【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第35話 決断の時

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第35話 決断の時

エミリーの告白から三日が経った。

私はその間、ずっと考え続けていた。美咲への愛情、エミリーへの気持ち、そして自分が本当に望むものは何なのか。

月曜日の朝、オフィスでエミリーと顔を合わせた時、彼女は少し気まずそうな表情を見せた。

「佐藤さん、おはようございます」

「おはようございます」

私たちは必要最小限の会話で仕事を進めた。でも、お互いに週末の出来事を意識していることは明らかだった。

---

昼休み、私は一人でカフェに行った。静かに考える時間が必要だった。

携帯電話を見ると、美咲からメッセージが来ていた。

『佐藤さん、お疲れさまです。最近ご連絡が少なくて寂しいです』

その言葉を読んで、私の胸が痛んだ。美咲も寂しい思いをしているのだ。

『すみません。今夜、必ず電話します』

『ありがとうございます。楽しみにしています』

美咲の素直な返事を見て、私は自分の愚かさを恥じた。

---

その夜、私は美咲に電話をかけた。

「美咲さん、お疲れさまでした」

「佐藤さん、お疲れさまです。お元気でしたか?」

美咲の声を聞いて、私は改めて彼女への愛情を実感した。

「はい。美咲さんの声を聞けて、安心しました」

「私も。最近、佐藤さんの声を聞く機会が少なくて...」

美咲の寂しそうな声に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「すみません。仕事が忙しくて」

「大丈夫です。でも、時々不安になるんです」

「不安?」

「佐藤さんが遠くで新しい生活をしていて...私のことを忘れてしまうんじゃないかって」

美咲の率直な不安を聞いて、私は胸が締め付けられた。

「そんなことありません。美咲さんのことを忘れることなんてできません」

「本当ですか?」

「本当です。僕の心はいつも美咲さんと一緒です」

その言葉を言いながら、私は自分の本当の気持ちを確認していた。

「佐藤さん、愛しています」

「僕も愛しています、美咲さん」

電話を切った後、私の心は決まっていた。

---

翌日、私はエミリーに話しかけた。

「エミリーさん、お話があります」

「はい」

私たちは会議室に移った。

「週末の件ですが...」

「はい」

「僕の気持ちをはっきりとお伝えしたいと思います」

エミリーは緊張した表情で私を見つめていた。

「エミリーさんは素晴らしい方です。美しく、聡明で、一緒にいて楽しい」

「でも?」

「でも、僕の心は美咲のものです」

エミリーの表情が少し曇った。

「確かに、一時的に迷いました。エミリーさんと過ごす時間は楽しくて、特別な感情を抱いたことも事実です」

「佐藤さん...」

「でも、昨夜美咲と話して分かりました。僕が本当に愛しているのは美咲だけです」

エミリーは長い間沈黙していた。

「そうですか...」

「申し訳ありません。エミリーさんの気持ちにお応えできなくて」

「いえ、分かっていました」

エミリーが小さく微笑んだ。

「佐藤さんが美咲さんのことを話す時の表情を見ていれば、答えは明らかでした」

「エミリーさん...」

「でも、少しだけ希望を持ってしまいました」

エミリーの正直な気持ちに、私は深く頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした」

「謝らないでください。私も楽しい時間でした」

---

その夜、私は美咲に長い電話をかけた。

「美咲さん、僕は愚かでした」

「どうしたんですか?」

「ロンドンにいて、寂しさのあまり一時的に迷ってしまいました」

私はエミリーのことを正直に話した。

「そうですか...」

美咲の声が少し震えていた。

「でも、結論は変わりません。僕が愛しているのは美咲さんだけです」

「本当ですか?」

「本当です。どんなに離れていても、どんなに美しい女性に出会っても、美咲さん以外考えられません」

美咲が泣いているのが分かった。

「私も、佐藤さんを信じていました。でも、やっぱり不安で...」

「もう迷いません。美咲さんだけを愛します」

「ありがとうございます」

---

エミリーとの関係は、その後プロフェッショナルなものに戻った。彼女は大人の対応をしてくれて、仕事には支障をきたさなかった。

ある日、エミリーが言った。

「佐藤さん、美咲さんを大切にしてください」

「はい、必ず」

「本当に愛し合っているんですね」

「はい」

「羨ましいです。そんな愛に出会えて」

エミリーの言葉に、私は改めて美咲との愛の大切さを実感した。

残り一か月。今度こそ、迷うことなく美咲のもとに帰ろう。

指先が触れる距離から始まった私たちの関係は、地球の反対側でも揺らぐことのない強い絆で結ばれていた。

それを確信できた今、私はロンドンでの最後の時間を、美咲への愛を確かめながら過ごすことができた。
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