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46. 父からの手紙
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温室からの帰りの馬車の中で、私は呆然としていた。
(アルバート様が……私のことを、好き……。一人の女性として……、この私を……好き……)
まるっきり予想さえしていなかった、突然の愛の告白。相手は幼い頃から大好きだった、お兄様。しかも、私はまだ既婚者。
(……えっと……。お、落ち着いて。とにかく一旦落ち着くのよ、私)
でも落ち着こうにも……。さっきのアルバート様の想いのこもった言葉や、私の前に跪いた彼の姿。手のひらに押し当てられた唇の感触、そしてあの、私の全身を強く掻き抱くような、熱を帯びた瞳の色。
その何もかもが私を火照らせ、思い出すほどに鼓動が激しくなっていく。頬の熱を冷ましたくて、私は両手をそこに当て何度も深呼吸を繰り返した。ドクドクと暴れ続ける心臓が痛い。
(一度は、夢想したことがあったわ。ラウル様との婚約時代、二人の間の距離があまりにも縮まらなくて精神的に疲れ果てていた時に“お兄様”と再会して、その変わらない優しさと笑顔に癒された時)
あんなに格好良くて優しくて、気遣いのできる素敵な人と結婚できたら、って。だけどその夢想自体がラウル様に失礼だと思って、すぐに頭の中から追い払ったっけ。
けれど現実は、夫となったラウル様の方から失礼じゃ済まされないことをされている。他人の言葉にあっさり騙されて、一方的に私を悪人と決めつけひどい言葉を何度も投げつけられ、白い結婚を強いられ、挙げ句の果てには他の女性と親密になっている。
「……はぁ」
しっかり考えなきゃ。これから先のことを。
もしもラウル様が言い出したとおりに、私たち夫婦が離縁することになったとして、その後各方面にどんな影響を与えるか。そして……、もしも本当に、その後アルバート様と結ばれることになったとして……。
ヘイワード公爵家の跡継ぎは、どうなるのだろう。……いや、そこはもう私が考えることじゃないのかな。離縁を言い出すくらいだもの、ラウル様自身が考えているかしら。
けれど。
そうして新たな悩みと向き合うはずだった私の元に、その全てを終わらせる一通の手紙が届いたのだった。
“火急の用件がある。すぐにオールディス侯爵邸に顔を出すように”
アルバート様と温室で会ってから数日後のある日、父から届けられた手紙にはそのような内容が記されていた。……一体何だろう。
様々な可能性に頭を巡らせ不安を抱えながらも、私は返事を出し、その翌週には実家に向かった。
私が到着すると、家令が「旦那様はお部屋でお待ちでございます」と伝えてきた。すぐに父の部屋へ向かおうとすると、
「まぁっ! お義姉さまだわ! おかえりなさぁーい!」
(……はぁ。来たか)
サリアがいつものように体を左右にブリンブリンと振りながら、こちらに向かって一目散に歩いてくる。
「……サリア。いたのね、あなた。今日は学院はお休みなの?」
「え? ……ええ。そうよ。お休みになったの」
(……?)
この子にしては珍しく歯切れが悪いなと少し気にかかったけれど、私が何かを尋ねる間もなく話題をコロリと変えられた。
「ねぇ! それよりもお義姉さま、その後ラウル様とはどうなの? 何か二人の関係に変化はあった? ラウル様、ちゃんと毎日お屋敷に帰ってきてる?」
(……相変わらずズケズケ聞いてくるわね。本当にデリカシーがないんだから……)
「ええ、大丈夫よ。あなたがそんなに気にすることではないわ。悪いんだけど、私お父様から呼ばれているのよ。急ぎの用事があるからって。父の部屋に行くわね」
そうあしらってその場を離れようとすると、サリアがしつこく食いついてきた。
「え? 何かしら、急ぎの用事って。まさか、ラウル様の方から離縁の申し入れがあったんじゃなくて? 違う?」
「……そんなわけないでしょう。あなた、もう少し人に対する気遣いというものを覚えた方がいいわ。そんなに何でも思ったことを口に出していたら、会話をしてくださっているお相手の気持ちを損なうばかりでなく、あなた自身の品性を疑われるわよ。はしたないわ。慎みなさい」
「な……っ!」
ついに私はサリアに対して苦言を呈した。サリアは途端に目を吊り上げて反論してくる。
「おっ、お義姉さまこそちょっとひどいんじゃないの!? 何よその冷たい言い方! あたしはねぇ、家族だからこそ心配してあげてるのよ! 他の人にこんなこと聞くわけがないでしょ!? そんな態度だから、ラウル様もお義姉さまに愛想尽かしちゃったんじゃないの!? だからロージエなんかに盗られちゃうのよ! そんな風に、気取ってて高慢ちきで、偉そうで……! 義妹だからはっきり言ってあげてるのよ! そんなんじゃラウル様に捨てられた後も、きっと誰も貰い手がいないと思うわよ!!」
「……」
本当に、馬鹿な子だなぁ……。
言い返す気力もないし、そもそも相手にしたくない。
私は彼女を無視して通り過ぎ、そのまま父の部屋を目指して階段を上がる。
「逃げるのね! 図星を指されて悔しいんでしょう!? 知らないわよ! このままじゃ本当に、ロージエなんかにラウル様を奪われちゃうんだからね!」
