【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

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50. 離縁に向けて

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(……まさかお父様が、あんなに私の気持ちを大事に考えてくれるなんて……)

 あれから実家に一泊し、ひとまずヘイワード公爵邸に戻った私は、後日自室でぼんやりと父とのやり取りのことを考えていた。

 どこの貴族家も似たようなものだろうけれど、私と父は、これまであんな風に腹を割って話をしたことがなかった。幼少の頃からの淑女教育により、家にとって最も有益な相手と結婚すること、口答えをせず、両親の命じるままに生きる道を決めることは至極当然のことだと思っていた。私の感情などは、二の次だと。
 けれど父は、ラウル様と私との結婚を決めたのは、実直で優秀な彼が私を幸せにしてくれると思ったからだと。私に辛い思いを強いてまで結婚生活を続けることに意味はない、そんなことをすれば天国のお母様も嘆くだろうと。……そうまで言ってくれた。

(私って、本当に両親に愛されていたのね……)

 これまでもその愛情を疑ったことはなかったけれど、私が認識していたよりはるかに、父と母の愛は深かったらしい。もちろん、侯爵家の娘として望みうる限り最高のお相手の元へ……という思いはあったのだろうけど。

(王太子殿下の婚約者候補として勉強を重ねていた日々は、私も両親の期待に応えたい一心で前向きに取り組んでいたけれど、もしも途中で私が、あんな人の妃になんかなりたくないっ! て我が儘を言っていたら、どうなったかしらね。……きっとものすごく困らせただろうな。ふふ……)

 大切に思ってくれてありがとう、お父様、お母様。

 しみじみと感謝する一方で、やはり離縁することになってしまい、これから父をわずらわせるであろうこの状況に気分は沈むばかりだった。

 そんな中、またも王妃陛下からお茶会の招待状が届いた。

(ええと……、前回はカナリアイエローのあのドレスで行ったし、その前はスカイブルーのドレスだったわよね)

 立て続けに同じようなドレスばかり選ばないようにしなくてはならない。私は侍女たちにサーモンピンクのドレスと、それに合うアクセサリーを数点指示し、準備と着付けをしてもらった。



「ヘイワード公爵家での生活はいかが? ティファナさん。公爵令息との仲は順調かしら」
「……はい、王妃陛下。つつがなく。公爵領の経営に関する仕事は多岐に渡り、日々が新たな勉強ばかりですわ」
「そう。あなたなら大丈夫よ。きっと立派なヘイワード公爵夫人になることでしょうね」

 王妃陛下のお言葉に曖昧に微笑みを返す。
 私とラウル様が離縁するつもりであることは、今はまだ私と父しか知らない。ヘイワード公爵は外交業務の真っ最中で、帰国の予定は数週間先。公爵がお戻りになってから、夫妻に直接話をすると父は言っていた。
 だからラウル様はまだ何も知らない。私の父の元にブライト男爵が訪れて、ロージエさんの妊娠のことを告げ、彼女をラウル様の愛妾にするよう申し出てきたことも。

(……ま、向こうは向こうでロージエさんやブライト男爵から直接聞いているかもしれないけどね。何せ夫婦の会話がまるっきりないものだから、あちらがどんな状況かなんて私には分からないもの。もう興味もないし)

 それに、そもそも離縁の話は向こうが先に申し出てきたこと。伝えようが伝えまいが、別に彼は困りもしないだろうし。

 その後も王妃陛下とご令嬢方のいつもの茶会は和やかに進み、終わった後、私はまたいつものようにカトリーナと二人で庭園に向かったのだった。カトリーナにだけは、先に話しておいてもいいかしら。そんなことを考えながら。

 けれど。

「……っ!」
「あら、アルバート王弟殿下。ごきげんよう。もしかして……、私たちがここへ来ることを見透かしていらっしゃいました?」

 庭園には、私たちより先にアルバート様がいたのだった。途端に先日の温室でのことを思い出し、私の体温が一気に上がる。

(……やだ、私ったら。落ち着くのよ。また顔が赤くなってしまうじゃないの)

 そう自分に言い聞かせながら努めて平静を装おうとするけれど、こちらを見つめるアルバート様の優しい視線に、あの日の求愛を思い出してしまう……。

「ああ。きっと茶会の後はここだろうと思ってね。……元気かい? ティファナ」
「は、はい。ごきげんよう、アルバート様」
「……? 何をそんなに緊張してるの? ティファナ」

 挙動不審になってしまう私をジッと見つめながら、カトリーナが不思議そうに言う。

「き、気にしないで」
「……?」

 アルバート様はそんな私たちのやり取りを見ながらクスリと笑った。



「まぁ……! そんなことがあったの? ひどいわね……。そのブライト男爵という方の話が真実にせよ虚言にせよ、オールディス侯爵を巻き込んでしまった以上、もうあなたとヘイワード公爵令息との関係を誤魔化すことはできなくなってしまったわけね」

 カトリーナとアルバート様の二人に先日の出来事を話すと、カトリーナは目を丸くしてから難しい顔になりそう言った。

「ええ……。父が案外あっさりと離婚するよう背中を押してくれたから、私の気持ちはだいぶ楽にはなったけど……。どうしても申し訳なさは拭えないわね。父は私を責めなかったけれど、また失望させてしまって」
「そんな風に思ってはダメよ。侯爵も仰ったのでしょう? あなたの幸せこそが大切なんだって。素晴らしいお父様じゃないの。その思いに応えるためにも、あなたは笑っていなくちゃ。ね? アルバート王弟殿下もそうお思いになるでしょう?」

 カトリーナがそう言って同意を求めると、今まで黙って私たち二人の会話を聞いていたアルバート様がニコニコしていることに気付いた。カトリーナがまた怪訝そうな声を出す。

「……何をそんなに嬉しそうにしていらっしゃいますの? 殿下」
「いや、あまりにも俺にとって都合のいいように物事が進んでいるものだからさ。いいじゃないか。オールディス侯爵も君たちの離縁に賛成してくれている。ということは、あとは俺がティファナの気持ちを掴んで、陛下と侯爵に許しを得られれば、俺はティファナを妻にすることができる。……頑張るよ、ティファナ」
「……アルバート様……」

 私の顔を覗き込むようにしてそう言うアルバート様と、真っ赤になって俯く私。

「……え? ……えぇっ? まぁっ!」

 カトリーナはそんな私たちを見比べながら、口元を手で覆って驚きの声を上げていた。






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