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26. 王太子の懇願
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「あなたの学友だった留学中のネヴィル侯爵令嬢も、あなたたちの結婚式のために帰国してくださるそうよ」
「まぁ!本当ですかお母様」
「ええ。久しぶりに会えるわね。ふふ、よかったじゃないの。あなたたちは仲良しですものね」
「本当に久しぶりですわ。きっと驚いているでしょうね、こんなことになっていて……」
「きっと祝福してくれますよ」
一月後に迫ったジェレミー様との結婚式に招待する方々や、式の詳細について、私は母と相談しあっていた。心が浮き立つ。明日は母と一緒に、式の後の祝賀会用のドレスを選びに行く予定だ。ジェレミー様に求婚されて以来、毎日が夢見心地だった。
ついにあと一月後、私はあの人の妻になる。
母と二人で、祝賀会で振る舞うお料理の話などをしていた、その時だった。
「しっ!失礼いたします、奥様……っ。ウェイン王太子殿下がおいででございますっ!フィオレンサお嬢様に、お会いしたいと……」
「……え……っ?」
侍女が息せき切って、居間に飛び込んできてそう言った。私と母は侍女を見つめて固まる。
ウェイン殿下が……?何故、うちに……?
「……突然すまない、フィオレンサ。……驚いただろう」
「……ええ、……はい……」
黒いコートを纏い玄関ホールに立っていたウェイン殿下は、二人きりで大切な話をしたいと仰った。戸惑ったけれど、殿下のこの切羽詰まった目を見るに、よほど大切な用件なのだろう。無理ですと追い返すこともできない。私は自分の部屋に殿下を招き入れた。
「……。」
へ、変な感じ……。
ウェイン殿下が、目の前にいらっしゃる。
ひどく落ち込んだ様子で、私の前に座っていらっしゃる。
こうしてまた、二人きりの時間を過ごす日がやって来るなんて……。
なんだか落ち着かず、そわそわしてしまう。一体何故今さらになって、私に会いに来られたのだろうか。
何を言っていいか分からず、私は向かいに座り、ただ殿下の言葉を待った。
「……。……フィオレンサ……」
「……はい」
「お前に……、今さらどう詫びればいいのか分からない。俺は、どうかしていたんだ……!」
「……え?」
殿下は悔しげに顔を歪めると、頭を抱える。ひどく苦しげな様子だ。
「後悔なんて言葉では言い表せない……。フィオレンサ、俺は……、お前を失ってはいけなかったんだ……!ようやくそれに気付いた……」
「……っ、……な……」
「俺はおかしくなっていたんだ。イルゼの魔性にやられてしまった……。冷静に考えれば分かることなのに……、イルゼがお前を貶める言葉など、全て嘘だと……!真実の愛は、俺とお前との間にしかないのだと」
「で……、殿下……」
「フィオレンサ、あまりにも身勝手なことは重々分かっている。だが……!この先、お前なしの人生を歩んでいく勇気が出ない……!頼む!フィオレンサ。どうかもう一度、お前のその尊き愛を、俺に、俺だけのために注いでくれないか。俺にはやはり、お前しかいない……!俺はもう一度、お前の愛を得たいんだ……!」
殿下の口から、信じがたい言葉が次々と紡がれる。それはあの失恋の苦しみの中、私が願ってやまなかった、私の愛を求める言葉だった。
「……ウェイン殿下……」
ですがもう、遅いのです、殿下。全ては過去のことなのです。私の心はもうあなたから離れ、別の道へと歩き始めたのです。
離れていってしまったあなた様の後ろ姿を、苦しみの中見送って、ただ崩れ落ちて泣いていた私にも、ようやく次の道が開けたところなんです。
なのに、どうして。
今さらになって……。
私は意を決して、口を開いた。
「……もう、どうにもなりませんわ、殿下。あなた様には奥様が、……イルゼ王太子妃がいらっしゃいます。……私にも、もう……」
「フィオレンサ!」
ウェイン殿下は私の言葉を遮ると、立ち上がり、私の元へ歩いてくる。そして、その場に跪いた。
驚く私の手を、殿下はしっかりと両手で握りしめる。
「っ!!で、殿下……っ」
「フィオレンサ……頼む……!お前の力が必要なんだ。あいつでは駄目だ。俺が間違っていた。どうか、俺のたった一度の過ちを許してくれ。お前の愛と知恵を、俺に与えてくれ。フィオレンサ……、ああ、俺の女神よ……!」
「……っ、」
私の手を、折れてしまいそうなほどに強く握りしめる殿下のその手は、汗ばみ震えている。縋りつくように私の手に口づけると、そのままご自分の額に押し当て、まるで私に祈りを捧げるかのように瞳を閉じる。
殿下……、これほどまでに……?
