67 / 74
66. 怒涛の展開
しおりを挟む
王宮で開かれた建国記念の祝賀パーティーの直後から、私を取り巻く周囲の人々の状況は目まぐるしく変化した。
まずは先日まで私の夫だった、ラウル・ヘイワード公爵令息。彼はパーティーの後、ヘイワード公爵家から追放され貴族籍を失った。それと同時に社交界に知れ渡ったのが、夫婦だった頃の彼の私に対するひどい仕打ちや、ブライト男爵家の令嬢との不貞行為のこと。あのパーティーの場では私とアルバート様との婚約発表を狐につままれたような心地で聞いていたはずの人々も、今ではすっかり納得しているらしい。
ヘイワード公爵は我がオールディス侯爵家へのけじめとして多額の慰謝料を支払ってくれたのと同時に、ラウル様との親子の縁をばっさりと切ってしまった。ラウル様は実の父親から捨てられたのだ。
『あれのことは、もう息子とは思っておらん。本来ならばあれに市井で働かせ、ティファナ嬢を傷つけオールディス侯爵家に無礼を働いた慰謝料を自身で支払わせるべきだが……どうせ奴にそんな甲斐性はない。文官の仕事も解雇されておるし、私の後ろ盾なくして一から人生を立て直し軌道に乗るまで何十年かかるか知れたものじゃない。いや、下手をすればこのままどこかで野垂れ死にだろう。我々ヘイワード公爵家の者も、もう奴とはきっぱり縁を切る道を選んだ。……辛い思いをさせて本当にすまなかった、ティファナ嬢』
ヘイワード公爵は私の前でそう謝罪してくれたのだった。公爵家は次男のベネディクト様が、その後を継ぐことになりそうだ。
そして義母イヴェルと義妹サリアは、このオールディス侯爵家から去ることとなった。もちろんサリアを編入させていた名門リデール王立学院は、すでに父が退学の手続きを済ませてある。今二人は泣く泣く荷造りをしながら、どうにか父の気持ちを変えられないかと何度も縋りつき謝罪を繰り返しているようだ。父は全く聞く耳を持たないみたいだけれど。
後から聞かされ驚いたことに、ラウル様にロージエさんをけしかけたのは、なんと義母のイヴェルだったのだ。ロージエさんが王宮勤めをするようになるまでの経緯を父から聞かされた私は、あ然とした。
「で……では、お義母さま……いえ、イヴェルさんは、ガラッド子爵が存命のうちに様々な書類を偽造していたと……?」
「偽造と言えば、偽造だな。子爵の頭がはっきりしなくなってきた頃に適当なことを言っては、後々自分が使えそうな書類に無理矢理サインをさせていたらしい。恐ろしい女だ。当然そんな書類で採用されたブライト男爵令嬢ももう王宮での職は失っておる。それどころか職員から尋問され、執務室でラウル殿と不貞行為を繰り返していたことまで白状したらしいぞ。……社交界にその醜聞が広まるのも時間の問題だな」
「……」
ラウル様が勘当されたと知って焦ったブライト男爵は、ヘイワード公爵家を訪れ「娘のことはどうしてくれるのか」と公爵に直談判したらしい。けれど公爵は「アレはもううちの息子ではないのでこちらは関係ない。当人同士で話し合ってくれ」と追い返したのだとか。
父は苦々しい表情で言う。
「イヴェルはブライト男爵と長年の愛人関係にあるらしい。うだつの上がらんブライト男爵を世話してやるために、これまでも裕福な男たちと関係を持っては援助を受けていたようだ。そして貴族の男たちの後妻にまでなった」
「……そ……そう、ですか」
「私も間抜けな男だな」
「…………」
どんな慰めの言葉も今の父の心を抉ってしまいそうなので、私は黙っておいた。
ブライト男爵とイヴェルさんは、これからどうするのだろう。父はブライト男爵家にも容赦なく多額の慰謝料を請求している。互いに一文無しとなった今、市井の片隅で支え合って生きていくのだろうか。サリアやロージエさんも一緒に……?
