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フィネラという女
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昼下がりのターレンバラ家。
屋敷の中ではメイドたちが、室内の掃除をしている中、主人であるメアリーは庭で友人と過ごしていた。
白色のガーデンテーブルを囲むのは、メアリーとグリンダである。
小さなテーブルの真ん中には、サンドイッチや、スコーン、ケーキが乗ったアフタヌーンティーセットが置かれていたが、残念ながらメアリーとグリンダの口に運ばれることは無かった。
なぜならば二人ともポーカーに熱中しているせいで、アフタヌーンティーの存在を完全に忘れていたからである。
「あー、また負けた。メアリー、貴方イカサマなんてしていませんよね?」
「イカサマなんてしてないわよ。ポーカーは確率を計算して、常にベストを尽くせば勝てるゲームだもの」
「それ、本気で言ってます?」
ゲームが終わり、得意げな表情でカードを片付けるメアリーを、グリンダは呆れた様な目で見つめていた。
「私はやっぱりメアリーが羨ましいです。細いウエスト。化粧が要らない美顔だけではなく、明晰な頭脳まで持ち合わせているなんて」
「貴方が思っているほど私はすごくないわ。それにしても友人とカードゲームだなんて久しぶりだわ。今日は私の屋敷まで来てくれてありがとう。グリンダ」
「メアリーは普段、友人とは過ごさないのですか?」
「サロンには時々、参加していたけれど、友人と過ごすことより人脈作りが優先だったから。こうやって友人と世間話をしながら茶を飲む時間なんて無かったのよ」
そう、今まではフィネラのためにサロンで情報を集めたり、逆に排除対象の悪い噂を流したりしていた。
友人を選ぶ自由すら、私には無かったのだ。
「そうだ、メアリー。今度、また男装をして舞踏会に参加して下さい。最近、しつこく贈り物をしてくる殿方がいて、無視しているの。だけど、裏では『彼女は俺に惚れているのに照れ無視している』とか言っているみたい」
飛んだ勘違い男ね。
「残念だけど私は変装の達人ではないから、いつかバレるわ。それと、『ターレンバラの令嬢は男装が趣味』だとか噂されたら困るからね」
「そっか……」
分かりやすく落ち込むグリンダ。
なんだか可哀想になってきたので、また別に勘違い男を撃退する方法を考えておくことにする。
ふふっ、友人と過ごすというのも悪くないわね。頼られるのも悪くない。
なにより、グリンダと関係を築いたことにより、情報を得る手段が増えた。
「そうだ、メアリーに頼まれてていた通り、フィネラ叔母様についてお父様に聞いておいたわ」
グリンダは紅茶のカップに口をつけようとした途端、はっと何かに気づいたように目を見開いた。
「あら、ありがとう。なにか分かった?」
「それがね……ほとんど情報が得られなかったの」
申し訳なさそうに肩をすくめるグリンダを、メアリーは安心させるように笑顔を見せた。
「大丈夫よ。分かったことだけでも教えてちょうだい」
「うん。まずね……お父様にフィネラ叔母様についてお聞きしたら『なにも知らない』と答えたのよ。お母様に至っては『貴方は何も知らなくていいの』なんて言い出して……」
ラングスレッタ家はフィネラについてなにか隠したいことがあるのね。
「それで使用人にも聞いてみたんだけど、執事いわくフィネラ叔母様とお父様は血が繋がっていないそうですよ」
「つまり私のお義母様――フィネラはラングスレッタ家の養子?」
「その通りです。どこの家から引き取られたのかは執事を含め、誰も知りませんでした」
「なるほど。つまり、お義母様の出生は完全に不明か……」
やっと有効な手がかりが掴めたと思ったのに。振り出しに戻された気分である。
「次は、そうね……」
グリンダに次の指示を出そうとした瞬間――メアリーは、庭園の中に人が入ってきたことに気づく。
「この話はまた後にしましょう。どうやら本人が来たみたいだから」
庭園の奥深く。メアリーとグリンダが過ごしているスペースに向かって歩く人影。
一切の日焼けがない白い肌に、ビスクドールのように整った顔。長い金髪と虹色の瞳は、太陽よりも眩しく輝いている。
フィネラだ。
いつも通り優雅に歩くフィネラであったが、彼女の後ろに居る使用人の数が前日よりも減っていた。
――なにか、あったのかしら?
