
「ありがとう。助かったわ」
「これからどうするの?」
「もうここにはいられないから、町で仕事を探すわ」
「そう…。元気でね。気を付けてね!」
「サラも元気で!ありがとう!」
サラは別れを告げると、そそくさと屋敷に入って行った。
「アンネさん、私も一緒に仕事探しをします。付いて行っていいですか?」
ユナが言った。
「ええ、もちろんよ。一緒なら心強いわね。マツリ、あなたはどうする?」
「私は故郷に帰ろうと思います。こちらはやはり肌に合いません」
「そっか。でも今日は一緒に宿に泊まりましょう。旅の準備が必要よ」
「はい!」
こうしてアリステル付きのメイドたちは、アリステルが魔の森に捨てられたまさにその時、ヴァンダーウォール家を去ったのだった。
本邸の入り口で、エヴァの護衛を務めている私兵団の騎士たちに止められた。
「アリステルお嬢様、お待ちしておりました。どうぞおひとりでお入りください。そこのメイドは下がるように」
マツリは驚いて反論した。
「えっ!私はお嬢様の給仕担当です。入れていただかなくては困ります!」
「ダメだ。お嬢様のみお入りいただくようにと言い付けられている。お前は下がれ」
なおも反論しようとすると騎士の一人が腰に差した剣の柄に手を掛けた。
それを目にし、アリステルが慌ててマツリを止めに入った。
「マツリ、いいわ。私は大丈夫だから戻って」
マツリは下唇を噛んで悔しがっていたが、仕方なく別棟に下がった。
アリステルがサロンへ入っていくと、すでにエヴァは円卓の上座に座っていた。
ミネルヴァはいないようだ。
「お継母様、お招きいただきありがとうございます」
「ええ、どうぞお掛けになって」
アリステルが席に着くと、侍女たちがティーポットの用意をして全員退室した。
「今日は私が特別にお茶を入れてあげるわ。仲直りの証として」
「ありがとうございます」
エヴァは立ち上がり、二つのカップにポットからお茶を注いだ。
一つをアリステルの前に、もう一つを自分の前に置くと、エヴァは妖しくほほ笑んだ。
「さあ、召し上がれ。今日のために東方から仕入れた珍しいお茶なのよ」
エヴァはそう言って、自分のカップを手に取り、一口お茶を飲んだ。
「いただきます」
アリステルもカップを口に運ぶ。
カップから立ち上る香りは、これまで嗅いだことのない、煙でいぶしたような香りがした。
「お味はどうかしら」
まずくはない。初めての味だった。
「初めていただく味ですわ…」
その時、急にアリステルの視界がくらりと揺れ、ふわふわと宙に浮いているような心許ない心地がして、アリステルは持っていたカップを取り落とした。
「ガチャ―ン」
カップが床に落ち割れる音が、ぼんやりして遠のく意識の中に聞こえたような気もする。
アリステルは意識を失い、椅子から滑り落ち、側頭部を強く床に打ったが、もう痛みは感じなかった。
その頃、アリステルのメイドたちは、アリステルが一人でサロンへ入って行ったことを心配し、ヤキモキしながらアリステルの帰りを待っていた。
1時間、2時間と時が経つと、アリステルの身に何かあったのではと気を揉んだ。
マツリは、付いていけなかった自分を責めていた。
「どうしても付いていけばよかった!」
「仕方なかったわよ。マツリ、あなたは悪くないわ」
「そうよ、マツリのせいじゃないよ」
いよいよ三人はサロンに様子を見に行こうと、本邸に向かった。
先ほど門前払いされた辺りには、すでに護衛騎士の姿はなく本邸に入ることができたが、三人は何とはなしに息をひそませ、人目を避けてサロンへと移動した。
サロンが見える辺りまで来て様子をうかがうと、どうやら誰もいないようだ。
(おかしいわ、だれもいないなんて)
(お茶会は終わったということですかね?)
三人は思い切ってサロンに近づき、中の様子を覗き見たが、やはり誰もいない。
円卓の近くまで歩み寄ったときに、目端の利くユナがテーブルの脚にごく小さな陶器の破片を見つけた。
かがんで破片を拾った際に、変わった香りがうっすらと香った気がした。
「これ…、カップの破片でしょうか」
「…そうかもしれないわね」
「え…カップが割れた?」
三人は破片を覗き込みながら、黙り込んだ。
カップが割れるどんな事件がここで起きたのか?