(その組み合わせで生活を共にするなんて、なんだか地獄絵図だわ……)
もしかしたら、そこにラウル様も加わったりして。
しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。
なんとカトリーナとダミアン王太子殿下の婚約が破棄され、その件でサリアがエーメリー公爵家から訴えられたのだ。
イヴェルさんとサリアがこのオールディスの屋敷を出て行ってから数週間後、突然父からそんな追加情報を与えられた私は、しばし呆然とした。
「……分かるように説明してくださいませんか、お父様……。サリアは一体何をしでかしましたの……?」
父は特大のため息をつくと、眉間の皺を指先でグリグリと揉みほぐしながら語りはじめた。
「建国記念の祝賀パーティーの夜、ダミアン王太子殿下とサリアは関係を持ったらしい」
「……っ!! な……」
嘘でしょう……?
父のその言葉だけで、私はすでにめまいがした。
父はさらに続ける。
「それ以来二人は秘密裏に逢瀬を重ねていたようだ。だが先日、よりにもよってエーメリー公爵家のカトリーナ嬢が二人のその現場を目撃してしまった。カトリーナ嬢は穏便に済ませようとしたらしいが、ダミアン王太子殿下の方から婚約破棄を申し渡してきたと。国王陛下に通すことなく、王太子殿下の一存ですでに手続きも済ませてしまったそうだ」
「……そんな馬鹿げた話……信じられません……」
目の前が暗くなっていく。
私もカトリーナも、そして他家の令嬢たちも、皆幼少の頃から必死で王太子殿下の婚約者の座を競い合った。それぞれの家にとっても、家名を賭けての戦いだったのだ。その中でも特に、カトリーナは血の滲むような努力を続けてきた。
それなのに……
まずは先日まで私の夫だった、ラウル・ヘイワード公爵令息。彼はパーティーの後、ヘイワード公爵家から追放され貴族籍を失った。それと同時に社交界に知れ渡ったのが、夫婦だった頃の彼の私に対するひどい仕打ちや、ブライト男爵家の令嬢との不貞行為のこと。あのパーティーの場では私とアルバート様との婚約発表を狐につままれたような心地で聞いていたはずの人々も、今ではすっかり納得しているらしい。
ヘイワード公爵は我がオールディス侯爵家へのけじめとして多額の慰謝料を支払ってくれたのと同時に、ラウル様との親子の縁をばっさりと切ってしまった。ラウル様は実の父親から捨てられたのだ。
『あれのことは、もう息子とは思っておらん。本来ならばあれに市井で働かせ、ティファナ嬢を傷つけオールディス侯爵家に無礼を働いた慰謝料を自身で支払わせるべきだが……どうせ奴にそんな甲斐性はない。文官の仕事も解雇されておるし、私の後ろ盾なくして一から人生を立て直し軌道に乗るまで何十年かかるか知れたものじゃない。いや、下手をすればこのままどこかで野垂れ死にだろう。我々ヘイワード公爵家の者も、もう奴とはきっぱり縁を切る道を選んだ。……辛い思いをさせて本当にすまなかった、ティファナ嬢』
ヘイワード公爵は私の前でそう謝罪してくれたのだった。公爵家は次男のベネディクト様が、その後を継ぐことになりそうだ。
そして義母イヴェルと義妹サリアは、このオールディス侯爵家から去ることとなった。もちろんサリアを編入させていた名門リデール王立学院は、すでに父が退学の手続きを済ませてある。今二人は泣く泣く荷造りをしながら、どうにか父の気持ちを変えられないかと何度も縋りつき謝罪を繰り返しているようだ。父は全く聞く耳を持たないみたいだけれど。
後から聞かされ驚いたことに、ラウル様にロージエさんをけしかけたのは、なんと義母のイヴェルだったのだ。ロージエさんが王宮勤めをするようになるまでの経緯を父から聞かされた私は、あ然とした。
「で……では、お義母さま……いえ、イヴェルさんは、ガラッド子爵が存命のうちに様々な書類を偽造していたと……?」
「偽造と言えば、偽造だな。子爵の頭がはっきりしなくなってきた頃に適当なことを言っては、後々自分が使えそうな書類に無理矢理サインをさせていたらしい。恐ろしい女だ。当然そんな書類で採用されたブライト男爵令嬢ももう王宮での職は失っておる。それどころか職員から尋問され、執務室でラウル殿と不貞行為を繰り返していたことまで白状したらしいぞ。……社交界にその醜聞が広まるのも時間の問題だな」
「……」
ラウル様が勘当されたと知って焦ったブライト男爵は、ヘイワード公爵家を訪れ「娘のことはどうしてくれるのか」と公爵に直談判したらしい。けれど公爵は「アレはもううちの息子ではないのでこちらは関係ない。当人同士で話し合ってくれ」と追い返したのだとか。
父は苦々しい表情で言う。
「イヴェルはブライト男爵と長年の愛人関係にあるらしい。うだつの上がらんブライト男爵を世話してやるために、これまでも裕福な男たちと関係を持っては援助を受けていたようだ。そして貴族の男たちの後妻にまでなった」
