【完結済】結婚式の夜、突然豹変した夫に白い結婚を言い渡されました

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62. 祝賀パーティーの夜

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 歴史あるリデール王国の、建国記念の祝賀パーティー。
 国中から大勢の貴族たちが王宮に集まり、王国の繁栄と末永い平和を祈り讃える、大切な夜。
 そして、今夜はこの私にとっても、人生で最も特別な夜になるのだろう。

「……最高に美しいよ、ティファナ。目が眩みそうだ」
「ふふ。ありがとうございます、アルバート様。こんなに素敵なドレスを着たのは初めてです。それに……アルバート様も、とても素敵……です」

 王宮を出てわざわざこのオールディス侯爵家の別邸まで迎えに来てくださったアルバート様に、私は照れながらそう答えた。
 
 今夜のためにアルバート様から贈られたのは、彼の瞳の色と同じアクアマリンブルーの華やかなドレスだった。王室御用達ブランドのそのドレスは、最高級の生地やレースが惜しみなく使われた逸品だ。オールディス侯爵家の娘である私は、幼い頃からそれなりに質の良いものを身に着けてきたけれど、今夜のドレスはさらに別格だった。

「ありがとう、ティファナ。本当は一から仕立てたものを君に贈りたかったんだけど、今回は時間が足りなさすぎた。まぁ、ティファナにドレスを贈る機会は、これからいくらでもあるからね、幸運なことに」

 そう言って美しく微笑むアルバート様の色気に、心臓がトクンと跳ねる。……今夜のアルバート様はいつにも増して素敵だった。王族が式典で着用する礼服のところどころにはアメジストの装飾が施され、紫色の糸で施された刺繍まで。それらは明らかに私の瞳の色をイメージしたもので、こうして二人並ぶと、互いの想いが周囲に伝わらないはずがなかった。

 私はアルバート様のものであり、そしてアルバート様は、私を深く愛してくださっているのだと。

「そろそろ行こうか、ティファナ。……おいで」
「はい」

 差し出された手にそっと自分の手を重ね、私は幸せを噛みしめながら彼と共に歩き出した。

 わざわざ別邸で今夜の準備をしたのは、もちろん義母と義妹の目を避けるため。アルバート様にエスコートされているところなど彼女たちに見られたら、どれほど大騒ぎされるか分かったものじゃない。
 会場で発表するまで、誰にも知られなくていいと思った。

 昨日、ヘイワード公爵が我がオールディス侯爵邸を訪れた。父と二人きりで、長い時間何やら話をしていたようだった。そして公爵が帰られた後、私は父の部屋に呼ばれた。

『公爵には全てを話した。ラウル殿から突きつけられた離縁状も、すでに役所に提出済みであることもな。ラウル殿の不貞と暴力を、公爵は心底詫びておられた。こちらへの慰謝料は言い値で支払うと。それとな……イヴェルとは離縁する』
『……は、はい? なぜ、突然お父様とお義母さまとの離縁のお話が……?』
『まぁ、その辺りは後日ゆっくり話そう。ひとまずは明日の祝賀パーティーを無事に終えてからだ。お前はそちらに集中しなさい』
『……はい……』

 奥歯に物が挟まったような父の話し方が気にはなったけれど、たしかに今の私にはいろいろと考えている余裕はない。パーティーでの私とアルバート様の婚約発表で頭の中はいっぱいいっぱいだった。



  ◇ ◇ ◇



「少し遅くなってしまったな。時間ギリギリだ」

 私とアルバート様を乗せた馬車が王宮に到着した時には、もうすでに大勢の貴族たちが、会場となる大広間に集まっていた。色とりどりの衣装に身を包んだ高貴な人々ときらびやかな光に彩られ、王宮はまるで真昼のような明るさだった。建国記念の日を祝う大広間は、圧倒されるほどの華やかさだ。

「オールディス侯爵も他の面々も、もう中にいるだろうね。……さぁ、おいでティファナ。今夜は俺のそばを決して離れないでおくれ」
「は、はい、アルバート様」

 大広間に入る前、差し出されたその腕にそっと手を添えながら、私は少し上擦った声で返事をする。アルバート様が気遣うように私の顔を覗き込んだ。

「……緊張しているの? ティファナにしては珍しいね。王宮でのパーティーなど、慣れたものだろう」
「で、ですが……っ、今夜は訳が違いますわ。だって、これから私たちの……」

 私が訴えていることが分かったらしいアルバート様は、この上なく優しい瞳で私を見つめて言った。

「ふ……。ああ、そうだね。今夜この場で、俺たちの婚約を発表するのだから。……まさか本当に、こんな日を迎えられるなんて……。感無量だよ」
「ア、アルバート様……」
「大丈夫だ。君は何も心配せず、ただ俺の隣にいてくれればいい。これからは何もかもが上手くいくよ」
「……はい」

 アルバート様のその言葉は、まるで呪文のように私の心を落ち着かせてくれた。
 隣にいる頼もしい人に寄り添い、私は大広間の扉をくぐった。

 ひしめくほど大勢集まっていたきらびやかな装いの人々が、私たちの存在に気付きはじめる。
 そこかしこでにぎやかに繰り広げられていた談笑の声は徐々に静まっていき、やがて会場全員の視線が私とアルバート様の元へと集まった。






 
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