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26. 二通の手紙
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「た、大したことではないのです、アルバート様。カトリーナがさっき言ったように、最近いろいろなことに力みすぎていて、少し疲れが……」
「いろいろなこととは? もう王太子の婚約者の選定も終わり、君はヘイワード公爵家の嫡男と結婚した。勉強漬けだったこれまでの生活に比べたら、心身ともにだいぶ楽になっていてもおかしくないはずだ。何をそんなに苦しんでいるんだ。……それに、幾分痩せた気がするよ、ティファナ。話してくれ。何を悩んでいる」
「……っ、」
気付けば私の両肩を掴み、こちらが気圧されるほどの勢いで私の瞳を覗き込んでくるアルバート様。そのアクアマリンのような眩い光を湛えた瞳で捕えられると、思わずたじろいでしまう。
(アルバート様ったら……。まるで子どもの頃のように私を心配してくださって……)
いつまで経っても、この方にとって私は小さなティファナのままなのだろうか。可愛がってもらっているのはよく分かるけれど……、嬉しいやら、情けないやら。
(もっとしっかりしなくちゃ。夫婦のことで心乱して周りの人たちにこんなに心配をかけるなんて、侯爵家の娘としてもヘイワード公爵令息夫人としてもみっともないわ)
そう思った私は口角を上げクスリと微笑むと、できる限り落ち着いてた口調で答えた。
「ありがとうございます、アルバート様。ですが、本当に大したことではないのです。両親の期待に応えられなかった罪悪感があるものだから、今度こそ完璧な公爵家の妻であらねばと、少し必死になりすぎていたのですわ。今カトリーナからも、もっと気持ちにゆとりを持つようお説教されておりました。ふふ」
「そうですわ。ティファナが真面目すぎて、短期間でヘイワード公爵領の仕事を完璧に覚えようと躍起になっているものだから、無理のないペースでのんびりなさいよとそう申しておりましたの。ね?」
カトリーナはいつも私の味方。私の気持ちを察してか、すかさず横から援護してくれる。
けれどアルバート様はその場しのぎの私の言い逃れを見逃してはくれなかった。
「……本当は?」
「……え……?」
「とてもそんな理由だけとは思えない。ティファナ、俺には言えない何かがあるのか? 君がそんな顔をしているのを見ると……、俺は心配でたまらなくなる」
(……アルバート様……っ)
昔から大好きだった、優しくて美しい瞳。そしてずっと変わらない温かさ。
少しでも気を緩めれば、また涙がこみ上げてきそうだった。……ダメだ。今の私はとても冷静でいられない。
「……本当に、そんな理由でしかないのです。申し訳ございません、アルバート様。今日はあまりにも心のゆとりがなさすぎました。もう屋敷に戻りますわね。また、次回お会いするのを楽しみにしております。……ごめんあそばせ、カトリーナ」
「ええ、ティファナ。また会いましょう。お手紙も出すわね。ゆっくり休んで」
何もかも分かってくれている親友が、私の目を見て軽く頷いた。私はカトリーナにアルバート様を任せるようにして、そそくさとその場を離れたのだった。
これ以上無様な姿を晒したくはなかったから。
それから数日後、ヘイワード公爵邸の私の元へ一通の手紙が届いた。
早速カトリーナかしら、などと思って差出人を見た瞬間、げんなりする。……サリアだ。
おそるおそる開封し読んでみると、その内容はやはり私の胸が弾むようなものではなかった。
“ 親愛なるお義姉さま
その後ラウル様とのご関係はいかが? 仲直りはできたの?
先日またロージエと会ったの。ラウルさまとのことをたっぷり自慢されたわ! とても可愛がってもらってるんですって。意味深な言い方だったわ。やっぱりあの子、お義姉さまの旦那様を奪おうとしてるみたいよ。嫌な子よね!
ねぇ、お義姉さまって本当に素敵な女性よ。あたしの憧れの、大好きなお義姉さまだもの。幸せになってほしいの。こうなってしまった以上、離縁も視野に入れた方がいいんじゃないかしら。お義姉さまのためよ。美人で賢くて、元王太子妃候補だったお義姉さまだもの、絶対にもっと他にいいご縁があるわ。お義父さまに話してみたらどう? それに…………”
「……はぁ……。もう嫌……」
サリアからの手紙は私に離縁を促す内容が延々と続き、しかもかなりの悪筆で見ているだけで具合が悪くなりそうだった。読みづらい上に、苦労して読んでもろくなことが書いてない。
悪気があるのかないのか。
ないとすれば、本当に無神経な子なのだろう。
来た手紙に返事を出さないという無作法はできず、私はやんわりと、このようなアドバイスも告げ口も必要ないこと、そして今後は来訪の際は必ず事前に連絡することを再度促す内容をしたため、侍女に託けた。
さらにそれから数日後。今度は本当にカトリーナからのお手紙が届いた。時間がとれるようならば、近々エーメリー公爵家のタウンハウスにいらっしゃいとのこと。私は浮足立って、行ける日時を伝える返事を出した。気の置けない友人とお喋りできることは、今の私の何よりの慰めになっていた。
そして、約束の当日。
先日の話の続きをすることになるのだろうと思ってエーメリー公爵家のタウンハウスを訪れた私は、カトリーナが待っているはずの応接間に入った途端、驚いて固まってしまった。
「やぁ、ティファナ。来たね」
