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64. 何が起こっている?(※sideラウル)
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ヘイワード公爵家からの追放……。
この私に、貴族籍から抜け平民として生きていけと、父上はそう仰るのか。
自分の過ちはもちろん理解している。ティファナを切り捨て、あのロージエなどにうつつを抜かした私は大馬鹿者だ。分かっている。
だが……、だからと言って突然ヘイワード公爵家から見捨てられてしまっては、一体どうやって生きていけばいい。
無理に決まっている。どうにかしなければ。ティファナの許しを請い、私の元に戻ってきてもらい、父の怒りを収めるしかない……!
今さら虫のいい話であることは百も承知だが、とにかく誠心誠意ティファナに謝罪し、もう一度やり直して欲しいと懇願しよう。それしかない。
私は王宮での祝賀パーティーに全てを賭けることにした。どんなに邪険にされようとも、どんなにみっともなかろうともティファナに縋りつくんだ。何度でも謝り、私が心から反省し、改心したことを信じてもらう。
そう意気込んで臨んだパーティーだった。
両親はもう私のことを完全に見捨ててしまっている。王宮へ向かう馬車の中でも、父は私に目もくれなかった。母は何度もため息をつきながら、時折私と目が合うと嫌な顔をして視線を外す。その表情の中に、悲しみ、失望、諦め……様々な感情が見てとれた。そして、私を庇い父に抗議しようとは微塵も考えてくれていないことが分かった。
大広間に入り、真っ先にティファナの姿を探す。オールディス侯爵たちと一緒にいるはずだ……。たとえ侯爵から睨みつけられ追い払われても、絶対にティファナと話をさせてもらう。
知人たちへの挨拶もそこそこに、私は会場中をくまなく探す。きっと血走った、切羽詰まった目つきをしていることだろう。だが体裁を気にしている余裕はない。最後のチャンスだ。もう今夜しかないのだから。
(……おかしい……。何故いないんだ。到着が遅れているのか……? まさか、不参加ということはないだろうし……)
会場を大勢の列席者たちが埋め尽くす頃になっても、ティファナの姿は現れない。どうしようもなく気が焦る。どうしよう。まさか、体調を崩して不参加なんてことには……。
その時、入り口から厳しい表情をしたオールディス侯爵が入ってくるのが見えた。何を考える暇もなく、私は早足で侯爵の元へと歩み寄る。
「オ、オールディス侯爵……」
「……」
侯爵は私を一瞥したが、まるで興味がないといった風に視線を逸らしスタスタと歩いていく。私は焦って後を追った。侯爵が他の者たちと挨拶をはじめてしまう前に、どうしても話したかった。
「お、お待ち申し上げておりました。随分とお見えにならないので……」
「……。陛下と話をしておった。報告すべきことや打ち合わせがあったからな」
その言葉に、とてつもなく嫌な予感がした。一体何の報告や打ち合わせがあるのだろうか。
だが私はあえてスルーした。受け入れがたい話を耳が拒絶するかのように。
「ティファナ嬢はどこに……? まだ姿が見えないようですが。今宵は、列席するのですよね」
「……私たちとは来ておらん」
……? どういう意味だ? ではティファナは、誰と来るのだろうか。
気にはなったが、侯爵の冷たい態度はこれ以上この話題を続けることを拒んでおり、だが簡単に引き下がることのできない私はひとまず謝罪をしようと考えた。
「侯爵、どうか私の話を聞いていただけませんか。結婚以来、ティファナ嬢を無碍に扱ったきたことに対しては心の底から謝罪いたします。私は……騙されていたのです。私の心が弱かったばかりに、取るに足らぬ者の虚言や甘言を真に受けてしまいました。……今後は、心を入れ替えます。ティファナ嬢と手を取り合い、生涯良き夫婦として歩んでいけるよう……」
私がそこまで話すと、こちらを無視していた侯爵が突然はっ、と声を出して笑った。驚いて口をつぐむと、侯爵は足を止め、侮蔑をあらわにした顔で私をジッと見据えた。
「我が娘と、良き夫婦として、だと? 貴殿はヘイワード公爵閣下から何も聞かされておらんのだな。もはや話す価値もなしと見なされたのか」
「……は……?」
「まぁ、それも当然であろうな。公爵閣下とて、王家を敵に回したくなどないに決まっている。それくらいならば愚かな息子の一人を切り捨てる方を選択をするだろうな。私でもそうする」
「……オ……オールディス侯爵……」
「我がオールディス侯爵家はもう貴殿に用はない。今後一切近付いてくれるな。我が家へ支払う慰謝料の件は、公爵閣下とよく話し合ってくれたまえ。失礼」
それだけ言い捨てると、オールディス侯爵はあ然とする私を置いて他の貴族連中のところへと行ってしまった。そしてたった今まで私に見せていた冷ややかな表情とは全く違う紳士の顔で、列席者たちと歓談をはじめた。
「……っ、」
ゴクリ、と喉が鳴る。何だ、今の言葉は。どういう意味だ。何の話だ。
呆然としながらその場に留まり、頭の中で何度も何度もオールディス侯爵の言葉を思い返していると、ふいに会場全体が静まり返った。
(……?)
