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49. 義母娘の密談(※sideサリア)
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扉に耳をくっつけていたあたしは、その場をゆっくりと離れ、足音を忍ばせながら母の私室を目指した。心臓が口から飛び出しそうなほどドクドクと暴れている。興奮のあまり、上手く呼吸ができない。
震える手でドアノブを回し、飛び込むように中に入る。
「サリア、ここに来て。早く」
「はぁ……っ、はぁ……っ! お、おかあさま……っ」
ソファーに腰かけた母が自分の隣を示し、あたしは胸を押さえながらそこに座った。あぁ……すごくドキドキしてる。誰にも見られなくてよかったぁ……。
ソファーに座るやいなや、母はあたしの腕をガシッと掴み、小さな声で急かす。
「それで? 二人は何の話をしていたの? わざわざティファナをここに呼びつけて、人払いをした部屋の中で、一体何を」
「……と、途中からしか聞けなかったし、最初すごく声が小さかったからほとんど分からなかったんだけど……、あのね、お義姉さまがすっごく泣いてたの! あのお義姉さまがよ! ……ふふっ、直前まであんなに偉そうにツーンとしてたくせに。あたしに説教までしてお義父さまの部屋に入っていったのよ。それなのに。あたしには気遣いが足りないとかはしたないとか言っておきながら、自分は子どもみたいに泣きじゃくってたわ。ふふふ。おっかしいんだから……」
「そんなことはどうでもいいから! サリア、聞こえた話の内容を報告してちょうだい」
……何よ。全然どうでもよくないわよ。あの高慢ちきがショックを受けて泣き崩れてたってところが楽しいのに。
「……でね、お義姉さまは、ごめんなさい、私は駄目な娘です、って。お義父さまは、もういい、自分を責めるな、みたいな。そんなやり取りが聞こえてきて、そのうちお義父さまが言ったのよ。離縁させる、とか。こちらから切り捨てるとしよう、とか! ついにお義姉さまとラウル様、離縁することになりそうよ!」
「シーッ。もっと小さな声で。……そう。こちらの思惑通りじゃないの。さすがはあなたね、サリア。おそらくラウル様のお心があなたに大きく傾いて、夫婦の仲が決裂したってところでしょう」
「……え? ……え、ええ」
お母様はニヤリと口角を上げると、この上なく愉快そうにクックッと笑った。
「結構なことじゃないの。娘の夫がヘイワード公爵令息だなんて、鼻が高いわ。学院で他にいい家の子息を掴まえられればと思ったけれど、ヘイワード公爵家に嫁げるならそれが一番いいに決まってるもの。ロージエも案外いい働きをしてくれたのかもしれないわね。わざわざ手間をかけた甲斐があったわ。……ふふ。あとは最後の追い込みよ。サリア、ラウル様がこれ以上オールディス侯爵のご機嫌を損ねないよう、あなたとの仲を上手く悲恋に仕立てていかなくちゃ。あなたはラウル様への秘めた恋心を、本当は死ぬまで隠し通すつもりだった。けれど二人は愛しあってしまった……。ふふ、オールディス侯爵だって、本心ではヘイワード公爵家との縁は切りたくないはずだもの。下の義娘を通して再びヘイワード公爵家との……、」
「お、お母様。それがね、ちょっと想定外のことが起きてるのよ」
「……何よ? 想定外のことって」
あたしが意を決してそう口を開くと、母は怪訝な顔して首を傾げた。
「……はぁ!? 何ですって!?」
「おっ! お母様っ! シーッ! シーーーッ!!」
こめかみに青筋を立てる母を、あたしは急いで制した。
「何の冗談なのよサリア! あのロージエに!? ラウル様が!? 懸想してる、ですって!? ……馬鹿なことを!」
