見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

文字の大きさ
45 / 46

45. 牢に居るはずなのに

しおりを挟む
 あの後、私が暮らす屋敷の玄関前に戻ってきた私達は、馬車から降りて言葉を交わしていた。
 使用人さん達に出迎えられている今の状況で手を繋ぐのは恥ずかしいから、今は繋いでいないけれど、距離はお出かけする前よりも近い気がするわ。

「今日はありがとうございました。楽しかったですわ」
「俺も楽しかったよ。ありがとう。
 また来週も一緒に行こう」
「はい、楽しみにしていますわ」

 馬車の中でもずっとお話をしていたから、今日はもう話題が残っていないのよね。
 だから、お互いに「おやすみなさい」と言葉を交わした。

 アドルフ様が馬車に乗って、屋敷から出ていくところを見送る私。
 そんな時だった。

「何の音かしら……?」

 風を切るような音が聞こえてきて、立ち止まってしまう私。
 隣にいるダリアに手を引かれて、咄嗟にしゃがんだ。

 その直後、私が歩こうとしていた場所に矢が突き刺さった。

「危なかったです。こちらに隠れてください!」
「分かったわ」

 急いで塀の方に寄って、矢で狙われないようにする。
 でも、この場所は塀を乗り越えられたら、すぐに攻撃されてしまうのよね。

 そう思っていたら、本当に侵入者が塀に手をかける音が聞こえてきた。
 内側には外を見れるように、踏み台が隠されているから、音がしたところに踏み台を置いて、登る私。

「サーシャ様、一体何を……?」
「静かにして」

 相手に気付かれないように、護身用のナイフを取り出してから、かけられている手に思いっきり突き刺す。

「ぐあっ……」

 痛みに驚いたみたいで、手が離れようとしたけれど、その上に氷の魔法をかけて離れられないようにする私。
 しばらくはここから動けないはずだわ。

 でも、これで安心は出来ない。
 護衛さん達が大きな盾を持って集まってくれているけれど、襲撃者が何人居るか分からないのだから。

「サーシャ様、お怪我はありませんか?」
「ええ、大丈夫よ。
 屋敷の中までお願い。それと、襲撃者は1人だけここに留めてあるわ」
「承知しました」
「こちらの内側にお願いします」

 そう言われて、護衛さん達が作ってくれた盾の輪の中に入る私。
 ちなみに、この庭には身を隠せるような段差や壁があちこちに作られているから、反応出来ればすぐに身を隠せるのよね。

 反応さえ出来れば……。
 だから、今回の件はダリアが居なかったら危なかったわ。

「ここまで来れば大丈夫そうね」
「はい。では、我々は襲撃者の殲滅に当たります」

 そう言って、すぐに玄関を飛び出していく護衛さん達。
 一部の人たちは私の護衛に付いたままだけれど、襲撃者の人数も判明したみたいだから大丈夫そうね。

「お父様に報告したいから、護衛お願い」
「承知しました」

 声をかけてから、お父様が居る部屋に向かう私。
 ちなみに、お父様の部屋は屋敷の中心にあって、外からの襲撃に備えて隠し扉もいくつか作られている。
 
 侵入はされていないけれど、矢に撃たれてる訳にはいかないから、窓の無い廊下を進んだ。

「お嬢様、ご無事で良かったです。
 旦那様と奥様が心配されておりますので、お入りください」
「分かったわ。ありがとう」

 部屋の入口を守っている護衛さんに促されて、中に入る私。
 その直後、お母様に抱きしめられた。

「サーシャ、大事にならなくて良かったわ……!」
「お母様……苦しいです……」

 私と体格はあまり変わらないはずなのに、どこからこんな力が出せるのかしら?
 疑問に思いながら抜け出そうともがいていると、お父様も近付いてきて、反対側から抱きしめられた。

 私の無事を喜んでくれているのは分かるけれど、このままだと窒息死してしまうわ……!
 逆行するから、何とかなるとは思うけれど……回避する方法は全然思い付かない。

「旦那様、奥様。お嬢様が窒息してしまいます。ハグは程々に。
 それから、今回の首謀者が分かりました。ブロンムーン子爵夫人の指示だと、捕らえた者が吐きました」
「なんだと……?」
「ブロンムーンって……」
「リリア様のお母様……?」

 私も知っている人物の名前が出されて驚いたのは私だけ。
 お母様とお父様は、驚きよりも怒りが勝っているような表情を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます

・めぐめぐ・
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。 気が付くと闇の世界にいた。 そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。 この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。 そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを―― 全てを知った彼女は決意した。 「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」 ※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪ ※よくある悪役令嬢設定です。 ※頭空っぽにして読んでね! ※ご都合主義です。 ※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)

処理中です...