「……そ……そう、ですか」
「私も間抜けな男だな」
「…………」
どんな慰めの言葉も今の父の心を抉ってしまいそうなので、私は黙っておいた。
ブライト男爵とイヴェルさんは、これからどうするのだろう。父はブライト男爵家にも容赦なく多額の慰謝料を請求している。互いに一文無しとなった今、市井の片隅で支え合って生きていくのだろうか。サリアやロージエさんも一緒に……?
(その組み合わせで生活を共にするなんて、なんだか地獄絵図だわ……)
もしかしたら、そこにラウル様も加わったりして。
しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。
なんとカトリーナとダミアン王太子殿下の婚約が破棄され、その件でサリアがエーメリー公爵家から訴えられたのだ。
イヴェルさんとサリアがこのオールディスの屋敷を出て行ってから数週間後、突然父からそんな追加情報を与えられた私は、しばし呆然とした。
「……分かるように説明してくださいませんか、お父様……。サリアは一体何をしでかしましたの……?」
父は特大のため息をつくと、眉間の皺を指先でグリグリと揉みほぐしながら語りはじめた。
「建国記念の祝賀パーティーの夜、ダミアン王太子殿下とサリアは関係を持ったらしい」
「……っ!! な……」
嘘でしょう……?
父のその言葉だけで、私はすでにめまいがした。
父はさらに続ける。
「それ以来二人は秘密裏に逢瀬を重ねていたようだ。だが先日、よりにもよってエーメリー公爵家のカトリーナ嬢が二人のその現場を目撃してしまった。カトリーナ嬢は穏便に済ませようとしたらしいが、ダミアン王太子殿下の方から婚約破棄を申し渡してきたと。国王陛下に通すことなく、王太子殿下の一存ですでに手続きも済ませてしまったそうだ」
「……そんな馬鹿げた話……信じられません……」
目の前が暗くなっていく。
私もカトリーナも、そして他家の令嬢たちも、皆幼少の頃から必死で王太子殿下の婚約者の座を競い合った。それぞれの家にとっても、家名を賭けての戦いだったのだ。その中でも特に、カトリーナは血の滲むような努力を続けてきた。
それなのに……
1,358
あなたにおすすめの小説
愛してしまって、ごめんなさい
oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」
初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。
けれど私は赦されない人間です。
最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。
※全9話。
毎朝7時に更新致します。
私のことは愛さなくても結構です
ありがとうございました。さようなら
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。
一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。
彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。
サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。
いわゆる悪女だった。
サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。
全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。
そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。
主役は、いわゆる悪役の妹です
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
うまくいかない婚約
ありがとうございました。さようなら
恋愛
エーデルワイスは、長年いがみ合っていた家門のと結婚が王命として決まっていた。
そのため、愛情をかけるだけ無駄と家族から愛されずに育てられた。
婚約者のトリスタンとの関係も悪かった。
トリスタンには、恋人でもある第三王女ビビアンがいた。
それでも、心の中で悪態をつきながら日々を過ごしていた。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
ありがとうございました。さようなら
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる