神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

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「他国からオオカミを連れて来るという案が持ち上がれば、必ず反対派が出るはずだ。イエローストーン国立公園でオオカミが再導入される時も地元の牧場主たちが飼育している家畜が襲われると主張して強く反発し、オオカミの導入策に対して強硬に反対し続けた」

「確かに野山を逃げ回る野生の鹿より、放牧されている家畜の方がオオカミは狙いやすい……。畜産業を営んでいる牧場主にとって商品である家畜の牛や豚、鶏をオオカミに食べられてしまうことは死活問題よね」

「それに童話や映画などの影響で『オオカミは人間を襲う』という先入観を持っている者は多い。実際は警戒心が強い野生のオオカミが人里に降りて来て、人間を襲うことはまず無いんだがな」

「そうなんだ……。でも、確かに言われてみればオオカミは人間を襲うイメージもあるから、オオカミを怖がる人の気持ちも分かるわ」

「仮に海外から日本にオオカミが来れば、海外に生息している大型の鹿よりも日本の鹿は体長が小さい。日本で最大の鹿であるエゾ鹿は大きい物で約1.8m、重い個体でも170kgほどだが、アメリカ赤鹿は全長が2.4mで体重にいたっては300kgを超える個体もいる」

「えっ、アメリカ赤鹿って、そんなに大きいの!?」

 大型の草食動物だと言われて漠然と捉えていたが、具体的な数字を聞くと想像以上に大きくて唖然としてしまう。

「ああ。そういう巨大なアメリカ赤鹿に比べれば、日本のエゾ鹿あたりはオオカミがエサとして狙いやすいサイズだろうし、エゾ鹿は大繁殖しているからオオカミの主食になるには持ってこいのはずだ。つまり食料となる鹿に不足しない環境なら、少なくともオオカミがエサを求めて人間の生活圏内に近づく可能性は低いはずなんだ」

「オオカミだって、危険を冒して人間に近づくなんてリスクがある行動は避けたいはずだから、エサである鹿さえ充分にあるなら森の中で暮らしていくはずよね……」

「それでも、不用意にオオカミの縄張りである山林に入った人間が襲われる可能性はゼロではない。特に繁殖期は幼い個体を守るために巣穴に近づく者に対して警戒心が強くなっているだろうからな。そういう可能性が少しでもあることを考慮すると反対派はより強硬になるはずだ」

「そうね。クマやイノシシですら持て余してるのに、肉食のオオカミを導入するとなると反発する人は出るわよね……」

「ああ。それにオオカミを再導入したことで万が一、人的被害が出た場合に責任を追及されるのを恐れて国や役所も、そう簡単にオオカミの再導入に踏み切る覚悟を持つことはできないだろう」

「そんな……」
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