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第2話 お茶会の誘い①
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ある日のこと。
本邸のメイドが、エヴァからの伝言を運んできた。
「本日の午後のお茶会に、アリステルお嬢様もご出席ください」
アリステル付きのメイドたちは顔を見合わせ、コソコソと話し合う。
(そんなことある?)
(絶対おかしいですよ!何かたくらんでます!)
(私もそう思います!)
(一応、アリステルお嬢様に知らせてみましょう)
((はい!))
「お嬢様にご予定をうかがってきますので、お待ちください」
アンネはそう答え、アリステルの部屋へと伝えに行った。
「アリステルお嬢様、奥様から本日午後のお茶会へのお誘いがありました」
「…え?」
アリステルは目を丸くして驚いた。
「お継母様からのお誘い?」
「ええ、どうなさいますか?」
「…お断りできるかしら」
5年も冷遇されているエヴァのお茶会など、行きたいわけがない。
(今さら、一体何のつもりかしら?)
「では、体調がすぐれないとお応えいたします」
「ええ、そうしてちょうだい」
「かしこまりました」
アンネが本邸のメイドにそのように伝えると、メイドはすぐに戻って行ったが、すぐさまエヴァ本人が不機嫌を隠しもせず、別棟にやってきた。
「アリス!出ていらっしゃい!アリステル!」
別棟の玄関先で、大声でアリステルを呼びつける。
まったくの無作法である。
「お嬢様は体調不良で臥せっておられます。ご用件でしたら私がお伝えいたします」
アンネが勇気を振り絞ってエヴァに言うと、エヴァは持っていた扇子でぴしゃりとアンネの頬を打った。
「ひっ!」
「アンネさん!大丈夫ですか?!」
ユナとマツリが真っ青な顔でアンネに駆け寄る。
「メイド風情がお黙りなさい!」
その時、アリステルが階段をできるだけ早く駆け下りて、アンネとエヴァの間に立ちふさがった。
「お継母様、わたくしのメイドに暴力はおやめください」
「躾のなっていないメイドに注意しただけよ。それに、わたくしのメイド、ですって?冗談はやめてちょうだい。ここのメイドはすべて女主人である私が雇い管理しているの。そこのところ、勘違いしないように」
「・・・」
「アリステル、あなた、私の誘いを断ったそうね。体調不良などとウソをついて。どこが体調不良ですって?そんなに継母の私が憎いのね?」
「いえ、憎いだなんて…」
「憎まれても仕方ありません。あなたには冷たく当たってしまって、悪かったと思っているのよ。ミネルヴァを産んで私も気が立っていたのだと思うの。アリステル、あなたもいつか母となれば、子を持つ母親の気持ちがわかるようになるわ」
いつか読んだ動物学の本に、出産後の母親は子を守るため攻撃的になると書いてあったことをアリステルは思い出した。
エヴァもそうだったのだろうか。だからと言って、長い間冷遇されていたことを簡単に許せるとも思えなかった。
アリステルが何も答えないのを、どう解釈したのか、エヴァはにっこりとほほ笑んだ。
「ミネルヴァもだいぶ大きくなったのよ。姉としてあなたにもミネルヴァをかわいがって欲しいの。アリステルあなたは立派な淑女だわ。ミネルヴァの良き手本となってくれるはず。ね、私たち仲直りをしましょう。いいわね?仲直りの印として、午後のお茶会に出席なさい」
結局、有無を言わさず押し付けてこようとする。
半分血のつながった妹に少しの興味はあった。
ほとんど別棟から出ないアリステルはミネルヴァを見かけることはなかった。
自分や兄と同じように、ブロンドの髪をしているのだろうか。
瞳の色は何色なんだろう。もうすぐ6歳になるのか。
しかし、今さら妹に愛着を持てるかわからなかったし、仲良くできるとも思わなかった。
そこまでのお人好しではないのだ。
抵抗しても無駄なことはアリステルも承知しているが、急に仲直りを提案するなど絶対におかしい、信用してはダメだと、だれしも思うことだろう。
頑なに返事をしないアリステルに、エヴァは優しい声音を作ってさらに話しかける。
「それに、そう、近いうちにハリーも帰ってくるわ」
「…お兄様が帰って来るの?」
「ええ、そうよ。ハリーが帰る前に、あなたとミネルヴァが仲良くなっていてくれたら、素敵でしょう?」
それでアリステルは、少し納得がいった。
何も知らないハリソンが帰宅する前に、アリステルとの関係を改善しなくては拙いのだろう。
「わかりましたわ。そのご招待をお受けいたしますわ」
承諾すれば、エヴァはとりあえず満足したようで、初めからそう言えばいいのよ、と口の中で呟きながら本邸へ戻って行った。
本邸のメイドたちは、急に別棟がにぎやかになって、何事かと様子をうかがっていた。
通りがかったアンネを捕まえて、かつては一緒に本邸で仕事をしていた仲間のサラが聞いた。
「ずいぶん忙しそうね!何かあったの?」
「奥様からお茶会のお誘いがあったのよ!アリス様のお支度をしないといけないから、急いでいるの!」
「ええええ?奥様とアリステル様がお茶会?」
「信じられないかもしれないけど、本当なのよ。5年もお嬢様のことを放っておいたくせに、急に呼び出すなんておかしいわよね。とにかく急いでいるの、またね!」
「うん、またね!頑張って!」
アンネを見送ってから、サラは首をひねった。
「でも、おかしいわね。私たちにはお茶会の準備が命じられていないのに?侍女たちだけで準備しているのかしら?」
疑問には思ったものの、まぁ別に自分には関係がないか、と深く考えることはなかった。
本邸のメイドが、エヴァからの伝言を運んできた。
「本日の午後のお茶会に、アリステルお嬢様もご出席ください」
アリステル付きのメイドたちは顔を見合わせ、コソコソと話し合う。
(そんなことある?)
