59 / 80
第7章 明莉
59 心の丈
しおりを挟む
「ただいま……です」
家に帰り、わたしはいつも以上に重たく感じる玄関扉を開きます。
結局、バスケットボールは華凛さんに取り上げられたのでした。
『ボールが欲しいなら家にあたしのあるから、ね?』
『この子じゃなきゃダメなんです』
『これ学校のだし、しかも部活で使うやつっ』
『……じっ』
『ダメだから、そんな目で見てもダメだからっ!』
という一幕があり、わたしは粘ってみましたが華凛さんの言ってることの方が正しいので無理強いすることが出来ませんでした。
華凛さんに事の真意は聞けないまま、体育館を後にするのでした。
「明ちゃん、おかえりなさい」
居間へ向かうと日和さんの姿がありました。
「はい、戻りました」
「あら、どうしました?そんなむくれた顔をなさって?」
日和さんはわたしの表情を見て、すぐにその変化に気付いたようでした。
「ちょっと……納得いかない事がありまして」
「あらあらまあまあ、何があったんですか。聞かせて頂けます?」
「はい、話します」
「うふふ、素直ですね」
そう言って日和さんはわたしをダイニングテーブルのチェアに座らせた後、キッチンへと足を運ぶのでした。
「あの、日和さん?」
「ちょっとお待ちになって下さいね」
言われるがまま待っていると、次第にキッチンの方から香ばしい香りが漂ってきます。
日和さんは湯気が立ち昇るマグカップと、お菓子を持ってきてくれるのでした。
「珈琲です。ちょっと一息つきませんか?」
「あ、ありがとうございます……」
マグカップに口をつけ熱いコーヒーを少しずつ流し込んでいくと、苦味のある味わいとモカの香りが鼻を抜けていきます。
続けてココアパウダーのかかったトリュフチョコレートを頂くと、口の中は甘味とコーヒーの苦味が合わさって、幸せな味を運んでくれます。
「美味しいです」
「良かったです」
目尻を細めて微笑む日和さんもマグカップに口をつけます。
その品のある仕草を見てしまうと、同じものをこうして一緒に頂いているのが恥ずかしくなってしまうくらいに画になっています。
「頬を膨らませている明ちゃんも可愛いですが、やっぱり幸せそうにしている明ちゃんが一番可愛いですからね」
そうして屈託のない笑顔を浮かべて、何の恥ずかしげもなく告げるのです。
「か、可愛いとか、やめて下さい。そんなことありませんっ」
「あら、わたしは思ったことを言っているだけですよ?」
こ、この人は……。
全く無自覚にそんなことを言うのですから困った人です。
わたしが可愛いだなんて何をどう勘違いしてもありえないのです。
「それで、何があったのですか?」
「あ、そうでしたっ」
日和さんの癒しオーラと、突然のドギマギ発言に本題が吹き飛びそうになっていました。
「えっとですね――」
――わたしは、冴月さんから始まり千夜さん、華凛さんとの間に起きた出来事を話していきました。
「……なるほど。誰も明瞭な答えを出してくれなかった、と」
「はい、そうなんです」
日和さんは相槌を打ちながら、わたしの話を静かに聞いて下さるのでした。
「でも、わたしは千夜ちゃんや華凛ちゃんよりは割と答えたつもりでしたけどねぇ?」
「えっと……」
「ほら、体育祭で」
それはハートで埋め尽くされたお弁当の話でしょうか。
『好き、と一口に言ってもその感情には色んな形がありますし。その解釈は明ちゃんにお任せします』
確かに、日和さんはその感情の一端を言葉にしていました。
「でも……日和さんもわたしのことをどう思っているかちゃんと言ってくれたわけじゃありませんよね?」
わたしに判断を委ねるような遊びの部分がありました。
曖昧な境界線はずっとそのままなのです。
「言ってもいいんですか?」
「え……」
日和さんは表情を変えることなく、あっさりと言い放ちます。
「明ちゃんには協調性ばかりでなく、自己主張の大切さも教わりましたけど。でも一方的に感情を押し付けるばかりでは相手に負担を掛けてしまう時もありますからね」
「わたしに配慮してって、ことですか……?」
「ええ、それに分かりやすくアピールしていたつもりでもありましたよ?言葉よりよっぽど明確な答えを提示していたつもりです」
「……えっと」
「ですが、わたしにも負い目がありますから。全ては明ちゃんに決めて欲しかったんです」
「負い目、ですか」
一体なんのことか分かりませんが。
けれど、日和さんの言葉の続きに気を取られてしまいます。
「だから、わたしもお聞きしたかったんです」
「日和さんがわたしに……?」
「明ちゃんと同じことですよ」
日和さんは口元に笑みをたたえながら、淀みなく告げます。
「明ちゃんが、わたしのことをどう想っているのか、です」
「それは……」
「ええ、義姉なら義姉で。他人なら他人で。いいんですよ、全ては明ちゃんが決める事ですから」
「……」
それはわたしが月森さんたちに抱いていた疑問でしたが。
同じように返されると、言葉に詰まることに気付きました。
……詰まる?