「……ア……、アルバート様……?」
そこにはニコニコと微笑むカトリーナと、なぜかアルバート様までいらっしゃったのだった。
「いろいろなこととは? もう王太子の婚約者の選定も終わり、君はヘイワード公爵家の嫡男と結婚した。勉強漬けだったこれまでの生活に比べたら、心身ともにだいぶ楽になっていてもおかしくないはずだ。何をそんなに苦しんでいるんだ。……それに、幾分痩せた気がするよ、ティファナ。話してくれ。何を悩んでいる」
「……っ、」
気付けば私の両肩を掴み、こちらが気圧されるほどの勢いで私の瞳を覗き込んでくるアルバート様。そのアクアマリンのような眩い光を湛えた瞳で捕えられると、思わずたじろいでしまう。
(アルバート様ったら……。まるで子どもの頃のように私を心配してくださって……)
いつまで経っても、この方にとって私は小さなティファナのままなのだろうか。可愛がってもらっているのはよく分かるけれど……、嬉しいやら、情けないやら。
(もっとしっかりしなくちゃ。夫婦のことで心乱して周りの人たちにこんなに心配をかけるなんて、侯爵家の娘としてもヘイワード公爵令息夫人としてもみっともないわ)
そう思った私は口角を上げクスリと微笑むと、できる限り落ち着いてた口調で答えた。
「ありがとうございます、アルバート様。ですが、本当に大したことではないのです。両親の期待に応えられなかった罪悪感があるものだから、今度こそ完璧な公爵家の妻であらねばと、少し必死になりすぎていたのですわ。今カトリーナからも、もっと気持ちにゆとりを持つようお説教されておりました。ふふ」
「そうですわ。ティファナが真面目すぎて、短期間でヘイワード公爵領の仕事を完璧に覚えようと躍起になっているものだから、無理のないペースでのんびりなさいよとそう申しておりましたの。ね?」
カトリーナはいつも私の味方。私の気持ちを察してか、すかさず横から援護してくれる。
けれどアルバート様はその場しのぎの私の言い逃れを見逃してはくれなかった。
「……本当は?」
「……え……?」
「とてもそんな理由だけとは思えない。ティファナ、俺には言えない何かがあるのか? 君がそんな顔をしているのを見ると……、俺は心配でたまらなくなる」
(……アルバート様……っ)
昔から大好きだった、優しくて美しい瞳。そしてずっと変わらない温かさ。
少しでも気を緩めれば、また涙がこみ上げてきそうだった。……ダメだ。今の私はとても冷静でいられない。
「……本当に、そんな理由でしかないのです。申し訳ございません、アルバート様。今日はあまりにも心のゆとりがなさすぎました。もう屋敷に戻りますわね。また、次回お会いするのを楽しみにしております。……ごめんあそばせ、カトリーナ」
「ええ、ティファナ。また会いましょう。お手紙も出すわね。ゆっくり休んで」
何もかも分かってくれている親友が、私の目を見て軽く頷いた。私はカトリーナにアルバート様を任せるようにして、そそくさとその場を離れたのだった。
これ以上無様な姿を晒したくはなかったから。
それから数日後、ヘイワード公爵邸の私の元へ一通の手紙が届いた。
早速カトリーナかしら、などと思って差出人を見た瞬間、げんなりする。……サリアだ。
おそるおそる開封し読んでみると、その内容はやはり私の胸が弾むようなものではなかった。
“ 親愛なるお義姉さま
その後ラウル様とのご関係はいかが? 仲直りはできたの?
先日またロージエと会ったの。ラウルさまとのことをたっぷり自慢されたわ! とても可愛がってもらってるんですって。意味深な言い方だったわ。やっぱりあの子、お義姉さまの旦那様を奪おうとしてるみたいよ。嫌な子よね!
ねぇ、お義姉さまって本当に素敵な女性よ。あたしの憧れの、大好きなお義姉さまだもの。幸せになってほしいの。こうなってしまった以上、離縁も視野に入れた方がいいんじゃないかしら。お義姉さまのためよ。美人で賢くて、元王太子妃候補だったお義姉さまだもの、絶対にもっと他にいいご縁があるわ。お義父さまに話してみたらどう? それに…………”
「……はぁ……。もう嫌……」
サリアからの手紙は私に離縁を促す内容が延々と続き、しかもかなりの悪筆で見ているだけで具合が悪くなりそうだった。読みづらい上に、苦労して読んでもろくなことが書いてない。
悪気があるのかないのか。
ないとすれば、本当に無神経な子なのだろう。
来た手紙に返事を出さないという無作法はできず、私はやんわりと、このようなアドバイスも告げ口も必要ないこと、そして今後は来訪の際は必ず事前に連絡することを再度促す内容をしたため、侍女に託けた。
さらにそれから数日後。今度は本当にカトリーナからのお手紙が届いた。時間がとれるようならば、近々エーメリー公爵家のタウンハウスにいらっしゃいとのこと。私は浮足立って、行ける日時を伝える返事を出した。気の置けない友人とお喋りできることは、今の私の何よりの慰めになっていた。
そして、約束の当日。
先日の話の続きをすることになるのだろうと思ってエーメリー公爵家のタウンハウスを訪れた私は、カトリーナが待っているはずの応接間に入った途端、驚いて固まってしまった。
「やぁ、ティファナ。来たね」
「……ア……、アルバート様……?」
そこにはニコニコと微笑むカトリーナと、なぜかアルバート様までいらっしゃったのだった。
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