【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中

文字の大きさ
35 / 56

35. 事件(※sideクライヴ)

しおりを挟む
 閑散とした校舎の中を、注意深く見回り続けること二時間。特に異常は見当たらない。

(……最後の淑女科棟を確認したら、中庭に行ってみるか)

 そんなことを考えながら、今日のガーデンパーティーを主催しているエメライン王女のことを考える。俺は王女に対して、あまりいい印象を持ってはいなかった。
 隣国ラシェール王国の第三王子が、セリュナ帝国へ外交留学中に恋に落ち、エメライン王女との婚約が解消された件。このことを、俺はなんだかきな臭いと思っていた。完全に向こうの落ち度であるはずなのに、ベルミーア王家に賠償金が一切支払われていないようなのだ。何も公表されてはいないが、おそらく何か裏がある。王女の側に、何らかの瑕疵があったのではないか。父もそう考えているようだった。
 さらには、俺が王国騎士団に所属するやいなや、王女が俺を自分の専属護衛騎士にと望んでいると、王宮侍従長から騎士団上層部を通じて連絡があったのだ。戸惑いつつも俺は、「現在第二師団の任務に従事しており、それを放棄することは王の命に背くことになりますゆえ」「まだ経験の浅い一隊員にすぎない自分には、あまりに恐れ多い重責です」などとかわしていたが、それでも打診は度々あった。ついに俺は父を通じ、国王陛下に辞退の意を伝えてもらったのだ。それ以降、陛下から何の沙汰もなかったのをみるに、おそらくは王女の軽率な我が儘程度のことと流されたのだろう。
 これまで何度か王宮での式典などでお会いすることはあったが、妙に甘えた様子で、ややもすると媚びを売るような視線を俺に向ける王女に対し、言いようのない不気味さを感じていた。たおやかで麗しい見目が評判の王女ではあったが、俺はそういった魅力を微塵も感じなかった。王女にはロザリンド嬢のような、内面の美しさから滲み出る柔らかな輝きがなかったからだ。
 ロザリンド嬢から、王女に誘われ二人で昼食をとったという話を聞かされた時には、言いようのない不安を感じた。あの王女にはロザリンド嬢に関わってほしくはない。
 そんなことを考えながら廊下を歩き、淑女科クラスのある棟に足を踏み入れる。ロザリンド嬢が学んでいる場だ。ここまで見回ったら中庭へ向かおう。そう思った、その時だった。
 目の前の教室から、一人の男子生徒が飛び出してきた。俺と目が合うと、顔を強張らせ固まる。緑色のネクタイ。二年生のようだ。

「……そこで何をしている。なぜ淑女科の教室に?」
「お、お疲れ様です! 自分は政務科の教師に頼まれた資料を届けにまいりました。たった今、教卓の上に置いてきたところです」

 不審に思った俺は、すぐさま彼が出てきた教室に入り、教卓を確認する。たしかに、そこには何冊かの本や書類が置いてあった。

(……本来登校していないはずの生徒に、教師がわざわざ使いを頼んだのか?)

「……君はどこの所属だ」

 念のためそう問うと、彼は背筋を思い切り伸ばして答えた。

「自分は騎士科の二年です! 本日はエメライン王女殿下の護衛のために登校しております! 交代が来て休憩時間になったため歩いていたら、教師から使いを頼まれました」

 俺は思わず眉をひそめた。

(これもどうかと思うのだがな……。エメライン王女には王宮から派遣された正式な護衛が、常に数人付いているというのに。こんな日にまで学生を駆り出すのか……)

「……分かった。行っていい」

 名前を聞き出した後でそう言うと、彼はほっとした顔で礼をし、早足でこの場を去った。

 俺は教室の中に入り、他に誰もいないことを確認した後、今の出来事と時間を巡回記録に記入した。

 その後中庭に向かうと、まだガーデンパーティーはお開きになってはいなかったらしい。だが、何やら騒ぎが起こっているようだった。王女付きの護衛や男子生徒たちのみならず、列席者の令嬢たちまで立ち上がり、困惑の表情を浮かべ辺りを見回しているのだ。ロザリンド嬢の姿もあった。

「一体どうした? 何事だ」

 右往左往している中から、同じ所属の騎士を捕まえてそう問う。すると、エメライン王女が身に着けてきていた、国王陛下から贈られたというサファイアのブローチが失くなったとのこと。詳細を聞き出そうとした、その時。王女が俺のもとへと駆け寄ってきた。

「クライヴ様……っ! あ、あたくしの私物が、また失くなりましたの……! 一体どうして? 誰があたくしにばかり、こんなことを……」

 空色の瞳を涙で潤ませながら、あろうことか、王女は俺の胸に縋りつくように顔を埋めてきた。咄嗟に一歩下がり、王女に声をかける。

「王女殿下、どうぞお心をお鎮めください。すぐに確認いたしますゆえ」

 そうなだめていると、騎士科の男子生徒の一人が王女のもとへと歩み寄り、捜索の範囲を広げようと言い出した。王宮からの護衛や学園長なども会話に加わり、校舎の中や参加者たちの持ち物までを調べることに決まった。
 不安そうなロザリンド嬢のそばについていると、ついにブローチが見つかったと、騎士科の男子生徒の一人が校舎の方から駆け戻ってきた。男子生徒は王女のそばへ行き、ブローチを手渡す。

「王女殿下! ありました! こちらでお間違えないでしょうか」
「まあ……! これよ、間違いないわ……! 一体どこに……?」
「淑女科の教室です! ロザリンド・ハートリー伯爵令嬢の専用ロッカーの奥に置いてありました!」

(……何だと……?)

 その言葉が響いた瞬間、空気が凍りついた。
 その場にいた全員が、一斉にロザリンド嬢を見る。
 彼女の顔から血の気が引いていくのが、ありありと見てとれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅
恋愛
次期女王として王位継承が内定していたフランツェスカ。 だが戦況の悪化を理由に父王に争いの最前線に送られた。 それから一年、命からがら王都へ戻った彼女を待っていたのは労いの言葉ではなく、敵国・シュヴァルツヴァルトの王太子への輿入れ命令。 しかも父王は病弱な異母妹アリーシアを王妃に据え、フランツェスカの婚約者レナードを王にするという。 怒りと絶望の中フランツェスカはかつて敵将であったシュヴァルツヴァルト王太子・フリードのもとへお飾りの妻として嫁ぐことを決意する。 戦地での過去を封じ、王族としての最後の務めを果たすために。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

処理中です...