世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
283 / 643

クワイア

しおりを挟む
 俺とバヨネッタさんは塔の前門を守る門衛を瞬殺し、直ぐ様門を通り抜ける。門衛を失った塔は、とても静かにそびえ立っていた。


「ハルアキ、覚悟しておきなさい」


 脅しと言う訳ではないだろうが、バヨネッタさんの言葉に嫌な想像が頭を過ぎる。塔の中にはまだ十万人の人々がいるはずなのだ。だと言うのに、想像だけで死臭が漂い、俺の歩きは血河を征くが如く重い。


「開けます」


 俺が一階の扉に手を掛けようとしたところで、中から何か声が聞こえてきた。良かった。最悪の事態は免れた。と内心ホッとして、俺はバヨネッタさんを振り返る。バヨネッタさんにも中の声は聞こえたようだが、その顔は険しい。まだ安心出来るレベルではないと言いたいのだろう。俺ももう一度気を引き締めると、互いに頷きあったところで、扉を開く。


『~~♪ ~~♪♪ ~~♫』


 聞こえてきたのは、断末魔の声でも、恐怖の悲鳴でも、救助を求める声でもなく、歌声だった。


 塔の内部とは思えない程広い空間で、中央に祭壇があり、そこに向かって十万人の人間が歌っていた。それだけではない。広大なこの空間の壁面を埋め尽くすプロジェクターやらモニターやらでは、恐らく世界中にあるアンゲルスタの教会と繋がっているのだろう。この場の人間と同じ歌を歌う人々の姿が映し出されていた。


 ある者は涙を流しながら、またある者は恍惚の表情で。皆が一心に歌う姿は、この場に場違いな清浄な空気を生み出していたが、その数の多さから、どこか感覚が狂うような恐怖を覚える。


「なんだこれ?」


 状況の理解が出来ず、バヨネッタさんを振り返るも、バヨネッタさんも眉根を寄せて怪訝な表情をするばかりだった。


「この人たちは何を歌っているの?」


 逆に質問されてしまった。何を、と言われても、俺は外国語には疎いのだ。歌となると、流石のオルさん謹製の翻訳機も翻訳してはくれない。ただ、


「恐らくドミニクを讃える歌かと」


 ところどころで「ドミニク~ドミニク~♪」と歌っているところがあるから、そうなのだと思う。流石にここでドミニクを糾弾する歌は歌わないだろう。


「国主を讃える歌……? …………! そうか! これは『信仰』だわ!」


「『信仰』、ですか?」


「ええ。そう言うレアスキルがあると聞いた事があるわ」


「レアスキルなんですか?」


 これが? 話を聞いてもう一度歌を歌う十万人を振り返るが、何がどう凄いのか理解が出来ない。と言うかこれがドミニクのスキルなら、奴は『天狗』以外にもこんなスキルを持っている事になる。まあ、俺も複数持ちだけど。


「どう言うスキルなんですか?」


「『信仰』のスキルを持つ者は、自身を信仰対象とさせて崇めさせる事で、信仰者から経験値を得る事が出来るのよ」


 なんだそりゃ?


「つまりこの歌を歌わせる事で、ドミニクは自身のレベル上げをしている訳ですか?」


「そうなるわね」


 ヤバいスキルだな。


「こんなスキルがあるなら、『狂乱』なんて求めなくても良かったんじゃないですか?」


「『狂乱』があれば多数の人間のレベル上げが出来るでしょう」


 確かに。


「それに『信仰』はその名の通り、絶対的な信仰心が必要になってくるのよ。それは『魅了』や『催眠』などを使って仮初めの信仰心を持たせても意味をなさないの」


「つまり心の底から信仰している人間が必要って訳ですか」


 首肯するバヨネッタさん。不味いな。壁面のモニター越しに歌っているのもカウントされるとなると、恐らく今回の世界的『聖結界』の展開で恐怖に陥った人が、アンゲルスタの教会に逃げ込んで、歌っている可能性もある。となると、ドミニクの経験値アップに、俺自身が少なからず関与したと言う事だ。


 今すぐ歌を止めさせるべきなのだろうが、ただ歌っているだけの人々を、止めるなんてどうやれば良いのだ?


「まずは壁面のモニターから潰していくわよ。そうすれば歌っている人たちも我に返るでしょう」


「はい!」


 バヨネッタさんの指示に従い、俺とバヨネッタさんは二手に別れるようにして、壁面のプロジェクターやモニターを潰していく。爆発音とともに画面がどんどん破壊されていく。だと言うのに、ほとんどの人間は歌を止めなかった。恐るべき信仰心だ。多少の人間は破壊活動をする俺たちに驚いていたが、周りの人々が歌っている事に気付くと、また歌い出すのだ。


「駄目ね」


 合流したバヨネッタさんに首肯で返す。


「はい。信仰心が強過ぎます」


「仕方ないわ。死んでいなかっただけ良かったと思って、上に進みましょう」


「そうですね。と言いたいですけど、この部屋、上階に上がる階段やらエレベータが見当たらないんですけど」


 確か塔の最上階には礼拝堂があるはずだ。そこに通じる通路なり階段なりエレベータなりがあると思っていたのだが、もしかしたら一般市民は最上階の礼拝堂には行かないのかも知れない。


「一度外に出て、空から最上階に向かいますか?」


 俺の提案に、バヨネッタさんは首を横に振るう。


「難しいわね。ザクトハの言葉を信じるなら、この塔の内部は空間系のスキルで拡張されているわ。となると、外見は当てにならないし、下手に入口以外から侵入しようとすると、塔自体が倒壊して、ここの人たちが潰されかねないわ」


 だったらどうしろと?


「お困りのようだな!!」


 俺たちが手詰まりに唸っていると、入口から声が掛けられた。見れば、武田さんを中心に、シンヤたち勇者パーティやリットーさん、ゼラン仙者の姿があった。


「武田さん!? 外はもう大丈夫なんですか!?」


「当然だ。あのなあ、俺たちは工藤たちが来る何時間も前からこの街で活動していたんだぞ? 外のスキル付与薬持ちは全員取っ捕まえたよ」


 疲れているだろうに、わざわざ駆け付けてくれるなんて、流石は勇者だな。


「俺たちの力が必要だろう?」


 疲れで目の下に隈を作りながらも、ニカッと笑う武田さんに、こちらも笑顔を返す。


「お願いします!」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...