王家の方々が姿を現したのかと思い、入り口の方に視線を送る。そこにいたのは、アルバート王弟殿下と……
私のティファナだった。
「…………え?」
思わず声が漏れる。
ティファナは何故だかアルバート王弟殿下にエスコートされ、この大広間に姿を現したのだ。それも、とても幸せそうな表情で。
アルバート殿下は自分に寄り添うティファナに時折優しい視線を送りながら、大切そうに彼女をエスコートしている。
そしてティファナは、この上なく美しい笑みを浮かべたまま、アルバート殿下の腕に手を添え悠然と広間の中を進んでいく。
彼女の身に着けているドレスは華やかなアクアマリンブルーで、細かく施された刺繍や幾重にも重ねられた繊細なレース、そして惜しみなくあしらわれた小さなパールやダイヤモンドの装飾によって目も眩むほどの美しさだった。対してアルバート殿下は王族のみが着用する礼服をまとい、そのところどころにティファナの瞳の色であるアメジスト色の刺繍や装飾が施されている。
まるで絵画から抜け出してきたかのような、美しい似合いの二人だった。
(何が……起こっているんだ……?)
訳も分からず、私はただ呆然と二人の姿を見ていた。周囲の貴族たちの中には、私の方にチラチラと視線を送ってくる者もいたが、構っている余裕はない。
するとその時、近くにいた令嬢たちの会話が耳に飛び込んできた。
「素敵ね……! お似合いだわ、王弟殿下とティファナ様……」
「ええ、本当に」
「え? どういうことなの? だってオールディス侯爵令嬢は、ヘイワード公爵家の……」
「あら、あなたまだご存知ないのね。事情はよく分からないけれど、ティファナ様は王弟殿下とご婚約なさったのだそうよ」
「まぁっ……! そうだったの? 一体何があったのかしら。……え? では、ヘイワード公爵令息様とは、もう……?」
「ええ。そのようよ」
神経を集中させそれらの会話を聞きながら、私の全身にはびっしょりと汗が浮かんでいた。まさか。まさか。どういうことだ。何故。いつの間に!?
ブルブルと震える足でどうにかその場に留まっていた私は、いつの間にか王家の方々が入場していることにも気付かなかった。やがて国王陛下が、受け入れがたい宣言をする。
「そして、今宵は一つ皆に大切な知らせがある。ここにいる王弟アルバート・リデールと、オールディス侯爵家の令嬢ティファナが婚約を結んだ。ティファナ嬢は先日までヘイワード公爵家のラウルと婚姻関係にあったが、諸般の事情により────」
会場中から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった時。
全身の力が抜けた私は、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
こめかみから汗が一筋流れ落ちた。
この私に、貴族籍から抜け平民として生きていけと、父上はそう仰るのか。
自分の過ちはもちろん理解している。ティファナを切り捨て、あのロージエなどにうつつを抜かした私は大馬鹿者だ。分かっている。
だが……、だからと言って突然ヘイワード公爵家から見捨てられてしまっては、一体どうやって生きていけばいい。
無理に決まっている。どうにかしなければ。ティファナの許しを請い、私の元に戻ってきてもらい、父の怒りを収めるしかない……!
今さら虫のいい話であることは百も承知だが、とにかく誠心誠意ティファナに謝罪し、もう一度やり直して欲しいと懇願しよう。それしかない。
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そう意気込んで臨んだパーティーだった。
両親はもう私のことを完全に見捨ててしまっている。王宮へ向かう馬車の中でも、父は私に目もくれなかった。母は何度もため息をつきながら、時折私と目が合うと嫌な顔をして視線を外す。その表情の中に、悲しみ、失望、諦め……様々な感情が見てとれた。そして、私を庇い父に抗議しようとは微塵も考えてくれていないことが分かった。
大広間に入り、真っ先にティファナの姿を探す。オールディス侯爵たちと一緒にいるはずだ……。たとえ侯爵から睨みつけられ追い払われても、絶対にティファナと話をさせてもらう。
知人たちへの挨拶もそこそこに、私は会場中をくまなく探す。きっと血走った、切羽詰まった目つきをしていることだろう。だが体裁を気にしている余裕はない。最後のチャンスだ。もう今夜しかないのだから。
(……おかしい……。何故いないんだ。到着が遅れているのか……? まさか、不参加ということはないだろうし……)
会場を大勢の列席者たちが埋め尽くす頃になっても、ティファナの姿は現れない。どうしようもなく気が焦る。どうしよう。まさか、体調を崩して不参加なんてことには……。
その時、入り口から厳しい表情をしたオールディス侯爵が入ってくるのが見えた。何を考える暇もなく、私は早足で侯爵の元へと歩み寄る。
「オ、オールディス侯爵……」
「……」
侯爵は私を一瞥したが、まるで興味がないといった風に視線を逸らしスタスタと歩いていく。私は焦って後を追った。侯爵が他の者たちと挨拶をはじめてしまう前に、どうしても話したかった。
