文字の大きさ
大
中
小
58 / 80
第7章 明莉
58 何かが大きくなると膨らむ
むむ……。
わたしは教室に戻り、頭を悩ませます。
冴月さんは月森さんたちとの関係性を見直せと言っていました。
千夜さんは他人を気にするな、そしてわたしのことを好ましく思っているが家族でも友達でもないと仰っていました。
「わけが分かりません……」
月森さんたちと向き合おうにも、その内の一人である千夜さんが謎の発言を残しています。
このままだと真実は迷宮入りするしかないのではと考えてしまいます。
「いや……それじゃダメなんですね、きっと」
この疑問を放置したままでは、いつまでも問題は解決されないでしょう。
それに千夜さんの発言にだけ囚われる必要はありません。
三姉妹の皆さんは三者三様の意見を持っているのですから。
「そうなれば……」
気付けば放課後になっていましたが、善は急げです。
わたしは行動に移すことにしました。
◇◇◇
――ダムダム……シュッ!
――ぱさっ
「ナイッシュー、さすが華凛」
「えへへ、どんなもんよ」
体育館。
わたしは女子バスケ部を陰から盗み見ていました。
ちょうど華凛さんがシュートを決めたところで、部員さんとハイタッチしていました。
さすがエース、バスケ用のTシャツと短パンに髪を後ろに束ねた姿はスポーツ少女としての清涼感に溢れていて素敵です。
――コロコロ
「お、タイミングがいいですね」
すると華凛さんが決めたバスケットボールが、ちょうどわたしの足元に転がってきました。
すかさず拾い上げます。
「えっ……ええ!?明莉!?」
わたしがボールを拾い上げる姿を見て、大きな声を上げた華凛さんが飛んできます。
体育館に顔を出すのは久しぶりなので、驚くのは無理もありません。
「はい、わたしです」
「いやいや、何しに来たのさっ。ビックリしたんだけどっ」
「ちょっと聞きたいことがありまして」
「え、なになに。いいよ何でも聞いて」
わたしは、ぎゅっと両手に力を込めてバスケットボールを抱え込みます。
このボールをお返しする前に、はっきりさせたい事があるのです。
「華凛さんは、わたしの事をどう思っていますか?」
「――!? な、ななっ、なにそれっ?!」
目をぱちくりさせて、声をひっくり返す華凛さん。
どうやら予想外の質問だったみたいですが……。
「そんな驚くような事ではありません。わたしに対する華凛さんの率直な気持ちを聞かせて頂きたいだけです」
「い、いやっ、ちょっと待ってよ。何でこのタイミング……!? ていうかほら、他の部員もめっちゃこっち見てんじゃんっ」
確かに他の部員さんは遠巻きからわたしのことを見て、ヒソヒソ話をしています。
体育館に突然、制服姿のモブが登場すればそれは気になることでしょう。
ですが……。
「華凛さん、他人のことなんて放っておいて下さい」
「た、他人……!?」
「これは、わたしと華凛さんとの話です」
「はっ、えっ、そっ、そうだけどっ……!そんな、いきなりグイグイ来られても……!」
だって千夜さんが言っていましたからね。
『他人の話に耳を傾ける必要はないし、私達に遠慮も必要ないわ』
……とね。
つまり、わたしと月森さんたちとの間に遠慮は無用なのです。
「ですから華凛さん、お聞かせください」
「えっ、ちょっ、えっ……!?」
ぐっと一歩を踏み出し、華凛さんとの距離を縮めます。
その距離に華凛さんはたじろいでしましたが。
「難しいことは聞いていません。華凛さんはわたしのことをどう思っているんですか?」
「え、どどっ、どうって……そ、それは……っ」
見つめ続けるわたしの視線から逃れるように、顔を逸らす華凛さん。
「どうしたのですか、体育倉庫では華凛さんの方からあんなに迫って来ましたのに」
「――きゃあ!!」
……あれ、なぜか遠くの部員さんの方から歓声が上がります。
特に何も起きてないはずですけど、なぜか色づいた声を上げていたのが不思議です。
「あああああっ、明莉さん!? この流れでその話をするのはやめてもらえないっ!?」
その態度が、雄弁に真実を映し出してるように見えました。
「急にさん付けですか、わたしと距離をとりたいってことですか? それともやっぱりわたしより部員さんの反応の方が大事なんですかっ」
「ちぃがぁうっ! そ、そそっ、そんなことはないけどっ、ちょっといきなり過ぎと言うか場所を改めて欲しいというか……!」
「それともわたしのことは他人に知られたら恥ずかしい存在ってことですか? それならそれでいいです。わたしは華凛さんにとってそういう存在ということが分かりましたので」
ちょっぴり残念ですが、それが真実なら仕方ありません。
家族でも、友人でもなく、恥ずかしい人。
受け入れる他ありません。
「いやっ、ここじゃなきゃ言うからっ。こんな所じゃ無理だからっ」
「場所を変えなきゃ言えないような恥ずかしい存在ってことですよね……?」
「なんでこんなにグイグイ来るクセに、そこはネガティブなの!? 心のバランスおかしくない!?」
「おかしい……?」
そう言われると、おかしいのかもしれません。
冴月さんには色々難しいことを言われ。
千夜さんにも難解な人間関係について濁されたままです。
単純明快な答えが欲しいのに、華凛さんもあやふやにするのです。
わたしはどうしたらいいのか分からなくなっているのかもしれません。
ええ、きっとそうなのでしょう。
そんな自分を俯瞰した時、わたしはパンクしかけているということに気付きました。
「……むぅっ」
「え、明莉……なんで、そんなにほっぺた膨らませてんの……?」
よく分からない気持ちを抱え込んだまま、発散することが出来なかった結果。
それは態度として現れ、わたしは頬に空気をパンパンに膨らませていました。
「今ならボールの気持ちが分かるような気がします」
わたしは抱えていたバスケットボールを見つめて、シンパシーを感じています。
「斬新すぎてついてけないんだけど……」
「自分以外の何かをパンパンに詰められると、こうやって飛び跳ねてしまうんです」
ボールだって、こんなに空気を詰め込まなければ、本当はもっと柔軟で、いちいち床に反発しなくても良かったのです。
「わたしは今、バスケットボールなんです」
「……いや、あの、明莉さん?」
「だからボールは返しませんっ、わたしが持って帰ります!」
「明莉さん!?」
全然、何も答えてくれないし。
部員の皆さまには申し訳ないですが、ボールの気持ちを分かってあげられない人の元には置いておけません。
「それでは失礼しますっ!」
「明莉さんっ!ボールは返そうねっ!」
「明莉はボールで、ボールは明莉ですっ!」
「うんっ!怖いよ、さっきから!!」
感想 2
あなたにおすすめの小説
妹たちが依存し過ぎていたので、しばらく離れて暮らすことになった。久し振りに帰るとさらに悪化していたようで「結婚しよう」と言われたんだが。
普通西園寺春の妹は兄に執着していた。
それに対して両親が危機感を抱き、父方の祖父母に兄の春だけが預けられた。これは妹から兄離れをさせるために起こったのだ。
それから数年して春は高校1年生になった。その年、両親が海外でビジネスをするため、しばらくは海外に行くということになり、春は引き戻された。
久し振りに帰った春は妹たちに会った。妹たちは容姿も言葉遣いも少し変わっていた。
何より会って数分で「にいに、結婚しよ」「兄さん、結婚してくれ」と言われた。
これは妹に好かれている兄と兄と結婚したい妹の話。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙なクラス委員長、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい 「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。