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本編
34. 自業自得です
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あれから1週間。
セレスティアが処刑される日を迎え、私はアルト様と共に王城に向かっていた。
王城は王宮の隣にある白い壁の立派な建物で、騎士団や魔導省の中枢になっている。
馬車の窓からでも、どんよりとした雲空の下でその立派な建物はよく見える。
治癒魔法をかけてから日が経っているはずなのに、ケヴィン様からの謝罪はまだ来ていない。
でも、今はもう気に留めなくなっている。
彼はその程度にしか私を見ていなかった。そう思ってしまったから。
それに……。
「これからどんな苦難が待っているかは分からない。だが、この命に代えてでも貴女を守り、大切にすると誓う。
もし俺が道を踏み外したら、遠慮なく魔法で殴り飛ばしてくれ。俺が求めるのはそれだけだ」
……今はこんなにも私のために尽くそうとしてくれている方がいるから。
尽くす方向というか、何か極端な気はするけれど……そんな事にならないように私も気をつければいいだけ。
「簡単に命を賭けないでください! もし貴方がいなくなってしまったら、悲しいじゃないですか!」
でも、命に代えてはほしくなかった。
「そうだよな……。もちろん俺は簡単に死ぬつもりはない。
これからは魔法についても鍛錬を重ねて、もっと強くなる。約束するよ」
「絶対ですよ?」
「ああ、絶対だ。愛する人のためなら、成し遂げて見せる」
彼の若草色の瞳の奥に見える光は、揺らぎそうになかった。
まだ自分の気持ちはよく分からないけれど、今は彼と過ごす時間が心地よい。
それに、愛する人って……。
初めてそんなふうに言われたから、少し恥ずかしくなってしまった。
それから馬車に揺られること十数分、王城に着いた私達はアリスとレオン殿下に出迎えられて、王城の中へと足を踏み入れた。
「まさかこんな風になるとは思わなかったわ……」
今日の処刑は、この王城前の広場で行われる。
500年前の政治が乱れていた時代に、何度も公開処刑が行われていた場所。
私が生きている間で貴族の処刑が行われているのは初めてのことなのよね……。
裁いた側に立つ私が最期を見届ける必要があるかは疑問だけれど、最後にどんな態度をするのかは気になっている。
ちなみに、今日の処刑も多くの人が見ることが出来る。
王家に叛逆の刃を向けたらどうなるのか、それを広く知らしめるために。
残酷なことだけれど、公開処刑は平民の数少ない娯楽だから、取り止められることはないらしい。
平民が楽しみにしているというのは、広場の周りに溢れる熱気を見れば分かる。
でも……私は人の首が切り落とされるところなんて見たく無いのよね……。
だから集まっている人達の気持ちは分からない。
貴族に限って言えば、反乱を起こさないようにと招待されているから、見たくない人も大勢いると思う。
私もその一人だから。
「見たくなければ目を塞ぐといい」
「そうさせてもらいますね……」
言葉を交わしながら、テラスに出る私達。
広場を見下ろすと、黒い簡素なワンピースに身を包んだセレスティアが簡素な馬車下ろされているところだった。
彼女は俯いて、顔が髪に隠れて見えない。けれども、すごく落ち着いている様子だった。
闇魔法で精神を落ち着かせられているのだから当たり前だけれど、精神の苦痛が大きすぎると効果が消えてしまうらしい。
セレスティアが姿を見せたことで、詰めかけた民衆の熱狂は高まっていくばかり。
「王家に手を出すなんて最低だな!」
「早く死ね!」
「見た目も悪女そのものだな」
これ以外にも、言葉にするのも憚れるような声が聞こえてくる。
けれどもセレスティアが可哀想だとは思わなかった。こうなることを知っていて処刑を選んだのは彼女自身なのだから。
「これより罪人セレスティアの処刑を執り行う。皆、静粛に」
担当の騎士さんが高らかに宣言すると、騒がしさが和らいでいく。
そのおかげで、落ち着いて処刑の様子に視線を向けることが出来た。
「いよいよですわね」
そう漏らすアリスは、処刑を見ないように明後日の方向を見ていた。
「そうだな。ソフィア嬢も見たくなかったら、後ろを向いているといい」
「ありがとうございます。辛くなったら、そうしますね」
殿下に声をかけられ、そう返す私。
アルト様には処刑の瞬間を見ないとを告げてあるから、彼は何も言わなかった。
「罪人よ、前へ」
騎士さんの言葉に続けて、手を縛られたセレスティアが断頭台の前に進む。
そして、彼女の頭が断頭台に固定され始めた時だった。
「嫌よ、死にたくない! 私は悪くないのよ! 誰か助けなさい!」
魔法の力よりも恐怖心が勝ったみたいで、そんなことを喚き始めた。
すっかり艶を失った髪を振り乱し、ボロボロと涙を流す。
けれども、そんな様子を見ても私の心は冷え切っていた。
「自業自得よ……」
「そうだな。あの罪人は往生際が悪いらしい」
私がぽつりと漏らした呟きに、アルト様がそう返してくれた。
「黙れ!」
「嫌よ嫌よ嫌よ死にたくない死にたくない……!」
暴れようとするセレスティアだったけれど、男性騎士3人にかなうはずもなく、頭を断頭台に固定されていた。
それから闇魔法使いさんが魔法をかけ直すと、糸の切れた人形のように大人しくなっていた。
ここから先は見ない方がいい。そう悟ったから、アリスがしているように明後日の方向に視線を向けた。
その直後、空を稲光が走った。
「王国に仇なす罪人はたった今消えた! エスプリ王国に栄光あれ!」
そんな宣言をかき消すような、稲妻の音が響き渡る。
