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38. ヘイワード公爵夫妻の帰宅
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それからカトリーナと三人で準備された昼食を食べた後、もうしばらくその辺りを一緒に散策し、帰路についた。
とても楽しい一日になったけれど、その日を境に私のアルバート様に対する気持ちが、何だか今までとは変わってしまった。もちろん、大好きなことに変わりはないんだけど……。
(……アルバート様はずっと昔から、変わらず優しい。けれど、“お兄様”だった頃と今とでは、何だか別人みたいな気がするわ……)
後日、私はあの時のことをぼんやりと思い出していた。
つい先日まで、そんなことを意識したことさえなかったのに。
あの湖でのひとときから、私の中でアルバート様の存在が急に大きくなった気がした。
ドキドキして、落ち着かなくて、けれど決して不快ではない。あの青い瞳にジッと見つめられるとなぜだかいたたまれなくて、逃げ出したいような気持ちにさえなる。それなのに、やっぱりアルバート様には会いたいし、そばにいられると嬉しい。
「……。はぁ……」
自室で一人甘いため息を零しながら、私はそれ以上深く考えるのを止めたのだった。
今は他に、考えなくてはいけないことがある。
そんな中、ある日ヘイワード公爵本邸に、一通の手紙が届いた。それはラウル様の父君であるヘイワード公爵からで、来週この本邸に一度ご夫婦で戻ってくること、そしてその時に、私の家族であるオールディス侯爵一家を招いて夕食会を開くつもりでいること、もうすでにオールディス侯爵家には招待状を送付済みであることなどが書かれていた。
(……嘘でしょう……)
このタイミングで?
ある日帰宅したラウル様からその手紙を見せられた私は、内心げんなりした。
「……記載してある日にちに合わせて、邸の準備を整えておいてくれ」
「……承知いたしました」
私から目を逸らしながら必要最低限の言葉をかけてくるラウル様に、私も最低限の返事を返した。この機会にもっと会話をしようだとか、ラウル様に見直してもらえるように準備を頑張ろうとか、そんな感情は一切湧いてこなかった。
妻を微塵も信じることなくよその女性に心を奪われ、爛れた関係を持っている夫のことなんて、誰が大切に思えるだろうか。
そして翌週、予定通りその日の午前中に、ヘイワード公爵夫妻は本邸に姿を現した。
「まぁ、久しぶりねティファナさん。相変わらず美しいこと。……あら、素敵なお花だわ。ありがとう、準備は万端ね」
「うむ。どうだね、結婚生活は順調か」
「ご無沙汰しております、お義父様、お義母様。はい、おかげさまで、つつがなく」
仕事があるから出かけるが、夕方までには戻ると言って早朝から逃げるように出て行ってしまったラウル様に代わって、私は一人で公爵夫妻を出迎えた。明るくて美しい義母、厳しい表情を崩さない、貫禄のある義父。この二人はまさか、息子夫婦の仲がここまで冷え切り決裂してしまっているとは夢にも思っていないだろう。
久しぶりに戻った本邸の中をチェックするように義母が見て回った後、二人は居間で紅茶を飲みながらくつろいだ。
「どう? ティファナさん。ここでの生活にも随分慣れてきたのではなくて? 何か困っていることなどはない?」
優雅にティーカップを傾けていたヘイワード公爵夫人が美しい笑みを浮かべ、私にそう尋ねてきた。
困ったことしかございません。あなたの息子さんは職場の女性に簡単に丸め込まれて私を悪人だと決めつけ、離縁の段取りを考えはじめたようですよ。どうやらその女性とは愛人関係にあるようですし、じきに嫁が代わるかもしれませんわね。
そんなことを言えるはずもなく、私は公爵夫人と同じように優雅に微笑んでみせた。
「いえ、お義母様。おかげさまで何不自由ない生活を送っており、感謝いたしております。お忙しいラウル様に代わって公爵領の仕事を少しでも多くお手伝いできるよう、日々勉強に励んでおりますわ」
「ま、頼もしいこと。ね? あなた」
「うむ」
ニコニコと嬉しそうな公爵夫人、相変わらず気難しい表情を崩さず重々しく頷く公爵。
このお二人と同じ席に、今夜はあのサリアや義母を交えて一緒に夕食をとるのだ。
