【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。

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「着きましたわ。ここから少しだけ歩きます」
「……?……何だねアミカ。こんなところに一体何の用があると言うんだ」

 馬車を停めて外に出ると、ベルナップ伯爵が不満げな顔をする。

 高貴な身分の人が立ち寄ることは滅多にないであろう、平民街の片隅。場違いな恰好の私たちを通り過ぎていった子どもがじっと見ていた。

「もうすぐ分かりますわ。さ、こちらです」

 父は黙って私と並んで歩きはじめた。一言も喋らない父のことをベルナップ伯爵が眉間に皺を寄せてチラチラと見ている。随分無礼な態度だな、とでも思っているのだろう。





 10分ほど歩くと、例の宿屋の前に到着した。報告をもらった場所で間違いない。いよいよだ。本当にちゃんと現場を押さえられるのだろうか。緊張のあまりカラカラに乾いた喉がひりつく。

「……一体どういうことだ?何だねここは。連れ込み宿じゃないか。こんなところに何の用があるというんだ」

 ベルナップ伯爵は汚らしいものでも見るような顔で宿屋の看板を見上げている。ええ、そうですよ、汚らしいんです、あなたの息子さん。
 中に入る前に、私はベルナップ伯爵に向かって言った。

「……これまで可愛がってくださったこと、感謝しておりますわ、ベルナップ伯爵。できれば、ミッチェル様とずっと夫婦として手を取りあって生きていけたらよかったのですが……、彼は最初からそれを望んでいなかったようです」
「……ん?何だって?」
「今からお見せすることを、私はミッチェル様との結婚式の翌日に知りました。彼は私との結婚生活を故意に破綻させ、その責任の全てを私に押し付けようと画策しておりました。ですので……、あらぬ罪を被せられる前に、どうぞ伯爵、その目で真実を確認してくださいませ」

 私は困惑の表情を浮かべて立ち止まっているベルナップ伯爵を中に誘導した。宿屋のご主人はあらかじめ話を聞いていたのだろう。私たちが入るとすぐさまその部屋へ案内してくれた。

「こっ、こちらでございます…」

 宿屋のご主人が下がるやいなや、父が何の前触れもなく部屋のドアを乱暴に開けた。


 バンッ!!


「……っ?!ひ……っ!」
「きゃぁぁっ!!」


 中から悲鳴が聞こえる。父は真っ先に部屋に飛び込むとズカズカと一人で歩いていく。入り口で口を開けたまま固まっているベルナップ伯爵の背中を失礼ながら強引に押し込んで、私は伯爵を中に入れ自分も突入した。

「……………………。まぁ」


 これ以上ないほどに、完璧なタイミングだったようね。


 粗末なベッドの上には生まれたままの姿のミッチェルとポーラ。化け物にでも遭遇したかのような恐怖と驚愕の感情を顔に貼りつかせて、重なったまま私の父を見上げている。なんてみっともなくて恥ずかしい姿だろう。私がポーラならもう生きていられない。

「貴様……よくも…私の娘を……、オルブライト伯爵家を裏切ってくれたな!馬鹿にしおって!」
「ひ…………!ぁ……ぁ…………」

 ずっとだんまりを決め込んでいた父がついに口を開いた。数日前、私がミッチェルとポーラの結婚前から続く不貞のことから全て話した時、怒りに体を震わせていた。幼い頃からとても可愛がってくれた父だ。ベルナップ伯爵家との関係を強めるための大切な縁を台無しにされたということ以上に私を心配してくれているのだろう。心労をかけてしまって本当に申し訳ない。

 父は二人が体を隠そうとしていたブランケットを力任せに剥ぎ取るとミッチェルを怒鳴りつけた。

「何もかも調査済みだぞ!よくも白々しい顔で私たちに結婚の挨拶などできたものだな!この下品な小娘と関係を持ちながら……!アミカに謝罪をしろ!!」
「ひっ!あ…………あの…………いえ、ここここれは…」

 顔面蒼白のミッチェルは目を泳がせながら歯をガチガチと鳴らしている。
 両手で体を隠しながらサササ…とゴキブリのような動きでブランケットを拾いに行ったポーラは、それを自分の体に急いで巻き付ける。冷ややかな目でじっと見つめる私と目が合うとミッチェルと同様に目を泳がせた。

「…………これは、どういうことなのだミッチェル……。その女は誰だ……」

 その時、呆然としていたベルナップ伯爵がようやく口を開き、掠れた声で息子に尋ねた。
 私は揃えた書類をベルナップ伯爵に差し出した。




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