【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
2 / 74

1. 馬の合わない婚約者

しおりを挟む
 遡ること、半年前──────



 私の父オールディス侯爵と、今私の向かいに座っているラウル様の父君ヘイワード公爵様とは、旧知の仲だ。
 美しい社交辞令の笑みをたたえるラウル様に向かって、私もアルカイックスマイルを浮かべて挨拶をする。

あらためまして、オールディス侯爵家のティファナでございますわ。このたびのご縁に、心から感謝いたします」
「ご丁寧に。こちらも改めて、ヘイワード公爵家のラウルです。どうぞ末永くよろしく」
「ええ。こちらこそ」
「……」
「……」

 まるで初対面のようなよそよそしい挨拶を互いに済ませると、私たちの間には気まずい沈黙が流れた。
 幼少の頃から何度も顔を合わせており、しかも先日ついに婚約までした二人だとは、到底思えまい。



 互いの父、オールディス侯爵とヘイワード公爵は、ともにこのリデール王国を支える重鎮だ。父オールディス侯爵は財務大臣であり、ヘイワード公爵は領主でありながら外交官長も務め、国内や諸外国を飛び回っている。
 二人は若かりし頃から互いに切磋琢磨しあい、ともに成長してきた良きライバルだ。そして唯一無二の親友同士でもあった。
 そんな二人はやがてどちらも結婚し、同じ年頃の子どもが生まれた。それが私とラウル様。ラウル様は私の二つ年上だ。けれどだからと言って、私たちの婚約がすぐに決まったわけじゃない。
 私がこの世に生を受けたのと同じ年、王家にも男児が誕生したのだ。その御子が王太子とされたことで、私の父と母は狂喜し、そして狙った。ぜひとも我が娘を王太子殿下の婚約者に、と。
 そういったわけで、私は幼少の頃から厳しい淑女教育や様々な科目の学問を、ひたすらに勉強させられてきた。誰よりも美しく賢く、気品と教養を兼ね備えた淑女となって、必ずや王太子殿下の婚約者の座を射止めるのだと、家族一丸となって日々励んできた。
 しかし今からおよそ二年前、私の母は病のため儚くなってしまった。父も私も、とても落ち込んだ。けれど、こうなった以上、母の悲願でもあった王太子殿下の婚約者の座を何としてでも射止めなければという、一種の強迫観念のようなものに突き動かされ、私はその後ますます死にもの狂いで勉強に打ち込んだのだった。
 だけど、先日決まった王太子殿下の婚約者は、私ではなかった。決まったのはエーメリー公爵家の令嬢、カトリーナ。我が家をはじめ、虎視眈々とその座を狙っていた他の貴族家たちの敗北が決まったのだった。

 父はしばらく肩を落としていたけれど、その時にヘイワード公爵家からのお声がかかった。私とラウル様を結婚させないかと。
 父は考えた。そして、父の弟夫婦の間にいる二人の男児のうち下の息子の方を、このオールディス侯爵家の後継にするということで話がまとまり、私はヘイワード公爵の提案通りにラウル様と婚約することとなったのだった。



 そして無事婚約が成立してから、二週間後の今日。
 私とラウル様は、こうして我がオールディス侯爵家の応接間で二人、顔を突き合わせているというわけだ。
 けれど……。

(……困ったわね。まさかよりにもよって、この人と結婚することになってしまうとは……)

 姿勢を正し上品な笑みを浮かべながらも、私は頭の中で盛大にため息をついていた。おそらく向こうも同じことだろう。艷やかな黒髪に、同じ色の瞳で張り付いたような笑みを浮かべたままのラウル様も、内心げんなりしているはずだ。

 私たちは、昔からとにかく馬が合わないのだ。

 互いの両親がとても親しかったので、幼い頃から顔を合わせる機会は何度もあった。茶会に食事会、どなたかの家で開かれるパーティー。父親同士が親しければ、自然と母親同士もお喋りの機会が増え親しくなる。いつでもどこでも、親同士は会えば長々とお喋りをしているし、その間私たち子どもはそばにいるわけだから、同様に仲良くなってもいいようなものだ。
 けれど彼、ラウル様は、私を見ると露骨に不機嫌になり、ツンとした顔で明後日の方を向いてしまう。私もそんな彼に近寄りがたく、そのうち挨拶もしたくなくなって、顔を見るのが嫌になってきた。相手に嫌われているのって、なんとなく察するもの。間違っても、実は彼は私のことを大好きで、それを素直に表に出せずにあえてツンツンしている、なんてものじゃなかった。きっと生理的なものだろう。好みじゃない。しっくりこない。合わない。そういう相手って、誰にでもいるものだ。もうこれは仕方ない。
 成長するに従って、ラウル様も表面上は上手に挨拶をしてくださるようになってきたけれど、その漆黒の瞳の奥には私への親しみや好意の欠片も感じられないことから、私も彼に対する苦手意識が増すばかりだった。

 そんな二人が、婚約することになってしまったのだ。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

私のことは愛さなくても結構です

毛蟹
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。 一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。 彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。 サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。 いわゆる悪女だった。 サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。 全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。 そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。 主役は、いわゆる悪役の妹です

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...