三人は背後に人が近づいていることに全く気が付いていなかった。
「あなたたち、ここで何をしているのですか!」
それはヴァンダーウォール家のメイド長であった。
三人はびくっとし、慌てて姿勢を正す。
「アリステルお嬢様をお迎えに来ました」
アンナが答えると、メイド長はもともとキツイ目をさらにキッと吊り上げた。
「ここにはアリステルお嬢様はいらっしゃいません!」
「そんなはずありません。奥様に呼ばれてサロンに行かれたのです」
「何を言っているのです。アリステルお嬢様は来ていません。なぜ奥様に呼ばれるのです」
「お茶会のお誘いをいただきました」
「馬鹿なことを言っていないで仕事に戻りなさい」
「本当なんです。奥様に呼ばれてお茶会へ行った後、アリステルお嬢様がお戻りになりません」
メイド長は大きなため息をつき、首を振りながら三人を見やった。
「またアリステルお嬢様のわがままですか?大方、奥様に呼ばれたとウソをついて、屋敷を抜け出して遊びまわっているのでしょう」
「ち、ちがいます!アリステルお嬢様はそんなことしません!」
「そうです、本当に奥様に呼ばれたのです!」
「お黙りなさい!あなたたちにも罰を与えますよ!」
言い合いになったところに、侍女を背後に付き従わせたエヴァがやってきた。
「何を騒いでいるのです」
「奥様!申し訳ございません。お騒がせ致しました。この者たちがアリステルお嬢様が奥様とのお茶会から戻らないとウソを申しておりまして」
エヴァはわざとらしく驚いた顔を作って見せた。
「何を言っているの、あなたたち。アリステルは私が誘ったお茶会に来なかったではありませんか。私の顔も見たくないからと、体調が悪いなどとウソまでついて」
すると、エヴァの後ろにいた侍女たちが騒ぐ。
「使用人も主に似てウソをつくようね」
「本当にアリステルお嬢様のわがままには困りましたわね」
「奥様がこんなに心を砕いて接していると言うのに」
エヴァの顔が意地悪く歪んだ。
「それで?アリステルがいなくなったと言うの?間違いなく?」
「はい、アリステルお嬢様は別棟におりません。こちらの本邸にいるはずです」
「あら、そう。ではくまなくお探しなさいな。見つからなかったときは、あなたたちがウソの報告をしたということになりますわ。そのご覚悟はあって?」
三人は一瞬目を見合わせてから頷き、本邸を探す許可を得た。
しかし探せども、アリステルは見つからない。
(マズイことになったわ。このままアリステルお嬢様が見つからなかったら…)
アンネは焦りながら、必死に探して回ったが、どうやらもう屋敷にはアリステルはいないようだった。
「これでわかったでしょう。アリステルはこちらへは来ていないの。勝手に家を出て行ったのではなくて?だとしたら、あなたたちの責任はとても重いわ。家出を見逃すなどあってはならないこと。責任を取って今すぐ、この屋敷から出て行きなさい!」
「「「そんな…!」」」」
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ユナが声を掛けると、ようやくアンネは衝撃から立ち直った。
「二人とも、ケガはない?とんでもないことになったわね」
「アリステルお嬢様は、どうなったのでしょう?」
アンネは首を振った。
「わからない…。でもきっと碌な目に合っていないわ」
ユナもマツリも、神妙な顔をして頷く。
「もうここで働けないのね」
「そうね。運が悪かったわ」
「これからどうしたら‥‥」
その時、屋敷の陰からこっそり一人のメイドが出てきた。
アンネの友人サラである。
「アンネ、大変なことになったわね」
「ええ、困ったわ」
「全部は無理だったけど、あなたたちの荷物を持って来たわ」
サラは三人にそれぞれ荷物を渡した。
「ありがとう。助かったわ」
「これからどうするの?」
「もうここにはいられないから、町で仕事を探すわ」
「そう…。元気でね。気を付けてね!」
「サラも元気で!ありがとう!」
サラは別れを告げると、そそくさと屋敷に入って行った。
「アンネさん、私も一緒に仕事探しをします。付いて行っていいですか?」
ユナが言った。
「ええ、もちろんよ。一緒なら心強いわね。マツリ、あなたはどうする?」
「私は故郷に帰ろうと思います。こちらはやはり肌に合いません」
「そっか。でも今日は一緒に宿に泊まりましょう。旅の準備が必要よ」
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