【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
12 / 74

11. そんな君だから(※sideアルバート)

しおりを挟む
(……駄目だ。とても立ち直れそうにない)

 このままではマズい。どうにか平常心を取り戻さなければ。きっと今俺は、ひどい顔をしているだろう。

 怪訝そうな兄の元を辞して、俺は王宮の外に出た。



 呆然と歩きながら、気付けば俺は庭園に向かっていた。……幼い頃、ここでティファナと遊んでやったり、二人でお喋りを楽しんだものだ。ティファナはこの庭園が好きだった。花が好きで、青空が好きで、鳥が好きで……。子どもの頃のティファナはいつも笑顔で、天真爛漫だった。

(可愛かったな、本当に)

 ティファナを得ることなどとうに諦めきっていたはずなのに、余計な期待を持たされてしまった。目の前にほんの一瞬チラつかされた餌があまりにも魅惑的だったせいで、それを得られなかった落胆が大きい。

(立ち直れるかな、俺……)

 特大のため息をつきながら、重い体を引きずって庭園に向かう。

 花々の香りが鼻腔をくすぐるところまでやって来ると、ふいに前方に、華やかなドレスを着た二人の令嬢の姿が見えた。

「……っ、」

 また心臓が、大きく跳ねる。

 後ろ姿を見ただけで、それが誰なのか俺には一瞬で分かった。
 愛おしさに、息が止まる。

 こちらを向いていた令嬢が、いち早く俺の存在に気付く。例のエーメリー公爵家の、カトリーナ嬢だった。王太子の婚約者。
 彼女の雰囲気の変化で、背後に誰か来たと気付いたのだろう。ふわりと長い髪を靡かせながら、ティファナがこちらを振り返った。

「……ティファナ……」
「……お、お兄様……っ!」

 お兄様。
 久しぶりのその呼び方に、胸の奥が甘く疼いた。……可愛い。咄嗟に出てしまったのだろう。いかん、頬が緩みそうだ。

「アルバート王弟殿下、ご機嫌麗しゅう」

 すぐさま完璧なカーテシーを披露するカトリーナ嬢。それを見たティファナも、慌ててカーテシーをしてくれる。元気にしていたかと問えば、はい、殿下、と、美しい笑みを浮かべて返事をするティファナ。

「その節は、母の葬儀にご参列いただき本当にありがとうございました。わざわざ足を運んでいただき、父も感謝しておりましたわ」
「……君の大変な時にそばにいないなんて、俺には考えられないからね。何を放り出してでも飛んでいくよ、そりゃ」

 我ながら、何とも女々しいことだ。先ほどのショックを引きずっている上に、久しぶりに愛しいティファナの姿を目にしたためか、つい自分の気持ちをほのめかすような言い方をしてしまった。

 想いを伝えたい。しかしそれは、決して叶わない。

「……婚約したんだってね、ティファナ。ヘイワード公爵令息と。……おめでとう」
「あ、ありがとうございます、アルバート様」

 言いたくもなかった祝いの言葉を無理矢理口にすると、ティファナがはにかむように微笑んだ。明確に、心臓に鈍い痛みが走った。

(……それにしても……、)

 ティファナとカトリーナ嬢の二人と当たり障りのない会話を交わしながら、頭の中を一つの疑問がよぎる。

(仲が良いことは知っていたが、今でもこうして二人きりで親しく会話をしているとは……)

 正直、少し意外だった。いくら幼少の頃から親しくしていた友人同士とはいえ、ティファナは王太子の婚約者争いという人生をかけた大きな戦いで、このカトリーナ嬢に敗れたのだ。実際は能力の拮抗する二人が、家柄において勝敗をつけられた、といったところではあったが。
 あれほど死にもの狂いで努力してきて、それでもこのカトリーナ嬢とエーメリー公爵家に負けてしまったのだ。わだかまりは、少しも残っていないのだろうか。
 まだ幼さの残るあの頃、「私が王太子殿下の婚約者になることは、両親の悲願ですから!」と言って俺に笑顔を向けたティファナのことを思い出しながら、俺は素直に尋ねてみた。

「……君たちは相変わらず仲が良いんだね。驚いたよ。こう言ってはティファナに失礼だとは思うのだが……、正直、あれほど長年王太子の婚約者の座を巡って戦ってきた仲だというのに、カトリーナ嬢が選ばれた後もこうして親しくしているのは、すごいことだと思うよ。同じく候補者だった他家の令嬢方ならば、きっとこうはいかないだろう」

 俺の言葉をキョトンとした顔で聞いていたティファナは、カトリーナ嬢と顔を見合わせてクスクス笑った後、眩しいほどの笑顔を俺に見せた。

「たしかに私は負けてしまいましたけど、それとこれとは何も関係ありませんわ。カトリーナは私にとって、誰よりも大切な親友ですから」

(…………っ!)

 その屈託のない真っ白な笑顔は、俺の心の真ん中にストンと刺さった。

(……あ……、マズい……)

 ティファナの純粋な笑顔に、再び俺の心臓が暴れ出し、あっという間に顔に熱が集まってくるのが分かった。俺は慌てて二人から目を逸らし、くるりと背を向ける。

「はは。それはよかった。安心したよ。……じゃあ、また」

 さっさと歩き出した俺の背中に、二人から声がかけられる。

「ご機嫌よう、アルバート王弟殿下」
「ご機嫌よう、お……、アルバート様」

 振り返らずにヒラヒラと手を振る。こんなみっともない顔は見せられない。

 なんて健気で、可愛いんだろう。
 辛い思いをしただろうに。嫉妬心が微塵も湧かないなんてことは、ないはずなのに。
 それでも逆恨みもせず、わだかまりも残さず、大切な友人を変わらず大切だと言い切れる。

 ティファナ、そんな君だから、俺はどうしようもなく惹かれていくんだ。

 これ以上君を愛してしまったら、俺はどうすればいい。

「……はぁ……。勘弁してくれ……」

 少しでも気持ちを落ち着けようと向かった庭園で、俺の心はますます乱れる羽目になったのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。 一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。 彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。 サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。 いわゆる悪女だった。 サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。 全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。 そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。 主役は、いわゆる悪役の妹です

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

うまくいかない婚約

ありがとうございました。さようなら
恋愛
エーデルワイスは、長年いがみ合っていた家門のと結婚が王命として決まっていた。 そのため、愛情をかけるだけ無駄と家族から愛されずに育てられた。 婚約者のトリスタンとの関係も悪かった。 トリスタンには、恋人でもある第三王女ビビアンがいた。 それでも、心の中で悪態をつきながら日々を過ごしていた。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

処理中です...