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クワイア
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俺とバヨネッタさんは塔の前門を守る門衛を瞬殺し、直ぐ様門を通り抜ける。門衛を失った塔は、とても静かにそびえ立っていた。
「ハルアキ、覚悟しておきなさい」
脅しと言う訳ではないだろうが、バヨネッタさんの言葉に嫌な想像が頭を過ぎる。塔の中にはまだ十万人の人々がいるはずなのだ。だと言うのに、想像だけで死臭が漂い、俺の歩きは血河を征くが如く重い。
「開けます」
俺が一階の扉に手を掛けようとしたところで、中から何か声が聞こえてきた。良かった。最悪の事態は免れた。と内心ホッとして、俺はバヨネッタさんを振り返る。バヨネッタさんにも中の声は聞こえたようだが、その顔は険しい。まだ安心出来るレベルではないと言いたいのだろう。俺ももう一度気を引き締めると、互いに頷きあったところで、扉を開く。
『~~♪ ~~♪♪ ~~♫』
聞こえてきたのは、断末魔の声でも、恐怖の悲鳴でも、救助を求める声でもなく、歌声だった。
塔の内部とは思えない程広い空間で、中央に祭壇があり、そこに向かって十万人の人間が歌っていた。それだけではない。広大なこの空間の壁面を埋め尽くすプロジェクターやらモニターやらでは、恐らく世界中にあるアンゲルスタの教会と繋がっているのだろう。この場の人間と同じ歌を歌う人々の姿が映し出されていた。
ある者は涙を流しながら、またある者は恍惚の表情で。皆が一心に歌う姿は、この場に場違いな清浄な空気を生み出していたが、その数の多さから、どこか感覚が狂うような恐怖を覚える。
「なんだこれ?」
状況の理解が出来ず、バヨネッタさんを振り返るも、バヨネッタさんも眉根を寄せて怪訝な表情をするばかりだった。
「この人たちは何を歌っているの?」
逆に質問されてしまった。何を、と言われても、俺は外国語には疎いのだ。歌となると、流石のオルさん謹製の翻訳機も翻訳してはくれない。ただ、
「恐らくドミニクを讃える歌かと」
ところどころで「ドミニク~ドミニク~♪」と歌っているところがあるから、そうなのだと思う。流石にここでドミニクを糾弾する歌は歌わないだろう。
「国主を讃える歌……? …………! そうか! これは『信仰』だわ!」
「『信仰』、ですか?」
「ええ。そう言うレアスキルがあると聞いた事があるわ」
「レアスキルなんですか?」
これが? 話を聞いてもう一度歌を歌う十万人を振り返るが、何がどう凄いのか理解が出来ない。と言うかこれがドミニクのスキルなら、奴は『天狗』以外にもこんなスキルを持っている事になる。まあ、俺も複数持ちだけど。
「どう言うスキルなんですか?」
「『信仰』のスキルを持つ者は、自身を信仰対象とさせて崇めさせる事で、信仰者から経験値を得る事が出来るのよ」
なんだそりゃ?
「つまりこの歌を歌わせる事で、ドミニクは自身のレベル上げをしている訳ですか?」
「そうなるわね」
ヤバいスキルだな。
「こんなスキルがあるなら、『狂乱』なんて求めなくても良かったんじゃないですか?」
「『狂乱』があれば多数の人間のレベル上げが出来るでしょう」
確かに。
「それに『信仰』はその名の通り、絶対的な信仰心が必要になってくるのよ。それは『魅了』や『催眠』などを使って仮初めの信仰心を持たせても意味をなさないの」
「つまり心の底から信仰している人間が必要って訳ですか」
首肯するバヨネッタさん。不味いな。壁面のモニター越しに歌っているのもカウントされるとなると、恐らく今回の世界的『聖結界』の展開で恐怖に陥った人が、アンゲルスタの教会に逃げ込んで、歌っている可能性もある。となると、ドミニクの経験値アップに、俺自身が少なからず関与したと言う事だ。
今すぐ歌を止めさせるべきなのだろうが、ただ歌っているだけの人々を、止めるなんてどうやれば良いのだ?