(絶対おかしいですよ!何かたくらんでます!)
(私もそう思います!)
(一応、アリステルお嬢様に知らせてみましょう)
((はい!))
「お嬢様にご予定をうかがってきますので、お待ちください」
アンネはそう答え、アリステルの部屋へと伝えに行った。
「アリステルお嬢様、奥様から本日午後のお茶会へのお誘いがありました」
「…え?」
アリステルは目を丸くして驚いた。
「お継母様からのお誘い?」
「ええ、どうなさいますか?」
「…お断りできるかしら」
5年も冷遇されているエヴァのお茶会など、行きたいわけがない。
(今さら、一体何のつもりかしら?)
「では、体調がすぐれないとお応えいたします」
「ええ、そうしてちょうだい」
「かしこまりました」
アンネが本邸のメイドにそのように伝えると、メイドはすぐに戻って行ったが、すぐさまエヴァ本人が不機嫌を隠しもせず、別棟にやってきた。
「アリス!出ていらっしゃい!アリステル!」
別棟の玄関先で、大声でアリステルを呼びつける。
まったくの無作法である。
「お嬢様は体調不良で臥せっておられます。ご用件でしたら私がお伝えいたします」
アンネが勇気を振り絞ってエヴァに言うと、エヴァは持っていた扇子でぴしゃりとアンネの頬を打った。
「ひっ!」
「アンネさん!大丈夫ですか?!」
ユナとマツリが真っ青な顔でアンネに駆け寄る。
「メイド風情がお黙りなさい!」
その時、アリステルが階段をできるだけ早く駆け下りて、アンネとエヴァの間に立ちふさがった。
「お継母様、わたくしのメイドに暴力はおやめください」
「躾のなっていないメイドに注意しただけよ。それに、わたくしのメイド、ですって?冗談はやめてちょうだい。ここのメイドはすべて女主人である私が雇い管理しているの。そこのところ、勘違いしないように」
「・・・」
「アリステル、あなた、私の誘いを断ったそうね。体調不良などとウソをついて。どこが体調不良ですって?そんなに継母の私が憎いのね?」
「いえ、憎いだなんて…」
「憎まれても仕方ありません。あなたには冷たく当たってしまって、悪かったと思っているのよ。ミネルヴァを産んで私も気が立っていたのだと思うの。アリステル、あなたもいつか母となれば、子を持つ母親の気持ちがわかるようになるわ」
いつか読んだ動物学の本に、出産後の母親は子を守るため攻撃的になると書いてあったことをアリステルは思い出した。
エヴァもそうだったのだろうか。だからと言って、長い間冷遇されていたことを簡単に許せるとも思えなかった。
アリステルが何も答えないのを、どう解釈したのか、エヴァはにっこりとほほ笑んだ。
「ミネルヴァもだいぶ大きくなったのよ。姉としてあなたにもミネルヴァをかわいがって欲しいの。アリステルあなたは立派な淑女だわ。ミネルヴァの良き手本となってくれるはず。ね、私たち仲直りをしましょう。いいわね?仲直りの印として、午後のお茶会に出席なさい」
結局、有無を言わさず押し付けてこようとする。
半分血のつながった妹に少しの興味はあった。
ほとんど別棟から出ないアリステルはミネルヴァを見かけることはなかった。
自分や兄と同じように、ブロンドの髪をしているのだろうか。
瞳の色は何色なんだろう。もうすぐ6歳になるのか。
しかし、今さら妹に愛着を持てるかわからなかったし、仲良くできるとも思わなかった。
そこまでのお人好しではないのだ。
抵抗しても無駄なことはアリステルも承知しているが、急に仲直りを提案するなど絶対におかしい、信用してはダメだと、だれしも思うことだろう。
頑なに返事をしないアリステルに、エヴァは優しい声音を作ってさらに話しかける。
「それに、そう、近いうちにハリーも帰ってくるわ」
「…お兄様が帰って来るの?」
「ええ、そうよ。ハリーが帰る前に、あなたとミネルヴァが仲良くなっていてくれたら、素敵でしょう?」
それでアリステルは、少し納得がいった。
何も知らないハリソンが帰宅する前に、アリステルとの関係を改善しなくては拙いのだろう。
「わかりましたわ。そのご招待をお受けいたしますわ」
承諾すれば、エヴァはとりあえず満足したようで、初めからそう言えばいいのよ、と口の中で呟きながら本邸へ戻って行った。
本邸のメイドたちは、急に別棟がにぎやかになって、何事かと様子をうかがっていた。
通りがかったアンネを捕まえて、かつては一緒に本邸で仕事をしていた仲間のサラが聞いた。
「ずいぶん忙しそうね!何かあったの?」
「奥様からお茶会のお誘いがあったのよ!アリス様のお支度をしないといけないから、急いでいるの!」
「ええええ?奥様とアリステル様がお茶会?」
「信じられないかもしれないけど、本当なのよ。5年もお嬢様のことを放っておいたくせに、急に呼び出すなんておかしいわよね。とにかく急いでいるの、またね!」
「うん、またね!頑張って!」
アンネを見送ってから、サラは首をひねった。
「でも、おかしいわね。私たちにはお茶会の準備が命じられていないのに?侍女たちだけで準備しているのかしら?」
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