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27. アルバート様の慰め
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「なぜ……アルバート様が……?」
「ふふ、やっぱり驚かせちゃったわね。ごめんなさいね、ティファナ。アルバート王弟殿下が、どうしてもあなたとお話がしたいって仰るものだから。ほら……、先日王宮の庭園であなたが先に帰ったでしょう? あの後殿下としばらく二人で話したのよ」
「すまなかったね、カトリーナ嬢。ありがとう、ティファナを呼んでくれて。……こちらにおいで、ティファナ」
「は、……はい……」
アルバート様に促されるがまま、私は応接間のソファーに腰かける。そのタイミングで、カトリーナが侍女にお茶を出すよう指示した。
「じゃあ、私は少し失礼するわね。アルバート殿下とお話しをして、ティファナ。……ごめんね」
「っ? カ、カトリーナ……?」
カトリーナは立ち上がり私に向かってウィンクすると、そのままスーッと部屋を出て行ってしまった。残されたのは部屋の隅にいる数人の侍女たちと、私とアルバート様だけ。
アルバート様は私の隣に控えめに腰かけると、眉尻を下げて言った。
「本当に悪かった、ティファナ。カトリーナ嬢を怒らないでおくれ。……実は、先日聞いたんだ。君が一体何をそんなに思いつめているのかを。それで、こうして彼女に頼んで場を設けてもらった。王宮で君と二人きりになって長々と話をしているところを誰かに見られれば、よからぬ噂が広まってしまうかもしれないしね」
「……っ、ア、アルバート様……」
……そうか。バレちゃったんだ。私がラウル様との結婚生活で悩んでいることが。
カトリーナのことだ。きっとアルバート様に教えてくれと頼み込まれて悩んだ末に打ち明けたのだろう。アルバート様が私を本気で心配してくださっていることを知っているから。カトリーナを責める気持ちになんかなるはずがない。ただ、少し気まずくて恥ずかしいだけ。
「……情けないですわよね。王太子殿下の婚約者に選ばれなかったばかりか、ヘイワード公爵令息との結婚生活さえあっさり破綻してしまって……。しかも私には、その理由さえまだはっきりとは分からないんです。一体どうして、こんなことになってしまったのか……」
「ティファナ……」
アルバート様の顔が見られなくて俯いたまま話していた私の声が、少し震えてしまった。彼は気遣うように私の肩をそっと抱いてくれる。その優しい仕草にますます心が震え、我慢しなくてはと思ってもじわりと涙が浮かんでしまう。
「情けないなんて思うものか。君はいつだって一生懸命だった。王太子の婚約者争いだって、君とカトリーナ嬢が同じくらい優秀な令嬢だったから、それならばとエーメリー公爵家の娘が選ばれたというだけのことだ。それに……、ヘイワード公爵令息とのことだって、カトリーナ嬢から聞いた限りでは、君に何かしらの落ち度があるとは思えない。結婚式の前までは、彼は至って普通の態度だったわけだろう?」
「……はい……。ですが、式の日にお会いしたら全く別人のように……。そしてその夜、宣言されたのです。この結婚は白い結婚だと。寝室を共にすることも、君を好きになることもないと。互いの両親亡き後は離縁しよう、と……」
「……訳が分からないな」
「ええ……。それ以来ラウル様は私との対話を完全に避けておられます。関係を修復しようにも、その手段がないのです……」
その後も私はアルバート様に促されるがままに、これまで起こったことを話した。アルバート様は静かに私の話を聞いてくれながら、時折慰めるように、私の髪をそっと撫でた。
「うーん……。君の義妹のサリア嬢のことで、今はますます意固地になっている可能性もあるな。ヘイワードの屋敷でラウル殿と顔を合わせる機会がそんなに少ないのなら、もう今は彼に構おうとせず、君は君でのんびり過ごしていたらいい」
「で、ですが……、」
「一生このままというわけじゃないんだから。彼は王宮勤めもしているんだろう? 俺ももし顔を合わせる機会があれば、それとなく彼の様子を探ってみるよ。今はしばらく、放っておくといい。ティファナに落ち度はないんだ。堂々として、心静かに過ごしていればいいさ。君はいつも、責任感が強すぎる」
「……アルバート様……。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、アルバート様はとても優しく微笑んでまた私の髪をそっと撫でてくれた。傷付き疲れ切っていた心に、その優しさがじんわりと染み込んでいく。
(ご自分だって、大変なはずなのに。……隣国の王女様との件、本当に少しも落ち込んだりなさっていないのかしら……)
先日少しお話した時には、「そんなことどうでもいい」と言わんばかりの態度だったけど。
……そういえば……。
「アルバート様、王宮にはいつまで滞在なさるご予定なんですか?」
ふと気になったことを尋ねると、アルバート様はああ、と言ってサラリと答えた。
「当分いるよ。実は国王陛下から直々に、ダミアン王太子殿下の教育を頼まれていてね。王子教育が思うように進んでいないらしい。せっかく超優秀な婚約者が決まったというのに、当の本人の実力が彼女に追いつかないようじゃ困るからね」
……そうか。アルバート様だって、かつては王子だったわけで。王子教育も徹底して受けてこられてるのよね。それで王太子殿下の教育に携わることを任されたのか。
私の頭の中に、王太子殿下のあのよく見知ったヘラヘラと笑う顔が浮かんできた。若干軽薄にも見える彼の、物事を深く考えないあのお気楽そうな顔が。
「では、これからもきっと王宮でお会いすることができますね。嬉しいです」
