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悪者は最初から袋のネズミ
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「くそっ、意味分かんねぇ。この炎は術者である俺たちは無害であるはずなのに……」
「ふふっ、哀れなことね。術者が貴方たちだと錯覚しているだなんて」
「はぁ、そんな訳ないだろ!」
血眼で叫ぶ男の様子を見ながら、メアリーは少女と母親に逃げるよう視線を使って合図する。
「百貨店全体には魔法避けの結界が張ってある。俺たち以外のヤツが魔法を使えるはずがない」
「その結界とやらが初めから破壊されていたらどうかしら?」
「はぁ……なにを言って……?」
「貴方が、ご婦人と話す前から結界が破壊されて、他の魔道士に貼り直されていたらどうなるかしら、ねぇ?」
「まさか、結界の存在に気づいて、同じものを貼り直したのか?」
「貼り直したのは私ではなく他の方ですけどね。だから今、百貨店全体を焼いている炎が私や関係のない一般人を焼くことは、決してないわ」
男は舌打ちをしながら必死に炎避けの呪文を唱えていたが、効果は無くあっという間に黒ローブ全体が炎に包まれた。
「そんなに慌てなくとも警備隊の方がいらっしゃる頃には鎮火されていると思いますわ。では、ごきげんよう」
メアリーは最後、スカートの裾を掴んで、優雅にお辞儀をしながら男の前から去る。
最後、男はボソボソと何かを呟いていた。
口の動きから彼の言葉を予想する。
『銀髪の小娘め』
なによ、それが負け惜しみなの?
メアリーがため息をつくと、天井で揺れていたランプが、人の姿に変わりメギスが姿を現す。
「ティーカップじゃなくて、ランプに変身していたのね」
「商品と間違えられて買われたら困るからね」
「とにかく、貴方も無事で良かったわ。さっさと帰りましょう」
そそくさと百貨店の出口を目指すメアリーを、見たメギスは不安そうな表情を浮かべる。
「せっかくの休日が台無しになってしまったね」
メアリーはくるりと振り向いてから、曇り一つない満面の笑みを浮かべた。
「別に休日なら、また作ればいいのよ。また二人で出かけましょう」
「それもそうだねぇ」
メギスは、メアリーの視線が前方に戻った事を確認してから苦笑いした。
***
一日中、百貨店の中を歩き回ったせいでヘトヘトになったメアリーは買ってきた荷物を、使用人に預けてからメギスに微笑んだ。
「今日はありがとう。とても、楽しかったわ。貴方に払ってもらった代金は後日、使用人を通して返すわね」
「いや、僕が払いたくて払ったから気にしなくていいよ。実を言うと僕、ずっと研究室に引きこもってばっかりだから金の使い道がないんだよね」
「あら、申し訳ないけど私は借りは作らないことにしているの。返した金は研究費にでも当てなさい」
両手に手を当て、鋭い目つきで睨むメアリー。メギスは頭をかきながら苦笑いをする。
「それじゃあ、また明日な」
「えぇ、予言式でまた会いましょう」
メアリーが小さく上品に手を振ると、メギスが指を鳴らし姿を消した。
「これだけは絶対に忘れないでくれ。なにがあっても僕は君を見捨てないから」
なによ『それっぽいこと』言っちゃって。
それにても今日は本当に疲れたわね。
今夜は早く寝ましょう。
使用人に荷物を部屋に持っていくよう指示してから、屋敷のエントランスホールへと入る。
すると、二階の方から見慣れた男性が降りてきた。
「メアリー、遅かったな」
「あら、お兄様。お仕事お疲れ様です」
イセルである。
いつも通り無表情のまま話すイセルであったが、なぜか時々照れくさそうに目を逸らす。
「その……使用人から聞いたのだが、お前、見知らぬ男と出かけていたそうたな」
「”見知らぬ男”でありませんわ。彼は私の友人です」
「貴族ですらない庶民の男が友人? 笑わせてくれる」
「笑いたいなら好きなだけ笑ってちょうだい。私が、どこの誰と関係を持とうがお兄様には関係のない話ですから」
「それは違っ……」
立ち去ろうとするメアリーを、必死に止めようとするイセル。
「なにが違うと言うの?」
「いや、なんでもない……」
「ふふっ、哀れなことね。術者が貴方たちだと錯覚しているだなんて」
「はぁ、そんな訳ないだろ!」
血眼で叫ぶ男の様子を見ながら、メアリーは少女と母親に逃げるよう視線を使って合図する。
「百貨店全体には魔法避けの結界が張ってある。俺たち以外のヤツが魔法を使えるはずがない」
「その結界とやらが初めから破壊されていたらどうかしら?」
「はぁ……なにを言って……?」
「貴方が、ご婦人と話す前から結界が破壊されて、他の魔道士に貼り直されていたらどうなるかしら、ねぇ?」
「まさか、結界の存在に気づいて、同じものを貼り直したのか?」
「貼り直したのは私ではなく他の方ですけどね。だから今、百貨店全体を焼いている炎が私や関係のない一般人を焼くことは、決してないわ」
男は舌打ちをしながら必死に炎避けの呪文を唱えていたが、効果は無くあっという間に黒ローブ全体が炎に包まれた。
「そんなに慌てなくとも警備隊の方がいらっしゃる頃には鎮火されていると思いますわ。では、ごきげんよう」
メアリーは最後、スカートの裾を掴んで、優雅にお辞儀をしながら男の前から去る。
最後、男はボソボソと何かを呟いていた。
口の動きから彼の言葉を予想する。
『銀髪の小娘め』
なによ、それが負け惜しみなの?
メアリーがため息をつくと、天井で揺れていたランプが、人の姿に変わりメギスが姿を現す。
「ティーカップじゃなくて、ランプに変身していたのね」
「商品と間違えられて買われたら困るからね」
「とにかく、貴方も無事で良かったわ。さっさと帰りましょう」
そそくさと百貨店の出口を目指すメアリーを、見たメギスは不安そうな表情を浮かべる。
「せっかくの休日が台無しになってしまったね」
メアリーはくるりと振り向いてから、曇り一つない満面の笑みを浮かべた。
「別に休日なら、また作ればいいのよ。また二人で出かけましょう」
「それもそうだねぇ」
メギスは、メアリーの視線が前方に戻った事を確認してから苦笑いした。
***
一日中、百貨店の中を歩き回ったせいでヘトヘトになったメアリーは買ってきた荷物を、使用人に預けてからメギスに微笑んだ。
「今日はありがとう。とても、楽しかったわ。貴方に払ってもらった代金は後日、使用人を通して返すわね」
「いや、僕が払いたくて払ったから気にしなくていいよ。実を言うと僕、ずっと研究室に引きこもってばっかりだから金の使い道がないんだよね」
「あら、申し訳ないけど私は借りは作らないことにしているの。返した金は研究費にでも当てなさい」
両手に手を当て、鋭い目つきで睨むメアリー。メギスは頭をかきながら苦笑いをする。
「それじゃあ、また明日な」
「えぇ、予言式でまた会いましょう」
メアリーが小さく上品に手を振ると、メギスが指を鳴らし姿を消した。
「これだけは絶対に忘れないでくれ。なにがあっても僕は君を見捨てないから」
なによ『それっぽいこと』言っちゃって。
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「”見知らぬ男”でありませんわ。彼は私の友人です」
「貴族ですらない庶民の男が友人? 笑わせてくれる」
「笑いたいなら好きなだけ笑ってちょうだい。私が、どこの誰と関係を持とうがお兄様には関係のない話ですから」
「それは違っ……」
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「なにが違うと言うの?」
「いや、なんでもない……」
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