25 / 65
疑惑
しおりを挟む
ターレンバラ家にメギスが来るようになってから一週間後。外出しようとしているメアリーを見つけたイセルは声をかけた。
「メアリー、今日はどこに行くつもりだ?」
「モルガナ教会よ」
「どうして、わざわざお前が教会に?」
「お父様からモルガナ教会への寄付がどのように使われているか確認してきて欲しいと頼まれたの」
「そうか……」
イセルは数秒間目を泳がせてから、ぽつりと答える。
「道端で躓かないようにな」
彼が色々と悩んだ末に、この言葉を選んだことは誰が見ても明白であった。
「なにそれ、私もう道端で転ぶことを心配されるような歳じゃないわ」
メアリーがクスクスと笑いながら、屋敷の外に出る。
「今まで色々と学んできたつもりだったが、妹の扱い方だけは未だに分からんな」
普通の兄というものがさっぱり分からん――。
イセルが目を細めながら小さな声で呟くと、執事の男がイセルに近づいてきた。
「坊ちゃん、奥様がお呼びです」
「そうか」
イセルは執事に向かって一言返事をしてから、すぐにフィネラの自室に向かった。
***
イセルがフィネラの部屋に入ると、甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐつた。
フィネラの机にラズベリーが乗った皿が、置かれているせいだ。
「急に呼び出しちゃってごめんなさいね、イセル」
「どのようなご用向きで?」
「貴方とメアリーのことについて話し合いたくて呼び出したの」
イセルの体が一瞬、ビクッと震える。
「兄の貴方から見て最近のメアリーはどう?」
「一言で表すなら……彼女は変わり果ててしまいました」
「そう、具体的に?」
フィネラはいつもと変わらぬ輝かしい微笑を浮かべていたが、明らかに声は冷徹であった。
「以前より反抗的な態度を示すことが多くなりました。単独行動も増えたと思います」
「そう、さすが次期当主。日頃から、ちゃんと妹の様子も見ているのね。偉いわ」
フィネラが両手を重ね合わさせてから頬に当て、義息子への褒めの言葉を述べる。
しかし、当の本人は硬い表情で床を見つめていた。
「あまりにも自分勝手な振る舞いが目立つので、一度注意しましたが聞き入れては貰えませんでした」
「あら、やっぱり。お義母様やお兄様の忠告を聞けなくなってしまっただなんて……一体どうしてしまったのかしら?」
「お義母様、お言葉ですがメアリーぐらいの年頃になると、親に対して反抗的になるのは珍しいことではないと思います」
「貴方の言いたいことも一理あるわ。だけどね……」
フィネラが机の上にあるフォークを掴んだ。
「今は緊急事態。陛下の方針で予言の内容は、なるべく内密にしてもらっているけど、現在国の上層部は魔女の存在に怯えているでしょうね」
フォークの先を、真っ直ぐラズベリーへと突き刺す。赤い汁が皿へと広がる様は、ギロチンでの処刑風景を連想させた。
「メアリーは魔女と一切関係ありません」
「私たちにとってはそうね。だけど人間は窮地に立たされた時が、一番正常な判断を失うわ。たとえば、銀髪の少女を魔女として無理やり処刑したりとか……」
「そんな未来、絶対に認めません。俺には家族として、あの子を守る義務が……理由がありますから」
「だったら尚更、メアリーを元の良い子に戻さないとね。イセル、あの子がおかしくなってしまった原因に心当たりはある?」
「……メギス。魔道学院から来た、あの魔道士です。アイツがターレンバラ家に来るようになったタイミングと、メアリーが反抗的になった次期が被っています」
「まぁ、そうなのね。だったら、メギスについて調べて貰えないかしら?」
「はい、分かりました」
「さっさと、邪魔な虫は踏み潰してしまわないとね」
「メアリー、今日はどこに行くつもりだ?」
「モルガナ教会よ」
「どうして、わざわざお前が教会に?」
「お父様からモルガナ教会への寄付がどのように使われているか確認してきて欲しいと頼まれたの」
「そうか……」
イセルは数秒間目を泳がせてから、ぽつりと答える。
「道端で躓かないようにな」
彼が色々と悩んだ末に、この言葉を選んだことは誰が見ても明白であった。
「なにそれ、私もう道端で転ぶことを心配されるような歳じゃないわ」
メアリーがクスクスと笑いながら、屋敷の外に出る。
「今まで色々と学んできたつもりだったが、妹の扱い方だけは未だに分からんな」
普通の兄というものがさっぱり分からん――。
イセルが目を細めながら小さな声で呟くと、執事の男がイセルに近づいてきた。
「坊ちゃん、奥様がお呼びです」
「そうか」
イセルは執事に向かって一言返事をしてから、すぐにフィネラの自室に向かった。
***
イセルがフィネラの部屋に入ると、甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐつた。
フィネラの机にラズベリーが乗った皿が、置かれているせいだ。
「急に呼び出しちゃってごめんなさいね、イセル」
「どのようなご用向きで?」
「貴方とメアリーのことについて話し合いたくて呼び出したの」
イセルの体が一瞬、ビクッと震える。
「兄の貴方から見て最近のメアリーはどう?」
「一言で表すなら……彼女は変わり果ててしまいました」
「そう、具体的に?」
フィネラはいつもと変わらぬ輝かしい微笑を浮かべていたが、明らかに声は冷徹であった。
「以前より反抗的な態度を示すことが多くなりました。単独行動も増えたと思います」
「そう、さすが次期当主。日頃から、ちゃんと妹の様子も見ているのね。偉いわ」
フィネラが両手を重ね合わさせてから頬に当て、義息子への褒めの言葉を述べる。
しかし、当の本人は硬い表情で床を見つめていた。
「あまりにも自分勝手な振る舞いが目立つので、一度注意しましたが聞き入れては貰えませんでした」
「あら、やっぱり。お義母様やお兄様の忠告を聞けなくなってしまっただなんて……一体どうしてしまったのかしら?」
「お義母様、お言葉ですがメアリーぐらいの年頃になると、親に対して反抗的になるのは珍しいことではないと思います」
「貴方の言いたいことも一理あるわ。だけどね……」
フィネラが机の上にあるフォークを掴んだ。
「今は緊急事態。陛下の方針で予言の内容は、なるべく内密にしてもらっているけど、現在国の上層部は魔女の存在に怯えているでしょうね」
フォークの先を、真っ直ぐラズベリーへと突き刺す。赤い汁が皿へと広がる様は、ギロチンでの処刑風景を連想させた。
「メアリーは魔女と一切関係ありません」
「私たちにとってはそうね。だけど人間は窮地に立たされた時が、一番正常な判断を失うわ。たとえば、銀髪の少女を魔女として無理やり処刑したりとか……」
「そんな未来、絶対に認めません。俺には家族として、あの子を守る義務が……理由がありますから」
「だったら尚更、メアリーを元の良い子に戻さないとね。イセル、あの子がおかしくなってしまった原因に心当たりはある?」
「……メギス。魔道学院から来た、あの魔道士です。アイツがターレンバラ家に来るようになったタイミングと、メアリーが反抗的になった次期が被っています」
「まぁ、そうなのね。だったら、メギスについて調べて貰えないかしら?」
「はい、分かりました」
「さっさと、邪魔な虫は踏み潰してしまわないとね」
10
あなたにおすすめの小説
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる