世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
107 / 643

砂糖の都からの出立

しおりを挟む
 七月も二十日を過ぎ、夏休みに突入した。晴れているのでベフメ家の庭でリットーさんの訓練を受けていると、アルーヴ五人組がやって来た。


「すいません、ここ私有地なんで、無断で入り込まれても、ファン対応とか出来ないんですよ」


 とリットーさんをかばう形で俺が立つと、


「あ、そうなんですね。知りませんでした。すぐに退出するので、握手! 握手だけでも出来ませんか?」


 とムムドが食い下がる。


「何を二人して馬鹿やっているのよ」


 レイシャさんが冷静にツッコんできた。


「俺たちはちゃんと門衛の許可を貰って入って来たんだぞ」


 と普通の事を言うサレイジ。それはそうだろう。でなければ門衛が仕事をしていない事になる。もしくは門以外から不法侵入したかだ。


「それで? 何しに来たんだ?」


「船が確保出来た」


 俺の問いにサレイジが答えた。


「え!? 確保出来たの!?」


「なんでそんなに驚くんだよ?」


 とムムドが食ってかかる。


「いや、一生船が確保出来ない呪いにでも罹ってるんじゃないかと思っていたから」


「どんな呪いだよ? 局所的過ぎるだろ」


 レイシャさんのツッコミも中々だったが、ムムドのツッコミも冴えているな。などと馬鹿な事を考えながら、俺はリットーさんにこの場から離れる無礼を詫び、五人を連れてバヨネッタさんの部屋へ向かった。



「へえ、これが俺たちの乗る船かあ」


 その後、船の下見に堤防の桟橋までやって来ると、全長二十五メートル、幅八メートル程の船が停泊していた。


「押さえるの大変だったんですよ」


 と五人はバヨネッタさんとオルさんにペコペコしていた。俺への対応と大違いなのだが?


「ねえ?」


「なんだよ?」


 俺の呼び掛けにムムドがぶっきらぼうに返事をする。


「この船、帆がないんだけど?」


 船自体は立派なものだが、帆がなければ動かない。それともガレー船のようにオールで漕ぐのだろうか?


「当たり前だろ、自走船なんだから」


 だが、帰ってきた答えは当たり前ではなかった。


「これが自走船……!」


 初めて見るな。アロッパ海で海賊が使っていたようだが、俺はブンマオ病で臥せっていたから、見てないんだよねえ。


「自走船って、自走車よりも普及しているものなんですか?」


 オルさんにぼそりと聞いてみる。


「そうだね。自走車よりも普及しているんじゃないかな。仕組みもスクリューを回転させるだけだから」


 成程。地球だと蒸気船も蒸気自動車もそう時期はズレていないみたいだけど、こっちの魔道具を使用したであろうシステムだと、そうなのかもなあ。


「乗組員は五人です。船長!」


 ムムドが船長に声を掛けると、何故か頭にターバンを巻き、サングラスを掛けた色黒の男が近付いてきた。う~ん、海の男っぽい。ここ川だけど。まあ、胡散臭いとも言える。


「ああ、そちらさんが今回、我が『麗しのジョコーナ号』に乗船したいってお客さんかい? 船長のマークンだ」


 と握手を求めてくるマークン船長。バヨネッタさん、オルさん、アンリさん、俺と握手をして、何故か俺だけ肩を叩かれた。なんで?


「首都まで行きたいんだってな? 任せておきな」


 サムズアップで見得を切るマークン船長。うん、海の男っぽい。そして胡散臭い。


「大丈夫なんですか? 川の水量多いですけど?」


 ちらりと俺が見るのは吸血神殿へと続く水路だ。水路は未だにドバドバと水が流れ込んでいた。


「はっはっはっ。心配性だな坊主。だが心配するのも分かる。首都はまだ雨季が終わっていないからな」


 と俺の肩をバシバシ叩くマークン船長。


「そうなんですか?」


「ああ。ここより上流の首都ではまだ雨季が続いているから、下流のここら辺も水量が多いんだ」


 そう聞くと余計に心配になってくるな。


「だから俺たちはまず、中間地点にあるラガーに向かう」


「ラガーに?」


 確かラガー焼きとか言う焼き物の街だ。


「ああ。ラガーで様子見をして、水量が落ち着いてきた頃に首都に向かうのさ。皆そうしている」


 とマークン船長が手をバアと川に向けると、既にピルスナー川では大小何十隻もの船が往来し始めていた。成程。ベフメルからラガーを中継して首都に向かう。と言うのはとても一般的であるらしい。


「分かりました。では、道中よろしくお願いします」


「おう。任せておきな! 自分の家だと思って寛いでてくれればそれで良いぜ!」


 とマークン船長はまたも俺の肩をバンバン叩いてくるのだった。



 それから二日後。


「道中お気をつけて」


 ベフメ伯爵にジェイリスくん、ドイさんら、ベフメ家の方々が、わざわざ堤防の桟橋まで見送りに来てくれた。リットーさんがいないのは、あの人が不義理な人間な訳ではなく、前日にウルドゥラの情報が手に入ったとかで、俺たちよりも早くゼストルスに跨がって飛んでいったからだ。


「ハルアキ、君との決着は着いていないと私は思っている。次こそケリをつけよう!」


 やっぱりジェイリスくんは心根が熱いやつである。


「そうだね」


 と俺はジェイリスくんとがっしり握手を交わした。それでも、ジェイリスくんやベフメ伯爵たちとまた会えるのは、いつの事になるのか。もしかしたら今日が最後かも知れない。そう思うとなんだか心の内側がしんみりしてくるのを感じていた。


 それは向こうも同じらしく、握手や、あいさつを交わす時間は自然と長くなっていく。


 俺はあまり情に厚い人間とは言えないので、卒業式などで、何故皆あんなに長々と別れを惜しんでいるのか不思議だったが、ここにきてそれが少しだけ分かった気がした。


 そうやってゆっくりじっくり別れの儀式を済ませた俺たちは、船に乗り込み、ベフメ伯爵たちが手を振る桟橋から、一路ラガーに向けて出立したのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...