嫌な予感がする。
屋敷の中ではメイドたちが、室内の掃除をしている中、主人であるメアリーは庭で友人と過ごしていた。
白色のガーデンテーブルを囲むのは、メアリーとグリンダである。
小さなテーブルの真ん中には、サンドイッチや、スコーン、ケーキが乗ったアフタヌーンティーセットが置かれていたが、残念ながらメアリーとグリンダの口に運ばれることは無かった。
なぜならば二人ともポーカーに熱中しているせいで、アフタヌーンティーの存在を完全に忘れていたからである。
「あー、また負けた。メアリー、貴方イカサマなんてしていませんよね?」
「イカサマなんてしてないわよ。ポーカーは確率を計算して、常にベストを尽くせば勝てるゲームだもの」
「それ、本気で言ってます?」
ゲームが終わり、得意げな表情でカードを片付けるメアリーを、グリンダは呆れた様な目で見つめていた。
「私はやっぱりメアリーが羨ましいです。細いウエスト。化粧が要らない美顔だけではなく、明晰な頭脳まで持ち合わせているなんて」
「貴方が思っているほど私はすごくないわ。それにしても友人とカードゲームだなんて久しぶりだわ。今日は私の屋敷まで来てくれてありがとう。グリンダ」
「メアリーは普段、友人とは過ごさないのですか?」
「サロンには時々、参加していたけれど、友人と過ごすことより人脈作りが優先だったから。こうやって友人と世間話をしながら茶を飲む時間なんて無かったのよ」
そう、今まではフィネラのためにサロンで情報を集めたり、逆に排除対象の悪い噂を流したりしていた。
友人を選ぶ自由すら、私には無かったのだ。
「そうだ、メアリー。今度、また男装をして舞踏会に参加して下さい。最近、しつこく贈り物をしてくる殿方がいて、無視しているの。だけど、裏では『彼女は俺に惚れているのに照れ無視している』とか言っているみたい」
飛んだ勘違い男ね。
「残念だけど私は変装の達人ではないから、いつかバレるわ。それと、『ターレンバラの令嬢は男装が趣味』だとか噂されたら困るからね」
「そっか……」
分かりやすく落ち込むグリンダ。
なんだか可哀想になってきたので、また別に勘違い男を撃退する方法を考えておくことにする。
ふふっ、友人と過ごすというのも悪くないわね。頼られるのも悪くない。
なにより、グリンダと関係を築いたことにより、情報を得る手段が増えた。
「そうだ、メアリーに頼まれてていた通り、フィネラ叔母様についてお父様に聞いておいたわ」
グリンダは紅茶のカップに口をつけようとした途端、はっと何かに気づいたように目を見開いた。
「あら、ありがとう。なにか分かった?」
「それがね……ほとんど情報が得られなかったの」
申し訳なさそうに肩をすくめるグリンダを、メアリーは安心させるように笑顔を見せた。
「大丈夫よ。分かったことだけでも教えてちょうだい」
「うん。まずね……お父様にフィネラ叔母様についてお聞きしたら『なにも知らない』と答えたのよ。お母様に至っては『貴方は何も知らなくていいの』なんて言い出して……」
ラングスレッタ家はフィネラについてなにか隠したいことがあるのね。
「それで使用人にも聞いてみたんだけど、執事いわくフィネラ叔母様とお父様は血が繋がっていないそうですよ」
「つまり私のお義母様――フィネラはラングスレッタ家の養子?」
「その通りです。どこの家から引き取られたのかは執事を含め、誰も知りませんでした」
「なるほど。つまり、お義母様の出生は完全に不明か……」
やっと有効な手がかりが掴めたと思ったのに。振り出しに戻された気分である。
「次は、そうね……」
グリンダに次の指示を出そうとした瞬間――メアリーは、庭園の中に人が入ってきたことに気づく。
「この話はまた後にしましょう。どうやら本人が来たみたいだから」
庭園の奥深く。メアリーとグリンダが過ごしているスペースに向かって歩く人影。
一切の日焼けがない白い肌に、ビスクドールのように整った顔。長い金髪と虹色の瞳は、太陽よりも眩しく輝いている。
フィネラだ。
いつも通り優雅に歩くフィネラであったが、彼女の後ろに居る使用人の数が前日よりも減っていた。
――なにか、あったのかしら?
嫌な予感がする。
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