「あ、あたしだってそう思うのよ! でも、こないだロージエと会った時にあの子言ったの。自分とラウル様は愛しあってるって。誰にも渡さないって」
「……。ふ……、ふっふふふ……」
眉を顰めた母は一転して、お腹を抱えて笑いだした。
「ねぇ、冗談もいい加減にしてちょうだい。あのロージエよ? チリチリ赤毛の、そばかすの。あの地味で挙動不審の不細工な小娘が、ティファナやあなたを差し置いてヘイワード公爵令息のご寵愛を受けてるって? ……ふざけないでよ! この期に及んで!」
「だから! あたしもそう言ったのよ! あの子ラウル様みたいな高貴な美男子のそばにいたことなんかないものだから、頭がおかしくなっちゃったんだと思って……」
「そうに決まってるでしょう! もうあの子のことはいいから! 一人で勝手に妄想の世界で遊んでるだけよ。相手にしないで。それよりも……、ここからの動きが大事になってくるわ、サリア。焦ってはダメ。だけど、確実に。重要なことは、あくまで二人の恋は不可抗力だったことを侯爵にアピールすること。いくらヘイワード公爵家との縁を結べたとしても、ここを追い出されたんじゃ意味がないわ。オールディス侯爵家の義娘だからこそ公爵家とのご縁が持てるわけだから。侯爵に二人の恋を打ち明けるタイミングが大事になってくるわ」
「……。ええ……」
言えない。ラウル様からまるっきり相手にもされてない、だなんて。
それに、ずっとあたしたちに従順だったロージエの、あの自信満々な強い態度。
(……。嫌な予感しかしないんだけど……)
まさかね。ラウル様ともあろう方が、ロージエなんかに。
こんな美しい令嬢たちが近くにいるのに、あんな平凡以下の小娘なんかに心惹かれるわけがない。
(……どうにかして、早くラウル様の心を掴まなくちゃ)
会いに行こう。もう一度、しっかりとあたしの存在をアピールしよう。離縁の話が出はじめた今なら、ラウル様もご自分の気持ちに素直になれるかもしれないわ。
今後の計画を嬉々として語る母に相槌を打ちながら、あたしは言いしれぬ不安を打ち消すようにそう考えた。
震える手でドアノブを回し、飛び込むように中に入る。
「サリア、ここに来て。早く」
「はぁ……っ、はぁ……っ! お、おかあさま……っ」
ソファーに腰かけた母が自分の隣を示し、あたしは胸を押さえながらそこに座った。あぁ……すごくドキドキしてる。誰にも見られなくてよかったぁ……。
ソファーに座るやいなや、母はあたしの腕をガシッと掴み、小さな声で急かす。
「それで? 二人は何の話をしていたの? わざわざティファナをここに呼びつけて、人払いをした部屋の中で、一体何を」
「……と、途中からしか聞けなかったし、最初すごく声が小さかったからほとんど分からなかったんだけど……、あのね、お義姉さまがすっごく泣いてたの! あのお義姉さまがよ! ……ふふっ、直前まであんなに偉そうにツーンとしてたくせに。あたしに説教までしてお義父さまの部屋に入っていったのよ。それなのに。あたしには気遣いが足りないとかはしたないとか言っておきながら、自分は子どもみたいに泣きじゃくってたわ。ふふふ。おっかしいんだから……」
「そんなことはどうでもいいから! サリア、聞こえた話の内容を報告してちょうだい」
……何よ。全然どうでもよくないわよ。あの高慢ちきがショックを受けて泣き崩れてたってところが楽しいのに。
「……でね、お義姉さまは、ごめんなさい、私は駄目な娘です、って。お義父さまは、もういい、自分を責めるな、みたいな。そんなやり取りが聞こえてきて、そのうちお義父さまが言ったのよ。離縁させる、とか。こちらから切り捨てるとしよう、とか! ついにお義姉さまとラウル様、離縁することになりそうよ!」