「お、お待ち申し上げておりました。随分とお見えにならないので……」
「……。陛下と話をしておった。報告すべきことや打ち合わせがあったからな」
その言葉に、とてつもなく嫌な予感がした。一体何の報告や打ち合わせがあるのだろうか。
だが私はあえてスルーした。受け入れがたい話を耳が拒絶するかのように。
「ティファナ嬢はどこに……? まだ姿が見えないようですが。今宵は、列席するのですよね」
「……私たちとは来ておらん」
……? どういう意味だ? ではティファナは、誰と来るのだろうか。
気にはなったが、侯爵の冷たい態度はこれ以上この話題を続けることを拒んでおり、だが簡単に引き下がることのできない私はひとまず謝罪をしようと考えた。
「侯爵、どうか私の話を聞いていただけませんか。結婚以来、ティファナ嬢を無碍に扱ったきたことに対しては心の底から謝罪いたします。私は……騙されていたのです。私の心が弱かったばかりに、取るに足らぬ者の虚言や甘言を真に受けてしまいました。……今後は、心を入れ替えます。ティファナ嬢と手を取り合い、生涯良き夫婦として歩んでいけるよう……」
私がそこまで話すと、こちらを無視していた侯爵が突然はっ、と声を出して笑った。驚いて口をつぐむと、侯爵は足を止め、侮蔑をあらわにした顔で私をジッと見据えた。
「我が娘と、良き夫婦として、だと? 貴殿はヘイワード公爵閣下から何も聞かされておらんのだな。もはや話す価値もなしと見なされたのか」
「……は……?」
「まぁ、それも当然であろうな。公爵閣下とて、王家を敵に回したくなどないに決まっている。それくらいならば愚かな息子の一人を切り捨てる方を選択をするだろうな。私でもそうする」
「……オ……オールディス侯爵……」
「我がオールディス侯爵家はもう貴殿に用はない。今後一切近付いてくれるな。我が家へ支払う慰謝料の件は、公爵閣下とよく話し合ってくれたまえ。失礼」
それだけ言い捨てると、オールディス侯爵はあ然とする私を置いて他の貴族連中のところへと行ってしまった。そしてたった今まで私に見せていた冷ややかな表情とは全く違う紳士の顔で、列席者たちと歓談をはじめた。
「……っ、」
ゴクリ、と喉が鳴る。何だ、今の言葉は。どういう意味だ。何の話だ。
呆然としながらその場に留まり、頭の中で何度も何度もオールディス侯爵の言葉を思い返していると、ふいに会場全体が静まり返った。
(……?)
王家の方々が姿を現したのかと思い、入り口の方に視線を送る。そこにいたのは、アルバート王弟殿下と……
私のティファナだった。
「…………え?」
思わず声が漏れる。
ティファナは何故だかアルバート王弟殿下にエスコートされ、この大広間に姿を現したのだ。それも、とても幸せそうな表情で。
アルバート殿下は自分に寄り添うティファナに時折優しい視線を送りながら、大切そうに彼女をエスコートしている。
そしてティファナは、この上なく美しい笑みを浮かべたまま、アルバート殿下の腕に手を添え悠然と広間の中を進んでいく。
彼女の身に着けているドレスは華やかなアクアマリンブルーで、細かく施された刺繍や幾重にも重ねられた繊細なレース、そして惜しみなくあしらわれた小さなパールやダイヤモンドの装飾によって目も眩むほどの美しさだった。対してアルバート殿下は王族のみが着用する礼服をまとい、そのところどころにティファナの瞳の色であるアメジスト色の刺繍や装飾が施されている。
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(何が……起こっているんだ……?)
訳も分からず、私はただ呆然と二人の姿を見ていた。周囲の貴族たちの中には、私の方にチラチラと視線を送ってくる者もいたが、構っている余裕はない。
するとその時、近くにいた令嬢たちの会話が耳に飛び込んできた。
「素敵ね……! お似合いだわ、王弟殿下とティファナ様……」
「ええ、本当に」
「え? どういうことなの? だってオールディス侯爵令嬢は、ヘイワード公爵家の……」
「あら、あなたまだご存知ないのね。事情はよく分からないけれど、ティファナ様は王弟殿下とご婚約なさったのだそうよ」
「まぁっ……! そうだったの? 一体何があったのかしら。……え? では、ヘイワード公爵令息様とは、もう……?」
「ええ。そのようよ」
神経を集中させそれらの会話を聞きながら、私の全身にはびっしょりと汗が浮かんでいた。まさか。まさか。どういうことだ。何故。いつの間に!?
ブルブルと震える足でどうにかその場に留まっていた私は、いつの間にか王家の方々が入場していることにも気付かなかった。やがて国王陛下が、受け入れがたい宣言をする。
「そして、今宵は一つ皆に大切な知らせがある。ここにいる王弟アルバート・リデールと、オールディス侯爵家の令嬢ティファナが婚約を結んだ。ティファナ嬢は先日までヘイワード公爵家のラウルと婚姻関係にあったが、諸般の事情により────」
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