「まずは壁面のモニターから潰していくわよ。そうすれば歌っている人たちも我に返るでしょう」
「はい!」
バヨネッタさんの指示に従い、俺とバヨネッタさんは二手に別れるようにして、壁面のプロジェクターやモニターを潰していく。爆発音とともに画面がどんどん破壊されていく。だと言うのに、ほとんどの人間は歌を止めなかった。恐るべき信仰心だ。多少の人間は破壊活動をする俺たちに驚いていたが、周りの人々が歌っている事に気付くと、また歌い出すのだ。
「駄目ね」
合流したバヨネッタさんに首肯で返す。
「はい。信仰心が強過ぎます」
「仕方ないわ。死んでいなかっただけ良かったと思って、上に進みましょう」
「そうですね。と言いたいですけど、この部屋、上階に上がる階段やらエレベータが見当たらないんですけど」
確か塔の最上階には礼拝堂があるはずだ。そこに通じる通路なり階段なりエレベータなりがあると思っていたのだが、もしかしたら一般市民は最上階の礼拝堂には行かないのかも知れない。
「一度外に出て、空から最上階に向かいますか?」
俺の提案に、バヨネッタさんは首を横に振るう。
「難しいわね。ザクトハの言葉を信じるなら、この塔の内部は空間系のスキルで拡張されているわ。となると、外見は当てにならないし、下手に入口以外から侵入しようとすると、塔自体が倒壊して、ここの人たちが潰されかねないわ」
だったらどうしろと?
「お困りのようだな!!」
俺たちが手詰まりに唸っていると、入口から声が掛けられた。見れば、武田さんを中心に、シンヤたち勇者パーティやリットーさん、ゼラン仙者の姿があった。
「武田さん!? 外はもう大丈夫なんですか!?」
「当然だ。あのなあ、俺たちは工藤たちが来る何時間も前からこの街で活動していたんだぞ? 外のスキル付与薬持ちは全員取っ捕まえたよ」
疲れているだろうに、わざわざ駆け付けてくれるなんて、流石は勇者だな。
「俺たちの力が必要だろう?」
疲れで目の下に隈を作りながらも、ニカッと笑う武田さんに、こちらも笑顔を返す。
「お願いします!」
「ハルアキ、覚悟しておきなさい」
脅しと言う訳ではないだろうが、バヨネッタさんの言葉に嫌な想像が頭を過ぎる。塔の中にはまだ十万人の人々がいるはずなのだ。だと言うのに、想像だけで死臭が漂い、俺の歩きは血河を征くが如く重い。
「開けます」
俺が一階の扉に手を掛けようとしたところで、中から何か声が聞こえてきた。良かった。最悪の事態は免れた。と内心ホッとして、俺はバヨネッタさんを振り返る。バヨネッタさんにも中の声は聞こえたようだが、その顔は険しい。まだ安心出来るレベルではないと言いたいのだろう。俺ももう一度気を引き締めると、互いに頷きあったところで、扉を開く。
『~~♪ ~~♪♪ ~~♫』
聞こえてきたのは、断末魔の声でも、恐怖の悲鳴でも、救助を求める声でもなく、歌声だった。
塔の内部とは思えない程広い空間で、中央に祭壇があり、そこに向かって十万人の人間が歌っていた。それだけではない。広大なこの空間の壁面を埋め尽くすプロジェクターやらモニターやらでは、恐らく世界中にあるアンゲルスタの教会と繋がっているのだろう。この場の人間と同じ歌を歌う人々の姿が映し出されていた。
ある者は涙を流しながら、またある者は恍惚の表情で。皆が一心に歌う姿は、この場に場違いな清浄な空気を生み出していたが、その数の多さから、どこか感覚が狂うような恐怖を覚える。
「なんだこれ?」
状況の理解が出来ず、バヨネッタさんを振り返るも、バヨネッタさんも眉根を寄せて怪訝な表情をするばかりだった。
「この人たちは何を歌っているの?」
逆に質問されてしまった。何を、と言われても、俺は外国語には疎いのだ。歌となると、流石のオルさん謹製の翻訳機も翻訳してはくれない。ただ、
「恐らくドミニクを讃える歌かと」
ところどころで「ドミニク~ドミニク~♪」と歌っているところがあるから、そうなのだと思う。流石にここでドミニクを糾弾する歌は歌わないだろう。
「国主を讃える歌……? …………! そうか! これは『信仰』だわ!」
「『信仰』、ですか?」
「ええ。そう言うレアスキルがあると聞いた事があるわ」
「レアスキルなんですか?」
これが? 話を聞いてもう一度歌を歌う十万人を振り返るが、何がどう凄いのか理解が出来ない。と言うかこれがドミニクのスキルなら、奴は『天狗』以外にもこんなスキルを持っている事になる。まあ、俺も複数持ちだけど。
「どう言うスキルなんですか?」
「『信仰』のスキルを持つ者は、自身を信仰対象とさせて崇めさせる事で、信仰者から経験値を得る事が出来るのよ」
なんだそりゃ?
