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6. “お兄様”との再会
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「……なるほどねぇ。まぁ、ヘイワード公爵令息って子どもの頃から何を考えてるんだか分からないところあったものね。よく言えば寡黙で、落ち着いていて。悪く言えば、根暗な変わり者……」
「カ、カトリーナ。根暗はあんまりじゃない?」
「そうかしら? 子どもの頃からそんな感じだったでしょ? 見た目はすごく素敵なのに、昔から暗くてあまり誰とも話さない人だったわ。……だから、あなたもあまり思い詰めないでよ。別にティファナが特別嫌われているわけじゃないと思うわ。私だってほとんど会話したことないわよ。公爵家の者同士、社交の場ではよく顔を合わせていたっていうのに」
「……そう……かな」
不安げな私を見つめて、カトリーナは「そうよ」と頷く。猫のように少し吊り上がった大きな栗色の瞳がとても印象的だ。しっかりと自分を持った、強い彼女の内面がよく表れている。
「そんなにナイーブにならないで。ゆっくりよ。ヘイワード公爵令息はきっと不器用な方なんだと思うわ。堅物だし。ゆっくりじっくりと、焦らずに関係を進めていけばいいんじゃない?」
「……うん。そうね。ありがとう、カトリーナ」
親友の優しい言葉に、少し前向きな気持ちになれた気がする。心が軽くなった私は、カトリーナに感謝した。
「……ね、それで? あちらの方はどうなの? 例のオールディス侯爵の後妻の……、……あ、」
その時。私に話しかけていたカトリーナが、私の背後に視線を送ると慌てたように口を閉じた。その瞳にわずかな驚きが走ったのを見て、私はすぐに振り返った。
すると、そこには。
「……っ! ……ティファナ……」
「……お、お兄様……っ!」
艶めくプラチナブロンドに、アクアマリンのような美しいブルーの瞳の、長身の男性。神々しいほどの美青年の姿を認めた途端、私は無意識のうちにお兄様、と声に出していた。
そこにいたのは王弟殿下、アルバート・リデール様だった。
いつぶりの再会だろう。なぜここに、彼が……?
お兄様はここ数年間国内を飛び回っていらっしゃるから、特別な行事でもない限り王宮に戻ってくることはなかったはず。
前回お会いしたのは、私の母が亡くなった時。お葬式に駆けつけてくださった時だから……、約二年ぶりだわ。
「アルバート王弟殿下、ご機嫌麗しゅう」
「っ!」
お兄様のお顔を見つめたまま私が固まっていると、隣のカトリーナが丁寧なカーテシーを披露し、挨拶をした。我に返った私も慌ててカーテシーをする。
「お、王弟殿下、ご機嫌麗しゅう。大変ご無沙汰しております」
(私ったら……! また癖で“お兄様”なんて呼んでしまったわ……! バカね……)
幼い頃の癖が抜けきれずなれなれしい呼び方をしてしまい内心焦っていると、アルバート様が小さく笑いながら私たちのそばまでやって来る。ふわりと吹き上げた風が、庭園に咲き乱れる花々の匂いとともに、懐かしいアルバート様の香りを私に運んできた。
「いいんだよ、二人とも。そんなに畏まらないで。久しぶりだね、カトリーナ嬢。それに……、ティファナも。元気にしていたかい?」
「は、はい。殿下。その節は、母の葬儀にご参列いただき本当にありがとうございました。わざわざ足を運んでいただき、父も感謝しておりましたわ」
「……君の大変な時にそばにいないなんて、俺には考えられないからね。何を放り出してでも飛んでいくよ、そりゃ」
サラリとそう言うと、アルバート様は私をジッと見つめる。
「……本当に久しぶりだ。ますます綺麗になったね」
「ありがとうございます、王弟殿下」
アルバート様の社交辞令に、私は控えめに微笑んでお礼を言う。するとアルバート様は、少し困ったように言った。
「君から王弟殿下なんて呼ばれると、どうも落ち着かない。せめて公の場以外では、名前で呼んでくれないか。さすがにもうお兄様と呼べとは言わないから」
「は、はい。……アルバート様」
実は私も、アルバート様のことを王弟殿下なんて呼ぶのは全然慣れていない。幼い頃からずっと「お兄様」だったのだから。
私の返事を聞いたアルバート様は、ホッとしたように微笑む。
すると私の隣にいたカトリーナが、わざと拗ねたような声をあげた。
「王弟殿下、私も殿下にお会いするのはとても久しぶりなのですが。ティファナにはますます綺麗になったなんて仰るのに、私には何も言ってくださいませんの?」
「っ! ……馬鹿なことを。さっきの言葉はもちろん、君たち二人に言ったんだよ。君も相変わらず完璧な美しさだよ、カトリーナ嬢」
「ふふ。ようございましたわ」
そんな二人の会話がおかしくて、思わず小さく吹き出してしまった。
王太子殿下の婚約者候補だった私たちは、幼い頃から王宮に足を運ぶ機会がたびたびあった。子どもの私たちにとって、気さくで優しいアルバート様は王族の中でもとりわけ接しやすい方だったのだ。だから今でも、こうして冗談混じりの会話ができてしまう。
