【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
20 / 74

19. 一瞬の狼狽

しおりを挟む
 翌朝、ラウル様が帰宅しなかったことに気付いたサリアはこれ以上ないほど大袈裟に騒ぎ立てた。

「信じられないわ! まだ新婚のお義姉さまを置いて、一体どこにお泊りになったのかしら……。お義姉さま、何も聞いていらっしゃらないの? ……え? 連絡さえなかった? まぁ……! それって、もしかしてロージエと……!? やだぁ不潔よ! 信じられないっ! 許せないわ、あの二人ったら……! お義姉さまが可哀相。本当に可哀相だわ、新婚なのに……!」

 サリアが喋るたびにどんどん気分が重くなり、朝食も喉を通らない。苛立ちを懸命に抑えながら、私はカトラリーを静かに置き、向かいの席でまくしたてるサリアを咎めた。

「……あのねサリア。大きな声で騒ぐのはもう止めてちょうだい。この屋敷にはあなたと私の二人きりではないのよ。ラウル様はとてもお忙しい身なの。別に外泊をなさるのが今日が初めてというわけではないわ。お仕事が終わらなければ、王宮に……」
「でも新婚なのよ!? 独身の頃と今は違うわ。お義姉さまという妻がいるのだから、妻を大切に思っていれば外泊の連絡くらいはするはずよ普通」
「……」
「ひどすぎるわ! これは裏切り行為よ。ね、お義姉さま。ラウル様をちゃんと問い詰めなくてはダメよ! 一体どこで何をなさっていたの? 職場に浮気相手でもいるの!? って。それにね、もしそれが真実だったなら、お義姉さま……離縁も視野に入れた方がいいと思うわ。不幸な一生を過ごすことになるのは目に見えてるもの。お義姉さまにはもっと他にお似合いの、誠実で素敵な高位貴族の殿方がいるはずだわ。これ以上お義姉さまが不幸になることなんて、きっとお義父さまも望んでは……」
「もういいから。黙りなさい、サリア」

 ついに私は厳しい声でピシャリと言った。きつく睨むと、サリアが少し怯んだ。

「私は不幸なんかじゃない。勝手な妄想をして一人で突っ走っているけれど、ラウル様に限ってそんな浅はかな行動はなさらないわ。ヘイワード公爵家のご令息を何だと思っているの。少しは言葉を謹んで。私は離縁なんてしないわ」

 そう言うとサリアは明らかにムッとした表情をし、あろうことか、大きな声を上げて泣き出した。

「ひ……っ、う、うわぁぁぁん!! ひどい……! ひどいわお義姉さまぁ……っ、あぁぁんっ!!」
「っ! ち……、ちょっと、」
「ひぃぃぃん……! あ、あたし、あたしただ、お義姉さまのことを心配してるだけなのにぃ……。お、お義姉さまが、可哀相だから、幸せでいてほしいから……。あたしにできることをしようと思っただけなのよぉ……! それなのに、そんなに強く怒るなんて……、うわぁぁぁんっ!!」
「サリア……! もう止めてよ。落ち着いて」
「一体何事だ朝から。騒がしい」
「……っ!」

 その時。間の悪いことに、たった今帰宅されたらしいラウル様が様子を見にやって来た。サリアの泣き喚く声が食堂の外にまで聞こえていたのだろう。控えている使用人たちの目も冷やかだ。

「おっ、おかえりなさいませ、ラウル様。あの、これは……」
「ラウルさまぁ!! ようやくお戻りになったのですね!?」

 私がラウル様に話しかけるのと同時にサリアまで立ち上がり、ラウル様に声をかけた。たった今まで号泣していたとは思えない切り替えの速さだ。
 そしてサリアは、耳を疑うようなことを言い出した。

「ラウル様、そんなにお義姉さまのことがお嫌いですか? もっとお義姉さまのお気持ちを考えて差し上げてくださいませ! ただでさえお義姉さまはラウル様の態度が冷たいことを気に病んでおられるのに……。夕べは一晩お戻りにならないものだから、お義姉さま、ラウル様が職場の女性と浮気をしてるんじゃないかってずっと悩んでおられるのですよ!?」

(──────っ!! な……っ、)

「何を言うのサリア! 止めなさい!」

 私は慌ててサリアを叱ると、ラウル様の方を振り向いた。申し訳ございません、ラウル様。そう謝るつもりで。

 けれど。

(……え……?)

 私を見つめるラウル様の顔は、見たことがないほど強張り、しかも目があった瞬間、彼は狼狽えたように私から目を逸らしたのだった。
 それらの行動はほんの数秒にも満たない間のものだったけれど、その不自然さは明らかに何かを誤魔化す雰囲気があった。
 けれどすぐに冷静さを取り戻した彼は、スッと私に向き直った。その瞳には軽蔑と、そして憎悪の色がありありと浮かんでいた。

「……くだらない。君たちは朝食の席で、そんな低俗な話をしていたのか。呆れて物も言えない。私は王宮での仕事の他に、公爵領の経営管理の仕事もある。いちいち本邸に帰宅する時間がとれないことだってたびたびあるんだ。……君は侯爵家のご令嬢だ。そんなことくらい、当然承知の上だと思っていたが、」
「……ラ、ラウルさま……、分かっております、私は……、」
「まさかここまで低俗な女性だとは思わなかった」
「──────っ!」

 私をめつけながらそう吐き捨てると、彼はそのまま踵を返し、食堂を出て行ってしまった。

 しばらくの間、彼の後ろ姿が消えた扉の向こうを呆然と見つめているしかなかった。すると私のそばにいそいそとやって来たサリアが、耳元で囁いた。

「ほら。ね? やっぱり様子がおかしかったでしょ? 女ってすぐに分かっちゃうわよね、ああいうの。……ラウル様、やっぱり浮気してるわ」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。 一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。 彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。 サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。 いわゆる悪女だった。 サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。 全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。 そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。 主役は、いわゆる悪役の妹です

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

うまくいかない婚約

ありがとうございました。さようなら
恋愛
エーデルワイスは、長年いがみ合っていた家門のと結婚が王命として決まっていた。 そのため、愛情をかけるだけ無駄と家族から愛されずに育てられた。 婚約者のトリスタンとの関係も悪かった。 トリスタンには、恋人でもある第三王女ビビアンがいた。 それでも、心の中で悪態をつきながら日々を過ごしていた。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

処理中です...