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本編
32. 逃げてきた結果
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「ソフィアの努力をよく否定できるな……」
隣にいるアルト様から不穏な空気が漂っている。
彼の中でも何かが切れてしまったみたい。
けれど、ここは私が反論しないとセレスティアに負けたように感じると思ったから、アルト様を制して一歩前に出た。
「陛下、発言してもよろしいですか?」
「構わない」
「ありがとうございます」
許可を得て、セレスティアの前に向かう。
足音に気付いてこちらをに視線を向けてきた彼女と目が合うと、私は怒りが顔に出ないように抑え込みながら口を開いた。
「私が努力していないと思ったら大間違いですよ。私は今までずっと努力を積み重ねてきました。礼儀作法の勉強も、魔法の勉強も。
でも、貴女は違ったみたいですね。勉強が嫌だからと、魔法を使ってでも逃げ出していたのでしょう?」
「どうしてそれを……?」
「ずっと逃げていたあなたを両親が見限るのも当然だとは思わなくって? 将来に光を見出すことが出来ませんから。
努力していれば、認めてもらえていましたよ。あなたの弟のようにね」
バルケーヌ公爵家の嫡男は適正こそ3属性あったけれど、魔力量が少ないことで有名だった。けれども、政治や経済について猛勉強することで両親を驚かせたのだとか。
セレスティアの境遇について知ったのは、アルト様の侍女と話しているときに聞くことが出来たから。
その侍女さんは元々バルケーヌ家で働いていたそうなのだけど、セレスティアの癇癪によって辞めさせられたらしい。
そんな態度を取っていたと知ったから、セレスティアに同情はしなかったのよね……。当然の報いだもの。
「グレンには才能があったのよ! 比べないで!」
「認めたくない気持ちは分かります。でも、あなたの過ちは変わりませんわ」
「恵まれていた貴女に何が分かるのよ!?」
涙を浮かべながら、けれども表情は怒りに染まっている。そんな状態で声を上げるセレスティア。
ここまでくると、私にはもう我慢出来なかった。
「努力してから言いなさい。あなたにも恵まれているものはあったでしょう?」
「ダンスと計算と礼儀作法だけ出来ても足りないのよ」
私にだって、足りないところはたくさんあった。
ダンスが下手で何回も講師の先生の足を踏んでいた。計算も苦手で、何回もやり直しになっていた。
でも、辛くても諦めなかった。
苦難から逃げていた人には、恵まれていただなんて言われたくない。
「欠点を減らす努力をしなかった結果ですわ。ここまで言えば理解できますわよね?」
問いかけても返事は無かった。
でも、言いたいことを言えたからスッキリした。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
「構わない。貴女の言葉を聞いたセレスティアが反省してくれることを願うばかりだ」
そう言ってくれた陛下に頭を下げ、後ろに下がる私達。
続けて、宰相様が裁判を次に進めるためにこう口にした。
「それでは処罰を決定します。陛下、お願いします」
「本件は多くの者を巻き込んでいる上、王国の存続をも脅かしている。よって、極刑が妥当と判断している。
しかし、セレスティアの力は利用価値が高い。彼女が望むのなら、また被害に遭った皆が赦すなら、隷属の契りを結んだ上でダンガラスの地の平定にその身を捧げさせることも厭わない」
陛下がそう口にすると、少しだけ法廷が騒がしくなった。
極刑よりも恐ろしい罰だという意見もれば、生かしていくのは危険だという意見もある。利用するべきだという意見も聞こえてきた。
けれども、一番よく耳に入ってきたのは……。
「ダンガラスなんて死んでも御免ですわ!」
……涙を浮かべているセレスティアの声だった。
「では、罪人セレスティアは極刑に処す。処刑場所および日程は後に決定する。
異論のある者は挙手を」
彼女に憐れむ視線は向けられていても、手を挙げる人はいなかった。
隣にいるアルト様から不穏な空気が漂っている。
彼の中でも何かが切れてしまったみたい。
けれど、ここは私が反論しないとセレスティアに負けたように感じると思ったから、アルト様を制して一歩前に出た。
「陛下、発言してもよろしいですか?」
「構わない」
「ありがとうございます」
許可を得て、セレスティアの前に向かう。
足音に気付いてこちらをに視線を向けてきた彼女と目が合うと、私は怒りが顔に出ないように抑え込みながら口を開いた。
「私が努力していないと思ったら大間違いですよ。私は今までずっと努力を積み重ねてきました。礼儀作法の勉強も、魔法の勉強も。
でも、貴女は違ったみたいですね。勉強が嫌だからと、魔法を使ってでも逃げ出していたのでしょう?」
「どうしてそれを……?」
「ずっと逃げていたあなたを両親が見限るのも当然だとは思わなくって? 将来に光を見出すことが出来ませんから。
努力していれば、認めてもらえていましたよ。あなたの弟のようにね」
バルケーヌ公爵家の嫡男は適正こそ3属性あったけれど、魔力量が少ないことで有名だった。けれども、政治や経済について猛勉強することで両親を驚かせたのだとか。
セレスティアの境遇について知ったのは、アルト様の侍女と話しているときに聞くことが出来たから。
その侍女さんは元々バルケーヌ家で働いていたそうなのだけど、セレスティアの癇癪によって辞めさせられたらしい。
そんな態度を取っていたと知ったから、セレスティアに同情はしなかったのよね……。当然の報いだもの。
「グレンには才能があったのよ! 比べないで!」
「認めたくない気持ちは分かります。でも、あなたの過ちは変わりませんわ」
「恵まれていた貴女に何が分かるのよ!?」
涙を浮かべながら、けれども表情は怒りに染まっている。そんな状態で声を上げるセレスティア。
ここまでくると、私にはもう我慢出来なかった。
「努力してから言いなさい。あなたにも恵まれているものはあったでしょう?」
「ダンスと計算と礼儀作法だけ出来ても足りないのよ」
私にだって、足りないところはたくさんあった。
ダンスが下手で何回も講師の先生の足を踏んでいた。計算も苦手で、何回もやり直しになっていた。
でも、辛くても諦めなかった。
苦難から逃げていた人には、恵まれていただなんて言われたくない。
「欠点を減らす努力をしなかった結果ですわ。ここまで言えば理解できますわよね?」
問いかけても返事は無かった。
でも、言いたいことを言えたからスッキリした。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
「構わない。貴女の言葉を聞いたセレスティアが反省してくれることを願うばかりだ」
そう言ってくれた陛下に頭を下げ、後ろに下がる私達。
続けて、宰相様が裁判を次に進めるためにこう口にした。
「それでは処罰を決定します。陛下、お願いします」
「本件は多くの者を巻き込んでいる上、王国の存続をも脅かしている。よって、極刑が妥当と判断している。
しかし、セレスティアの力は利用価値が高い。彼女が望むのなら、また被害に遭った皆が赦すなら、隷属の契りを結んだ上でダンガラスの地の平定にその身を捧げさせることも厭わない」
陛下がそう口にすると、少しだけ法廷が騒がしくなった。
極刑よりも恐ろしい罰だという意見もれば、生かしていくのは危険だという意見もある。利用するべきだという意見も聞こえてきた。
けれども、一番よく耳に入ってきたのは……。
「ダンガラスなんて死んでも御免ですわ!」
……涙を浮かべているセレスティアの声だった。
「では、罪人セレスティアは極刑に処す。処刑場所および日程は後に決定する。
異論のある者は挙手を」
彼女に憐れむ視線は向けられていても、手を挙げる人はいなかった。
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