「つまりこの歌を歌わせる事で、ドミニクは自身のレベル上げをしている訳ですか?」
「そうなるわね」
ヤバいスキルだな。
「こんなスキルがあるなら、『狂乱』なんて求めなくても良かったんじゃないですか?」
「『狂乱』があれば多数の人間のレベル上げが出来るでしょう」
確かに。
「それに『信仰』はその名の通り、絶対的な信仰心が必要になってくるのよ。それは『魅了』や『催眠』などを使って仮初めの信仰心を持たせても意味をなさないの」
「つまり心の底から信仰している人間が必要って訳ですか」
首肯するバヨネッタさん。不味いな。壁面のモニター越しに歌っているのもカウントされるとなると、恐らく今回の世界的『聖結界』の展開で恐怖に陥った人が、アンゲルスタの教会に逃げ込んで、歌っている可能性もある。となると、ドミニクの経験値アップに、俺自身が少なからず関与したと言う事だ。
今すぐ歌を止めさせるべきなのだろうが、ただ歌っているだけの人々を、止めるなんてどうやれば良いのだ?
「まずは壁面のモニターから潰していくわよ。そうすれば歌っている人たちも我に返るでしょう」
「はい!」
バヨネッタさんの指示に従い、俺とバヨネッタさんは二手に別れるようにして、壁面のプロジェクターやモニターを潰していく。爆発音とともに画面がどんどん破壊されていく。だと言うのに、ほとんどの人間は歌を止めなかった。恐るべき信仰心だ。多少の人間は破壊活動をする俺たちに驚いていたが、周りの人々が歌っている事に気付くと、また歌い出すのだ。
「駄目ね」
合流したバヨネッタさんに首肯で返す。
「はい。信仰心が強過ぎます」
「仕方ないわ。死んでいなかっただけ良かったと思って、上に進みましょう」
「そうですね。と言いたいですけど、この部屋、上階に上がる階段やらエレベータが見当たらないんですけど」
確か塔の最上階には礼拝堂があるはずだ。そこに通じる通路なり階段なりエレベータなりがあると思っていたのだが、もしかしたら一般市民は最上階の礼拝堂には行かないのかも知れない。
「一度外に出て、空から最上階に向かいますか?」
俺の提案に、バヨネッタさんは首を横に振るう。
「難しいわね。ザクトハの言葉を信じるなら、この塔の内部は空間系のスキルで拡張されているわ。となると、外見は当てにならないし、下手に入口以外から侵入しようとすると、塔自体が倒壊して、ここの人たちが潰されかねないわ」
だったらどうしろと?
「お困りのようだな!!」
俺たちが手詰まりに唸っていると、入口から声が掛けられた。見れば、武田さんを中心に、シンヤたち勇者パーティやリットーさん、ゼラン仙者の姿があった。
「武田さん!? 外はもう大丈夫なんですか!?」
「当然だ。あのなあ、俺たちは工藤たちが来る何時間も前からこの街で活動していたんだぞ? 外のスキル付与薬持ちは全員取っ捕まえたよ」
疲れているだろうに、わざわざ駆け付けてくれるなんて、流石は勇者だな。
「俺たちの力が必要だろう?」
疲れで目の下に隈を作りながらも、ニカッと笑う武田さんに、こちらも笑顔を返す。
「お願いします!」
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