下からサリアの喚き散らす品のない声が聞こえてきたけれど、私は完全に無視した。
(アルバート様が……私のことを、好き……。一人の女性として……、この私を……好き……)
まるっきり予想さえしていなかった、突然の愛の告白。相手は幼い頃から大好きだった、お兄様。しかも、私はまだ既婚者。
(……えっと……。お、落ち着いて。とにかく一旦落ち着くのよ、私)
でも落ち着こうにも……。さっきのアルバート様の想いのこもった言葉や、私の前に跪いた彼の姿。手のひらに押し当てられた唇の感触、そしてあの、私の全身を強く掻き抱くような、熱を帯びた瞳の色。
その何もかもが私を火照らせ、思い出すほどに鼓動が激しくなっていく。頬の熱を冷ましたくて、私は両手をそこに当て何度も深呼吸を繰り返した。ドクドクと暴れ続ける心臓が痛い。
(一度は、夢想したことがあったわ。ラウル様との婚約時代、二人の間の距離があまりにも縮まらなくて精神的に疲れ果てていた時に“お兄様”と再会して、その変わらない優しさと笑顔に癒された時)
あんなに格好良くて優しくて、気遣いのできる素敵な人と結婚できたら、って。だけどその夢想自体がラウル様に失礼だと思って、すぐに頭の中から追い払ったっけ。
けれど現実は、夫となったラウル様の方から失礼じゃ済まされないことをされている。他人の言葉にあっさり騙されて、一方的に私を悪人と決めつけひどい言葉を何度も投げつけられ、白い結婚を強いられ、挙げ句の果てには他の女性と親密になっている。
「……はぁ」
しっかり考えなきゃ。これから先のことを。
もしもラウル様が言い出したとおりに、私たち夫婦が離縁することになったとして、その後各方面にどんな影響を与えるか。そして……、もしも本当に、その後アルバート様と結ばれることになったとして……。
ヘイワード公爵家の跡継ぎは、どうなるのだろう。……いや、そこはもう私が考えることじゃないのかな。離縁を言い出すくらいだもの、ラウル様自身が考えているかしら。
けれど。
そうして新たな悩みと向き合うはずだった私の元に、その全てを終わらせる一通の手紙が届いたのだった。
“火急の用件がある。すぐにオールディス侯爵邸に顔を出すように”
アルバート様と温室で会ってから数日後のある日、父から届けられた手紙にはそのような内容が記されていた。……一体何だろう。
様々な可能性に頭を巡らせ不安を抱えながらも、私は返事を出し、その翌週には実家に向かった。
私が到着すると、家令が「旦那様はお部屋でお待ちでございます」と伝えてきた。すぐに父の部屋へ向かおうとすると、
「まぁっ! お義姉さまだわ! おかえりなさぁーい!」
(……はぁ。来たか)
サリアがいつものように体を左右にブリンブリンと振りながら、こちらに向かって一目散に歩いてくる。
「……サリア。いたのね、あなた。今日は学院はお休みなの?」
「え? ……ええ。そうよ。お休みになったの」
(……?)
この子にしては珍しく歯切れが悪いなと少し気にかかったけれど、私が何かを尋ねる間もなく話題をコロリと変えられた。
「ねぇ! それよりもお義姉さま、その後ラウル様とはどうなの? 何か二人の関係に変化はあった? ラウル様、ちゃんと毎日お屋敷に帰ってきてる?」
(……相変わらずズケズケ聞いてくるわね。本当にデリカシーがないんだから……)
「ええ、大丈夫よ。あなたがそんなに気にすることではないわ。悪いんだけど、私お父様から呼ばれているのよ。急ぎの用事があるからって。父の部屋に行くわね」
そうあしらってその場を離れようとすると、サリアがしつこく食いついてきた。
「え? 何かしら、急ぎの用事って。まさか、ラウル様の方から離縁の申し入れがあったんじゃなくて? 違う?」
「……そんなわけないでしょう。あなた、もう少し人に対する気遣いというものを覚えた方がいいわ。そんなに何でも思ったことを口に出していたら、会話をしてくださっているお相手の気持ちを損なうばかりでなく、あなた自身の品性を疑われるわよ。はしたないわ。慎みなさい」
「な……っ!」
ついに私はサリアに対して苦言を呈した。サリアは途端に目を吊り上げて反論してくる。
「おっ、お義姉さまこそちょっとひどいんじゃないの!? 何よその冷たい言い方! あたしはねぇ、家族だからこそ心配してあげてるのよ! 他の人にこんなこと聞くわけがないでしょ!? そんな態度だから、ラウル様もお義姉さまに愛想尽かしちゃったんじゃないの!? だからロージエなんかに盗られちゃうのよ! そんな風に、気取ってて高慢ちきで、偉そうで……! 義妹だからはっきり言ってあげてるのよ! そんなんじゃラウル様に捨てられた後も、きっと誰も貰い手がいないと思うわよ!!」
「……」
本当に、馬鹿な子だなぁ……。
言い返す気力もないし、そもそも相手にしたくない。
私は彼女を無視して通り過ぎ、そのまま父の部屋を目指して階段を上がる。
「逃げるのね! 図星を指されて悔しいんでしょう!? 知らないわよ! このままじゃ本当に、ロージエなんかにラウル様を奪われちゃうんだからね!」
下からサリアの喚き散らす品のない声が聞こえてきたけれど、私は完全に無視した。
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