復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵

文字の大きさ
7 / 44

7. 自分勝手な行動で②

しおりを挟む

「どうしてパーティーで助けてくれなかったのですか!?」

 私の問いかけに、エリノアはそんな言葉を返してきた。
 パーティーに参加出来なかったことを根に持っているらしい。

「助けるも何も、決まりを破る手助けなんて出来るわけがないわ。
そもそも、何故パーティーに参加しようとしたの?」

 無理なものは無理なのだから、潔く諦めて欲しいのに……彼女の不満は収まらない様子。
 だから、酷く妬まれている理由を探ろうと問いかけると、こんな言葉を返された。

「……お姉さまを見返したかったからですわ。いつも褒められるのはお姉さまばかりで、私はいくら頑張ってもお父様にもお母様にも認められませんの。
 褒めてくれる先生も心が籠っていないから、馬鹿にされているようにしか感じませんわ。お姉さまは何をしても褒められて、格好良い人と婚約も出来ていて、使用人からも好かれていて、綺麗なドレスもアクセサリーも沢山買ってもらえて、お父様からもお母様からも頼られて……本当に狡いですわ」

 突っ込みたいところがいくつもあるけれど、色々と勘違いされていることは分かる。
 これ以上、姉妹の関係を悪くするのは望まないから、一つずつ誤解を解いていこうと思う。

「色々と勘違いしているみたいだけど、私もエリノアと同じくらいの頃は中々認めてもらえなかったわ。
 それでも、認めてもらうために必死に勉強したから今があるの。お兄様を見習いなさいとよく言われていたわ」
「お姉さまが……? 想像も出来ませんわ」
「貴女はずっと遊んでいたもの。知らなくて当然よ」

 私はお兄様が勉強している時、構ってもらいたくて一緒に剣術の練習もしていたのだけど、エリノアは私が勉強している時ずっと親しい家の人達と遊んでいたのだから、私の努力を知らなくても仕方がないと思う。
 でも、それすら彼女にとっては衝撃だったようで、開いた口が塞がらなくなっていた。

「ドレスやアクセサリーはどうすれば買ってもらえますの?」
「十五歳になれば買ってもらえるわ。でも、それまでに醜聞が広まるとデビュタント出来なくなって、ドレスともアクセサリーとも無縁な生活を送る羽目になるわ」
「どういうことでして……?」
「コラーユ家から勘当されるという意味よ。だから周囲の忠告は聞き入れなさい」

 そう口にすると、エリノアは今日の行動が取り返しのつかないことだと理解したのか、目に涙をためて、ふらふらと倒れそうになる。
 咄嗟に私とリズが支えなければ、きっと床に身体を打ち付けていた。

 ここまで効くとは思っていなかったから、嫌な汗が出てしまう。
 実際はネイサン様とローレン様の醜態が注目の的だったから、エリノアの醜聞は広まらないと思うけれど、正直に伝えると同じことの繰り返しだと思うと、甘い言葉は言えなかった。

「まだ勘当されるほどではないから大丈夫よ。今なら挽回出来るわ」
「でも……あの時の私は注目されていましたわ」
「ネイサン様に命令されたと言えば何とかなるわ。パーティーのことよりも、私の婚約者を奪おうとした行動の方が問題ね」

 これは私達コラーユ家の者が黙っていれば醜聞にはならないこと。
 それでも、家族の大切な何かを奪えば関係に取り返しのつかない亀裂が入ることになるから、二度と同じことはさせたくなかった。

 もっとも、私はネイサン様には怒っていても、エリノアにはあまり怒りを感じていない。
 血の繋がっている妹という理由もあると思うけれど、それ以上に行動が稚拙で呆れが勝ってしまうのだ。

 それに、エリノアがネイサン様の浮気性を暴いてくれなかったら、この本性を知らないまま結婚することになると思う。何も無ければいいけれど、この浮気性では離婚の二文字がすぐに浮かぶ。
 ……こう考えると、怒るに怒れないのよね。

「本当にごめんなさい。二度と同じことはしませんわ」
「その言葉、信じて良いのかしら?」
「……信じて頂けるように頑張ります」
「期待しているわ」

 だから、彼女に頭を下げられた時、私は微笑みを浮かべながら言葉を返す。
 もっとも、この笑みは含みのあるものに見えたらしく、エリノアに距離を取られてしまった。

「お姉さま、もう一つ相談しても良いでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ」
「どうして……ジョニー先生はこれ以上学ぶことが無い……と言って褒めてくれるのに、お母様もお父様も認めてくれないのでしょうか?」
「正直に答えてもいいかしら?」