私が素直にそう言うと、アルバート様はほんの一瞬目を見開いた。そしてなぜだか私から目を逸らすと、片手で口元を覆った。
「……ああ。俺もだよ」
「ふふ、やっぱり驚かせちゃったわね。ごめんなさいね、ティファナ。アルバート王弟殿下が、どうしてもあなたとお話がしたいって仰るものだから。ほら……、先日王宮の庭園であなたが先に帰ったでしょう? あの後殿下としばらく二人で話したのよ」
「すまなかったね、カトリーナ嬢。ありがとう、ティファナを呼んでくれて。……こちらにおいで、ティファナ」
「は、……はい……」
アルバート様に促されるがまま、私は応接間のソファーに腰かける。そのタイミングで、カトリーナが侍女にお茶を出すよう指示した。
「じゃあ、私は少し失礼するわね。アルバート殿下とお話しをして、ティファナ。……ごめんね」
「っ? カ、カトリーナ……?」
カトリーナは立ち上がり私に向かってウィンクすると、そのままスーッと部屋を出て行ってしまった。残されたのは部屋の隅にいる数人の侍女たちと、私とアルバート様だけ。
アルバート様は私の隣に控えめに腰かけると、眉尻を下げて言った。
「本当に悪かった、ティファナ。カトリーナ嬢を怒らないでおくれ。……実は、先日聞いたんだ。君が一体何をそんなに思いつめているのかを。それで、こうして彼女に頼んで場を設けてもらった。王宮で君と二人きりになって長々と話をしているところを誰かに見られれば、よからぬ噂が広まってしまうかもしれないしね」
「……っ、ア、アルバート様……」
……そうか。バレちゃったんだ。私がラウル様との結婚生活で悩んでいることが。
カトリーナのことだ。きっとアルバート様に教えてくれと頼み込まれて悩んだ末に打ち明けたのだろう。アルバート様が私を本気で心配してくださっていることを知っているから。カトリーナを責める気持ちになんかなるはずがない。ただ、少し気まずくて恥ずかしいだけ。
「……情けないですわよね。王太子殿下の婚約者に選ばれなかったばかりか、ヘイワード公爵令息との結婚生活さえあっさり破綻してしまって……。しかも私には、その理由さえまだはっきりとは分からないんです。一体どうして、こんなことになってしまったのか……」
「ティファナ……」
アルバート様の顔が見られなくて俯いたまま話していた私の声が、少し震えてしまった。彼は気遣うように私の肩をそっと抱いてくれる。その優しい仕草にますます心が震え、我慢しなくてはと思ってもじわりと涙が浮かんでしまう。
「情けないなんて思うものか。君はいつだって一生懸命だった。王太子の婚約者争いだって、君とカトリーナ嬢が同じくらい優秀な令嬢だったから、それならばとエーメリー公爵家の娘が選ばれたというだけのことだ。それに……、ヘイワード公爵令息とのことだって、カトリーナ嬢から聞いた限りでは、君に何かしらの落ち度があるとは思えない。結婚式の前までは、彼は至って普通の態度だったわけだろう?」
「……はい……。ですが、式の日にお会いしたら全く別人のように……。そしてその夜、宣言されたのです。この結婚は白い結婚だと。寝室を共にすることも、君を好きになることもないと。互いの両親亡き後は離縁しよう、と……」
「……訳が分からないな」
「ええ……。それ以来ラウル様は私との対話を完全に避けておられます。関係を修復しようにも、その手段がないのです……」
その後も私はアルバート様に促されるがままに、これまで起こったことを話した。アルバート様は静かに私の話を聞いてくれながら、時折慰めるように、私の髪をそっと撫でた。
「うーん……。君の義妹のサリア嬢のことで、今はますます意固地になっている可能性もあるな。ヘイワードの屋敷でラウル殿と顔を合わせる機会がそんなに少ないのなら、もう今は彼に構おうとせず、君は君でのんびり過ごしていたらいい」
「で、ですが……、」
「一生このままというわけじゃないんだから。彼は王宮勤めもしているんだろう? 俺ももし顔を合わせる機会があれば、それとなく彼の様子を探ってみるよ。今はしばらく、放っておくといい。ティファナに落ち度はないんだ。堂々として、心静かに過ごしていればいいさ。君はいつも、責任感が強すぎる」
「……アルバート様……。ありがとうございます」
私がお礼を言うと、アルバート様はとても優しく微笑んでまた私の髪をそっと撫でてくれた。傷付き疲れ切っていた心に、その優しさがじんわりと染み込んでいく。
(ご自分だって、大変なはずなのに。……隣国の王女様との件、本当に少しも落ち込んだりなさっていないのかしら……)
先日少しお話した時には、「そんなことどうでもいい」と言わんばかりの態度だったけど。
……そういえば……。
「アルバート様、王宮にはいつまで滞在なさるご予定なんですか?」
ふと気になったことを尋ねると、アルバート様はああ、と言ってサラリと答えた。
「当分いるよ。実は国王陛下から直々に、ダミアン王太子殿下の教育を頼まれていてね。王子教育が思うように進んでいないらしい。せっかく超優秀な婚約者が決まったというのに、当の本人の実力が彼女に追いつかないようじゃ困るからね」
……そうか。アルバート様だって、かつては王子だったわけで。王子教育も徹底して受けてこられてるのよね。それで王太子殿下の教育に携わることを任されたのか。
私の頭の中に、王太子殿下のあのよく見知ったヘラヘラと笑う顔が浮かんできた。若干軽薄にも見える彼の、物事を深く考えないあのお気楽そうな顔が。
「では、これからもきっと王宮でお会いすることができますね。嬉しいです」
私が素直にそう言うと、アルバート様はほんの一瞬目を見開いた。そしてなぜだか私から目を逸らすと、片手で口元を覆った。
「……ああ。俺もだよ」
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