イルゼ王太子妃の悪評は知っていた。最近よく耳にしていたから。王太子妃として学ぶべき勉学を投げ出し、浪費を繰り返し遊びまわっていらっしゃると。……後悔なさっているのだろう。やはり私を選んでおけばよかったと。
かつて人生をかけて愛し抜いた人が、今目の前で苦しんでいる。私を強く求めている。
「……ですが、殿下……」
「……ああ。分かっている。だからといって今さらイルゼと離縁することなどできない。俺が選んでしまった道だ。皆の忠告を無視して結婚し、散々王宮を掻き回したのに、ここで簡単にイルゼと別れれば、俺は完全に周囲の信用を失う。きっと……もう父上にも、見捨てられるだろう……」
「……。」
「……だからこそ、こんな形でしかお前を得る手段を思いつかない。フィオレンサ……、どうか、お願いだ。俺の側妃として王宮に上がり、俺に力を貸してくれ。至らぬ王太子妃を補佐し、俺たち夫婦を助けてほしい……!」
「……え……?」
「まぁ!本当ですかお母様」
「ええ。久しぶりに会えるわね。ふふ、よかったじゃないの。あなたたちは仲良しですものね」
「本当に久しぶりですわ。きっと驚いているでしょうね、こんなことになっていて……」
「きっと祝福してくれますよ」
一月後に迫ったジェレミー様との結婚式に招待する方々や、式の詳細について、私は母と相談しあっていた。心が浮き立つ。明日は母と一緒に、式の後の祝賀会用のドレスを選びに行く予定だ。ジェレミー様に求婚されて以来、毎日が夢見心地だった。
ついにあと一月後、私はあの人の妻になる。
母と二人で、祝賀会で振る舞うお料理の話などをしていた、その時だった。
「しっ!失礼いたします、奥様……っ。ウェイン王太子殿下がおいででございますっ!フィオレンサお嬢様に、お会いしたいと……」
「……え……っ?」
侍女が息せき切って、居間に飛び込んできてそう言った。私と母は侍女を見つめて固まる。
ウェイン殿下が……?何故、うちに……?
「……突然すまない、フィオレンサ。……驚いただろう」
「……ええ、……はい……」
黒いコートを纏い玄関ホールに立っていたウェイン殿下は、二人きりで大切な話をしたいと仰った。戸惑ったけれど、殿下のこの切羽詰まった目を見るに、よほど大切な用件なのだろう。無理ですと追い返すこともできない。私は自分の部屋に殿下を招き入れた。
「……。」
へ、変な感じ……。
ウェイン殿下が、目の前にいらっしゃる。
ひどく落ち込んだ様子で、私の前に座っていらっしゃる。
こうしてまた、二人きりの時間を過ごす日がやって来るなんて……。
なんだか落ち着かず、そわそわしてしまう。一体何故今さらになって、私に会いに来られたのだろうか。
何を言っていいか分からず、私は向かいに座り、ただ殿下の言葉を待った。
「……。……フィオレンサ……」
「……はい」
「お前に……、今さらどう詫びればいいのか分からない。俺は、どうかしていたんだ……!」
「……え?」
殿下は悔しげに顔を歪めると、頭を抱える。ひどく苦しげな様子だ。
「後悔なんて言葉では言い表せない……。フィオレンサ、俺は……、お前を失ってはいけなかったんだ……!ようやくそれに気付いた……」
「……っ、……な……」
「俺はおかしくなっていたんだ。イルゼの魔性にやられてしまった……。冷静に考えれば分かることなのに……、イルゼがお前を貶める言葉など、全て嘘だと……!真実の愛は、俺とお前との間にしかないのだと」
「で……、殿下……」
「フィオレンサ、あまりにも身勝手なことは重々分かっている。だが……!この先、お前なしの人生を歩んでいく勇気が出ない……!頼む!フィオレンサ。どうかもう一度、お前のその尊き愛を、俺に、俺だけのために注いでくれないか。俺にはやはり、お前しかいない……!俺はもう一度、お前の愛を得たいんだ……!」
殿下の口から、信じがたい言葉が次々と紡がれる。それはあの失恋の苦しみの中、私が願ってやまなかった、私の愛を求める言葉だった。
「……ウェイン殿下……」
ですがもう、遅いのです、殿下。全ては過去のことなのです。私の心はもうあなたから離れ、別の道へと歩き始めたのです。
離れていってしまったあなた様の後ろ姿を、苦しみの中見送って、ただ崩れ落ちて泣いていた私にも、ようやく次の道が開けたところなんです。
なのに、どうして。
今さらになって……。
私は意を決して、口を開いた。
「……もう、どうにもなりませんわ、殿下。あなた様には奥様が、……イルゼ王太子妃がいらっしゃいます。……私にも、もう……」
「フィオレンサ!」
ウェイン殿下は私の言葉を遮ると、立ち上がり、私の元へ歩いてくる。そして、その場に跪いた。
驚く私の手を、殿下はしっかりと両手で握りしめる。
「っ!!で、殿下……っ」
「フィオレンサ……頼む……!お前の力が必要なんだ。あいつでは駄目だ。俺が間違っていた。どうか、俺のたった一度の過ちを許してくれ。お前の愛と知恵を、俺に与えてくれ。フィオレンサ……、ああ、俺の女神よ……!」
「……っ、」
私の手を、折れてしまいそうなほどに強く握りしめる殿下のその手は、汗ばみ震えている。縋りつくように私の手に口づけると、そのままご自分の額に押し当て、まるで私に祈りを捧げるかのように瞳を閉じる。
殿下……、これほどまでに……?
イルゼ王太子妃の悪評は知っていた。最近よく耳にしていたから。王太子妃として学ぶべき勉学を投げ出し、浪費を繰り返し遊びまわっていらっしゃると。……後悔なさっているのだろう。やはり私を選んでおけばよかったと。
かつて人生をかけて愛し抜いた人が、今目の前で苦しんでいる。私を強く求めている。
「……ですが、殿下……」
「……ああ。分かっている。だからといって今さらイルゼと離縁することなどできない。俺が選んでしまった道だ。皆の忠告を無視して結婚し、散々王宮を掻き回したのに、ここで簡単にイルゼと別れれば、俺は完全に周囲の信用を失う。きっと……もう父上にも、見捨てられるだろう……」
「……。」
「……だからこそ、こんな形でしかお前を得る手段を思いつかない。フィオレンサ……、どうか、お願いだ。俺の側妃として王宮に上がり、俺に力を貸してくれ。至らぬ王太子妃を補佐し、俺たち夫婦を助けてほしい……!」
「……え……?」
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