【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
7 / 74

6. “お兄様”との再会

しおりを挟む
「……なるほどねぇ。まぁ、ヘイワード公爵令息って子どもの頃から何を考えてるんだか分からないところあったものね。よく言えば寡黙で、落ち着いていて。悪く言えば、根暗な変わり者……」
「カ、カトリーナ。根暗はあんまりじゃない?」
「そうかしら? 子どもの頃からそんな感じだったでしょ? 見た目はすごく素敵なのに、昔から暗くてあまり誰とも話さない人だったわ。……だから、あなたもあまり思い詰めないでよ。別にティファナが特別嫌われているわけじゃないと思うわ。私だってほとんど会話したことないわよ。公爵家の者同士、社交の場ではよく顔を合わせていたっていうのに」
「……そう……かな」

 不安げな私を見つめて、カトリーナは「そうよ」と頷く。猫のように少し吊り上がった大きな栗色の瞳がとても印象的だ。しっかりと自分を持った、強い彼女の内面がよく表れている。

「そんなにナイーブにならないで。ゆっくりよ。ヘイワード公爵令息はきっと不器用な方なんだと思うわ。堅物だし。ゆっくりじっくりと、焦らずに関係を進めていけばいいんじゃない?」
「……うん。そうね。ありがとう、カトリーナ」

 親友の優しい言葉に、少し前向きな気持ちになれた気がする。心が軽くなった私は、カトリーナに感謝した。

「……ね、それで? あちらの方はどうなの? 例のオールディス侯爵の後妻の……、……あ、」

 その時。私に話しかけていたカトリーナが、私の背後に視線を送ると慌てたように口を閉じた。その瞳にわずかな驚きが走ったのを見て、私はすぐに振り返った。

 すると、そこには。

「……っ! ……ティファナ……」
「……お、お兄様……っ!」

 艶めくプラチナブロンドに、アクアマリンのような美しいブルーの瞳の、長身の男性。神々しいほどの美青年の姿を認めた途端、私は無意識のうちにお兄様、と声に出していた。
 
 そこにいたのは王弟殿下、アルバート・リデール様だった。

 いつぶりの再会だろう。なぜここに、彼が……?
 お兄様はここ数年間国内を飛び回っていらっしゃるから、特別な行事でもない限り王宮に戻ってくることはなかったはず。
 前回お会いしたのは、私の母が亡くなった時。お葬式に駆けつけてくださった時だから……、約二年ぶりだわ。

「アルバート王弟殿下、ご機嫌麗しゅう」
「っ!」

 お兄様のお顔を見つめたまま私が固まっていると、隣のカトリーナが丁寧なカーテシーを披露し、挨拶をした。我に返った私も慌ててカーテシーをする。

「お、王弟殿下、ご機嫌麗しゅう。大変ご無沙汰しております」

(私ったら……! また癖で“お兄様”なんて呼んでしまったわ……! バカね……)

 幼い頃の癖が抜けきれずなれなれしい呼び方をしてしまい内心焦っていると、アルバート様が小さく笑いながら私たちのそばまでやって来る。ふわりと吹き上げた風が、庭園に咲き乱れる花々の匂いとともに、懐かしいアルバート様の香りを私に運んできた。

「いいんだよ、二人とも。そんなに畏まらないで。久しぶりだね、カトリーナ嬢。それに……、ティファナも。元気にしていたかい?」
「は、はい。殿下。その節は、母の葬儀にご参列いただき本当にありがとうございました。わざわざ足を運んでいただき、父も感謝しておりましたわ」
「……君の大変な時にそばにいないなんて、俺には考えられないからね。何を放り出してでも飛んでいくよ、そりゃ」

 サラリとそう言うと、アルバート様は私をジッと見つめる。

「……本当に久しぶりだ。ますます綺麗になったね」
「ありがとうございます、王弟殿下」

 アルバート様の社交辞令に、私は控えめに微笑んでお礼を言う。するとアルバート様は、少し困ったように言った。

「君から王弟殿下なんて呼ばれると、どうも落ち着かない。せめて公の場以外では、名前で呼んでくれないか。さすがにもうお兄様と呼べとは言わないから」
「は、はい。……アルバート様」

 実は私も、アルバート様のことを王弟殿下なんて呼ぶのは全然慣れていない。幼い頃からずっと「お兄様」だったのだから。
 私の返事を聞いたアルバート様は、ホッとしたように微笑む。
 すると私の隣にいたカトリーナが、わざと拗ねたような声をあげた。

「王弟殿下、私も殿下にお会いするのはとても久しぶりなのですが。ティファナにはますます綺麗になったなんて仰るのに、私には何も言ってくださいませんの?」
「っ! ……馬鹿なことを。さっきの言葉はもちろん、君たち二人に言ったんだよ。君も相変わらず完璧な美しさだよ、カトリーナ嬢」
「ふふ。ようございましたわ」

 そんな二人の会話がおかしくて、思わず小さく吹き出してしまった。

 王太子殿下の婚約者候補だった私たちは、幼い頃から王宮に足を運ぶ機会がたびたびあった。子どもの私たちにとって、気さくで優しいアルバート様は王族の中でもとりわけ接しやすい方だったのだ。だから今でも、こうして冗談混じりの会話ができてしまう。
 あの頃のアルバート様は、小さな令嬢たち皆の“お兄様”だったのだ。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

私のことは愛さなくても結構です

毛蟹
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。 一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。 彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。 サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。 いわゆる悪女だった。 サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。 全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。 そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。 主役は、いわゆる悪役の妹です

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

処理中です...