「シーッ。もっと小さな声で。……そう。こちらの思惑通りじゃないの。さすがはあなたね、サリア。おそらくラウル様のお心があなたに大きく傾いて、夫婦の仲が決裂したってところでしょう」
「……え? ……え、ええ」
お母様はニヤリと口角を上げると、この上なく愉快そうにクックッと笑った。
「結構なことじゃないの。娘の夫がヘイワード公爵令息だなんて、鼻が高いわ。学院で他にいい家の子息を掴まえられればと思ったけれど、ヘイワード公爵家に嫁げるならそれが一番いいに決まってるもの。ロージエも案外いい働きをしてくれたのかもしれないわね。わざわざ手間をかけた甲斐があったわ。……ふふ。あとは最後の追い込みよ。サリア、ラウル様がこれ以上オールディス侯爵のご機嫌を損ねないよう、あなたとの仲を上手く悲恋に仕立てていかなくちゃ。あなたはラウル様への秘めた恋心を、本当は死ぬまで隠し通すつもりだった。けれど二人は愛しあってしまった……。ふふ、オールディス侯爵だって、本心ではヘイワード公爵家との縁は切りたくないはずだもの。下の義娘を通して再びヘイワード公爵家との……、」
「お、お母様。それがね、ちょっと想定外のことが起きてるのよ」
「……何よ? 想定外のことって」
あたしが意を決してそう口を開くと、母は怪訝な顔して首を傾げた。
「……はぁ!? 何ですって!?」
「おっ! お母様っ! シーッ! シーーーッ!!」
こめかみに青筋を立てる母を、あたしは急いで制した。
「何の冗談なのよサリア! あのロージエに!? ラウル様が!? 懸想してる、ですって!? ……馬鹿なことを!」
「あ、あたしだってそう思うのよ! でも、こないだロージエと会った時にあの子言ったの。自分とラウル様は愛しあってるって。誰にも渡さないって」
「……。ふ……、ふっふふふ……」
眉を顰めた母は一転して、お腹を抱えて笑いだした。
「ねぇ、冗談もいい加減にしてちょうだい。あのロージエよ? チリチリ赤毛の、そばかすの。あの地味で挙動不審の不細工な小娘が、ティファナやあなたを差し置いてヘイワード公爵令息のご寵愛を受けてるって? ……ふざけないでよ! この期に及んで!」
「だから! あたしもそう言ったのよ! あの子ラウル様みたいな高貴な美男子のそばにいたことなんかないものだから、頭がおかしくなっちゃったんだと思って……」
「そうに決まってるでしょう! もうあの子のことはいいから! 一人で勝手に妄想の世界で遊んでるだけよ。相手にしないで。それよりも……、ここからの動きが大事になってくるわ、サリア。焦ってはダメ。だけど、確実に。重要なことは、あくまで二人の恋は不可抗力だったことを侯爵にアピールすること。いくらヘイワード公爵家との縁を結べたとしても、ここを追い出されたんじゃ意味がないわ。オールディス侯爵家の義娘だからこそ公爵家とのご縁が持てるわけだから。侯爵に二人の恋を打ち明けるタイミングが大事になってくるわ」
「……。ええ……」
言えない。ラウル様からまるっきり相手にもされてない、だなんて。
それに、ずっとあたしたちに従順だったロージエの、あの自信満々な強い態度。
(……。嫌な予感しかしないんだけど……)
まさかね。ラウル様ともあろう方が、ロージエなんかに。
こんな美しい令嬢たちが近くにいるのに、あんな平凡以下の小娘なんかに心惹かれるわけがない。
(……どうにかして、早くラウル様の心を掴まなくちゃ)
会いに行こう。もう一度、しっかりとあたしの存在をアピールしよう。離縁の話が出はじめた今なら、ラウル様もご自分の気持ちに素直になれるかもしれないわ。
今後の計画を嬉々として語る母に相槌を打ちながら、あたしは言いしれぬ不安を打ち消すようにそう考えた。
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