【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
27 / 35

27. 私の決断

しおりを挟む
 聞き間違いではないかと思った。
 いくら何でも、そんなわけ……。

「……今……、何と仰いましたか?殿下……」

 無意識に私はそう呟いていた。理解ができない。この方は、何を言っているのだろう。

 いまだ私の手をしっかりと握りしめたまま、ウェイン殿下はその手に唇を押し当てながら言う。

「分かっている!分かっているんだ!あまりに身勝手であることは……。だがもう、お前の力なしではどうにもならない……!王太子妃としての役割を全うすることは、イルゼには不可能だ。あいつはどうしようもない無能だった……。ただ、王太子妃という、将来の王妃という立場が欲しかっただけの卑しい女だ。気高きお前とは比べものにもならない。……お前があいつを助けてやってくれ、フィオレンサ。公務をサポートし、俺たち夫婦の体裁を繕ってほしい」
「……それが、あなた様の……“真実の愛”、なのですか……?」

 かつて「真実の愛を選ぶ」と言って私を捨て、イルゼ王太子妃を妻としたウェイン殿下は、今は真実の愛はご自分と私との間にしかないのだと言う。
 その愛とは、側妃という日陰の身になり、殿下とイルゼ王太子妃に尽くすということ……?

 私の呟きに、ウェイン殿下は迷いなく答えた。

「ああ!そうだフィオレンサ。立場上、俺の正妻はイルゼのままだが、もうこの心は未来永劫お前のものだ……。フィオレンサ、正妻だろうと側妃だろうと関係ない。世間がどう見ようと、俺とお前は真実の愛で、誰よりも強い絆で結ばれた夫婦になるんだ……!どうか、それを受け入れておくれ。頼む」
「…………。」

 いまだ私の前に跪き、眉間に皺を寄せ、私の手を握りしめているウェイン殿下。そんな彼を見下ろしながら、私はぼんやりとした頭でこれまでのことを思い出していた。
 幼い頃から、私はこの方のために全てを捧げる覚悟だった。あらゆる学問、ダンスのお稽古、子どもには難しい行儀作法、様々な王妃教育。寝食の時間も惜しんで学び、完璧な公爵令嬢とまで言われるようになったのは、この方と寄り添って、誰よりもおそばで支えながら生きていくためだった。

 苦労に苦労を重ねた。そんな簡単な言葉ではとても言い表せないほどに、努力してきた。そうして身に付けてきた、多くの知識を。

 この方は、ご自分の妻である王太子妃を補佐するために、側妃となって使えと言う。努力をなさらない王太子妃と夫婦であり続けるために、陰からこの知識をもって王太子夫妻に尽くせと言う。
 
「フィオレンサ……、どうか、返事をくれ。俺の愛に応える返事を……」
「……。」

 ふいに、愛に満ちた優しいあの方の微笑みが浮かぶ。
 再び立ち上がることなどできないと思うほどに、傷付き苦しんでいた私を、ただ優しくそばで見守り続け、立ち直らせてくれた人。
 新しい道を歩み始めた私が、愛を誓い合った人。

「…………。」

 そして目の前にいるのは、かつて私が全てをかけて愛し抜いた人。私を捨て、だけど今再び私を求め、私に縋っている、この人。



 ……これはあまりにも、残酷な決断だろうか。



 ……だけど──────



「……どうか、お顔を上げてくださいませ、殿下」
「っ!」

 私はするりと片手を引き抜くと、殿下の手を包み込むようにそっと重ねた。
 ウェイン殿下はハッと顔を上げる。その瞳には、希望の光が宿っていた。

「フィオレンサ……ッ!!」
「……準備がございます。数日以内に、正式にお返事に伺いますので、どうか本日は、このまま王宮へお戻りくださいませ」
「……、フィ……、」
「必ずこちらから伺います。できる限り早くに。どうかそれをお待ちくださいませ、殿下」

 私は殿下を見つめて穏やかに微笑んだ。かつていつもそうしていたように。
 殿下のお顔にも、喜びの笑みが溢れた。

「……ああ……!ああ、待っているよ、フィオレンサ……!……ありがとう」

 ウェイン殿下はようやく立ち上がった。そしてとても安堵した様子で帰っていった。
 王家の紋章の入っていない小さな馬車が門から出て行くのを、私は部屋の窓から見送っていた。

「…………。」



 迷うことは何もない。
 心は決まっている。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

処理中です...