恐ろしいことが起こりそうな雰囲気に、少し怖くなってしまった。
セレスティアが処刑される日を迎え、私はアルト様と共に王城に向かっていた。
王城は王宮の隣にある白い壁の立派な建物で、騎士団や魔導省の中枢になっている。
馬車の窓からでも、どんよりとした雲空の下でその立派な建物はよく見える。
治癒魔法をかけてから日が経っているはずなのに、ケヴィン様からの謝罪はまだ来ていない。
でも、今はもう気に留めなくなっている。
彼はその程度にしか私を見ていなかった。そう思ってしまったから。
それに……。
「これからどんな苦難が待っているかは分からない。だが、この命に代えてでも貴女を守り、大切にすると誓う。
もし俺が道を踏み外したら、遠慮なく魔法で殴り飛ばしてくれ。俺が求めるのはそれだけだ」
……今はこんなにも私のために尽くそうとしてくれている方がいるから。
尽くす方向というか、何か極端な気はするけれど……そんな事にならないように私も気をつければいいだけ。
「簡単に命を賭けないでください! もし貴方がいなくなってしまったら、悲しいじゃないですか!」
でも、命に代えてはほしくなかった。
「そうだよな……。もちろん俺は簡単に死ぬつもりはない。
これからは魔法についても鍛錬を重ねて、もっと強くなる。約束するよ」
「絶対ですよ?」
「ああ、絶対だ。愛する人のためなら、成し遂げて見せる」
彼の若草色の瞳の奥に見える光は、揺らぎそうになかった。
まだ自分の気持ちはよく分からないけれど、今は彼と過ごす時間が心地よい。
それに、愛する人って……。
初めてそんなふうに言われたから、少し恥ずかしくなってしまった。
それから馬車に揺られること十数分、王城に着いた私達はアリスとレオン殿下に出迎えられて、王城の中へと足を踏み入れた。
「まさかこんな風になるとは思わなかったわ……」
今日の処刑は、この王城前の広場で行われる。
500年前の政治が乱れていた時代に、何度も公開処刑が行われていた場所。
私が生きている間で貴族の処刑が行われているのは初めてのことなのよね……。
裁いた側に立つ私が最期を見届ける必要があるかは疑問だけれど、最後にどんな態度をするのかは気になっている。
ちなみに、今日の処刑も多くの人が見ることが出来る。
王家に叛逆の刃を向けたらどうなるのか、それを広く知らしめるために。
残酷なことだけれど、公開処刑は平民の数少ない娯楽だから、取り止められることはないらしい。
平民が楽しみにしているというのは、広場の周りに溢れる熱気を見れば分かる。
でも……私は人の首が切り落とされるところなんて見たく無いのよね……。
だから集まっている人達の気持ちは分からない。
貴族に限って言えば、反乱を起こさないようにと招待されているから、見たくない人も大勢いると思う。
私もその一人だから。
「見たくなければ目を塞ぐといい」
「そうさせてもらいますね……」
言葉を交わしながら、テラスに出る私達。
広場を見下ろすと、黒い簡素なワンピースに身を包んだセレスティアが簡素な馬車下ろされているところだった。
彼女は俯いて、顔が髪に隠れて見えない。けれども、すごく落ち着いている様子だった。
闇魔法で精神を落ち着かせられているのだから当たり前だけれど、精神の苦痛が大きすぎると効果が消えてしまうらしい。
セレスティアが姿を見せたことで、詰めかけた民衆の熱狂は高まっていくばかり。
「王家に手を出すなんて最低だな!」
「早く死ね!」
「見た目も悪女そのものだな」
これ以外にも、言葉にするのも憚れるような声が聞こえてくる。
けれどもセレスティアが可哀想だとは思わなかった。こうなることを知っていて処刑を選んだのは彼女自身なのだから。
「これより罪人セレスティアの処刑を執り行う。皆、静粛に」
担当の騎士さんが高らかに宣言すると、騒がしさが和らいでいく。
そのおかげで、落ち着いて処刑の様子に視線を向けることが出来た。
「いよいよですわね」
そう漏らすアリスは、処刑を見ないように明後日の方向を見ていた。
「そうだな。ソフィア嬢も見たくなかったら、後ろを向いているといい」
「ありがとうございます。辛くなったら、そうしますね」
殿下に声をかけられ、そう返す私。
アルト様には処刑の瞬間を見ないとを告げてあるから、彼は何も言わなかった。
「罪人よ、前へ」
騎士さんの言葉に続けて、手を縛られたセレスティアが断頭台の前に進む。
そして、彼女の頭が断頭台に固定され始めた時だった。
「嫌よ、死にたくない! 私は悪くないのよ! 誰か助けなさい!」
魔法の力よりも恐怖心が勝ったみたいで、そんなことを喚き始めた。
すっかり艶を失った髪を振り乱し、ボロボロと涙を流す。
けれども、そんな様子を見ても私の心は冷え切っていた。
「自業自得よ……」
「そうだな。あの罪人は往生際が悪いらしい」
私がぽつりと漏らした呟きに、アルト様がそう返してくれた。
「黙れ!」
「嫌よ嫌よ嫌よ死にたくない死にたくない……!」
暴れようとするセレスティアだったけれど、男性騎士3人にかなうはずもなく、頭を断頭台に固定されていた。
それから闇魔法使いさんが魔法をかけ直すと、糸の切れた人形のように大人しくなっていた。
ここから先は見ない方がいい。そう悟ったから、アリスがしているように明後日の方向に視線を向けた。
その直後、空を稲光が走った。
「王国に仇なす罪人はたった今消えた! エスプリ王国に栄光あれ!」
そんな宣言をかき消すような、稲妻の音が響き渡る。
恐ろしいことが起こりそうな雰囲気に、少し怖くなってしまった。
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