 私の答えはエリノアを傷付けることになると思う。
 だから、彼女の目をしっかり見て問いかけた。

「お願いします」
「社交界に出るための知識が全然身についていないからよ。この状態でパーティーに出たら、恥どころでは済まないわ。
 ジョニーさんは一体何を考えているのかしら?」
「そんな……」

 予想はしていたことだけど、エリノアは茫然として顔から血の気が引いていく。

「クラリスお嬢様、深刻そうですけれど……何かありましたか?」
「ジョニーさんに探りを入れる必要があるわ」

 家庭教師が与えられた役目とは真逆の行動をしている。
 エリノアのみならずコラーユ家を陥れようとしていることも考えられるから、まずはお父様に相談することに決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。 ※全6話完結です。

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

「君からは打算的な愛しか感じない」と婚約破棄したのですから、どうぞ無償の愛を貫きください。

木山楽斗
恋愛
「君からは打算的な愛しか感じない」 子爵令嬢であるフィリアは、ある時婚約者マルギスからそう言われて婚約破棄されることになった。 彼女は物事を損得によって判断する傾向にある。マルギスはそれを嫌に思っており、かつての恋人シェリーカと結ばれるために、フィリアとの婚約を破棄したのだ。 その選択を、フィリアは愚かなものだと思っていた。 一時の感情で家同士が決めた婚約を破棄することは、不利益でしかなかったからだ。 それを不可解に思いながら、フィリアは父親とともにマルギスの家に抗議をした。彼女はこの状況においても、利益が得られるように行動したのだ。 それからしばらく経った後、フィリアはシェリーカが危機に陥っていることを知る。 彼女の家は、あくどい方法で金を稼いでおり、それが露呈したことで没落に追い込まれていたのだ。 そのことを受けて元婚約者マルギスが、フィリアを訪ねてきた。彼は家が風評被害を恐れたことによって家を追い出されていたのだ。 マルギスは、フィリアと再び婚約したいと申し出てきた。彼はそれによって、家になんとか戻ろうとしていたのである。 しかし、それをフィリアが受け入れることはなかった。彼女はマルギスにシェリーカへの無償の愛を貫くように説き、追い返すのだった。

婚約破棄された令嬢、冷酷騎士の最愛となり元婚約者にざまぁします

腐ったバナナ
恋愛
婚約者である王太子から「平民の娘を愛した」と婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリアナ。 周囲の貴族たちに嘲笑され、絶望の淵に立たされる。 だがその場に現れた冷酷無比と噂される黒騎士団長・アレクシスが、彼女を抱き寄せて宣言する。 「リリアナ嬢は、私が妻に迎える。二度と誰にも侮辱はさせない」 それは突然の求婚であり、同時にざまぁの始まりだった。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

幸運を織る令嬢は、もうあなたを愛さない

法華
恋愛
 婚約者の侯爵子息に「灰色の人形」と蔑まれ、趣味の刺繍まで笑いものにされる伯爵令嬢エリアーナ。しかし、彼女が織りなす古代の紋様には、やがて社交界、ひいては王家さえも魅了するほどの価値が秘められていた。  ある日、自らの才能を見出してくれた支援者たちと共に、エリアーナは虐げられた過去に決別を告げる。 これは、一人の気弱な令嬢が自らの手で運命を切り開き、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転の物語。彼女が「幸運を織る令嬢」として輝く時、彼女を見下した者たちは、自らの愚かさに打ちひしがれることになる。

婚約破棄宣言をされても、涙より先に笑いがこみあげました。

一ノ瀬和葉
恋愛
「――セシリア・エルディアとの婚約を、ここに破棄する!」 煌めくシャンデリアの下で、王太子リオネル殿下が声を張り上げた。 会場にいた貴族たちは一斉に息を呑み、舞踏の音楽さえ止まる。 ……ああ、やっと来たか。 婚約破棄。断罪。悪役令嬢への審判。 ここで私は泣き崩れ、殿下に縋りつき、噂通りの醜態をさらす―― ……はずだったのだろう。周囲の期待としては。 だが、残念。 私の胸に込みあげてきたのは、涙ではなく、笑いだった。 (だって……ようやく自由になれるんですもの) その瞬間の私の顔を、誰も「悪役令嬢」とは呼べなかったはずだ。 なろう、カクヨム様でも投稿しています。 なろう日間20位 25000PV感謝です。 ※ご都合注意。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

処理中です...