それは一体、どうしてでしょうか。
「うふふ……質問を質問で返すのは失礼でしたね」
「あ、いえ、そんなことは……」
ちゃんと答えられないわたしにも責任はありました。
しかし、日和さんはそんなわたしを気にすることなく、真っすぐに見つめてきます。
「いいですよ。わたしが明ちゃんの事をどう想っているか、お答えしましょうか?」
「えっと、あの……」
日和さんは自身のその心を包み込むように、胸に手を当てます。
「その覚悟がおありなら、この心の丈を打ち明けましょう」
家に帰り、わたしはいつも以上に重たく感じる玄関扉を開きます。
結局、バスケットボールは華凛さんに取り上げられたのでした。
『ボールが欲しいなら家にあたしのあるから、ね?』
『この子じゃなきゃダメなんです』
『これ学校のだし、しかも部活で使うやつっ』
『……じっ』
『ダメだから、そんな目で見てもダメだからっ!』
という一幕があり、わたしは粘ってみましたが華凛さんの言ってることの方が正しいので無理強いすることが出来ませんでした。
華凛さんに事の真意は聞けないまま、体育館を後にするのでした。
「明ちゃん、おかえりなさい」
居間へ向かうと日和さんの姿がありました。
「はい、戻りました」
「あら、どうしました?そんなむくれた顔をなさって?」
日和さんはわたしの表情を見て、すぐにその変化に気付いたようでした。
「ちょっと……納得いかない事がありまして」
「あらあらまあまあ、何があったんですか。聞かせて頂けます?」
「はい、話します」
「うふふ、素直ですね」
そう言って日和さんはわたしをダイニングテーブルのチェアに座らせた後、キッチンへと足を運ぶのでした。
「あの、日和さん?」
「ちょっとお待ちになって下さいね」
言われるがまま待っていると、次第にキッチンの方から香ばしい香りが漂ってきます。
日和さんは湯気が立ち昇るマグカップと、お菓子を持ってきてくれるのでした。
「珈琲です。ちょっと一息つきませんか?」
「あ、ありがとうございます……」
マグカップに口をつけ熱いコーヒーを少しずつ流し込んでいくと、苦味のある味わいとモカの香りが鼻を抜けていきます。
続けてココアパウダーのかかったトリュフチョコレートを頂くと、口の中は甘味とコーヒーの苦味が合わさって、幸せな味を運んでくれます。
「美味しいです」
「良かったです」
目尻を細めて微笑む日和さんもマグカップに口をつけます。
その品のある仕草を見てしまうと、同じものをこうして一緒に頂いているのが恥ずかしくなってしまうくらいに画になっています。
「頬を膨らませている明ちゃんも可愛いですが、やっぱり幸せそうにしている明ちゃんが一番可愛いですからね」
そうして屈託のない笑顔を浮かべて、何の恥ずかしげもなく告げるのです。
「か、可愛いとか、やめて下さい。そんなことありませんっ」
「あら、わたしは思ったことを言っているだけですよ?」
こ、この人は……。
全く無自覚にそんなことを言うのですから困った人です。
わたしが可愛いだなんて何をどう勘違いしてもありえないのです。
「それで、何があったのですか?」
「あ、そうでしたっ」
日和さんの癒しオーラと、突然のドギマギ発言に本題が吹き飛びそうになっていました。
「えっとですね――」
――わたしは、冴月さんから始まり千夜さん、華凛さんとの間に起きた出来事を話していきました。
「……なるほど。誰も明瞭な答えを出してくれなかった、と」
「はい、そうなんです」
日和さんは相槌を打ちながら、わたしの話を静かに聞いて下さるのでした。
「でも、わたしは千夜ちゃんや華凛ちゃんよりは割と答えたつもりでしたけどねぇ?」
「えっと……」
「ほら、体育祭で」
それはハートで埋め尽くされたお弁当の話でしょうか。
『好き、と一口に言ってもその感情には色んな形がありますし。その解釈は明ちゃんにお任せします』
確かに、日和さんはその感情の一端を言葉にしていました。
「でも……日和さんもわたしのことをどう思っているかちゃんと言ってくれたわけじゃありませんよね?」
わたしに判断を委ねるような遊びの部分がありました。
曖昧な境界線はずっとそのままなのです。
「言ってもいいんですか?」
「え……」
日和さんは表情を変えることなく、あっさりと言い放ちます。
「明ちゃんには協調性ばかりでなく、自己主張の大切さも教わりましたけど。でも一方的に感情を押し付けるばかりでは相手に負担を掛けてしまう時もありますからね」
「わたしに配慮してって、ことですか……?」
「ええ、それに分かりやすくアピールしていたつもりでもありましたよ?言葉よりよっぽど明確な答えを提示していたつもりです」
「……えっと」
「ですが、わたしにも負い目がありますから。全ては明ちゃんに決めて欲しかったんです」
「負い目、ですか」
一体なんのことか分かりませんが。
けれど、日和さんの言葉の続きに気を取られてしまいます。
「だから、わたしもお聞きしたかったんです」
「日和さんがわたしに……?」
「明ちゃんと同じことですよ」
日和さんは口元に笑みをたたえながら、淀みなく告げます。
「明ちゃんが、わたしのことをどう想っているのか、です」
「それは……」
「ええ、義姉なら義姉で。他人なら他人で。いいんですよ、全ては明ちゃんが決める事ですから」
「……」
それはわたしが月森さんたちに抱いていた疑問でしたが。
同じように返されると、言葉に詰まることに気付きました。
……詰まる?
それは一体、どうしてでしょうか。
「うふふ……質問を質問で返すのは失礼でしたね」
「あ、いえ、そんなことは……」
ちゃんと答えられないわたしにも責任はありました。
しかし、日和さんはそんなわたしを気にすることなく、真っすぐに見つめてきます。
「いいですよ。わたしが明ちゃんの事をどう想っているか、お答えしましょうか?」
「えっと、あの……」
日和さんは自身のその心を包み込むように、胸に手を当てます。
「その覚悟がおありなら、この心の丈を打ち明けましょう」
6
あなたにおすすめの小説
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。
白藍まこと
恋愛
百合ゲー【Fleur de lis】
舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。
まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。
少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。
ただの一人を除いて。
――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)
彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。
あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。
最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。
そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。
うん、学院追放だけはマジで無理。
これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。
※他サイトでも掲載中です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる