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解けない魔法をかけて
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「君の兄上は色々と気難しい人なんだね」
客間の席で、出された茶菓子を食べるメギス。彼からしてみれば急に呼び出された上に、次期伯爵に尋問されそうになるという最悪の状況であるはずだが、メギスは全く不快な感情を表に出さなかった。
「いつもは、あんなこと言わないんだけどね。お兄様はいつもお義母様や家督のことばっかり気にしていて……私のことなんて眼中に無いみたい」
「それ、もしかして回帰前の話かな?」
「え……?」
ティーカップを持ったメギスが、小さく首を傾げる。
「時間が戻る前はいつも私を見て見ぬふりをしていたお兄様が、今では色々と人間関係に口出しをしてくる……違うかな?」
「その通り……えぇ、全くその通りよ」
「つまり、回帰前と違って今の兄上は君を心配しているわけだ。良いじゃないか。仲間は多ければ多いほど良い」
「そう……なのかな?」
言われてみれば、時間が戻る前と比べてお兄様の私に対する態度は変わった。
以前、庭園でお兄様と交わした会話のおかげかしら?
原因がどうであれ仲間が増えることはいいことよ。たとえ、相手が私のことを、どう思っていようとも。
――違う。俺がお前を心配しているのは”家族”だからだ!
本当に家族だと思ってくれているなら、回帰前も助けてくれれば良かったのに。
「これから先、きっと君の味方は増え続けるだろうけど、くれぐれも僕のことは忘れないでくれよ?」
「それについては心配しなくていいわ。命を助けてくれた恩人を忘れるわけないでしょ?」
スコーンを割ろうとしていたイセルの手が止まった。
「えっと……私なにか気に触ること言った?」
「いいや、ちょっぴり嬉しくてね」
「ふぅん、そう」
「そんなことより、僕を呼び出した要件はなんだい?」
「それについてだけど……実はターレンバラ家が定期的に資金援助している教会の帳簿を手に入れたいの」
メギスの目が据わる。
「いちおう聞いておくけど、僕に教会の帳簿をコピーさせろとは言わないよね?」
まるで子供を叱るような声だ。
本人は不快な感情を表そうとしているつもりなのだろうが、彼の顔が美しいせいか全然怖いとは思わなかった。
「あら、バレちゃったみたいね。私が欲しいのは物をコピーする魔法と、物質変換魔法よ」
「以前も言ったけど、物質変換魔法はともかく単純なコピーは僕の苦手分野だよ。残念だけど君の役には立てない」
「やっぱり、そうよね。無理を言ってごめんなさい」
目を伏せるメアリー。
すると、メギスの柔らかい声が帰ってきた。
「いや、僕は力になれないけど君自身で解決することはできるだろう?」
メアリーの頬に細くて綺麗な指が触れようとする。顔を上げるとメギスがメアリーの頬に触れようとしていたが、ハッとした表情を浮かべて手を引っ込めた。
「君自身がコピー魔法を習得すればいいんだよ」
「私に魔法なんて使えるのかしら?」
魔道士の実力は生まれ持った魔力の量に依存しており、魔力の多さは基本的に遺伝で決まると言われている。
残念ながらメアリーの知る限り、ターレンバラ家に魔道士は居ない。
「それなら絶対に大丈夫だよ。保証する。君にも魔法は使えるはずだから気にする必要はない。もし魔法を学ぶ過程で分からないことがあったら、僕に手紙を送ってくれれば教えてあげる」
まだ本当に魔法が使えるのか分からないのに、どうして自信満々なのかしら?
「へぇー、まるで先生みたい」
「まるで、じゃなくて……本物の先生だよ」
薄々、魔道学院の重職に就いているだろうと思っていたけど、先生だったのね。
私と年齢はそこまで変わらないから、生徒の可能性が捨てきれなかったけど……。
この若さで教員に採用されている辺り、彼が天才だという話は本当みたい。
「それじゃあ、早速、魔力を使う練習をしてみよう。さぁ、目を閉じて」
メギスがメアリーの隣に移動する。
メアリーの方はというと、疑うような目でメギスを見てから目を閉じた。
「思考を止めて、全身を巡る魔力の流れを感じとって。あ、ちょって手に触れるね」
メギスの冷たい手が、右手に重なる。
「触れるなら始める前に言いなさいよ」と文句の一つや二つ言いたくなったが、今は大人しく”魔力の流れ”とやらに集中する。
何も考えないでいると、段々魔力の流れを感じ取れるようになってきた。
川がある。魔力が流れる血管のような川が全身を巡っている。
「魔力の流れが感じ取れるようになってきたわ……多分」
「おっけー、このまま次は『ルナ・ヴェスパー』と唱えて」
「……ルナ・ヴェスパー」
メアリーが呪文を唱え終わった途端、部屋中が一気に冷気で包まれる。
恐る恐る目を開けるとターレンバラ家が誇る、豪華な客間が氷漬けになっていた。
「なによ……これ……」
助けを求めて、メギスを見上げる。
メギスは苦笑しながらメアリーを見下ろしていた。
「僕が見習いの子に魔法を教える時は、魔力を放出する練習から始めるんだけど、君の場合は制御から勉強した方が良さそうだね」
「それって褒めてるの?」
「もちろん。この魔力量、たぶん魔道士の家系出身者と同等だね」
客間の席で、出された茶菓子を食べるメギス。彼からしてみれば急に呼び出された上に、次期伯爵に尋問されそうになるという最悪の状況であるはずだが、メギスは全く不快な感情を表に出さなかった。
「いつもは、あんなこと言わないんだけどね。お兄様はいつもお義母様や家督のことばっかり気にしていて……私のことなんて眼中に無いみたい」
「それ、もしかして回帰前の話かな?」
「え……?」
ティーカップを持ったメギスが、小さく首を傾げる。
「時間が戻る前はいつも私を見て見ぬふりをしていたお兄様が、今では色々と人間関係に口出しをしてくる……違うかな?」
「その通り……えぇ、全くその通りよ」
「つまり、回帰前と違って今の兄上は君を心配しているわけだ。良いじゃないか。仲間は多ければ多いほど良い」
「そう……なのかな?」
言われてみれば、時間が戻る前と比べてお兄様の私に対する態度は変わった。
以前、庭園でお兄様と交わした会話のおかげかしら?
