不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん

文字の大きさ
48 / 61

第47話 無言の駆け引き

しおりを挟む
(あ、こっち見てる)

 室内にいるサラもミハイルの視線を気にしていた。
 号泣してはチロッと見て、おにぎりを口に運んではチロッと見てを繰り返す。
 ウッドデッキのブランコに乗っている王子さまの姿はシュールだ。

(悪いヤツではないのかもしれないな)

 掃き出し窓の外でブランコに座り、ジト目でこちらを睨むようにして見ている王子さまは、体温を持った実在の人物。
 ここは物語の世界ではない。
 長所もあれば短所もある。

(でもさー。こう……わたしに対するあの扱いは無いんじゃない? あれはなー。すぐに許すのはどうなの? だってさー。沙羅の人生だってしんどかったのにさー)

 世界の命運がかかるようなモノではなかったとはいえ、なかなかにエグイ人生ではなかっただろうか。
 大変シンドイ人生であったという自負がサラにはある。
 おにぎりを食べ終わったサラは、1人コクコクと頷いた。

『ねぇ、サラ。許してあげれば?』

 サラのツルツルホッペを肉球でポフポフとパフをはたくように撫でながらクロが言った。

『そうだよ、サラ。朝ご飯も終わったことだし、許してあげようよ』

 サラの座椅子となっているピカードも、王子との和解をすすめてくる。
 
(ニンゲンをダメにするクッションも、黒いモフモフも優しいなぁ~。聖獣だからかなぁ~)

 サラはピカードの腹に頭をポーンポーンと当てながら考える。

 聖獣たちは、モフモフの腹で遊んでいるサラと、ウッドデッキのブランコで揺れている王子を、キョロキョロと見比べていた。

(んー。でもサラは3歳児だけど、前世は29歳の乙女だしぃ~。ここはちょっと大人になっておく?)

 サラはチロンとウッドデッキの方へと視線をやった。
 王子さまはブランコに乗ってウッドデッキを見つめている。

(王子さまだって、お腹は空くよね?)

 サラは無限収納庫からこじゃれたお盆を取り出し、そのうえに食事を適当に載せた。

(好み分からんけど、こんなもんでいっか)

 そのお盆を小さな両手で持つと、ヨチヨチとした足取りでウッドデッキへと向かった。
 クロがサッと掃き出し窓を開けてくれたので、そのまま外に出る。
 ミハイルは無言のままジッとサラの方を見ていた。
 サラも無言のまま手に持ったお盆ごと、ウッドデッキにある小さな机の上へと置いた。
 ジッとミハイルを見るサラ。
 ジッとサラを見るミハイル。

 サラは後ずさりするようにして掃き出し窓へと戻ると、サッと室内に入った。
 ミハイルはジト目でサラを見ていたが、やがて正面に顔を戻してウッドデッキへと視線をおとした。

(食べないんかいっ。出されたものに手を付けないのは印象が悪いんだぞっ)

 サラは自分が持っていった食事の載ったお盆の行方を、聖獣たちに構われながら見守った。
 しかし王子が食事に手を付けることはなかった。
「せっせっせーのよいよいよい♪」は、手遊びを始めたあたりで、食事はお盆ごとパッと消えた。

(自動循環システム凄いな! ご飯残ってても時間が経つと勝手に片付けてくれるんだ。洗い物要らずで楽ちん。でも王子! 貴様の礼儀はなっとらんっ!)

 ぷんっとむくれたサラがミハイルを睨んだ。
 視線に気付いたミハイルが、ジト目でこちらを見た。

『ねぇ~、サラァ~? にらみ合っていても、話が進まないよ?』

 ピカードがゆっくりした口調で言いながら、サラの両脇に手を入れて膝の上でポンポンと遊ばせる。
 
『そうだよ、サラ。話を進めるにはね。話をするべきだと思うよ?』

 クロはサラを見上げ、右手を左の肉球でポンと叩き、左手を右の肉球でポンと叩きと交互にしながら言った。

「んっ」

 サラは不本意そうに頷く。

(確かに話をしないと話は進まないな?)

 サラはピカードの腹から下りると、無限収納庫をがさごそとあさり、こじゃれたお盆に昼食ならこんなもんかセットを載せると、ウッドデッキへと向かった。
 前と同じように、ブランコ前にある机の上にこじゃれたお盆を置く。
 サラがジッとミハイルを見ると、彼もまた無言のままジッとサラの方を見る。

(なんも言うことはないのかぁ~いっ!)

 サラは心の中で突っ込むと、ミハイルの目を見たままジリジリと後ずさって部屋の中へと戻った。

『話、進まないね』
『そうね。アレでは進まないわね』

 クロが言うとシローネも呆れたように口を開いた。
 他の聖獣たちもウンウンと頷いている。

「でもさー。あの流れだったら、王子さまから声をかけてくるべきじゃない?」

 サラの言葉に聖獣たちは思案顔だ。
 クロが思考を巡らせるように右上を眺めながら口を開いた。

『ボクたちから話しかけてもいいけど……ニンゲンの問題はニンゲン同士から始めるべきじゃない?』
『そうだよねぇ~。このなかでニンゲンはサラだけだもんねぇ~』

 ピカードが間延びした呑気な声でいうのを聞きながら(それってこの状態を作っている原因はわたしってこと?)と思ったサラの目がキッと釣り上がって頭上を睨む。
 ピカードがブルッと震えたが、それはサラの座っている座椅子にマッサージ機能が追加されたとの同じだ。
 ほどよくほぐされたサラの表情は穏やかになった。

『ここは、アナタがオトナになって話しかけてあげなさいよ。実際、中身は大人なんだし』
「ウッ」

 シローネが言うことももっともである。

『話をするなら早くしたほうがいい』

 バーンズがアゴで外を示した。
 他の者が一斉にそちらへ顔を向けると、夕方でもないのに空が綺麗な赤で染まっていた。

(仕方ないっ。ここは負けて勝つところ!)

 サラは跳ねるようにして立ち上がり、トトトッとウッドデッキの方へ走っていくと掃き出し窓をバンッと音を立ててあけた。
 驚いたように顔を上げた王子に向かって、サラは無言のまま右腕を真っ直ぐに伸ばして赤く染まった空をピッと指さした。
 ミハイルはムッとした表情を浮かべて指さされた方へ顔を向ける。

「あっ!」

 小さく声を上げたミハイルは青ざめながら息を呑む。
 一瞬固まった王子さまは、突然ガッと勢いよくサラを振り返った。
 縋るような表情を浮かべたミハイルに向かって、口元を真一文字に引き結んだサラはコクリと1回頷く。
 和解が成立した瞬間である。

 こうしてサラは聖獣を従えて王都へ向かうことになった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...