見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

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37. リリアside 邪魔されたから③

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 でも、笑顔が歪んでいるのはどうしてかしら?
 お腹が苦しいのかな?

 今この大きなお腹を押したら、大変なことになりそうね。
 異物を体の外に出してあげようとしたって理由で大丈夫かしら?

 ……見ているのはわたしだけを愛しているオズワルド様しかいないから、きっと大丈夫。

「サーシャ様のお腹には赤ちゃんがいるのね」
「そうだよ。触ってみるかい?」
「うん」
「サーシャ、リリアに触らせてあげなさい」
「はい」

 サーシャはオズワルド様に逆らえないみたいで、お腹に触っても抵抗されなかった。
 でも、オズワルド様はサーシャを愛おしそうな目で見つめている。

「ふーん、こんな感じなんだ」

 どうして、その女を守ろうとするの?

 わたしだけを愛してるって、約束してくれたのに。

 やっぱり、この女はオズワルド様を誘惑しているのね。
 許せない!

 少しくらい、痛い目を見ればいいのよ!

 そう思ったから、触れていたお腹をぐっと押し込んだ。

 ちょっと押しただけなのに、サーシャは後ろに倒れていった。
 わたしに怪我をさせられたって言うつもりなのかしら?

 最低な性格ね。
 花瓶を巻き込んだのわざとって分かりきっているわ。

「サーシャ様、大丈夫!? よろけてしまったのね!」
「うぅ……」

 うめき声を上げてるから、わたしの作戦は成功したみたい。

「貴女が流産すれば私が正妻になれるはずなの。恨むならオズワルドを恨んでね?」

 耳元で囁いてみると、恨めしそうな顔で睨まれた。
 わたしは惨めな思いをさせられたのに、どうしてわたしだけが悪者みたいな顔が出来るの?

 悪魔みたいな心を持っているのね。

「サーシャ、立てるよな?」
「無理です……」
「すごい音がしましたが、大丈夫ですか?」
「ああ。サーシャがよろけて、花瓶を割ってしまっただけだ。驚いて粗相をしたようだが」

 ちょっとお腹を押しただけで粗相するなんて、本当に貴族の令嬢なのかしら?
 大人になってから粗相だなんて、わたしだったら恥ずかしくて生きていけないわ。
 

「旦那様、これは粗相ではありません。赤ちゃんが産まれそうな時に出るものです」
「そうか、産まれるのか! サーシャ、産まれるならそうと最初から言ってくれ。
 そろそろ産まれるのか?」
「そんな簡単に産まれませんよ。とにかく、今はサーシャ様を寝室に運んでください!
 無理なら私がお連れしますが?」
「わ、分かった」

 みっともない姿を晒しているというのに、オズワルド様はサーシャに心配そうな目を向けている。
 わたしだけを愛してくれる約束は嘘だったのかしら?

 でも、大丈夫。
 もうすぐサーシャは居なくなるから。

「まだ痛むのか?」
「はい……」
「サーシャ様、お水をお持ちしました。飲めますか……?」
「ありがとう」

 それなのに、誰もわたしのことを見ないで、サーシャの心配ばかりしている。
 わたしが一番可愛いのに、どうして素っ気なく出来るの?

「それから旦那様とリリア様はここから出てください!」
「俺は夫なのにか?」
「その自覚があるならお医者様を呼んでください」
「私、お産について勉強したいわ」
「ダメです。サーシャ様に敵意のある方は入れさせられません」  
「何よ、勝手に決めつけて!」

 このダリアって侍女もムカつく!
 侍女の立場で、どうしてわたしに命令できるの?

「オズワルド様の赤ちゃんを殺そうとしたこと、知ってますからね?」

 どうして、わたしが悪者にされなきゃいけないの?

 この女がわたしを嵌めたから、その仕返しをしているだけなのに!
 みんな常識が無いのね!

 でも、血が出てきてるみたいだから、もう何もしなくても計画は上手くいきそう。
 だから大人しく部屋の外に出て、無関係を装うことにしたわ。

 わたしのせいにされて、また断罪されるのは嫌だもの。




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