あの頃のアルバート様は、小さな令嬢たち皆の“お兄様”だったのだ。
「カ、カトリーナ。根暗はあんまりじゃない?」
「そうかしら? 子どもの頃からそんな感じだったでしょ? 見た目はすごく素敵なのに、昔から暗くてあまり誰とも話さない人だったわ。……だから、あなたもあまり思い詰めないでよ。別にティファナが特別嫌われているわけじゃないと思うわ。私だってほとんど会話したことないわよ。公爵家の者同士、社交の場ではよく顔を合わせていたっていうのに」
「……そう……かな」
不安げな私を見つめて、カトリーナは「そうよ」と頷く。猫のように少し吊り上がった大きな栗色の瞳がとても印象的だ。しっかりと自分を持った、強い彼女の内面がよく表れている。
「そんなにナイーブにならないで。ゆっくりよ。ヘイワード公爵令息はきっと不器用な方なんだと思うわ。堅物だし。ゆっくりじっくりと、焦らずに関係を進めていけばいいんじゃない?」
「……うん。そうね。ありがとう、カトリーナ」
親友の優しい言葉に、少し前向きな気持ちになれた気がする。心が軽くなった私は、カトリーナに感謝した。
「……ね、それで? あちらの方はどうなの? 例のオールディス侯爵の後妻の……、……あ、」
その時。私に話しかけていたカトリーナが、私の背後に視線を送ると慌てたように口を閉じた。その瞳にわずかな驚きが走ったのを見て、私はすぐに振り返った。
すると、そこには。
「……っ! ……ティファナ……」
「……お、お兄様……っ!」
艶めくプラチナブロンドに、アクアマリンのような美しいブルーの瞳の、長身の男性。神々しいほどの美青年の姿を認めた途端、私は無意識のうちにお兄様、と声に出していた。
そこにいたのは王弟殿下、アルバート・リデール様だった。
いつぶりの再会だろう。なぜここに、彼が……?
お兄様はここ数年間国内を飛び回っていらっしゃるから、特別な行事でもない限り王宮に戻ってくることはなかったはず。
前回お会いしたのは、私の母が亡くなった時。お葬式に駆けつけてくださった時だから……、約二年ぶりだわ。
「アルバート王弟殿下、ご機嫌麗しゅう」
「っ!」
お兄様のお顔を見つめたまま私が固まっていると、隣のカトリーナが丁寧なカーテシーを披露し、挨拶をした。我に返った私も慌ててカーテシーをする。
「お、王弟殿下、ご機嫌麗しゅう。大変ご無沙汰しております」
(私ったら……! また癖で“お兄様”なんて呼んでしまったわ……! バカね……)
幼い頃の癖が抜けきれずなれなれしい呼び方をしてしまい内心焦っていると、アルバート様が小さく笑いながら私たちのそばまでやって来る。ふわりと吹き上げた風が、庭園に咲き乱れる花々の匂いとともに、懐かしいアルバート様の香りを私に運んできた。
「いいんだよ、二人とも。そんなに畏まらないで。久しぶりだね、カトリーナ嬢。それに……、ティファナも。元気にしていたかい?」
「は、はい。殿下。その節は、母の葬儀にご参列いただき本当にありがとうございました。わざわざ足を運んでいただき、父も感謝しておりましたわ」
「……君の大変な時にそばにいないなんて、俺には考えられないからね。何を放り出してでも飛んでいくよ、そりゃ」
サラリとそう言うと、アルバート様は私をジッと見つめる。
「……本当に久しぶりだ。ますます綺麗になったね」
「ありがとうございます、王弟殿下」
アルバート様の社交辞令に、私は控えめに微笑んでお礼を言う。するとアルバート様は、少し困ったように言った。
「君から王弟殿下なんて呼ばれると、どうも落ち着かない。せめて公の場以外では、名前で呼んでくれないか。さすがにもうお兄様と呼べとは言わないから」
「は、はい。……アルバート様」
実は私も、アルバート様のことを王弟殿下なんて呼ぶのは全然慣れていない。幼い頃からずっと「お兄様」だったのだから。
私の返事を聞いたアルバート様は、ホッとしたように微笑む。
すると私の隣にいたカトリーナが、わざと拗ねたような声をあげた。
「王弟殿下、私も殿下にお会いするのはとても久しぶりなのですが。ティファナにはますます綺麗になったなんて仰るのに、私には何も言ってくださいませんの?」
「っ! ……馬鹿なことを。さっきの言葉はもちろん、君たち二人に言ったんだよ。君も相変わらず完璧な美しさだよ、カトリーナ嬢」
「ふふ。ようございましたわ」
そんな二人の会話がおかしくて、思わず小さく吹き出してしまった。
王太子殿下の婚約者候補だった私たちは、幼い頃から王宮に足を運ぶ機会がたびたびあった。子どもの私たちにとって、気さくで優しいアルバート様は王族の中でもとりわけ接しやすい方だったのだ。だから今でも、こうして冗談混じりの会話ができてしまう。
あの頃のアルバート様は、小さな令嬢たち皆の“お兄様”だったのだ。
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