(無事に終わるといいのだけど……)
もうすぐここにやってくるであろう義妹の無作法が気にかかって仕方ない私だった。
とても楽しい一日になったけれど、その日を境に私のアルバート様に対する気持ちが、何だか今までとは変わってしまった。もちろん、大好きなことに変わりはないんだけど……。
(……アルバート様はずっと昔から、変わらず優しい。けれど、“お兄様”だった頃と今とでは、何だか別人みたいな気がするわ……)
後日、私はあの時のことをぼんやりと思い出していた。
つい先日まで、そんなことを意識したことさえなかったのに。
あの湖でのひとときから、私の中でアルバート様の存在が急に大きくなった気がした。
ドキドキして、落ち着かなくて、けれど決して不快ではない。あの青い瞳にジッと見つめられるとなぜだかいたたまれなくて、逃げ出したいような気持ちにさえなる。それなのに、やっぱりアルバート様には会いたいし、そばにいられると嬉しい。
「……。はぁ……」
自室で一人甘いため息を零しながら、私はそれ以上深く考えるのを止めたのだった。
今は他に、考えなくてはいけないことがある。
そんな中、ある日ヘイワード公爵本邸に、一通の手紙が届いた。それはラウル様の父君であるヘイワード公爵からで、来週この本邸に一度ご夫婦で戻ってくること、そしてその時に、私の家族であるオールディス侯爵一家を招いて夕食会を開くつもりでいること、もうすでにオールディス侯爵家には招待状を送付済みであることなどが書かれていた。
(……嘘でしょう……)
このタイミングで?
ある日帰宅したラウル様からその手紙を見せられた私は、内心げんなりした。
「……記載してある日にちに合わせて、邸の準備を整えておいてくれ」
「……承知いたしました」
私から目を逸らしながら必要最低限の言葉をかけてくるラウル様に、私も最低限の返事を返した。この機会にもっと会話をしようだとか、ラウル様に見直してもらえるように準備を頑張ろうとか、そんな感情は一切湧いてこなかった。
妻を微塵も信じることなくよその女性に心を奪われ、爛れた関係を持っている夫のことなんて、誰が大切に思えるだろうか。
そして翌週、予定通りその日の午前中に、ヘイワード公爵夫妻は本邸に姿を現した。
「まぁ、久しぶりねティファナさん。相変わらず美しいこと。……あら、素敵なお花だわ。ありがとう、準備は万端ね」
「うむ。どうだね、結婚生活は順調か」
「ご無沙汰しております、お義父様、お義母様。はい、おかげさまで、つつがなく」
仕事があるから出かけるが、夕方までには戻ると言って早朝から逃げるように出て行ってしまったラウル様に代わって、私は一人で公爵夫妻を出迎えた。明るくて美しい義母、厳しい表情を崩さない、貫禄のある義父。この二人はまさか、息子夫婦の仲がここまで冷え切り決裂してしまっているとは夢にも思っていないだろう。
久しぶりに戻った本邸の中をチェックするように義母が見て回った後、二人は居間で紅茶を飲みながらくつろいだ。
「どう? ティファナさん。ここでの生活にも随分慣れてきたのではなくて? 何か困っていることなどはない?」
優雅にティーカップを傾けていたヘイワード公爵夫人が美しい笑みを浮かべ、私にそう尋ねてきた。
困ったことしかございません。あなたの息子さんは職場の女性に簡単に丸め込まれて私を悪人だと決めつけ、離縁の段取りを考えはじめたようですよ。どうやらその女性とは愛人関係にあるようですし、じきに嫁が代わるかもしれませんわね。
そんなことを言えるはずもなく、私は公爵夫人と同じように優雅に微笑んでみせた。
「いえ、お義母様。おかげさまで何不自由ない生活を送っており、感謝いたしております。お忙しいラウル様に代わって公爵領の仕事を少しでも多くお手伝いできるよう、日々勉強に励んでおりますわ」
「ま、頼もしいこと。ね? あなた」
「うむ」
ニコニコと嬉しそうな公爵夫人、相変わらず気難しい表情を崩さず重々しく頷く公爵。
このお二人と同じ席に、今夜はあのサリアや義母を交えて一緒に夕食をとるのだ。
(無事に終わるといいのだけど……)
もうすぐここにやってくるであろう義妹の無作法が気にかかって仕方ない私だった。
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