原因がどうであれ仲間が増えることはいいことよ。たとえ、相手が私のことを、どう思っていようとも。
――違う。俺がお前を心配しているのは”家族”だからだ!
本当に家族だと思ってくれているなら、回帰前も助けてくれれば良かったのに。
「これから先、きっと君の味方は増え続けるだろうけど、くれぐれも僕のことは忘れないでくれよ?」
「それについては心配しなくていいわ。命を助けてくれた恩人を忘れるわけないでしょ?」
スコーンを割ろうとしていたイセルの手が止まった。
「えっと……私なにか気に触ること言った?」
「いいや、ちょっぴり嬉しくてね」
「ふぅん、そう」
「そんなことより、僕を呼び出した要件はなんだい?」
「それについてだけど……実はターレンバラ家が定期的に資金援助している教会の帳簿を手に入れたいの」
メギスの目が据わる。
「いちおう聞いておくけど、僕に教会の帳簿をコピーさせろとは言わないよね?」
まるで子供を叱るような声だ。
本人は不快な感情を表そうとしているつもりなのだろうが、彼の顔が美しいせいか全然怖いとは思わなかった。
「あら、バレちゃったみたいね。私が欲しいのは物をコピーする魔法と、物質変換魔法よ」
「以前も言ったけど、物質変換魔法はともかく単純なコピーは僕の苦手分野だよ。残念だけど君の役には立てない」
「やっぱり、そうよね。無理を言ってごめんなさい」
目を伏せるメアリー。
すると、メギスの柔らかい声が帰ってきた。
「いや、僕は力になれないけど君自身で解決することはできるだろう?」
メアリーの頬に細くて綺麗な指が触れようとする。顔を上げるとメギスがメアリーの頬に触れようとしていたが、ハッとした表情を浮かべて手を引っ込めた。
「君自身がコピー魔法を習得すればいいんだよ」
「私に魔法なんて使えるのかしら?」
魔道士の実力は生まれ持った魔力の量に依存しており、魔力の多さは基本的に遺伝で決まると言われている。
残念ながらメアリーの知る限り、ターレンバラ家に魔道士は居ない。
「それなら絶対に大丈夫だよ。保証する。君にも魔法は使えるはずだから気にする必要はない。もし魔法を学ぶ過程で分からないことがあったら、僕に手紙を送ってくれれば教えてあげる」
まだ本当に魔法が使えるのか分からないのに、どうして自信満々なのかしら?
「へぇー、まるで先生みたい」
「まるで、じゃなくて……本物の先生だよ」
薄々、魔道学院の重職に就いているだろうと思っていたけど、先生だったのね。
私と年齢はそこまで変わらないから、生徒の可能性が捨てきれなかったけど……。
この若さで教員に採用されている辺り、彼が天才だという話は本当みたい。
「それじゃあ、早速、魔力を使う練習をしてみよう。さぁ、目を閉じて」
メギスがメアリーの隣に移動する。
メアリーの方はというと、疑うような目でメギスを見てから目を閉じた。
「思考を止めて、全身を巡る魔力の流れを感じとって。あ、ちょって手に触れるね」
メギスの冷たい手が、右手に重なる。
「触れるなら始める前に言いなさいよ」と文句の一つや二つ言いたくなったが、今は大人しく”魔力の流れ”とやらに集中する。
何も考えないでいると、段々魔力の流れを感じ取れるようになってきた。
川がある。魔力が流れる血管のような川が全身を巡っている。
「魔力の流れが感じ取れるようになってきたわ……多分」
「おっけー、このまま次は『ルナ・ヴェスパー』と唱えて」
「……ルナ・ヴェスパー」
メアリーが呪文を唱え終わった途端、部屋中が一気に冷気で包まれる。
恐る恐る目を開けるとターレンバラ家が誇る、豪華な客間が氷漬けになっていた。
「なによ……これ……」
助けを求めて、メギスを見上げる。
メギスは苦笑しながらメアリーを見下ろしていた。
「僕が見習いの子に魔法を教える時は、魔力を放出する練習から始めるんだけど、君の場合は制御から勉強した方が良さそうだね」
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